「トレンディは突然に」が7月13日(木)に東京・シアターサンモールで開幕する。
1980年代後半から1990年代はじめにかけて“月9”などの枠で放映された「トレンディドラマ」を思わせるビジュアルに、どんな作品なのか気になっているファンも多いだろう。
2.5ジゲン!!では、香月ケンジ役の杉江大志にインタビューを実施。ネタバレにならない範囲での作品傾向や特殊な役作り方法に加え、自身が芝居をする理由なども語ってもらった。
“トレンディ”が違和感なく見えるように
――この作品のお話を聞いた時、どのように感じられましたか?
おもしろそうだ! と思いました。ファッションもそうですが時代は巡るものですし、着眼点がいいな、と。ビジュアル撮影をしたとき、メイクも服の着こなしも「おしゃれだな!」と感じました。
――タイトルやキャッチコピーにもあるように「トレンディ」だという本作、どのようなストーリーなのか気になっているファンも多いと思います。作品の傾向をネタバレにならない程度にざっくりと教えてください。
時代設定は、1980~90年代ではなく現代です。トレンディな「トレンディチーム」と現代の大学生の「現代チーム」に分かれていて、“現代チーム”は、“トレンディチーム”の人たちをはじめは「変な人たちだなぁ…」と思っていたものの、トレンディな彼らにどんどん巻き込まれていきます。
話が進むにしたがって現代チームは「トレンディっていいじゃん!」となっていくので、お客さまにもそう感じてもらいたいなと。
トレンディドラマが全盛期だった時代から人物たちがタイムスリップしてくるのか? と思われそうですがそうではなく、でも、もはやそれに近いものがあるかもしれません(笑)。全体的にはコメディ寄りで、たくさん笑って楽しんでいただけると思います。
――“トレンディ”にちなんで、杉江さんご自身はトレンドに敏感な方ですか?
全然です!(笑) 世間で何がはやっているのか知りませんし「こういうのがはやりだよ」と聞いてからTwitterやInstagramで検索して調べてみるくらい、最新の情報に疎(うと)いです。
座組全体を見てみても、トレンドに敏感な人はいないんじゃないかな(笑)。いわゆる「流行」を気にしていないんでしょうね。年齢的に一番若いのは快征(阿部快征/桜庭虹斗役)だけど、トレンドに敏感かと言えば…どうかなぁ。いつもおしゃれですけれども!
――では、今作の役作りはどのようにしていますか?
実を言うと、最初は迷走したんです(笑)。「“トレンディ”とは何ぞや?」の解釈から始めました。稽古をしながら香月ケンジを探っていこうとしていたのですが、「こういう人かな」とイメージすると、普通の現代の人になってしまう。「これがカッコいい」という価値観や常識は、時代によって変わりますからね。感情の振り幅を大きくしてみたりしながら、情緒が80~90年代寄りになるように工夫しています。
感覚のベースとしては、演出のキムラ真さんが「これでいきたい」と、ドラマ「愛という名のもとに」(1992年・フジテレビ系列)を提示してくださったので、座組のみんなで見ました。
――「トレンディドラマ」とひと口に言ってもいろいろな方向性のものがありますから、イメージのすり合わせが必要だったのですね。作品作りの中で気を付けていきたいことはありますか?
トレンディチームの共通認識として気を付けているのが、“笑いを取りにはいかないこと”です。トレンディチームの言動に現代チームが突っ込むことによって生まれる笑いはたくさんあると思いますが、それはギャグとしてやっているわけではないんです。
あの頃のトレンディドラマを今見ると、現代とのギャップに驚いたり思わず笑ってしまったりするようなシーンはあるけれども、決してふざけてやっていないですよね。役者の皆さんは真剣にお芝居をしています。だから僕たちも真剣に向き合って、“トレンディ”なお芝居が違和感なく見えるところを目指しています。観てくださった方に観劇後「おもしろかったね」「感動した」と感じてもらえるような作品にしたいです。
でも、セティ(瀬戸祐介/金井ハル役)さんが「ふざけたくてしょうがない」って(笑)。ギャグに振り切ってしまうと最後に感動してもらえなくなると思うので「我慢して!」「ふざけちゃだめ!」って言っています(笑)。ギャグと、そうではない良い感じのラインを取るのは難しいんですけれどね!
「毎回違うものが欲しいから、自分から投げ方を変えるんです」
――とても楽しそうに役作りと稽古なさっている様子が伝わってきます。振り返ってみて、杉江さんが「お芝居は楽しい」と気づいたきっかけは何だったのでしょうか。
この仕事を始めたころは「やったことのないことをやってみたい!」というだけで、何も深くは考えていませんでした。テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン/一氏ユウジ役)では「このセリフはこう読む」と1つの答えを出して、それを守ってお芝居をしていて。
それが“いいお芝居”であり“うまいお芝居”だと思っていたんですよね。
でも、長い公演期間の中で周りの仲間たちを観察していくうちに「みんな試行錯誤している」と気づき始めたんです。自分が正解だと思っているこのお芝居以外にも、いろいろなお芝居があるのかもしれない…そう気づいてからさまざまなことを試すようになって、お芝居が楽しくなりました。
お芝居は楽しい、そして深くて難しい…この道を突き詰めたい。そう思い始めて。分析して試行錯誤するのがもともと好きなので、それをお芝居に合わせてみたらがっちりとハマった。それが、僕がお芝居にハマった理由かもしれません。
――確かに、杉江さんのお芝居を拝見していると、その時々でまったく違うものを受け取れますね。今、舞台の上で「楽しい」と感じるのはどんな時ですか?
1本の舞台はだいたい2時間。その2時間の中でやれることは限られています。本番までの準備がすべてで、その準備さえしっかりしていれば、あとは舞台の上で起こることをただ感じてそのまま演じるだけです。
舞台は、ほんのちょっと何かを変えるだけで、まったく違うものになります。相手への踏み込みを1歩深くしてみる、いつもとは違う“間”を取る、話しかけ方を変える…。相手に同じお芝居をなぞってほしくないし、毎回違うものが欲しいから、自分から投げ方を変えてみるんです。
セリフは同じなのに起こることは毎日違う、それが楽しくて仕方がないですね。
――まだ落ち着かない情勢とはいえ、コロナ禍が始まった2020年ごろに比べれば、観客を入れての舞台公演が元のようにおこなわれるようになってきました。舞台の中止が相つぎ、ステイホームを余儀なくされていた頃を振り返っていかがですか?
あの頃は、1人で「自分がお芝居をしている理由はなんだろう?」とよく考えていました。どうしてこんなにもお芝居をしたいんだろう? どうしてお芝居がなかったらダメなんだろう…。
お芝居は、もちろん自分が生活するための「仕事」ではあるのですが、それ以上に「自分が生きていく上でなくてはならないもの」だと分かりました。それ以前にも何となく「大事なもの」だと感じてはいたのですが、自分と向き合う時間を長く持てたからこそ、その気持ちをはっきり認識して言語化できました。
――あの期間があったからこそ今の自分に生きていると感じるものはありますか?
あの期間に自分と向き合えたおかげで、足りないところや弱い部分をしっかりと見つめられました。舞台のお仕事がまた増えてきた今、課題を明確に持ってものごとに挑めるようになったので、学び、吸収する力が増したように思います。
やっぱり僕にはお芝居がないとダメだ、と改めて感じます。あの頃は、やりたいのにやれないもどかしさでいっぱいでした。最近はありがたいことに忙しくさせていただいていますが、まだまだ足りません。もっともっと、ずっとお芝居をしていたいです。
――では最後に改めて、令和の今に昭和から平成初期の「トレンディ」な作品が上演されることへの意気込みと、ファンの皆さんへメッセージをお願いします!
当時トレンディドラマを見ていた世代の方々が本作をご覧になったら、ずっとニヤニヤしちゃうのでは? と思っています(笑)。いろいろな作品の要素が詰め込まれた「トレンディのびっくり箱」のような作品になっているので、「そうそう!」と思い出して懐かしんだり笑ったりして、最終的には感動してもらえたら嬉しいですね。
僕ら世代やもっと若い方は、この作品をどう受け止めるんだろう? 正直、ドキドキしています(笑)。「コメディとしておもしろかった」「いい芝居だったな!」「1周回って新しかった!」など、感じ方はさまざまかもしれません。でも、どんな感じ方でも楽しんでいただけると思っています。
新しい形で新しい感覚の、皆さんが今まで見たことがない作品になっているはずです。本作「トレンディは突然に」が今後のトレンドになったら面白いなと思いながら作っています。ぜひ応援してください!
取材・文:広瀬有希/撮影:泉健也
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