「トレンディは突然に」が、7月13日(木)に東京・シアターサンモールにて開幕。
初日に先立ち公開ゲネプロが行われた。2.5ジゲン!!では、トレンディドラマを全力でオマージュした本作の様子を劇中写真とともにレポートする。
桜庭虹斗(演:阿部快征)と亀井祐也(演:宇野結也)は、令和の時代に生きる大学生。“トレンディ”な時代の恋愛ドラマに憧れ、その良さを熱弁するハイテンションな祐也に対して、虹斗は人づきあいを面倒くさがり、なにごとにも熱を入れずに大学生活を送っていた。
ある日虹斗は、白崎ミユキ(演:青木志穏)と出会いがしらにぶつかってしまう。デパートで買ったばかりのシャツをミユキに汚されてしまった虹斗は憤慨。ミユキに詰め寄るも、ミユキと一緒にいた水島カナ(演:松島志歩)に言い返されて口論になってしまう。
虹斗とミユキ、2人の出会いの印象は最悪。しかし祐也はこの出会いを「トレンディだ!」と絶賛する。「2人は絶対に再会して恋に落ちる運命だ」とはしゃぐ祐也だが、虹斗はまったくの無関心。
後日、虹斗が喫茶店で珈琲の香りを楽しんでいると、香月ケンジ(演:杉江大志)と金井ハル(演:瀬戸祐介)が激しく口論をしながら店に入ってくる。とことんまで殴り合ったあとに友情を確かめ合うケンジとハルの熱い関係性と情緒がまったく理解できずあっけにとられる虹斗だが、祐也は2人を「トレンディだ!!」と絶賛(2回目)。
そこに、カナとミユキがやって来る。出会いが最悪だった虹斗とミユキだが、祐也の予言どおり再会。
実はミユキは、別のところでケンジとも最悪な出会いをしていたのだった。
ケンジとミユキと虹斗。3人を中心にした、男女7人の恋物語が始まった――。
画家を目指すケンジは、師匠に「絵の才能は無い」とダメ出しをされ、それでも夢をあきらめられない。自由奔放でぶっきらぼうだが本当は優しい性格で、「好きになっても大丈夫なのかどうかは分からないけれど、恋人になったらきっとトレンディな毎日がジェットコースターのようにやってくる」であろうバブルテイストな青年だ。
対する虹斗は、草食で何事にも関心のないふりをしている令和男子。じょじょにトレンディな面々に感化されていくものの、はじめのうちは「優しいし大事にしてくれそうだし押せば付き合えそうだし、楽しそうだけれども何となく物足りなくなりそう」なところがある。
ミユキは、この2人の間で揺れ動く、トレンディドラマのザ・ヒロインだ。ミユキ視点で物語を観れば「ケンジと虹斗、どっちの方が…」と悩みそうであるし、男性側視点から観ると、煮え切らずに男を振り回す、“無自覚小悪魔天然ヒロイン”だと言ってもいいだろう。
しかしそんなミユキも、トレンディな言動をしている理由を持っていたり、しっかりしている部分が垣間見えたりする瞬間もあり、嫌いにはなれない。
ストーリーは、第1話「出会いは最悪!」、第2話「再会は珈琲の香り」、第3話「急接近」、第4話「元恋人登場」、第5話「本当に付き合っちゃう?」、第6話「結ばれる二人」、第7話「裏切りのキス」、第8話「鳴らない電話ボックス」、第9話「運命の選択」、最終話「それぞれの未来」と、タイトルを冠して展開されていく。とはいえオムニバス形式ではなく、1つの連続ドラマが順に進んでいくと考えていい。
トレンディ世代は特に、タイトルだけ見ても「あるある」と思ってしまうだろう。ベタな始まり、そしてベタな展開。
しかし、ベタこそ王道であり、そこに登場人物たちオリジナルの個性と彼らの人間関係を織り交ぜていくことによって、物語は唯一無二の輝きを放つ。
▲令和男子には理解できない、とりあえず殴る情緒
▲男同士の勝負はだいたいアナログパワーの腕相撲
▲後から登場する元カノポジションはだいたいハイスペックなイイ女(夏目エリカ/演:護あさな)
“トレンディドラマ”が隆盛をほこったのは、1980年代後半から1990年代はじめ。元号で言えば、昭和から平成をまたぐころ。
携帯電話は普及を始めたばかりで、連絡はもっぱらポケベルか家電(いえでん)。自宅もしくは公衆電話からテレホンカードで電話をかけ、待ち合わせは場所と時間を厳密に。そうでなければ出会うことさえままならなかった時代だ。
現代は、スマホでスムーズに個人へ連絡ができ、遅刻が確定になってしまったとしても連絡が行き届く。
だからこそ、令和の今は人間関係や人生の送り方が希薄になっていないだろうか、と気づかされる。こんなに思い切り恋をしたことはあるだろうか? 夢に夢中になったことはあるだろうか? 大きな決断をする立場に立たされて、迷わず道を選べるだろうか?
コストパフォーマンスに重きを置き、失敗を避けるために安全な橋を渡る。本音をさらけだしてぶつかり合うのは泥臭く、大きな夢を人に語るのは恥ずかしい。恋も仕事もほどほどに。人付き合いは浅く、ゆるく、ちょっとイヤだと思えばブロックという手法で関係性を断ってしまえる。
そんな令和だからこそ、トレンディドラマの中の登場人物たちがまぶしく見える。
はじめこそ、怒とうのように押し寄せる昭和感とノリノリの役者たちの芝居にむせるほど笑ってしまうが、しだいに「いい…」となっていく不思議な作品だ。それはきっと、懐かしさと同時に、あの時代への羨ましさもあるのだろう。
聞いたことのある主題歌、聞いたことのあるセリフ、展開。笑いを取りに来ているのか真剣なのか微妙なライン(特にハル/演:瀬戸祐介の言動)のときもあるが、おもしろいと感じたときは思い切り笑うのがおすすめだ。
笑えば笑うほどに、このトレンディな世界に引き込まれていき、じょじょに「はじめだったら笑っていたかもしれない」シーンでも息をのみ、最後には感動してしまう体験が味わえる。感情を我慢する必要はない、というのも本作の伝えたいことの1つなのかもしれない。
決して“イロモノ”ではない。観た後、トレンディドラマの主題歌を口ずさみながら劇場をあとにしたくなる作品だ。
なお、日替わりゲストとして櫻井圭登・八神蓮・加藤良輔・前川優希・碕理人・古谷大和・中村誠治郎の出演が予定されている。どのキャストもトレンディに大暴れしてくれそうな予感だ。
公演は7月18日(火)まで、東京・シアターサンモールにて。
キャストコメント
香月ケンジ 役:杉江大志
なんとかできあがったな、という感じがしております。“トレンディ、トレンディ”と皆が言っていますし、世代の方たちはトレンディというものを通ってきていると思いますが、いざ「トレンディなことをしてくれ」と言われたら「何をすればいいの?」となりますよね。僕たちはそれを稽古の中で1カ月間模索して、精一杯この作品に組み込んできたつもりです。「トレンディって懐かしいけど、実際は何かな」という方は、ぜひ劇場に遊びにきてトレンディを浴びて帰ってほしいです。あの時代の良かったこと、素敵だった部分をもう1度思い出してもらって。今の時代にも必要なことなんじゃないかな、とも思いますので、たくさん笑って、最後にちょっと感動して帰っていただけたらと思います。我々は最後まで精一杯に作品をお届けできるように頑張りますので、どうぞ応援をよろしくお願いします。
桜庭虹斗 役:阿部快征
僕は役柄としても、観にきてくださるお客さまと一緒の状態で、「トレンディとは何か」というのを今横にいらっしゃる先輩たちに見せてもらって、お客さま、ファンの皆さまと一緒にトレンディを楽しんでいきたいなと思います。ぜひ身構えずに、純粋に見たものをそのまま楽しんでもらえれば。ぜひとも一緒に、「トレンディとは何か」を知って帰りましょう!
亀井祐也 役:宇野結也
楽しくて、愉快な作品ができあがりました。今、皆さんに足りていないのはきっと…トレンディです!(キャスト、場内笑い) 毎日楽しいけれど物足りないな、なんだか毎日ちょっとやるせないな、という皆さんは劇場に来てください。答えがここにあります!
金井ハル 役:瀬戸祐介
トレンディというものは日本の文化が作り出した宝だと思っています。そのお宝をこのみんなでもう1度磨き上げて現代に出せることをすごく楽しみにしていますし、皆さんにも楽しんでいただきたいなと思っています。楽しみにしていてください。
白崎ミユキ 役:青木志穏
正面からぶつかり合ったりするトレンディの世界と違って、今の時代はSNSが発達したり、ご時世的にも人と会うのをためらってしまうこともあるかと思います。この作品を通して、忘れていたことや直接会うことで生まれるコミュニケーションをもう1度取り戻したいし、観てくださったお客さまにもそういうあたたかい気持ちを思い出していただけたら嬉しいです。
水島カナ 役:松島志歩
本当に素晴らしいカンパニーの皆さんと、日々「トレンディとは」について思考錯誤して今日まできました。頼もしい仲間たちと一緒に作った素敵な作品が皆さまの心に届けばいいなと思っております。
夏目エリカ 役:護あさな
皆さんも“トレンディって何?”と思うかと思います。今の時代、トレンディな物語を見て元気を出してくださる方はすごく多いと思いますので、楽しんでご覧ください。
取材・文・撮影:広瀬有希
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