5月22日(土)に開幕する「ハンサム落語2021」。2013年から続く同シリーズは、アレンジされた古典落語を2人の掛け合いで進めていくのが特徴だ。今回は、9人の出演者が名を連ね、それぞれペアになって披露する。
2.5ジゲン!!では、初演「一幕」から出演している平野良と初出演の西田シャトナーに対談取材を実施。宮下雄也を含む3人で入れ替わりにタッグを組む平野と西田。演出家・西田のキャスティングが決まった経緯や稽古方法、それぞれの落語に対する思いなどを聞いた。
西田シャトナー「落語は究極に洗練されたもの」
――今回のキャスティングには驚かされました。西田さんのご出演は、平野さんの言葉がきっかけだったと伺いましたが、経緯を教えてください。
平野良(以下 平野):今やるなら、今やる証のようなものがほしいなと思ったんです。それに「ハンサム落語」は、音響や照明に助けてもらえない、2人でのお喋りだけでつくる掛け合い落語なので、誰とパートナーを組むのかが重要なんですよね。
「どんな人とやったら面白いと思う?」とプロデューサーさんに聞かれて、いろいろと役者を挙げていたんですけど、「まぁ、これはないと思うんですけど」と前置きしながらシャトナーさんの名前を出したんです。「演者としてもすごいですし、一緒にやったらものすごいものができそうですよね」と雑談のつもりだったのですが、それ面白いねと。だから僕が一番びっくりしています(笑)。
西田シャトナー(以下 西田):電話がかかってきてびっくりしましたよ(笑)。演出の話かな? なんて思って聞いていたら出演のオファーで(笑)。
平野:ファンの皆さんの反応もそうですが、すごく見てみたいですよね。僕も、シャトナーさんと宮下雄也がやっているのをお客さんとして見たいですもん。
西田:雄也くんに連絡したら、しばらく「演出」で参加すると思い込んだやり取りが続きました(笑)。
平野:その後、雄也から連絡があって「良、聞いた?」って(笑)。
――「ハンサム落語」の特徴についてどのように考えられていますか?
平野:ハンサム落語は、場所と制限時間内で台本を見ながら掛け合うルールがありますけれど、それ以外には厳しい取り決めはなくて、あらゆることをやっていい場です。自分にできる表現を可能な限りしてもいい。やる人によって全然色が違うのは、そういう理由があるんですよね。
西田:落語と「ハンサム落語」が哲学的に同じものなのか、違うものなのかということについて考えていかないとなぁと思っています。
平野:多分、落語とは違うんですよね。
西田:実は僕自身、落語がルーツなところがあるんですよ。自分が初めて人前でパフォーマンスをしようと思ってやったのが落語なんです。
落語って究極に洗練されたものですよね。僕は折り紙が好きで、一枚の紙から作品を作り上げるんですけれど、落語も一切座布団から動かずにあらゆることをする。地獄にも天国にも異次元にも行くし、長屋から天神様まで行く話を座布団の上でやったりする。登場人物が何人であっても1人。道具も手ぬぐいと扇子だけ。内容だってもともと“口立て”で伝えられている。
でも落語ってものすごく難しいから、俳優さんたちが落語をやろうとすると苦しむんですよね。まね事になってしまっていると。
それをほどいたものが「ハンサム落語」だと思っています。もともと落語は気楽に観てもいいものなのに、現在では伝統芸能ですから。それに本来、弟子入りして師匠の下で生活全てを捧げないといけないものですが、2人での掛け合いにすることで、意外とつかめるものにしている。観る側としても“ハンサム”ってついているから割と気楽になれるでしょう。
「パシフィック・リム」の世界ですよね(笑)。1人の頭脳では難しいけれども、2人でならできる。過去の「ハンサム落語」を見ても、落語としての芯は外していないと感じます。2人でやったらこんなに楽しく落語の核心に迫れる。この方式を考え付いたのはすごいと思います。胸元は開けんでええやろとは思いますけど!(笑)
――今回のビジュアルはどうなるのでしょうか?
西田:僕は普通で良くないですか? いや、やれと言われれば何でもやりますけれどね! もう全然…ふんどしでもいいですけど。
一同:(笑)。
――西田さんは、先ほど「落語がルーツ」とおっしゃっていましたが、詳しく教えていただけますか。
西田:小学校の時にお楽しみ会で落語をやったんですよ。そうしたら先生がすごく喜んでくれて、卒業式の後にある茶話会でもクラスの代表で落語を披露することになったんです。でもそこで死ぬほど滑ったんですよ。マイクが入ってなくて…。
俺が落語をやっているのにみんな雑談を始めてしまって、もうめっちゃつらい。最後に「どうもありがとうございました」って言っても拍手もない。何人かは気が付いて拍手してくれたんだけどね。その後、俺のクラスと対抗意識を燃やしているクラスも落語をしたんだけど、マイクがちゃんと入っているしウケまくって。
だから今回お話を頂いた時に「あの時のリベンジだ」と思いましたね。
――「ハンサム落語」がきっかけで寄席に行ったというファンもいます。落語との懸け橋になっているように感じます。
平野:あるみたいですね! ファンの方から話も聞きます。「ハンサム落語」でやった演目と同じものを観に行ったとか。落語家さんもハンサムな方々を集めてユニットを組まれたりされていますよね。2015年には、立川志らくさんのイベントに植田圭輔くんと一緒に出させていただいた思い出もあります。
――平野さんは、長く「ハンサム落語」に出演していることで、舞台で役立ったと感じることはありますか。
平野:ハンサム落語に最初に出演したのが2013年で、初めの頃は本当に模索しました。落語に寄せた方がいいのか、どうしたらいいのか…。すごく自由ですからね。自由には責任が伴いますから。でも言い換えれば、責任さえ持てば自由でいいんだと思いました。
舞台というお客さんと一緒に作り上げる約2時間、人生を豊かにする。そういう目的のためだと考えるようになりました。より柔軟というか、自分を縛っていたものが解けたかなと感じます。
――西田さんは、今作でこれまでの経験をどのように生かそうと考えていらっしゃいますか。
西田:演者として即興演劇や一人芝居もやってきたので、演出家での経験よりも演者としての経験を生かそうかなと考えています。ストーリーが同じだとしても、瞬発的に物語を作るという経験ですね。
平野良「“どうなるか分からない”を楽しめる」
――お稽古はこれからですが、舞台とは違う稽古方法になりますか。
西田:これ、稽古ってどうやるんですか?
平野:朗読劇みたいな感じですね。
西田:まずそこで緊張していてね。演目については、調べれば文献もあるし覚えることもできる。名人たちがやられたものを見ることもできる。でも、勉強をしておいた方がいいのか、しておかない方がいいのか…興味があるからついつい調べてしまうんだけどね。
平野:僕の場合はですけど、台本を覚えてやろうと思うと“色”が付きすぎちゃうんです。宮下雄也とやる場合は、稽古場に行って1回合わせて、演出のなるせ(ゆうせい)さんに見てもらって、こうやったら面白いよねと雑談をして本番、みたいな感じでした。
西田:それでいいのかもしれないね。落語家じゃない方が演技修行のために落語をやろうとすると、きっちり本を全部覚えてしまって、落語じゃないって悩んでいる。落語家の噺って、覚えた感がないんですよね。
暗記していなくても揺るがない他の何かがある。僕ら演劇人は、覚えたことに頼ってしまうんですよ。「覚えた段取りに頼るな」といくら言っても役者って頼ってしまうものなんです。でも良くんはそうではないんですよね。
僕は俳優として自分をそこまで信じていないので、覚えてしまいそうだな…(笑)。覚えただけでは揺るがないくらいの演者でありたいけれど、あやしいな(笑)。
――敢えて稽古を重ねない方法もあるんですね。何度も合わせるペアもいらっしゃるのでしょうか。
平野:林明寛なんて、何回稽古しても本番で漢字を間違えるんですよ。「籠(かご)」を本番で堂々と「龍(りゅう)」って言うし。もうお客さんポカーンですよ。下げが変わったりしますもん。ツッコミがいないと成り立たない。
――それ以外にもこれまでハプニングはありましたか。
平野:相手がまだ経験の浅い、若い方だった時には、台本に対して一生懸命でワタワタとしてしまっているのも面白かったです。ちょっといじっても台本通りにちゃんとやろうとしたりね。
西田:俺は台本通りにやったろうかな。もうテコでも動かずに台本通りに(笑)。
平野:何を話しかけても答えが変わらないドラクエの村人みたいに(笑)。それはそれで面白いな。
――お2人の掛け合いが楽しみですね。同じ演目でも、その日ごとに印象が変わるのが「ハンサム落語」ならではですね。
平野:ずっと長いことやってきていますけれど、本当に毎回変わります。「あれ、今日機嫌悪いのかな?」みたいな。マチネとソワレでも違うしね。
西田:僕、悩んでいるのが江戸落語と上方落語の違いなんですよ。江戸落語にあまり馴染みがなくて、ノリがまだ分かっていない。だから、江戸落語をどういう感じでやっているのかは体験してみたいなと思っています。関西弁でいくのか標準語でいくのかもね。
ドキドキしますね。絶対面白くなるから楽しみなんですけれど、緊張もします。今回ご一緒する良くんと雄也くんの信頼を裏切りたくないですしね。
――最後に見どころとメッセージをお願いします。
平野:どうなるか分からないって舞台じゃ言えないことですよね。舞台だと大体どうなるかは予想できるんですけれど。この、公演ごとに“どうなるか分からない”を楽しめるのが面白いと思っています。ぜひ楽しみにしていてください。
西田:改めて落語という至高の芸に触れさせていただくことで、物語を作ったり演じていく人間として、原点をもう一度通過するという意識でいます。
小学校の時の大事故で、もう絶対滑らないという思いを胸にこれまでずっと挑み続けてきたつもりです。腕を磨いてきたこの30年をもう一度、落語にぶつけられる機会。次回以降もまた出てくださいと言われるような「ハンサム落語」の真打ちになれたら、トラウマがぬぐえると思います(笑)。
文:広瀬有希/写真:ケイヒカル
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