今泉佑唯は「人前に立つのって怖い」と感じていた。
1年ぶりの舞台。
台詞が出ないかも。頭が真っ白になった。
それから、わずか4カ月。再び、同じ役で舞台へ上がる。「修羅雪姫 -復活祭50th- 修羅雪と八人の悪党」(3月18~27日、東京・紀伊國屋ホール)で、再び主役の雪を演じる。
2.5ジゲン!!では、女優の今泉佑唯に、舞台への意気込み、子育てとの両立、歌への思いなどを聞いた。(※インタビューは2月28日に行った。)
「何もなくなっちゃった、みたいな喪失感」
――昨年11月に上演された「修羅雪姫」の再演になります。再演を聞いてどう思いましたか。
こんなに早く、同じ作品をやらせていただけるなんて全く思ってもいなかったので、はじめに聞いたときはびっくり。うれしいよりもびっくりが勝ちました。実は、前回の初日に、みんなで円陣を組んだとき、「再演しましょう」と私一人で言っていました。それぐらい、早くまたやりたいなという気持ちがずっとありました。
――そこまで思えたのはなぜですか?
初めて一から作ることを体験し、こんなにも楽しいんだと思いました。舞台は「熱海殺人事件」と「あずみ~戦国編~」に出た経験がありますが、いろいろな方が演じてきた作品でした。一方、「修羅雪姫」は一からみんなで作る形になりました。このままで本番、間に合うのかなというハラハラ感があり、一緒に作っているという雰囲気がすごく楽しく、またやりたいなと思いました。
――以前の作品をじっくり見て勉強するタイプですか?
そうですね。「熱海殺人事件」と「あずみ」は映像を見て、それをもとに台本を覚えました。今回は一から何もない状態で作ったので、いつもと違う楽しみがありました。
――「修羅雪姫」は映画の作品がありますね。
「修羅雪姫」の映画は本当に何回も見ました。この映画からどう舞台化するのだろうと、映画を見ているときにずっと思っていました。実際に稽古していく中で、「あっ、映画のあのシーンだ」みたいになるのもすごい楽しかったです。
――参考にしたところはありますか?
立ち回りはすごく意識しました。でも、やっぱり難しかったですね。構成演出の岡村俊一さんから「あずみとは全然違う立ち回りだから、立ち方に気をつけてね」とすごく言われました。映画を見たとき、すごく綺麗な立ち回りだったのが難しかった。(実際に立ち上がって)ちょっと体を斜めにして、足をそろえて、きれいに立つ、背筋ピンみたいな。あずみのときはずっと、足を思いっきり広げていたので、苦戦しました。
――1年ぶりの舞台を終えて充実感はありましたか?
お稽古を2カ月近くしていたので、終わっちゃった、何もなくなっちゃったみたいな喪失感がしばらく続きました。1年前まで自分が表舞台に立っていたんだっていう実感を味わい、人前に立つのがこんなに怖いことなんだと感じました。正直、3日間すごく楽しめたかというと、あまり楽しめませんでした。緊張の方が勝っちゃって、だから今回はもう全力で楽しみたいと思っています。
――怖いという感覚は、どんなときにあったのですか?
それまでも「急に真っ白になっちゃったらどうしよう」と不安になることは多くありました。でも、前回は、ずっと頭が真っ白の状態。それでもなぜか台詞と立ち回りが自然と出てくるみたいな不思議な感覚を味わいました。「絶対、次は台詞が出てこないだろう。もう次やばいだろう」と思っていても、自然と出てくるみたいな感じの状態が3日間、続いていたので、それが結構怖かった。本当に急に真っ白になっちゃったら止まっちゃう、どうしようみたいなのがありました。
「半分くらい、復帰は諦めていた」
――前作と今作、同じ原作、同じ役柄ですが、違いはありますか。
キャストが今回、増え、内容も少し変わったので、また前回と違う作品になるなと思います。前回は最後の方しか戦わなかった役の人と、序盤から戦ったり、前回よりも内容をもっと濃くしたりしているので、そういうところが見どころだと思います。
――主役の雪は、どんな女性だと感じていますか?
敵を討つために、たった一人で立ち向かっているので、すごく力強い女性だなと思っていて、そこを舞台上でも表現できたらいいなあと意識しています。
私も去年、出産して母になったので、そういう意味で結構重なる部分もあるのかなと思います。子どもを育てていく上で自分がたくましくならないといけないと思うことがすごくあるので、ちょっと似ているのかなと思うこともあります。
――前回のゲネプロで「生きている価値のない人はいない」と発言されました。とても印象に残る言葉でしたが、どうしてそう思ったんですか?(前回のゲネプロレポートはこちら。)
生きていることに何の意味があるのか、生まれてきたことに何の罪があるんだ、という叫びの台詞が多く、そこが自分の中で響きました。23年生きている中で、そういうことを考えることが何度もあって、生きることになんの価値もない人間はいないよな、生きることに意味があるよな、とこの作品を通じてすごく感じることができました。
――無邪気で罪もない、生きたい渇望が見える子どもが生まれたことも重なったのではないでしょうか。
そうですね。子どもから学ばせてもらうことも本当に多くて、一生懸命生きているというのがすごく伝わってくるので、なんか生きるのっていいなあと言うのが、子どもを見ても思うし、この作品を通してもすごく感じました。
――「生きることが本当につらかった」とも語っていました。復帰までの1年で希望となったのは、復帰への思いですか?
またお仕事したいな、また舞台に立ちたいなという思いはあったんですけど、半分くらい諦めてはいました。まさか、また舞台で主演をやらせていただけるなんて思っていなかったので、人生は面白いなあと感じました。でも、本格的に復帰すると決まる前までは、無事に出産することを希望に毎日生きていました。
――復帰を諦めていたのですか?
現実的に考えて、もう戻らない方がいいのかなーって思うこともすごくありました。
――お子さんがいながら、稽古するのは大変ですね。
前回の稽古の終盤か中盤ぐらいで、夜泣きするようになっちゃって、そこから結構しんどくなりました。今回の稽古も、夜泣きがピークの時に稽古が始まったので、どう自分と向き合いつつ、子どもとも向き合えばいいのかと考えこんでしまい、一度、心が折れました。
――何かあったのですか?
久保田創さんがほとんど寝ずに脚本を考え、しんどかったと思うのに、稽古に来てくれました。でも、自分は「あんまり寝れてなくて集中できないんです」と言い訳をしちゃいそうになる瞬間が結構ありました。「なんか明らかに集中できてないなぁ」とか、「全然、殺陣が入ってきていないなあ」とか。それを周りが感じているかもしれない。そう思って、どうしようとしんどくなって...それで1回、心が折れました。体調を崩してしまって、自分のケアを自分でできないのはほんとに情けないなーと思いました。
――子どもがいるとしんどいと思います。
しんどい部分はやっぱりありましたね。私があまりスーパーに行って買い物する時間も今は取れないので、家族が、「必要な食材があったら買ってくるよ」と買ってきてくれたりとか、野菜を切って「これ、冷凍しときな」と渡してくれたりするので、そのおかげでだいぶ助かりました。
「歌をやる機会があったなら、自分の名前を隠したい」
――前回の公演では主題歌を歌いました。今回はどうなりますか?
まだ実際にレコーディングをしていないんですけど、1回聞いたら本当に耳に残る歌を作ってくれて、早く聴いてほしいなという気持ちですね。
――今泉さんにとって歌はどんな存在ですか?
勇気をもらえると言ったら薄っぺらく聞こえちゃうかもしれないんですけど、今の自分にすごく重なっている歌だな、重なっている歌詞だなと思いながら聞くことが最近は多いです。だから本当に元気になるし、勇気もらえる。本当に歌の力ってすごいなと思いますね。
――俳優を続けて表現の幅を広げ、再び本格的に歌をやってみたいという思いはありますか?
もしまた歌をやる機会があったら、自分だということを隠してやりたいという気持ちがあります。舞台の上で歌を歌って、その曲が今回のように配信されるのはすごくうれしいんですけれど、もし本格的にとなったらちょっと恥ずかしい気持ちがあります。すごいずば抜けて歌が上手いわけでもないから、なんかちょっと隠したい気持ちもあります。
――隠した上で、歌そのものを聴いてもらいたいというイメージですか?
今泉佑唯というフィルターがかかると、聞こえ方、とらえ方が変わるのかもと思います。歌を聞いてほしいと思うので、自分であることを隠したいなと思います。
――今回の舞台の意気込みを教えてください。
コロナ禍でいま、舞台に行くことに抵抗がある方もいらっしゃると思うんですけれど、この作品が皆さんに伝える思いは強いものだと思っています。いま生きることにすごく悩んでる方、疲れちゃったなーっていう方、是非見ていただいて元気をもらってくれたら嬉しいなと思います。
「修羅雪姫 -復活祭50th- 修羅雪と八人の悪党」は3月18日から27日まで、東京・紀伊國屋ホールで上演される。
撮影:梁瀬玉実
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