2001年10月に、アニメ『テニスの王子様』ED曲「You got game?」でデビュー以来、アーティストとして、また2.5次元舞台を中心に俳優として走り続けてきたKIMERU。
20周年イヤーのフィナーレとして、記念アルバム「DYEING」を10月26日(水)に発売した。4つの新曲と、これまで発表してきた人気のカバー曲、過去に出演した舞台での作中曲も詰め込んだ“KIMERU色”のアルバムとなっている。
2.5ジゲン!!では、KIMERUにロングインタビューを実施。前編では、KIMERU自らによるアルバム収録の全曲解説、各曲やPremium Edition盤ジャケットに込められた秘話などを語ってもらった。
――デビュー20周年イヤーのフィナーレとなるアルバムの制作・発売決定、おめでとうございます。前回のミニアルバム「Liar」からは3年7カ月、久しぶりのフルアルバムになります。まずは今のお気持ちからお聞かせください。
2020年の12月から約2年、20周年イヤーとしてここまで走り続けてきました。でも、走り始めようとした矢先にコロナ禍になってしまい、しばらくはライブ活動などが何もできなくなってしまったんです。
感染拡大がいよいよ本格化してからは、思いの強さと行動がうまく結びつかずにずっとやきもきしていました。僕自身、ライブの客席で「楽しい!」と感じたことが今こうしてステージへ上がる基となっているので。オンライン開催だけのライブというのはできるだけ避けたくて…、それこそ2人や3人でもいいから、お客さんが客席にいる状態でライブをやりたかったんです。だから、2021年3月に「KIMERU 20th year Live DIRECT」を開催できたときは本当に嬉しかったですね。
このアルバムももっと早く出したかったのですが、スケジュールがずれこんでしまい、20周年イヤーの最後の最後、21周年を迎える直前での発売になってしまいました。でもこの期間があったからこそ、1つひとつのステージやそれぞれの曲に対しての思いがさらに深まりましたし、寄り添い方が変わったように感じます。
僕は自分の曲のことを“子ども”と呼んでいるのですが、ライブなどを通して僕と皆さんの思いをまとうことで、子どもたちはどんどん成長していきます。今作の新しい子どもたちも、これからどう成長していくのか楽しみでなりません。
――そんな新曲が入った今回のアルバムのタイトルは“染める”という意味の「DYEING」。どのような思いを込められたのでしょうか。
普段アーティストとして活動しているときは、僕が自分で色を「染めた」楽曲を生み出しています。でも俳優として舞台に立つときは、作品や役の色に「染まる」側になります。このアルバムには自分色で染めた新曲はもちろん、舞台などで僕を染めてきた楽曲は、アレンジを加えて僕色に染め直しています。そういった思いを込めて「DYEING」とタイトルをつけました。
――では、1曲ずつコンセプトや制作裏話などをうかがっていきます。
まず新曲のアルバムリード曲「ムラサキ」。こちらはひたむきな想いがこめられた歌詞とダンサブルな和テイストの曲調、幻想的なMVが印象的です。
実はこの曲は、ある友人の俳優をモチーフにしているんです。その方が立っている舞台を客席から観ているファンの心情で詞を書きました。現実ではなく幻想の世界である舞台、そこに恋する気持ち、舞台の上と観客席とでおこなう愛のやり取り…いわば“推し活”ですね!(笑)
普段は楽曲に対して口を出す方ではないのですが、この曲に限ってはその俳優さんのイメージに合わせたくて「もっと和楽器を入れて!」「鈴を足して!」など、強めに希望を出させていただき、タイトルもその方につけていただきました。その俳優さんが誰なのかは秘密ですが、「あの人かな?」と想像しながら聞く楽しみ方もできると思います。
歌詞では「桜」と書いて「はな」と読むなど、今回も、日本語でしかできないやり方で言葉遊びをしています。伝えたいことがたくさんあるので、類語辞典を使いながら詞を書くのも僕の楽しみの1つです。
――MV撮影時のエピソードを教えてください。
衣装は、ロックなイメージと着物を合わせたい、とお願いしました。そしたら振袖×パンツという動きやすいデザインにしていただけたので、自由に歌って踊りまくれました。
背景はすべてCGです。「calling」のMVでCGをお願いした信頼できるレイジさんに今回もお願いしています。とてもお忙しい方なのですが「KIMERUくんの20周年なんだから受けるしかないよね!」と、このMV作りのために1カ月丸ごと使ってくださったんです。撮影はすべてグリーンバック(合成用の緑色の背景)のスタジオでおこなったので、正直自分がどこでどういう状況なのか分からないまま歌うことになりました(笑)。
――次に、2020年10月にリリースされ今回初めて音源化される「追憶」ですが、ゴシックな音楽と切ない歌詞の曲ですね。
ハロウィン用に作ったので、ビジュアルロック感の強い曲になりました。恋愛の駆け引きを書いた詞ですが、実はもう1つの要素として、この曲を作っている頃に亡くなった滝口幸広との思い出を込めたんです。
例えば、「背中から抱きしめた『珍しい』と笑う君」という出だしの歌詞は、舞台期間中ケータリングに並んでいる時に、僕がたっきーの背後から「ああ~疲れた!」と抱きついたのが基です。僕はいつもたっきーをいじっていたので、たっきーは「珍しいね」と驚いて(笑)。たっきーとのそういう何気ない思い出を、恋愛のこととしても感じ取れる歌詞にしました。
「菜の花」は、たっきーのお墓参りに行ったときに見た菜の花畑の光景からです。ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』では、たっきーと同じくイメージカラーが黄色の役だったので、一面の黄色い菜の花畑を見て、ライブでお客さまがペンライトを振ってくれているような感覚になったんです。
柳浩太郎との絆をテーマに作っていただいた「OATH IN THE STORM」(2004年)、滝川英治に向けて書いた「As one」(2018年)といった曲もありますが、よりロック色強めに、そして恋愛の歌として聞いてもらえるように作りました。感謝の気持ちをもっと伝えたかったですし、やりたいねと約束していたことももう果たせない。でも、約束していたことをやってしまったらその“約束”が消えていってしまうような気がして…そういった思いを込めています。しんみりした寂しい曲にはしたくなかったんですが、ほんの少し切ない感じは残りましたね。
たっきーのご両親にも、アルバムとともにお伝えしようと思っています。
――「life」は、等身大の今のKIMERUさんが詰まった曲だと感じます。
この曲には、今の自分の生き方をそのままぶつけました。デビューしてから20年、いつ何が起こるか分からない状況で、前だけを向いて走ってきました。でもこれからは、さらにアクセル全開でいきたいんです。これからに目を向ければ今が1番若いですから、年齢で何かを否定したり後回しにはせずに、「やるなら今だ!」という思いを込めています。
――「life」の歌詞にある「言霊が輝いて目指す夢が叶う」。以前“夢”についてうかがった時にも、「夢は口に出していくべきだ」とおっしゃっていましたね。
言霊についてはよく言っていたものの、歌詞にはしていなかったんですよね。どこかのタイミングで書きたいなとはずっと思っていて、今回20周年に合わせて“今の自分”を書こうと決めたときに、「今だ!」と思いました。
――作曲は信頼の置ける藤田宜久さんです。
やっぱり節目には藤田さんですね。デビュー曲の「You got game?」(2001年)からお世話になっていて、僕のことをよく分かってくださっています。僕の「こういう思いがあるんです!」という要望に応えて、熱いサウンドを作ってくださいました。
――「Endless」についてはいかがですか?
この曲は、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』のオープニング曲「OVERLAP」作曲のIKUO(渋谷郁夫)さんが作ってくださいました。とても忙しい方なので、お願いするのは難しいかな…と思っていたのですが「20周年なのでぜひ!」と快諾してくださった上に作詞もしてくださったんです。
楽曲を依頼するにあたっては、ライブで盛り上がれるようにコールアンドレスポンスができる部分を入れてください、とお伝えしました。曲の提供だけではなく、レコーディングのときにはコーラスや合いの手で参加してくださって、とても嬉しかったです。
――続いて、カバー曲についてうかがっていきます。
カバー曲には、音源を新たに1から作り直したものもあると聞いています。特にPremium Edition盤限定収録の「OVERLAP acoustic ver. with IKUO」はIKUOさんをコーラスに迎えてのアコースティックバージョンですね。
「OVERLAP」(アニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』第5期OPテーマ)は、少し前にカフェがテーマの所でアコースティックバージョンを披露して、ファンの皆さんにとても好評だったんです。僕の曲の中でも人気でありながら、これまでアルバムに収録したことがなかったこともあり、20周年の記念だしぜひこの曲を! と入れることにしました。
――カバーのうち3曲は、出演された舞台で歌われた曲ですね。「défendu aube」と「Cadenza」(通常盤限定収録ボーナストラック)はLive Musical『SHOW BY ROCK!!』、「宙ノ翼」は超歌劇『幕末Rock』の曲で、コーラスには、共演された吉岡佑さんと鎌苅健太さんが参加されています。
どれも思い入れがあり選曲は本当に悩んだのですが、アルバム全体のイメージと合っていると感じたのが、これら3曲でした。レコーディングでは、その場のノリでセリフを入れたりして、楽しみながら取り組めました。
「défendu aube」と「宙ノ翼」では、吉岡佑くんにコーラスに入ってもらっていますが、もとはどの曲も僕1人で歌うはずだったんです。でも、Live Musical『SHOW BY ROCK!!』のプロデューサーさんがぽろっと「佑は呼ばないの?」と言ってくださって、思ってもないありがたいご提案でした。佑くんには無理を言っていつもと違うメロディーラインをお願いしたので、レコーディングしながら「覚えにくい!」「分からない!」なんて悲鳴を上げていましたね(笑)。
ケンケン(鎌苅健太)とは付き合いも長いので、「Cadenza」では大いに無茶振りもさせていただきました(笑)。でもこの曲は、舞台ではケンケンが演じる愁(シュウ)が歌っていたので、ギターだった僕がカバーすることで、「曲を取られた」と感じさせてしまうのではないか、という心配もあり…。そんな思いをさせたくなかったのとリスペクトの気持ちから、バックコーラスではなく一緒に歌っているような今回のスペシャルコーラスを叶えてもらいました。
どの曲も、役のときとは違って僕色に染まった歌い方をしていますので、当時とはまた違った印象になっていると思います。2人には「クセが強い!」とさんざん言われました(笑)。
――「calling」は、アニメ『遊☆戯☆王VRAINS』第3期のOPテーマソングですね。
僕が歌っているアニメの主題歌は通常、そのアニメに紐づいていないところでも聴ける曲にしています。でもこの曲は『遊☆戯☆王VRAINS』のために作ったので、「VRAINS」という言葉を入れたんです。『遊☆戯☆王VRAINS』最後のOPになると聞いていたので、作品のファンの皆さんへの感謝や新たなシリーズへの期待を込めて、未来へ進めるようにと願って詞を書きました。
この曲もですが、ボーナストラック「OVERLAP」のレコーディング前に、作者の高橋和希先生の訃報が飛び込んできたこともあり、先生への思いも込め、気合を入れて歌わせていただきました。
――「future」は、KIMERUさんのデビュー曲「You got game?」がEDで起用されたアニメ『テニスの王子様』同時期のOPソングです。
2001年10月10日。アニメ『テニスの王子様』の第1話が放送されたその日が、僕と、この「future」を歌っていたHIRO-Xくんのデビュー日になります。原作者の許斐剛先生との出会いや、さまざまなご縁がアニメ『テニスの王子様』から始まった20年。HIRO-Xくんから始まり皆川純子(越前リョーマ役)さんも歌っている「future」をぜひ僕もカバーして歌い継いでいきたい、と思いました。
――新曲、カバー曲などすべてひっくるめて、KIMERUさんのこれまでの“ご縁”が込められたアルバムだと感じます。また、Premium Edition盤は許斐先生がジャケットイラストを描かれており、それも含めて“ご縁”でできているアルバムですね。
許斐先生は、大変お忙しいスケジュールの中で「キメちゃんの20周年だから」とジャケットのイラストを描いてくださいました。アルバムのコンセプトと収録曲についての説明や思いだけお伝えしていただけなのに、上がってきたイラストを拝見して散りばめられた要素に、ものすごくテンションが上がってしまいました。もう、エモくて!(笑)
ぱっと見た第一印象は「わ、おしゃれ!」だったんですけれども、よく見ていくと、ミュージカル『テニスの王子様』で僕が演じた不二周助の“三種の返し球”(トリプルカウンター)、白鯨、樋熊落とし、つばめ返し。エジプトのモチーフは『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』、カメは『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』のEDを歌っていたからですね(「恋してキメル!」)。電車はミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』…と説明しちゃいましたけれども、1つ1つモチーフを読み解いていくのも楽しいです。何よりも、許斐先生からの愛情を感じて…何度も言いますがエモすぎます! お墓には、このアルバムを持って入りたいくらいです(笑)。
僕自身、この20年は『テニスの王子様』と歩んできたと言っても過言ではありません。『テニスの王子様』という作品があったからこそ、「You got game?」でデビューさせていただき、ミュージカル『テニスの王子様』への出演があって、そこで素晴らしい仲間たちと出会い、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』への道などができました。
“曲”だけではなく、舞台での思い出やさまざまな人間関係のご縁など、僕の20年がそのまま詰まったアルバムです。悔いのないものができた、と胸を張って皆さんにお届けできます。
後編へ続く
取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル
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