インタビュー

松田凌「今までの自分の、もう1歩先に行きたい」 吸い込まれるように出会った『聖なる怪物』の世界

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初長編監督作『赤い雪 Red Snow』が世界的に注目される新進気鋭の女性映画監督・甲斐さやかが初めて手掛ける舞台作品『聖なる怪物』。信仰心と神の存在をテーマに描かれる本作において、名優・板尾創路とともにW主演に名を連ねるのが、ジャンルを問わず幅広く活躍する松田凌だ。

2.5ジゲン!!では、自らを神と呼ぶ死刑囚・町月役を演じる松田凌にインタビューを実施。難しい役への挑戦についてや稽古場でのエピソード、憧れの人だと語る板尾創路との共演についてなどを聞いた。

――魅力的な役柄・ストーリーとなりそうですが、演じる役や脚本についてはどの段階で知ったのでしょうか。

出演が決まる前ですね。製本される前の台本だったんですが、準備段階のうちに読ませていただいて。「どうか、自分にやらせていただきたい」と思いを伝えて出演が決まったので、出演が決まった時は、それこそ念願ですよね。まさか、本当に選んでいただけるとは。

――熱望するほど、今回のお話や役柄について惹かれるものがあった?

そうですね。ただ“熱望”というと少し違って。でも言葉にするなら“熱望”なのかなあ。感覚としては情熱ではないんですよね。なんだか吸い込まれるように、「自分にこの作品をやらせていただきたいな」って思ったんですよね。不思議な感覚でした。

でも、本当に今おっしゃっていただいたように、やっぱり役柄についても作品についても惹かれるものがあったんだと思います。その段階ではどなたと共演するかは知らなかったのですが、もし演じることになるのなら、今までの自分では勝負できないぞという風に思ってましたね。もちろんその時点ではまだ想像の中ですけど。

――脚本を読まれての第一印象はいかがでしたか。

理解はできないな、と。簡単なお話じゃないので。でも、その「理解できない」っていうのは、この作品が自分の中でわからなくておもしろくないっていう意味ではなくて。理解ができないっていうことの“裏”をもう考え始めてるんですよ。

逆を言えば、理解したいんですよね。

自分が演じる町月をはじめ、板尾創路さん演じる山川や各登場人物たちのことや、僕が初めて読ませていただいた時に吸い込まれるように演じたいと思った気持ちとか。最終的に自分はこの本から何を感じたんだろうっていう答えもわかってないんですよ。

でも、その雰囲気と匂いと不穏な何かに覆われて、自分が動かされているんですよね。もっと理解したい、と。それに、読めば読むほど、これがまたわかってくるんです。作品の意図とか意味とか、そういうものがわかるわけではないのですが、感覚として「なるほど」となっていくんです。不思議ですよね。

――その感覚というのは、例えばお客さまが観劇した際にも感じ取れるものでしょうか?

そうかもしれないし、そうでないかもしれない。でも基本的には、感じていただいたことをすべてそのまま持って帰っていただいていいと思います。

自分たちが本を読んでいた時の気持ちや情感、想像…そういったものを稽古場で出していって、甲斐さんとディスカッション重ねてすり合わせて具現化するので。自分たちが体現して舞台にする以上は、演じる身として「これが1つの正解だ」という答えが出なきゃいけないじゃないですか。

ただお客さまが感じるものは1人ひとり違うんじゃないかなと思います。どこに着目するのか、誰を思うのか、どの場面が心に残るのか。演劇ってそういうものだとは思いますが、今作は特に持って帰るものが人によって違う作品になるんじゃないかと思っています。

派手なアクションがあるわけでもなければ、愛する人が亡くなってしまうとか、そういったドラマが描かれているわけではないので。自分たちが舞台上からお芝居を皆さまにがーっとぶつけるような作品ではない。どちらかというと聞き入ってほしいんですよ。世界観やドラマに圧倒されて座席の背もたれから動けなくなるというよりは、背中は座席につけておいてほしいのですが(笑)、気持ちとしては「今、何を言ったんだろう。今、どういう顔をしているんだろう」と前のめりになって聞き入っていただけるような作品だと、今の段階では感じています。

先程、自分も理解がどうのこうのというお話をさせていただいたんですが、お客さまには「難しい」というフィルターを通しては観てほしくなくて。フラットに観ていただいていいです。「すっごい難しい作品を観にいくんだ」と気負わないでいただければと思いますね。

そのまま、心に映るものを感じてもらいたいですし、フラットな状態で観たうえで何を感じたのかを僕も知りたいです。

――なるほど。つい、キービジュアルの迫力もあって構えてしまいそうですが、あまり構えずに、ということですね。

そうですね。あえて言います! 難しくはありません! 甲斐さんが生んでくださった『聖なる怪物』という作品の表現の場として楽しんでいただきたいですね。

――では役柄についてお伺いします。町月は死刑囚ということで、そのあたりはいかがでしょうか。

命を奪ったり奪われたりという役をいただくことは多いのですが、死刑囚という役柄は初めてですし、自分のことを神と謳(うた)う謎めいた役柄というのも、今までちらっとあったかなぐらいだったので、そういう役に挑めるのは俳優としてやっぱり嬉しいですね。

――この非日常的な役柄へのアプローチはどうされているのでしょうか。

最近、役作りっていうのがよくわかんなくなってきたんですよね(笑)。でも今回、自分が選んでいただいた意味は考えました。

僕の中に、どうしようもない衝動があるんですよ。ほかの人には理解してもらえない、誰も知らない本当の自分っているじゃないですか。きっと、それは誰しも各々の心のなかに持っていると思うんです。でも、それが見た目に出ている人ってほとんどいなくて。

例えば、見るからに死刑囚役がハマりそうなミステリアスな、ともすると狂気的な雰囲気をまとっている俳優がいるとして。その人が町月役に選ばれるか、それともまったく真逆の人が選ばれるかだと思うんですよ。僕はどっちかっていうと、今回は後者だと思うんです。

多分、自分は真逆の立場から呼ばれているからこそ、そういう人に見えるための段階をしっかり踏んでいかないといけないなとは思っています。そこが今回は役作りにつながっているのかな。だから、実際に死刑囚の方の資料を集めたりとか、死刑囚を描く映画を観たりとか。死刑囚っていう部分に関しては、そういったアプローチをしていますね。

あとは町月の生い立ちも作中で少しだけ描かれている部分があるので、そこから、そういった生い立ちの人はどういう人生歩むことが多いのかとか、肉付けを自分の中でしています。

その肉付けしたものを、どう調理して稽古場で出すのかは自分次第なので。その“どう調理するか”の部分がすごく大事なのかなと感じていますね。やりすぎても陳腐になってしまうし、でも、やらなすぎても普通の人に見えてしまうかもしれないし。その塩梅(あんばい)を探りたいっていうのは、甲斐さんともお話させていただきました。

――実際に稽古に入ってみて、役作りの部分での手応えは感じていますか。

稽古前に思っていたことはあっていたな、という感覚はありますね。稽古で板尾さんや甲斐さんともお話させていただいて、作品の中で自分がどうあるべきかっていうのを考えたときに、おそらく自分の役は作品に対して“うねり”を作らなきゃいけないんですよ。でも、自分に酔ってもいけないし、吐き出して分散してしまうのも違う。

濃密な形で持っていったものを、ポタポタと雫を垂らすように出していく、というか。表現が難しいんですが…。

今までそこの感覚を板の上に持っていけたことがないんですよね。チャレンジしたことはいっぱいありますし、お客さまにとってはそう思えた瞬間もあったのかもしれないのですが、自分の中ではできたっていう実感を持てたことがなくて。でも、今回はそれも求められていることの1つだと思いますし、今までの自分の知っているやり方の、もう1歩先に行きたいなと思ってこの作品に参加しているので。残りの稽古期間でどうにか見つけていきたいですし、願わくばつかんでいきたいですね。

――稽古の話が出ましたが、稽古場の雰囲気はいかがですか。

ご時世柄もあって皆さんとたくさんお話できるというわけではないんですが、甲斐さん自身が舞台初演出ということもあって、演者と一緒になって作ってくれている感覚が強いですね。作品の世界観やその全体像はやっぱり甲斐さんにしか生み出せないものなので、細かい部分も確認したりディスカッションしたりしながら進めています。自分は板尾さんと対峙させていただくシーンが多いので、積極的にお話させていただいてます。

――大先輩から受ける刺激というのは感じていますか?

もう1周回って、ないです(笑)。それくらい、もう板尾さんがすごすぎて、刺激を受けたところで僕はそうはなれないので。

――そういう感覚になるんですね。

いや、もうね、板尾さんと向き合ってお芝居するとね、“目”がすごいんですよ。このあたりはぜひパンフレットの対談を読んでいただきたい! 今、隣でプロデューサーの方々も「お願いします」と言ってくださっていますが、それくらい本当に濃密な対談だったんですよ。

ぜひパンフレットを手に取っていただきたいので、ここではちらっとだけお話するんですが、その対談の中で甲斐さんが板尾さんの“目”について言及していて。「目であれほどの狂気を感じる俳優って日本にいるのか」みたいな話が少しだけ出るんですよ。それを日々、板尾さんと対峙するシーンで、僕も感じていますね。

役としては自分が怪物と謳われる役柄を演じるのに、対峙している板尾さんの目が、もうここから何億光年先にいるんだろうっていうくらい深いんですよ。皆さんもキービジュアルを見てもらったらわかると思うんですけど。

僕、顔合わせで言われましたもん。「(ポスターを指差しながら)松田くん見て。松田くんまだ純粋な1点を見つめる目してるやろ。俺の目、死にすぎやろ。よう死んでるわこれ、大丈夫かな」っておっしゃっていました(笑)。

でも、ご本人はとても優しくて、すごく気を遣ってくださる方です。こと表現やお芝居に関しては「これこうやと思うねんな」とか、「これこうやったらどう思う」とか、甲斐さんも含めて自分にも相談してくださって。自分が言うのもちょっとおこがましいというか、何を言っても蛇足にしかならないと思うのであんまり言わないでおきますが、それくらいすごい方です。

いや、褒め称えるのもなんかちょっとダサいか(笑)。でも、一種の憧れですよ。板尾創路さんっていう人は。

お芝居もそのカリスマ性というか人間性もそうだし、唯一無二のものを持ってらっしゃる方なので、ご一緒できることが1番うれしいんですよね。自分は板尾創路さんにはなれないですけど、持って帰れるものは持って帰ろうと思っています。これからの糧に必ずなるし、板尾創路さんをはじめこの5人の役者の方々と、甲斐さんの作品で舞台に立てるということは誰もができる経験ではないので、その分のものはしっかり持って帰りたいですね。

「ご一緒にできてよかったです、光栄でした」では、引き下がれないですよね。こんなぜいたくな場所。

――今のお話を聞いていて、きっと多いであろう松田さんと板尾さんのシーンがどんな風にできあがるのがすごく楽しみになりました。きっとファンの皆さんも、これまでにない顔ぶれの中での松田さんのお芝居をすごく楽しみにされているんじゃないでしょうか。

そうですね。自分のことをこういう風に言うのもすごくアレなんですが、自分の1つの魅力というのは、やっぱりどんな作品にも出させていただけるっていうことだと思っていて。同世代の俳優さんたちと共演する作品もあれば、原作ものを演じることもあるし、今回のようなまったく角度の違った作品に出演する機会もいただいていて。それが自分にとっては、1番の強みだと思っています。

自分のことを応援してくださる方にとっては、自分を通していろんな芝居や世界を観ていただけると思うし、その中でそれぞれにとって刺さるものを探してもらえたら、と。なので、自分がいろんな人と共演できること自体よりも、自分が出演することで共演者だったり作品だったりに注目していただけることが嬉しいです。

例えば今回の作品でいえば、僕は死刑囚役を演じるので、じゃあ、ちょっと裁判の傍聴に行ってみようかなとか。人生の経験の糧にしていただけたら嬉しいですね。

――では最後に、作品を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

今回は「2.5ジゲン!!」さんのインタビューということで、さまざまなお芝居を観ている読者の方もいらっしゃるとは思いますが、どちらかというと、原作ものを中心とした作品に慣れ親しんでいる読者の方も多いんじゃないかなと思うんです。だから、今作のような作品は「ちょっと1人で行くのはどうかな」ってもしかしたら一歩踏み出せない気持ちの方もいるのかなと。でも、全然そんなことなくて、まず足を踏み入れみてほしいんですよね。きっとここでまた新しく知ることもあると思いますし。

今回の『聖なる怪物』という作品は、何かを感じていただける作品になっていると思います。「今までこんな世界は知らなかったけど、この作品を観て新しい扉が開けました」ってなるかもしれないなと、まだ稽古の段階ですが僕はそう思えているので。

もし、その背中を押すことができるならば、僕も両手で力いっぱい押しますので、まず1度、劇場まで足を運んでいただけたらと心から思います。おそらく見たことのない世界が待っていますので、何卒、舞台『聖なる怪物』をよろしくお願いします。

***

文章にしてしまうのがもったいないと感じるほど、熱量を持って作品への思い、役への思いを語ってくれた。さらに1歩先に進みたいと松田が挑むこの作品は、観た者の心になにか大きな爪痕を残してくれるのではないだろうか。そんな未知なる予感にあふれる舞台『聖なる怪物』は、東京・新国立劇場小劇場にて3月10日(金)に初日を迎える。

取材・文:双海しお/撮影:MANAMI

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公演情報

タイトル

舞台『聖なる怪物』

公演期間・劇場

2023年3月10日(金)~3月19日(日)
東京・新国立劇場 小劇場

作・演出

甲斐さやか

出演

板尾創路、松田凌/莉子、朝加真由美/石田ひかり

主催・企画・製作

ミックスゾーン

公式HP

https://thesacredmen.com/

公式Twitter

@thesacredmen

WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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