朗読活劇「信長を殺した男 2021」が11月26日(金)~11月28日(日)、東京・神田明神ホールで上演される。
2.5ジゲン!!では豊臣秀吉役の横田龍儀(「桔梗」公演)と宮崎湧(「木爪」公演)へのインタビューが実現。なお、前回の記事では「桔梗」公演の明智光秀役・平野良にも本作への意気込みを語ってもらってたので、ぜひあわせてお読みいただきたい。
宮崎「豊臣秀吉の境地に少しでも触れたい」
――まもなくお稽古が始まるそうですね。
横田龍儀(以下、横田):はい。今、代役の役者さんが演じてくださっている動画を見て各々イメージを膨らませている段階なんです。本作はテンポを意識した会話が多出するので『活劇』というタイトルなのかなと考えています。
宮崎湧(以下、宮崎):言い回しが現代のものとは違うからこそ、このテンポ感があるおかげで内容がよりスムーズに頭の中に入ってくると思います。
横田:情景を思い浮かべながらただ喋っていると聞いている側はおそらくワンテンポ遅れた情報を受け取ってしまうんですよね。本番ではイメージをしやすいように抑揚をつけながら上手く誘導していかないといけないんだろうな、と。
――本作のように古典的な言い回しはお二人とも初めてですか?
横田:初めてに近いです。
宮崎:実は僕、朗読劇自体が初めてなんですよね。
横田:そうなの!?
宮崎:うん、しかも歴史ものもずっとやりたかった演目の一つだし。挑戦だらけの稽古になると思います。
――初めてのお仕事ではありますが、過去に共演したことがある方がカンパニー内にいると心強いのではないでしょうか。
宮崎:そうなんです。龍儀くんとは本作で同じ役ということもありますし、色々と過去に酸いも甘いも経験してきた仲ですし(笑)。同世代だからこその葛藤を共有しながら、稽古期間にどう組み立てていくのか、いい意味で刺激し合えるのはすごく貴重なことだと思います。
横田:そんでもってさ、俺らの役…大変じゃない!?
宮崎:うん、まさかの5役…くらい? 入れ替わるんだよね…?(笑)
横田:あれ、5役? 7役? あ、実質8役…? 驚きの数ですよね。稽古が始まるとここからさらに調整が入るかもしれないです。
宮崎:豊臣秀吉役ではあるんですけど、『兵一』とか『兵二』とか、その他の登場人物や語り部役など、何役かを演じ分けるという(笑)。
――なかなかない経験ですね。
宮崎:本当に。他の2.5次元舞台で劇中劇をすることはあるんですが、これは軸となるキャラクターがあって、その上にかぶせて演じていくんです。本作は勝手が違いますね。僕は全く色の違う役を、一つの作品の中で改めて練り直すという体験をしたことがありませんでした。
横田:しかも普通の舞台のように動きで見せることができないんだよね。朗読劇はやっぱりセリフが一番重要だから。自分の間や抑揚とかで(各役を)調整していかなくてはいけないんです。でないと「あれ? 今どの役やってるの?」ってなっちゃう。言葉の使い方や速さ、声音の強さ、高さ、低さを考えて表に出さないと、観客側が混乱してしまうんです。
宮崎:表情を使えるというところ以外は、表現方法は声優さんと近いのかな?
横田:そうかもしれないね。
宮崎:今回は煕子と玉(ガラシャ)役で声優の方々が加わるのですが、畑が違うから学ばせていただくことがたくさんあると思います。異業種の方と交わる機会はどんなときでも楽しみです。
――作品の中でどんどん年齢を重ねていくストーリー構成になっているかと思います。どう表現しようとお考えでしょうか。
横田:俺ら、ちっちゃい子もやるんだよなぁ。「このシーンはこの年齢で、こんな感じで」って細かく決めて作っていかないと、後々困るのかなぁ。そうやって変化をつけないと。僕の回は明智光秀役が平野良さんなので、細かに使い分けてくるのではないかと考えています。そこに対して、僕も変わっていかないと違和感が生まれてしまうんだろうなって。
平野さんとは番組などでご一緒したことはあるのですが、舞台は今回が初共演なんです。平野さんが出演された作品はこれまでにたくさん観劇してきましたが、やはりすっごく素敵な役者さんです。学ばせていただきつつこの作品が良くなるように努力していきます。
――宮崎さんは鈴木裕樹(「木爪」明智光秀役)さんとのご共演はいかがですか?
宮崎:初共演です。緊張もあるにはありますが、初めてならではの武器があると思うんです。たぶん稽古開始から本番まで僕はぶつかっていくのみなので、先輩の胸を大いに借りて、そしてその背中を必死に追いかけていきます。
――本作の豊臣秀吉は狡猾な役です。お二人のこれまでのご経験の中では、まだ演じたことがないキャラクターのではないでしょうか。
横田:ないですね。言ってしまえば、本作における秀吉ってめちゃめちゃ酷い人物ですよ。でも戦国時代にはそれが正義だっただろうから。僕は表面上だけで“悪そう”に演じようとはせず、あくまでその当時の正義を貫いただけ、というふうに演じたいなと思います。そこから自然と嫌味な感じが出てきたらベストだなって。
宮崎:生きるためならなんでもする、という叩き上げでここまで登ってきた人間だからこそ、あの時代の男としてのあり方だったのかなって。作品としての見え方的には悪役かもしれないんですが、龍儀くんが言ったように彼なりの“正義の理由”がちゃんとある。
追い込まれたときの火事場力や戦の中で必要な武器をたくさん持っている人物なんだろうなと自分なりに噛み砕いてみると、ストンと落ちてきた部分がたくさんありました。「のし上がるぞ」っていう魂がすごいんです。僕たち役者も同じように血気盛んな部分があるので、彼のそういうところに共感できます。
あとやはり自分よりも年齢を重ねた人物を演じるという経験がそうそうないので、今、自分が抱ける感情やスキルをフルに使ってどこまでいけるのかという不安はあるのですが…考え抜いて、考え抜いて、考えに考え抜いて、常人じゃたどり着けない彼の境地に少しでも触れられたらなと。きっと歴史の教科書を読み込んだとしても、普通は彼の心の内側までは入り込めないと思うんです。
横田:もとは農民で、足軽になって、あそこまで出世していって、という意思の強さは計り知れないね…当時は、人から何かを奪うというのは当たり前だったのかもしれないけれど。
横田「みんなで一緒に高みを目指したい」
――秀吉みたいなタイプは、役者という職業に就いても出世していくと思いますか?
宮崎:勝つよね、絶対。
横田:ああいうタイプはすっごい強い(笑)。
宮崎:世渡りが絶対うまい。
一同:(笑)。
横田:秀吉みたいな人をいっぱい見てきたもんね。それらをモチーフにすると今回の役はやりやすくなるかもしれないな。
でも、俺自身としては人を蹴落としてまで上に行きたいとは思えないんですよ。単純に後味が悪すぎるから。周りからは「上に行くためには他人なんて気にしていられないぞ」と言われてきたのですが、「それは嫌だ!!」という明確な思いが自分の中にあって。許されるならみんなで一緒に登っていきたい。
もちろん役とは割り切りますよ。だから本作の本番中は周りを蹴落として高みを目指します(笑)。
――今回もカンパニーの皆さんと高みを目指していらっしゃるわけですね。
横田:はい、そうしていきたいと考えます。共演者もね、気心も知れている人が多くて。あ、大和(古谷大和/織田信長役、他)さんがいるのはめちゃめちゃ心強いです。いいよねぇ、「木爪」回。
宮崎:やっぱり安心感が違うよね。
横田:大和さんは聞いたら絶対に答えてくれる人だから。
宮崎:僕たちを見守ってくれている。
横田:うん、「こうやった方がいい」「これはやらない方がいい」なんて言わず、「俺には(今の演技が)こう見えた」っていうのだけを伝えてくれるんです。
宮崎:以前も2.5ジゲン!!さんでお話したことがあったかもしれないんですけど、物事に対しての答えを他者に押し付けることはしない人なんです。
横田:そもそも演劇って答えがないものなので、毎回違う道を辿って、繰り返す中で納得の行く先に到達する方が多いので、その上で「こう見えたよ」っていってもらえるのはめちゃめちゃありがたいことなんです。「ああ。じゃあ、ここはこうやってみようかな」というきっかけになるから。
宮崎:僕たちに選択肢を残してくれるんだよね。
横田:そう。「こうやれ!」って言われてしまうと、「こうやらなきゃ…」っていう意識に縛られて固くなってしまうので。答えを全て用意されると、相手役からアドリブが出た時にとっちらかってしまうんですよ、頭の中が。何が飛び出しても反応できるようにするために、頭の隅に余白を残しておきたい。
――逆に「全部自由にやってみてほしい」と提示される現場の場合、どのように挑まれるのでしょうか。
宮崎:最近ですね、「フリーにどうぞ」と言われた時に、ようやく胸を張ってお芝居ができるようになってきたんです。もちろんまだまだ未熟ではありますが。
前までは演技プランを「これをこうして、ああして」って細かく準備していたんです。あとは監督や演出家さんから細かいオーダーがあると、それが演技の正解に繋がるから、脱線しないように動いてみたりだとか。
先輩の役者さんとご一緒することが増すにつれて、生ならではの空気感とか、もしものアクシデントをどう巻き返すか、そういう面白さに触れる機会も増えたんです。それを知った今では「自分の持っているものをひけらかしてみろ!」と言われる方が、役者として「やってやるぞ!」ってすごく燃えます。
横田:自分がやる意味、っていうのがそこに生まれるもんね。
宮崎:うん。「自分じゃないとできないものをやってやりたい!」という気持ちを掻き立てられる。
横田:稽古を積み重ねると経験値がついてくるのはもちろんだけど、固定観念も一緒に付いてきてしまうんです。「このセリフのあとにはこう返ってくるだろうな」「この感情はここからきているんだろうな」だとか。一度そういったものを全て取っ払って、稽古場で挑戦してみると新たな面が見えてきたりもするんですよね。
宮崎:自分の中の可能性や引き出しに気づくことができる…ただ、すっごく怖いけど!(笑)
横田:(笑)。
宮崎:自分が違うことをすると、その先の演技に影響を与えるので、その行動に責任を持たなくてはならないから。その行動が、その場のマイナスになっていないというのが絶対条件なので。怖いところにこそいいものが隠れているので、その恐怖に飛び込みたいなと強く思います。
――本作の登場人物に限らず、戦国武将で印象深い人はいますか?
宮崎:やっぱり秀吉だなぁ…。あの時代だからこその勝ち方が、僕自身の中では衝撃ではあったけどしっくりときてる。
横田:うーん、今回の作品には登場しないのですが、武田信玄が印象的です。武に秀いでていて、諸説あるとは思いますが、病死で旅立つという。勝ち抜けしたとも考えられる最期だったんですよね。あの時代の武将が、戦場ではないところで死ぬということは珍しいんじゃないかな? あくまで僕個人の意見ですが。
ファンへのメッセージ
――では最後にファンの皆さんへ向けたメッセージをお願いします。
横田:普段、僕たちが出演させていただいている2.5次元舞台とはまた一味違った面白さのある作品だと思います。一度踏み入れていただければ世界が広がっていくと思うので、少しでも興味が湧くようであればぜひ見に来ていただけると嬉しいです。もしかしたら「自分は歴史が苦手」と思っている方でも、有名な武将たちの物語が基盤になっているので、気軽な気持ちで見ていただけるのではないでしょうか。新しい扉を開いてみてください。よろしくお願いいたします。
宮崎:趣深く、誰が読んでものめり込める原作だからこそ、確実にこの朗読劇も面白いものになると思います。そこに僕たち役者がどう彩るかが重要なので、未だかつてお見せしたことのない“宮崎湧”になるよう真剣に稽古に打ち込んでいきます。できることなら僕の「桔梗」回と龍儀くんの「木爪」回、両方をご覧になっていただいて、それぞれの解釈の違いやその中の面白さにも触れていただけたら、演じる側として僕はとても幸せを感じます。どうぞお気をつけてお越しください。よろしくお願いいたします。
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朗読活劇「信長を殺した男 2021」は11月26日(金)に開幕。ぜひ足を運んでみていただきたい。
撮影・取材・文:ナスエリカ/ヘアメイク:SHIO
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