池田純矢が脚本・演出を手掛けるシリーズ第5弾、エン＊ゲキ#05【-4D-imetor】の開幕が迫ってきた。「演劇とは娯楽であるべきだ」を理念に掲げ、演劇の新たな可能性を模索する本シリーズは上演の度に大反響を呼んでいる。
今作のテーマは量子力学。さらにイリュージョンや謎解きの要素も絡めた、今までにない作品が出来上がろうとしている。
本記事ではダブル主演を務める池田純矢と生駒里奈にインタビューを実施。昨年5月の上演中止から約1年の時を経て延期公演の上演が決まった本作への意気込みをはじめ、役への取り組みや稽古場の雰囲気、お互いの印象の変化などについて聞いた。
“勝ち”を確信、誰も観たことのない作品に
――昨年の中止、及び再上演が決まった際の心境を教えてください。
池田純矢（渡来暦役）：中止を決めたのは割と早いタイミングではあったんですね。新型コロナウイルスが脅威だって言われるようになった時点で、中止にしようっていうのは早々に決めていて。でも完全なる中止っていうことにはしたくなくって。
個人的な想いにはなるんですけど、この作品は10年間温めてようやく世に出せるって思っていたので、中止にしてまたいつの日にか…としてしまうのは絶対イヤだなって思ったので、中止を心の中では決めていましたが、いこちゃん（生駒）をはじめとしたキャストやスタッフさんに、「中止ではなく延期にしたいので、いつならスケジュール空いていますか」って話を進めてから中止の発表をしたので、もちろん悲しかったし、悔しかったし、苦しかったけれども、悲観だけじゃなかった。
延期するって決めた上での中止だったので、そこまで心へのダメージは負ってはいなかったですね。その後、スケジュールや劇場の調整がついて、延期公演が正式に決まったときは、一安心という感じでしたね。
生駒里奈（ノア役）：中止が発表されたときって、初めて緊急事態宣言が発令されたときで。これまで聞いたこともない得体のしれないものだったので、世の中がとんでもないことになっている怖さがあって、心の余裕がありませんでした。悔しいな、悲しいなという気持ちは後から来ました。
身近な人たちのお仕事が中止や延期になったということを聞いたり、自分もこの1年間で届けられない悔しさを体験してきたからこそ、こうやって再会して作品を届けられるというのがどれだけすごいことかっていうのをすごく感じているからこそ、ちゃんと届けようって思っています。
――開幕直前ですが、稽古を通して、どういう作品になりつつあるでしょうか。
池田：先日初めて通し稽古をやってみて、想像以上に面白いなって。実際、僕はまだほとんど（稽古に）入れていなくて、日々の稽古は代役さんを立てて進行しているという状態なので、全体像というのは固まってはいないんですけど。とはいえ、パーツを並べてみて開幕から終演までを流して観てみたときに“勝った”と思いました。
――具体的にどういうところが面白くなっていますか。
池田：いわゆる観たことのない作品というものにはなっていると思います。毎回新しい試みをしいるんです。前作では、音楽と演劇の新しい形での融合というのをやってみて、実際に「できたな」って確信を持てたのはけっこう終盤だったんですけど、そういった観たものがないものが出来上がっていく感覚は今作もすごくあって。
今回はアクションも割とあるんですけど、いままで舞台でこんなアクション観たことないっていう面白いものになっていますし、マジックっていうものが物語のギミックとしてうまく溶け込んでいて、当初から画策していたマジックショーに決してならずに、物語の本筋を追っている中で邪魔にならない、けれども見事に驚きにつながるっていう使い方をしているんですが、それがうまくハマっている感じはしています。これはお客さまに満足して帰っていただけるっていう確信に変わりましたね。
――生駒さんはノアをどういう役だと思って演じていますか。
生駒：この子が真っ直ぐでいればいるほど、（作品が）熱くて切ないものになるんじゃないかと思ったので、今回は分かりやすくしっかり伝えるっていうのがいいのかなあ、と通し稽古をやってみて思いました。
――ノアと向き合う上で大切にしていることは何でしょうか。
生駒：ノアちゃんに向き合うというか、純粋に私が彼女に憧れているんだなって思っていて。だから憧れている人に近づきたいし、ノアちゃんのスタンスや考え方が自分の大切にしているものに近いから、自然に演じれることができているという印象がありますね。
――アクションについてはいかがですか。
生駒：小さい頃から「仮面ライダー」や「スーパー戦隊シリーズ」が好きだったので、そんな自分の憧れを大事に思いながら挑んでいます。
――池田さんから見て、そんな生駒さんはいかがですか。
池田：本当に素晴らしいですね。通しが終わった後もお伝えしたんですけど、本当に良いです。“生駒里奈の魅力”が存分に前に出ているなって思いますね。いこちゃんが出ている作品は結構観させていただいているんですけど、その中でも一二を争うハマり役なんじゃないかと僕は思っています。
生駒：おお！
池田：押し付けがましくなく、かといって物足りないこともなく、すごくいいバランスでハッピーと切なさと、さっきいこちゃんが言っていたウブなところが存分に発揮できる役だと思いますので、僕が一個人として観客席で芝居を観たら、「生駒里奈のこの役、良かったな」ってきっと言うであろうと思いますね。
――池田さんはまだ役者としてはほとんど入れていないとのことですが、今回の役についていかがですか。
池田：自分が入っている想定で演出はしているので、代役の方にオーダーを出しているときは、自分自身に言っているつもりでお願いをしています。代役さんというフィルターを通して、自分を演出しているという感じで、すごく楽しいですねこの役は。
――今回は池田さんの熱烈なオファーで生駒さんのノアが実現したとのことですが、改めて一緒に作品作りをしてみて、お互いの印象に変化はありましたか。
池田：変わりますね、やっぱり。一緒にお仕事させていただくのは初めてなので。もともと顔見知りでしたし、延期になったこの1年間でお話をする機会も多かったので、彼女の人となりはもちろん分かっていたつもりでしたけど、いざ現場に入って一緒に仕事をしてみると、思っていた以上に素敵な人だなって思いますね。あと思っていた以上に気が合いましたね。なので変化っていうよりも、いいところがさらに更新されていっている感じがします。
生駒：最初は（鈴木）勝吾くんのお友達っていう印象で（笑）。そこからお話するようになって、今年の初めに乃木坂46の後輩の子たちが出ている作品（演劇の毛利さん 音楽劇『星の飛行士』）を配信で観たんですけど、そこにも出演されていて。私の好きな人たちとお芝居しているところを観てきていたので、役者としてもすごい面白いなと思っていました。今回の稽古場では演出家としてもそこにいるんですけど、失礼なくらいタメ口をきいてしまっています（笑）。
一同：（笑）。
生駒：なんだろう、だからやっぱり気が合うんだろうなって。（稽古中も）今こうやったけどきっと本当はこっちがいいんだろうなって思ったことを、後から実際そう言われて「あ～やっぱり」ってなったりすることが多いですね。
――生駒さんから見た、“演出家・池田純矢”と“役者・池田純矢”はそれぞれどんな姿でしょうか。
生駒：演出家のときはびっくりレベルで優しいです。
池田：（笑）。
生駒：だからこそ自分で考えることが多いから、頑張りたいなと思わせてくれる。役者さんとしては、好みの役者さんですかね。私が作品を観たときの感想って、良いも悪いもなく、シンプルにただその作品が面白かったな、というようなものなんですが、やっぱり私のスタートが少年社中なので、毛利さんの作品やそこに出演されている家族みたいな方たちのお芝居はやっぱり好きだなって思いますね。
シリーズ史上、最も「ほんわか」な座組
――稽古場の雰囲気はいかがですか。
池田：とってもいいカンパニーですね。僕のエン＊ゲキシリーズの重要なところでもあるんですけど、キャスティングの段階で「いい人」しか呼びたくないっていうのがあって。いい人っていう言い方は語弊があるかもしれないんですが、良い悪いということではなくて、「人当たりのいい人」っていうのを念頭に置いているんですね。
というのも、稽古って本番合わせると2カ月ないし3カ月くらい毎日顔を合わせて、本当に家族以上に会って意見交換をする仲になるわけで。なので役者さんに関してもスタッフさんに関しても、人当たりのいい人を選ぼうって思っているんです。だから今回も本当にみんないい人たちで、とても朗らかで柔らかな雰囲気が稽古場に浸透しているなって思いますね。
例えば、意見の相違があったりお互いが納得できないことだったりって、ものづくりの中ではどうしてもあると思うんですよ。今までだったら食事に行ったりお酒を飲みに行ったり、一枚プライベートというフィルターを噛ませた上でお話をするっていうコミュニケーションが、稽古場をより潤滑にするために重要なものだったと思うんです。
でもコロナ禍でそういうことができない状況ではあるんですけど、そこが足りていないっていう状況には陥らないで済む、いいカンパニーだなって思います。お互いに思っていることを稽古場でちゃんと話し合えるし、かといってそれで稽古場がピリつくわけでもない。理想的な仕事場です。
――過去4作品と違う、本作ならではの空気感はありますか。
池田：ありますね。これまで鈴木勝吾という役者が皆勤賞で出ていたんですけど、彼は割と現場をかき乱すタイプで（笑）。（鈴木のことは）大好きなんですよ！ 大好きなんですけど、1個目の石を投じる人っていう印象で、それによって波紋が広がって、相乗効果で稽古場が変わっていくっていうことがよくあったんですよ。
あと彼、すごくお酒が好きだから毎日飲みに行く、みたいな（笑）。逆にいうと今回の現場、僕以外に酒飲みがいないんですよ。だから皆さん、普段からお酒抜きで、素面でコミュニケーションが取れる人たちなんですよね。それが飲みに行かなくてもいい雰囲気になる最大の理由だとは思うんですけど（笑）。
今までのシリーズの中で今作が一番ほんわかしてる。「演劇に対してめちゃくちゃ熱いぜ！」っていうタイプの人もいないし、でも真面目でストイックに取り組む人ばかりで、ちゃんとお互いを思いやれるので、それはすごくいいなって思います。
――生駒さんはいかがですか。
生駒：すごく楽しいです。今回のカンパニーは女性が私一人なんですけど、そこに関しては何も思っていないです。
一同：（笑）。
生駒：むしろアクション返しのときとか、身体の動かし方とか周りの皆さんに教えてもらって、その動きがどんどん自分の中に入ってきて一緒にアクションできているのがすごく楽しいです。
――では、もう人見知り期間は終わったんですかね？
生駒：終わりました！ 稽古場はもう“夏休み”みたいです。
池田：仕事場だぞ（笑）！
生駒：夏休みってなんか毎日ワクワクするじゃないですか。そんな感じです。
――今作は量子力学がテーマで、中には理系に苦手意識を持っている人もいるかと思います。ぜひそんな方たちの背中を押してもらいたいのですが…。
池田：僕自身はどちらかというと理系脳だと思うんです。でも脚本家をしている以上、文系脳も持っているとは思うんですが、物語にする以上ただのお勉強会ではないので、なぜそのテーマを選んだのかといったら文系脳的に面白みがあったからなんですね。
理系のものと聞くと思考停止してしまうという気持ちも分かるんですけど、それって意味が分からないものに対して意味のわからないことをしているから敬遠しがちだと思うんです。理系の人たちが何をもってそれを面白いと感じているのかっていうところを、文系に転換しているのが、いわゆる物語だと思っていて。だから何も（量子力学について）知らない人でも、それこそ小学生でも楽しめるもので、小難しいテーマではあるんですけど噛み砕いて、学問の根底やギミックを扱いながら、物語に厚みを持たせているのが今回の作品なので、当然何も知らなくても楽しく面白く観られる作品だと思います。
今回、私の演じる渡来の助手として山田（演：田村心）という役が登場するんですが、この山田は相当バカです（笑）。その彼が聞き役となって物語がどんどん進んでいくので、山田がいるので大丈夫ですと言いたいですね（笑）。
生駒：量子力学なんて1ミリも分からないでノアやっているので大丈夫です（笑）！
池田：全然大丈夫。だって知る必要ないですからね。
楽しみ方はジェットコースターと同じ
――多様な要素が盛り込まれた作品です。どう楽しんだらいいでしょうか。
池田：もともと2時間10分くらいの上演時間を想定して書いていた脚本なんですが、コロナ禍ということもあってできれば1時間45分で上演したいと思って改稿したんですけど、粗通しをしたら1時間48分で。本番に向けて調整していったら、多分ぴったり1時間45分になるんじゃないかなという感じで。字面にすると1時間45分ってちょっと短いって感じると思うんですけど、作中でいろんなことが入れ代わり立ち代わり起こっていくので、満足度は高いと思います。
個人的な思いとしては、開幕から終演まで一瞬も休む暇なく面白いが次々と押し寄せてくるので、ジェットコースターに乗っているような気持ちで楽しんでもらえたらいいなって思いますね。あれって乗ってしまったらあっという間だし、何を楽しむっていうより、ただ乗っていることが楽しいっていう感覚じゃないですか。そういう気持ちになれる作品じゃないかなって。なので、劇場にさえ来ていただければ、楽しむ準備は終わりです！
生駒：激しく同意です！
池田：ね。たまに作品観に行くと、これって原典とか勉強してから観に来たほうがよかったのかなって思うことあるけど、この作品はそういうの一切ないので。量子力学とか勉強してこようとか一切いらないです（笑）。
――今作はイリュージョンもあります。実際にイリュージョンを取り入れてみて、手応えはいかがですか。
池田：僕はこういうイリュージョンの使い方は他の作品で観たことがないんですけど、演劇にすごく馴染みがいいですね。舞台には音響だったり照明だったりいろんなセクションのスタッフがいると思うんですけど、それと同列でイリュージョンっていうスタッフがいてもいいんじゃないのかなって思うくらい、馴染んでいますね。
――今回は量子力学がテーマというところから、イリュージョンを取り入れようという発想に至ったんでしょうか？
池田：基本的に好き勝手に台本書くんですね。何ができるできないとか考えずに、まず書きたいように書くっていうのを信条にしているんです。で、書き上がったときに「これどうやってやるの？」って自分で思っちゃって（笑）。そんなときにテレビを観ていたら新子（景視）さんが出ていて、不思議なマジックをしていたのを目にして、「これを使えばいいんだ」って思い立ったんです。
――生駒さんは実際にイリュージョンに取り組んでみていかがですか。
生駒：プリンセス天功さんとかセロさんとかのマジックショーを観に行ってたこともあって、好きだったんですけど、どうやってやるのかなとずっと思っていて。すごく派手な印象があったけど、実際にはこういう見せ方もあるんだなと学びました。
池田：実はそういう派手なショーも、パッケージを大掛かりにするかしないかっていう違いだけで、原理は今やっているのとほぼ同じなんだけどね。めちゃくちゃ派手に見えるけど、裏側は地味だよね（笑）。
――1年の期間を経てついに上演となります。最後にファンへのメッセージをお願いします。
生駒：延期を経て、こうして上演させてもらえるのでしっかり届けたいなと思っています。一人でも多くの方に楽しんで頂けたら嬉しいです。
池田：演劇業界もいろいろなことが様変わりしていて、内側の事情で言えばやっぱり券売が思うように伸びないとかあるんですけど、それってきっと皆さんの不安の表れだと思うんですね。
演劇ってどうしてもその日、その時間、その場所でしか観られないものなので、地方の方には東京や大阪に遠征していただかないといけないところがあって、そういう人口がまだ戻ってきていないのは身に沁みて感じています。
今回は緊急事態宣言下での上演ということになるので、不安を抱えている方も多いと思うんですけど、感染症対策はもちろんばっちりしていますが、そういうことだけじゃなくて演劇やエンターテインメントに触れるっていうのは、重要な心の栄養になると思うんですね。
食事しないと生きていけないように、人は楽しみがないと生きていけないと思っていて、決して不要不急のものではなくお客さまにとってプラスになる要素を抱えていると思うので、そういう部分を堪能しに遊びにきていただければ、きっと今日明日が楽しくなるんじゃないかと思うので、安心して劇場に来ていただきたいです。
＊ ＊ ＊
ほんわかしたカンパニーという言葉通り、2人の掛け合いは終始柔らかな雰囲気が流れていた。気心の知れた者同士ならではの本音のキャッチボールが心地良く、それがそのまま作品への期待値へとつながるインタビューとなった。
エン＊ゲキ#05【-4D-imetor】は充電期間を経て8月5日（木）に開幕する。奇術×謎解き×演劇の融合と銘打たれた本作で、演劇の新たな可能性に出会えることだろう。
取材・文：双海しお／撮影：友野雄
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