抱腹絶倒のギャクから心の裏側までえぐるようなエモーショナルストーリーまで。幅広いストーリー展開でありながら、一本の太い芯のある作品で観客を引きつける脚本・演出家、なるせゆうせい。
新沢基栄の人気コミック「ハイスクール!奇面組」の舞台化シリーズでは第1弾から演出を担当。その第3弾となる舞台『ハイスクール!奇面組3』〜危機一髪!修学旅行編〜が、2020年11月18日(水)に開幕を控えている。
彼が作り出す舞台の魅力の秘密を探るべく、舞台『ハイスクール!奇面組3』の見どころと共に、舞台作品に対するこだわりやシリーズものを続ける上で意識していることなどを聞いた。
なぜ第3弾で修学旅行編なのか
ーー原作の「奇面組」にはたくさんのエピソードがありますが、今回は修学旅行編が描かれます。その理由を教えてください。
「修学旅行編」を選んだのは、実は原作者の新沢基栄先生からのご希望があってのことなんです。
「修学旅行編」はアニメ化もされている人気のエピソードですが、元々は「ハイスクール」のものではなく、奇面組の中学生編である「3年奇面組」内のエピソードです。
「舞台化するなら修学旅行編を」と頼まれていたんですが、舞台化第1弾からいきなり修学旅行は難しい……。そこで、第1弾は自己紹介にもなるような内容でドタバタと、第2弾で新しいキャラクターを入れて世界観を掘り下げて、今回の第3弾で満を持して「修学旅行編」となったわけです。
それからやっぱり、今のこの状況……。世間が、修学旅行をはじめとした旅行がなかなかできない環境になってしまっていることも関係しています。
旅先で何かが起きそうなドキドキ感。そういうワクワクする気持ちを、少しでも味わってもらいたいと思っています。
ーー「修学旅行編」ではありますが、原作では別のエピソードで登場するキャラクター・痩猪エルザ(演:宮澤雪)が登場しますが、なぜでしょうか。
修学旅行それだけでももちろん楽しいエピソードなのですが、さらに物語に厚みを持たせるためにスパイスを加えて、多重構成にしたいなと思いました。
エルザ編を選んだ理由は大きく2つあります。ひとつは修学旅行編との相性、それから新しいラブコメ要素です。
エルザは野生で育ち、日本に連れて来られ、とある理由で逃げ出して奇面組に出会い、そこでドタバタの事件が起きる。この「逃走」が、「旅行」とマッチしているように感じたんです。日常から離れた場所に行く、というのかな。実際、組み合わせてみたらしっくりいきました。
もうひとつは奇面組の魅力でもあるラブコメ要素。ドタバタしたギャグのお話だけれど、やっぱりラブコメ的な魅力は外せません。これまでも、零くんと唯ちゃん、豪くんと千絵ちゃん、時代先生と若人先生と、それぞれの恋愛を描いてきたので、今回では、とある人物とエルザを絡ませてみました。適任だなと感じますし、話がより面白くなっていますよ。
違和感を無くすための工夫
――原作付きの舞台の作・演出をする上で譲れないこと、エピソードの選び方を教えてください。
まず大前提として、原作を知らない初めての人が観ても楽しい舞台にしたいと思っています。
「分からない」ってすごくストレスですよね。世界観も含めて、全てにおいて。原作ファンは分かるけれど、そうではない人が観たら分からない……。僕は作り手として、そうではない舞台を作りたいと思っています。
原作の流れを生かす、原作のキャラクターを使って話を新たに作るなど、色々なパターンがありますが、今回の舞台『ハイスクール!奇面組』シリーズや、僕が以前、脚本・演出を担当した『舞台 増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和』シリーズもそうですが、一話完結型の原作から複数エピソードを組み合わせてひとつの話にする場合、まず原作を全て読み込みます。
何度も何度も読んでいるうちに、話作りの構造やパターンが見えてきます。この話とこの話は、こういう傾向だから似ている。ならば組み合わせてみたらどうだろうと。
ーー似ている構造のエピソードを組み合わせることで、原作ファンにとっては違和感なく、初めての人が観ても理解できるストーリーとして成り立つのですね。
もちろん原作を好きな人にも、より楽しんでもらいたいです。舞台化した時に、人気のシーンがさらに驚きや感動を生むようにするためにはどうしたらいいのか? 原作を分析して、エピソードやストーリーの順番を組み替えたり、ほんの少し要素をつけ足したりもします。
例えば、回想シーンの入れ方。過去の記憶が思い出されるのって、何らかの外的要因がきっかけになりますよね。だから、唐突に何の前触れもなく回想シーンを入れるのではなく、あえて外的要因をつけ足す。それによって違和感なく回想シーンに繋がるとともに、回想の内容がさらに意味のあるものになります。
ーーその違和感に気付くのも至難の業のように思いますが、なるせさんはどのように見つけているのですか。
僕は、一度脚本を書き終えたら一度頭をまっさらにして、書いたものを寝かせます。そしてまた、ゼロの状態で読み直すんです。そうすると、客観的な視点で自分が書いたものが読めるようになります。
もう一度読んだときに何か引っかかったり、「急に出て来たな?」みたいな違和感を覚えるシーンがあったら、必要だと思うことをつけ足して膨らませたりします。
何回も寝かせて、何回もゼロから読み直す。それが違和感をなくすコツですね。
シリーズ化をより面白くするために
ーー今回の舞台『ハイスクール!奇面組』をはじめ、ミュージカル「ヘタリア」、舞台「文豪とアルケミスト」など、シリーズ化されている作品も多く手掛けられていますが、作・演出面で意識していることは何でしょうか?
シリーズが続いている舞台では、新作ごとに視点を変えることを意識しています。例えば、『奇面組』で言えば、冒頭でお話ししたように第1弾で自己紹介、第2弾で視点を変えて掘り下げる、第3弾で集大成といった具合です。
1作目は導入になりますから、世界観に入りやすいように「その作品らしさ」を大切に。2作目は、視点を変えることによって作品全体を掘り下げます。「奇面組」なら鈍ちゃんとの対決エピソードを入れることで、奇面組全体の関係性やキャラクター個々の性格もより浮かび上がってきます。
2作目で話とキャラクター、それから世界観を掘り下げられるので、多角的にものごとを見られるようになって、3作目の集大成がさらに面白いものになるんです。
ーーなるせさんの舞台は、シリーズを続けて観ていると“お約束”やストーリーの繋がりに新たな発見があったり、途中から観てもとても面白いです。
毎回ある“お約束”のようなものは作りたいと思っています。続けて観てくださる方が「あっ、今回もまたあった!」と見つけて喜んでくださるような。
それは、脚本を書いているときに最初から入れることもあるし、稽古の中で生まれることもありますけれど(笑)。
役者さんたちが稽古の中で生み出した面白いこと。それは、シリーズ化している舞台であれば、できるだけ踏襲していきたいなと思っています。
昭和の古き良き“ドタバタ”を伝えたい
ーー最後に、改めて舞台『ハイスクール!奇面組3』の見どころとメッセージをお願いします。
役者の彼らが肉体を使って、まさに体当たりで演じているドタバタ感いっぱいの舞台です。泥臭くて、熱量たっぷりで、変な周波数が出ているかもしれません(笑)。ドリフで育った我々世代が作った、昭和のドタバタの古き良き面白さを伝えたいと思っています。
若い世代の方々には、逆に新しいなと感じてもらえるんじゃないかなと。枕投げとか、今の若い子たちはするのかな?(笑)
僕たちが心から楽しんで作って演じていれば、その時代を体験していない方々にも、その“楽しい!”は絶対に伝わると信じています。
撮影:ケイヒカル
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