インタビュー

糸川耀士郎、脚本・演出・主演の3役に挑む 「逃げろ、逃げるな。」で妥協なき公演へ

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糸川耀士郎が脚本・演出・主演の3役を務める、劇団番町ボーイズ☆第14回本公演「逃げろ、逃げるな。」が3月9日(水)に東京渋谷・CBGKシブゲキ!!で開幕する。

2.5ジゲン!!では糸川に単独取材を実施。脚本を仕上げる上での苦労から、本作のストーリー、脚本・演出監修として名を連ねているほさかようへの厚い信頼感、コロナ禍で改めて感じた演劇への思いなどを聞いた。

――今作では脚本・演出・主演と3役を担われます。どのような経緯でお話が決まったのでしょうか。

自分の手で、自分自身が心から面白いと思える作品を作ってみたいと以前から思っていたんです。脚本は自分のバースデーイベントや劇団番町ボーイズ☆の企画で短いものを書いていましたが、演出は経験が無くて…。脚本と演出を同時にする機会があるなら、初めては絶対に自分の劇団がいいな、と思っていたところお話を頂いて「はい、やらせてください!」とお返事しました。

自分が所属している劇団で、よく知っている仲間たちと一緒であれば、怖がらずに色々なことにチャレンジできます。みんなの役者としての魅力を一番近くで見てきたからこそ、彼らの能力をさらに引き出せるはずです。演出をするのは初めてですが、不安や後ろ向きな気持ちはありません。

僕は、演劇はもちろん、映画やさまざまな芸術に触れるのが大好きです。自分の感性や感覚を疑わず、役者が演じていて楽しいもの、そしてお芝居を愛するファンの一人として、ファンの皆さんが観たいと感じてくださるものを作っていきたいと思っています。

演出プランのイメージは、もう頭の中にあります。みんなの中に入って指導していこうかなと考えているのですが、演出卓に座って指示するのもちょっと憧れがあります(笑)。

――ネタバレに触れない程度に本作のストーリーを教えてください。

社会というコミュニティになじめない広野隆弘(演:堂本翔平)と、僕が演じる吉澤アキラが出会うところから物語は始まります。隆弘は詩を、アキラは小説を書いています。その“文を書く”共通点から、二人はお互いに心を開いて、現実の世界とインターネットの世界を通じてどんどん向き合っていくんです。なぜ彼らは詩や小説を書いているのか、過去に何があったのか…他の登場人物たちも絡んできてストーリーが進んでいきます。

彼らがどういう結末を迎えて、その後、どんな道を歩むのか? タイトルの「逃げろ、逃げるな。」はどういう意味なのか…? 僕が伝えたいメッセージは脚本に全部落とし込みましたので、最後まで観ていただければきっと伝わると思います。

6人の登場人物それぞれの人生を描いているので、心寄り添えるキャラクターが1人はいるはずです。自分と経験や思いを重ねなくても、こういう苦しみを味わっている友達がいる…など、身近でリアルな世界を感じてほしいです。

僕は東野圭吾さんが書かれる小説のような、いくつも散りばめられた点が伏線になっていて最後にその点が一気に繋がるお話が大好きなので、そういう要素はあるかもしれません。

観た人によってメッセージの受け取り方は違うと思うので、観劇後にどう感じたか感想を聞けたらすごく嬉しいですね。

――今回の脚本を書かれていて特に苦労した点はどこでしょうか。

多くの作品を観たり演じたりしてきましたが、自分の手で作品を作り上げるとなると本当に難しいのだと感じました。最初に立てたプロットとは全然違う話になっています。

まず「絶対にこれは伝えたい!」という大きなメッセージがあって、それを元にいくつも話を書きました。最終的には詩と小説になったのですが、初めは画家のサルバドール=ダリを軸にした話を書いていたんです。でも、書いているうちに色々な矛盾が出てきてしまったり、本職の画家の方が観ても納得するか? と言われればそんなこともなく…。浅はかだと現実を突き付けられて、脚本を完成させるのはこんなに大変なことだったんだ、と思い知りました。

――その難しさを知ってからは、脚本や制作全般に対する印象も変わりましたか。

今までもずっと勉強する気持ちでいましたが、照明や美術の作り方もさらに細かく見るようになりました。それから、演出家さんがよく「想像を超えてきた!」とおっしゃる、その気持ちが何となく分かるようになりましたね。

僕の中で、今回作り上げた一人一人のキャラクターに対しての明確な正解はあるのですが、もし役者がこの“正解”を超える役作りをしてきたら「そんな作り方があるんだ!」と感じると思うんです。キャストの彼らを見る目も変わるでしょうし、僕自身も刺激を受けてすごく勉強になるでしょうね。たくさんの壁にぶち当たるかもしれませんが、今は稽古が楽しみで仕方ありません。

――執筆にはどのくらいの期間がかかりましたか。

半年くらいです。1ページ書くのに1日使ってしまうこともありました。執筆期間に出演していたミュージカル『刀剣乱舞』~静かの海のパライソ~の地方公演の時は、休養日もホテルで執筆に丸一日を捧げるほどでした。

そんな思いをしていたので、それ以来映画やテレビでドラマを観ても「伏線になるセリフの入れ方がうまいな…!」「何でこんなにさらっといけるんだろう」と感じるようになってしまいました(笑)。

――ほさかようさんには、どのような相談をされているのですか。

困ったことがあったら何でも相談しているのですが、ほさかさんは絶対に正解をそのまま教えてくれません。

「やりたいことは分かる、すごく面白い。でも、演出のギミックに引っ張られ過ぎている」「物語のここが矛盾しているよね」というように、疑問点をどんどん指摘してくれるんです。例えば、先ほど言ったダリに関して指摘してくれたのもほさかさんです。「ダリのこと、どこまで知ってるの?」と言われて、作り込みの浅さを思い知りました。

でも実際、その通りなんです。例えば、劇団を題材にした舞台を自分が観に行ったとしたら、出来によっては細かい矛盾点が気になったり「実際はこうじゃない」と感じてしまうと思います。その分野の人が観ても満足するくらいに深く作り込まないと、リアルではなくなってしまうんです。今回の脚本を書き上げるにあたっては「この人物はどういう人生を歩んできたの?」など細かく突っ込んでくださって、それが呼び水になって正解に近づいていったように思えます。

僕としては正直なところ、すぐに答えが欲しいです。もう正解を言ってよ! と(笑)。でも、自分で考えて答えを出さないといけない導き方をしてくださったので、仕上がったものは100パーセント僕が作ったと自信を持って言える作品になりました。

脚本を書いている時は大変でしたが、ここまで作品と向き合わないといけないんだ、と答えにたどり着くまでの過程も全部勉強させてもらえました。ほさかさんに入っていただけて本当に良かったです。

――2020年の前半は、先ほどタイトル名が出たミュージカル『刀剣乱舞』 ~静かの海のパライソ~が東京公演の途中で休演(2021年に延期)になったり、主演の予定だった『ダイヤのA』The MUSICALが中止になるなど、大変な思いをされたのではないでしょうか

あの時は本当に精神的につらかったですね。“ステイホーム”が始まった頃は、体の感覚を鈍らせないように家でダンスを踊ったり、感染対策をした上でランニングに行って体力を維持させたり、公園で投手の左投げの練習をしていました。

「静かの海のパライソ」の東京公演が7公演だけで中止休演になった時は、状況が落ち着けば再開できるはず! とモチベーションを保っていられたのですが、その後の地方公演やダイミュ(『ダイヤのA』The MUSICAL)も中止になってしまったので、公演が中止になるのはこんなにつらいことなんだ…と。

でも、立ち止まってはいられませんでした。早く立ち直らなければ、物事が動き出した時に遅れをとる、と思ったんです。ファンの皆さんも同じようにつらい思いをしていらっしゃるし、このコロナ禍で演劇から離れてしまった方々にもう一度演劇の面白さを伝えたい、という気持ちになりました。

その大変な時に気持ちの支えになってくれた刀ミュには心から感謝しています。今でも、あの素晴らしい座組の一員であることで、役者としてさらに自分を高め続けなければいけないというモチベーションになっています。

――最後に、本作「逃げろ、逃げるな。」の見どころとファンの皆さんにメッセージをお願いします。

初めて演出をするにあたって「初めてだからこの程度なのは仕方ないよね」といった気持ちは全くありません。脚本も、演劇としての面白さも交えた上で僕が伝えたいメッセージを落とし込めたと思っています。

番町ボーイズ☆の仲間たちの良さを一番引き出せるのは自分である自信もありますし、そうでなければいけない使命感も持っています。番町ボーイズ☆だったから面白かった、と言ってもらえる作品になっているはずです。

色々な社会問題に直面する中で、この舞台を観て少しでも心が軽くなったり、この言葉に救われたと思ってくれる人が一人でもいることを信じて作品を作っていきたいと思っています。ぜひ観ていただけたら嬉しいです。

取材・文:広瀬有希/撮影:梁瀬玉実

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公演情報

タイトル

劇団番町ボーイズ☆第14回本公演 「逃げろ、逃げるな。」

日程・劇場

2022年3月9日(水)〜13日(日)
東京・CBGKシブゲキ!!

キャスト

吉澤アキラ:糸川耀士郎
サクマ:木原瑠生
タカ:西原健太
シンゴ:坪倉康晴
雄太:宮内伊織
広野隆弘:堂本翔平

脚本・演出

糸川耀士郎

脚本演出監修

ほさかよう

主催

ソニー・ミュージックエンタテインメント

劇団番町ボーイズ☆公式HP

https://k.banchoboys5.com

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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