人気アドベンチャーコメディ映画『シュレック』は、仲間との絆や真実の愛、困難に立ち向かうという普遍的テーマを、ジョークやパロディ満載で描く。子どもだけでなく、大人も夢中にさせ、公開から20年以上経った今でも愛されているアニメーション映画だ。
そんな映画『シュレック』は、2008年にブロードウェイでミュージカル化。今回、そのミュージカルがトライアウト公演として日本初上陸する。
2.5ジゲン!!では、主人公のシュレック役を射止めたspiにインタビューをした。
「オーディションを受けないと後悔するかもと思った」
ーー今回は全キャストオーディションで配役が決まりました。spiさんがオーディションを受けられた理由を教えてください。
母に薦められたんですよ。「『シュレック』のオーディションをやるみたいだから、受けてほしい」と言われて。
俺は最初、嫌だと言ったんです。めちゃくちゃ忙しいし、オーディションの話が急すぎるから(笑)。でも、一晩寝て考えてみて、なんか受けないと後悔するかもと思ったんですよね。それでオーディションを受けることにしました。
ーーオーディションを知ってから応募締め切りまで1週間ぐらいしかなかったと聞きました。かなり短いですよね?
本当ですよ、あまりにも急すぎます(笑)。でもそれぐらい考える間もなく進んでいくテンポ感、実は結構好き。ワクワクします。
ーーオーディションではどんなことを?
他に考えなくてはいけないことがいっぱいある中で、曲を覚えて、動画で撮って送ってという感じだったので、正直いっぱいいっぱいだったんです。原作の『シュレック』に寄せるとかそういうやましいことは考えず、「今、僕の持てる力はこれです。こういう歌唱力です。こういう表現力です。いかがですか?」という感じでしたね。
動画審査を通過して、実際にお会いして歌唱を披露したのですが、そのときの課題曲は本作の1曲目である『デカく明るく美しい世界』。一発目にバーンと歌うんですけど、めっちゃロックなんですよね。いわゆるミュージカルの歌唱というよりは、ポップスの歌い方を見たいんだろうなと思いました。
ーーところでお母様が『シュレック』をおすすめしてきた理由は何だったのでしょう?
やっぱり、俺に合うからじゃないですか?勘だと思いますよ。
『ロミオとジュリエット』のロミオかと言ったら、それはね、黒羽麻璃央くんとかにやってもらうしかないじゃないですか(笑)。そうなってくると、もう俺ができる主演なんて、モンスターしか残ってないんですよ。
だから、この『シュレック』日本初演は絶対に取っておきたい。そんな母の思いがあったんだと思います。
ーーご自身でも自分にハマり役だ、と。
最初は全然思わなかったです。自分のことを実はキラキラ王子様だと思っているから(笑)。でも「規格外」というのは、僕のこの日本での活動でのテーマの一つでもあるから、シュレック役は意外とはハマるかもしれないなって。後から気づきましたね。
1300人の中から僕が選ばれたわけで、きっとシュレック役をやりたいと思っている人、いっぱいいたと思う。「俺もやりたかったんだけど」と俺自身も何度も思ったことがあるから、そういうオーディションに落ちた人たちの思いも背負いながら、良い作品にできたらなと思います。
超マイノリティ。だけど誰かとつながりたいという思いがある。
ーー原作の映画に対してはどんな印象をお持ちですか?
シュレックの声優は、マイク・マイヤーズですよね。ドンキーもエディ・マーフィでしょう。ロビン・ウィリアムズやジム・キャリーなど、あの辺のコメディが出来る俳優さん、俺、大好きなんです。(映画製作会社である)ドリームワークスの作品も好きで。
だから映画『シュレック』もリアルタイムで観ていました。
ーーシュレックというキャラクターに関してはどんな印象をお持ちですか?
役づくりの話になってしまうんですけど、とにかく孤独でブサイクで嫌なやつで、臭い。価値観や美的感覚が他の人と違うがゆえに、社会では「汚いもの」と言われ、卑屈になった独身。そんなイメージですね。
卑屈だけど、どこかで友達が欲しいと思っている。外向きは雑だけど、実は優しい奴というシュレックを演じたいと思います。
ーー今回の台本を読んで、映画版と印象が変わった部分はありますか?
アニメ映画版と比べて、もうちょっと背景を説明してくれているかなというイメージですね。アニメ映画版はやはりCGのビジュアルが先行するし、その面白さがあるんだけど、ミュージカルになると、なぜそうなのかという理由とか、コンプレックスとか、音楽に合わせて気持ちを表す必要があるので。
キャラクター一人ひとりにより人間味を感じたし、舞台版の方がより共感ができる要素があると思いました。
ーー確かに原作はヴィジュアルが先行して「子ども向け」という印象が強いですが、舞台版ではそれがちょっと違うのですね。
はい。俺は恵まれているし、イケているんですけど(笑)、でもハーフだったから、周りと自分は違うんだというコンプレックスみたいなものはあったんです。たまたまそれが骨格がいいとか、声が良いとか、そういう方向での飛び抜け方になったけど、やっぱり幼少の頃はみんなと違うというだけで、良くも悪くも、マイノリティ側になっちゃうんですよ。
シュレックも超マイノリティ。マイノリティだから、1人で過ごすんだ、独身でいるんだ、どうせ社会は認めてくれないんだからという境地にいる。そういう「俺は/私は孤独でいいし、嫌われてもいい」と思っている人でも、実は誰かと繋がりたい。
きっとその感情は誰もが感じたことがあるはずで、シュレックはその部分から共感が生めるんじゃないかなと思っています。
ーー今回の舞台では特殊メイクをされるそうですね。その辺りはどう思われていますか?
熱が内にこもるんじゃないかなと(笑)。空気穴をつくるのか、保冷剤を常備するのか、小さい扇風機をつけるのか……分からないですけど、メイキングは面白いことになりそうですよね。
なんでも口と目しか開いてないらしいので。どうなるんでしょうね。とりあえず熱を逃がして、熱中症を避けたいです(笑)。
ーー心配や不安というよりかは「何とかなるかな」というお気持ちなのですね。
もう全然!インパクトやばいし、歌うまいし、デカいし、大丈夫でしょうとは思っています(笑)。
ーーつづいて、本作の楽曲について教えてください。ずばり見どころは?
ジニーン・テソーリ作曲で、最高ですね。
ただ、今回はトライアウト公演なので、ちょっと楽曲が短く、少なくなっているんですね。(ブロードウェイ版と比べると)カットされている曲もあるから、マジでもったいない!でも、残すべきところは残されているから、大切なことは伝わるんですけど。
歌詞に関しては、英語らしいウィットや皮肉、ユーモアがちゃんと翻訳されています。日本だと、変な訳詞になっているミュージカルもありますけど、小島(良太)さんの訳詞はマジで最先端で、いい感じです。
音楽と歌詞が力を持っているので、それを誠実にお客さんに伝えるという作業が一番だと思っています。
ーー共演者の方々についてはいかがですか?
今まだ稽古序盤で一部の方々にしか会えていないのですが、センスがすごいですね。「こんな感じでやりたい」とか「こういうシーンなんだけど」と言ったら、「Wi-Fiで繋がっているの!?」というぐらい、みんな、すぐ分かるんですよ。
いや、これは早いなと思いました。作品を立ち上げるのに、余計な時間がかからない。キャッチ力がすごいです。
ーーみなさんそれぞれの能力もありますが、やはり全員オーディションで選ばれたということも関係しているのでしょうか?
関係しているんじゃないですか。超ハングリーで、アンテナを張っている人たちということなんだと思います。
子どもはケラケラ笑える作品だけど、大人は思わず感動する!?
ーー今回は子ども向けのチケットもありますね。夏休みですし、初めてミュージカルを観るお子さんもいらっしゃると思います。その辺りの楽しみは?
もう大勢の子どもたちに観てほしいですね。
きっと子どもにとっては分からないこともたくさんあると思うんですけど、強烈なキャラクターがいっぱいでてきて、衣装もセットも、もうビジュアルから面白いので。おならやゲップなど、子どもたちが好きな笑いも超いっぱい入っているから、大好きだと思いますよ。
一方、チケットのお金を払うのは大人ですよね。でも大人の人たちも、絵本を読み聞かせしていたら、大人の自分が感動しちゃったみたいなことあるじゃないですか。そういうことがこの『シュレック』でも起きると思います。
子どもたちは「わー楽しかった!変な人たちがいっぱいいて、おならもゲップもあって、笑えた!」と楽しんでる横で、大人はちょっと涙する。そんなことが起きるんじゃないかなと思っています。
ーーこれまでいろいろな作品に挑戦されてきたspiさん。本作がspiさんにとってどんな作品になるという予感がありますか?
もう本当1つ1つ、目の前の仕事をオファー順にコツコツやっているだけなんですよね。でも、やってよかったなという作品には確実になるかなとは思いますよね。フジテレビさんと仕事できるのはありがたいことですし(笑)、キャリア的にはタイトルロールの役を演じられるのは貴重な機会ですから。
ーー目の前の仕事を積み重ねてきていらっしゃるということは、例えば「何歳までに何やりたい」などと、目標はあまり立てないのですか。
そうですね、具体的な目標は立てず願いだけです。世界に羽ばたくぞという願い一つで、毎日コツコツ過ごしています。
ーー最後にファンの方々や楽しみにされている皆さんに一言お願いします!
普遍的な共感が全員のキャラクターにあるんですよ。虐げられてきた者、ハブられてきた者たちのヒーローというか。「見た目至上主義のこの世の中に物申す!」世の中へのアンチテーゼというか。自分らしく生きることが幸せ。そんなテーマがあります。
ご家族で来られる方が大半だと思います。子どもたちはケラケラ笑って、大人の人たちは感動して帰っていただけるような、本当に楽しい作品になるんじゃないかなと思っています。
取材・文:五月女菜穂/撮影:梁瀬玉実
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