インタビュー

自由な発想、飽くなき挑戦…2.5次元もオリジナル舞台も手がけるトライフル・辻圭介の覚悟【後編】

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常識にとらわれない発想で舞台を作り続けているトライフルエンターテインメント。「2.5ジゲン!!」では、同社のプロデューサー・辻 圭介氏にリモートインタビューを行った。

前編では、作品の現場の空気に強く触れるための努力と、それによって生まれるものについて伺った。後編では、過去におこなった公演のエピソード、現状とこれからについて語られた様子をお届けする。

※前編:プロデューサーとしてのこだわり、ルーツについて
※後編:過去作品、公演の思い出と、これからのトライフルについて

強烈なサプライズで観客席のハートをつかむ。舞台『炎の蜃気楼昭和編』シリーズ

――2014年から5作続いた『炎の蜃気楼(ミラージュ)昭和編』のシリーズは、2.5次元と呼ばれる原作付き舞台の中では、大人っぽい部類だと感じました。原作を読まれたとき、どのような感想を持たれましたか?

舞台化のご相談をいただいて読んでみたらすごく面白かったんです。

今で言うBLのようなものと聞いていたので、最初は「自分に楽しめるかな?」と不安だったのですが、読み進むにしたがって2人の関係性に「……分かる」と。桑原水菜先生が描かれる物語と世界観の力が強くて、すぐに夢中になりました。

――景虎と直江、高耶と橘、それから加瀬と笠原。丁寧に描かれたそれぞれの関係性と重厚なストーリーが刺さったんですね。

このしっかりとした重い話で、大人のキャストを使って舞台を作りたいと思いました。「2.5」というよりも「2.8」か「2.9」くらいのつもりで。

主役の加瀬役は富田翔くんでした。「ビジュアルが原作のイラストに似ていて、このくらいの年齢で、大人の魅力が出せて演技ができて……」と悩んでいる時に昔お仕事をしたことがある彼を思い出しました。

それで「今どうしてるのかな」と思ってWEBで検索したら、煙草を吸っている写真がでてきたんです。年齢を重ねて渋くていい男になっていました。「見つけた!」と思ってすぐにオファーしました。

彼のすごいところは、芝居の面はもちろん、舞台に真剣に向き合う姿勢です。作品を心から愛している。ベテランの水谷あつしさんや笠原紳司さんも、彼を全面的に信頼して支援していました。

大変な現場だっただけにいろいろあったけれど、文句も言わずに黙々と自分のするべきことをする。その説得力のある姿勢で座組を引っ張っていたんですよね。その上で笑いのセンスもあるし、無敵の座長でした。

――シリーズ1作目の冒頭は、予想もしていなかった「邂逅編」。大きなサプライズのある驚きの舞台でした。

「昭和編」は長い物語の一部分。どういういきさつでこの「昭和編」の物語があるのかを描かないといけないと思ったんです。でも、「邂逅編」をやるのはあえてお客様には秘密にしていました。着物の衣装写真も表に出ないようにして。

初日の幕が開いて、照明がついて、400年前の御館の乱のシーンから舞台が始まる。観客席が息をのんだのが分かりました。

とても人気のある原作なので、舞台化は本当に怖かったんですよ。刺されるかと思った(笑)。だからこそ、想像もしていなかったサプライズで最初にハートをつかみたかったんです。

――環結(=完結)となる5作目「散華行」のラストで『炎の蜃気楼』本編に繋がるワンシーンを入れたのも大きな驚きでしたが、かなり悩まれたのではないでしょうか。

あれがないと話が締まらない気もしたし、昭和編の先にある『炎の蜃気楼』本編に繋がってなんぼだろうと思ったと同時に、本当に悩みました。

僕がそうであると同じように、原作ファンにとっても本編はより特別なものなのではないかと思っています。だからこそ、本当に入れてもいいのか? と。本編を入れたがために、それまで舞台版を愛してくださった皆さんに最後の最後で拒絶されてしまったら悲しいなと思って……。

キャストのことにしても、あのワンシーンのために高校生くらいの若い俳優を呼んでくるのは難しいところもある。原作の桑原先生をはじめ、周りの人にもたくさん相談して「魂が景虎なのだから、そのまま富田翔でいこう」ということになったんです。お客様もそう受け取ってくださるだろうと信じて。

――5作にわたるシリーズを終えて、今でもキャストの皆さんとまめにやりとりされていますね。

先日はYouTubeのライブで「夜啼鳥ブルース」の生オーディオコメンタリーをしましたし、コロナ前は集まって飲んだりもしていました。舞台自体がとても大変だったこともあって、一緒に乗りこえた仲間たちの絆は深いです。

▲舞台『炎の蜃気楼昭和編』シリーズより
(C)桑原水菜/集英社

信頼関係と柔軟な思考で作り上げた舞台『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』

――次に舞台『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』。『炎の蜃気楼昭和編』とは全く雰囲気が異なる、熱い青春部活ものです。

「青春そのもの」でした。みんな仲がよくて、心から信頼し合っている。あの舞台は、舞台だけではなく会場中を全力で駆け回るから本当に危ないんですよ。

例えばレースなどで2人で一緒に走るシーン。先行するキャストがほんの少しでもつまずいたりギミックを飛びこえるのを失敗したら後続のキャストも巻き込んで大けがをしてしまうかもしれない。

そんな緊張感の中、みんなが信頼し合って汗びっしょりで全力で走っている。お客様の目の前で走り回ったりアクロバットをしたりする。

“生身の人間が目の前ですごいことをする”。はじめに僕が「シルク・ドゥ・ソレイユ」で感じた、ライブエンタメの醍醐味だと思います。

――皆さんがそれだけ信頼し合っていたのは、長く準備期間を用意したからということもあるのでしょうか。

パルクールのレッスンに、オーディション後に約1年かけました。月に何度か体育館に集まって、跳び箱などを使って稽古をするんです。僕も一緒に参加しました。

そうやってみんなで汗を流していたので、舞台の稽古に入るときにはすでにみんな仲良くなって信頼関係ができていたんです。不思議なことに、キャストたちは学校ごとに集まっていましたね。稽古場でも、帰り道でも。

「ここがうまくいかない」というキャストがいると「練習付き合うよ」とその学校内で解決をするし、キャプテン役が自然とまとめる。キャプテン役の子は自然と舞台上以外でもキャプテンになっていくんだなと感じました。

――エピソード5まで公演され、たくさんの役者さんが出演されましたが、特に印象的な方を、というと……?

これは選べないです!(笑)。1、2年の間にどんどん成長していったサプライズのある子や、身体能力的な意味で度肝を抜かれた子はいるんですが、誰かを挙げるのは本当に忍びない。

全員が作品を愛して、一生懸命で、全力でした。もしひとりでも乗り気でなかったり一生懸命でない人がいたとしたら、あれだけのものはできなかったでしょうね。

誰もが「もっと難しいことをやらせてくれ」「もっと走りたい」と前向きで貪欲でした。

――いわゆる「通路演出」というものを超えて、場内全部が舞台でしたね。

客席中通路の部分にもギミックを置いて、コースに高低差をつける工夫もしていました。実はあのギミック、会場から許可を取るのが大変なんですよ。あくまでも「通路」なので、安全上の問題をクリアしなければいけない。

実はあのギミックは『はたらく細胞』でも使いました。分かる人は「あれ見たことあるぞ」と思ったかもしれませんね(笑)。

――許可を取ってでもギミックを使ったり、舞台上で煙草を吸う演出を入れたりするのはとても特別なこだわりと柔軟な発想だと感じました。

もしかしたらですが、演劇の常識のようなものにこだわらず面白いと思ったものをどんどん取り入れていくのは僕が演劇育ちではないからなのかもしれません。

▲舞台『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』より
(c)2015 FiFS / (c)KADOKAWA CORPORATION 2015

ファンの温かさと熱心さに支えられた作品。舞台『やがて君になる』

▲舞台「やがて君になる」より
(c)Nakatani Nio 2019

――舞台「やがて君になる」は、大人気百合漫画の舞台化でした。男性俳優が活躍し、観客層も女性が多い原作付き2.5次元舞台のジャンルでは、珍しいと受け取られたのではないでしょうか。

実力があって素敵な女優さんはとても多い。けれども、2.5次元舞台の世界は女性キャストが活躍できる作品がまだ少ないと感じています。正直、もったいない。

そういう意味でも、この『やが君』は僕が挑戦してみたかった企画の1つでした。

実は百合の作品にきちんと触れるのもこの作品が初めてでした。でも読んでいるうちに「素敵な話だ」と強く思いました。

人が人を好きになる。戸惑って、葛藤して、受け入れる。そういう繊細な気持ちが本当に丁寧に描かれています。2人の気持ちに自然に共感できるようになりました。

しかし、「お客様は来てくれるんだろうか」という心配はたしかにありました。原作のファン層は男性が多いけれども、2.5次元舞台・ミュージカル作品のお客様の多くは女性なので……。実際、前売りチケットは完売ではありませんでした。

けれども初日の幕が開いてみたら、口コミでどんどんチケットが売れていって、ありがたいことに結局ほぼ満席になったんです。

――口コミでどんどん席が埋まっていくというのは、作品に観客が満足した証拠だと思います。ところで『やが君』ではクラウドファンディング企画がありました。

DVD特典の「水族館デート」ですね。原作内でのデートシーンのモデルとなった水族館で、キャストの河内美里さんと小泉萌香さんのデート映像を撮影する、という企画でした。

実は水族館を貸し切るのに200万円の費用がかかることがわかり、でもその費用をDVDの制作費から捻出するのは厳しい。ならば、満額成功しなくてもいいからクラファンをやってみてファンの皆さんに助けていただこうということになりました。

正直批判も覚悟していたのですが、目標の400%を超える金額が集まりました。本当にありがたかったし、この舞台がファンの皆様に愛してもらえたのだなと感じました。皆さんの熱心で温かい気持ちが嬉しかったです。

――推している作品の2人の公式デートを実現させられるとなれば、喜んで支援しますという気持ちがとても分かります(笑)。『やが君』は、原作の丁寧な心理描写そのままに、感情の動きが美しい舞台でした。

百合やBL作品には、作品の中に公式のカップルがいますよね。その2人を中心に話が進んでいくし、心理描写が丁寧であればあるほどぐっときます。舞台でも、思いきり2人の恋を描けるのでとても楽しいです。

時間をかけて、自分の中にある気持ちと向き合って「好きなのかな。でも……」という感情を追っていく。僕はそういった、気持ちが丁寧に描かれている作品を素敵だと思います。

それから、公式のカップルの2人がイチャイチャしているのは見ていて楽しいですね。お客様も喜んでくださいますし。「いいぞ、もっとやれ!」的に(笑)。グッズも対になるように買って飾ったり。舞台でもイベントでも、そのカップルを応援している皆さんに囲まれている。とても幸せな現場だと感じます。

▲舞台「やがて君になる」より
(c)Nakatani Nio 2019

再び観客の笑顔を見るために。苦しい状態のなか、手探りでも前に進む

――トライフルエンターテインメントにとっての今後の課題や抱えている悩みはありますか?

強いて言えば作品数を多く作れないことです。プロデューサーが僕しかいないので、僕が稽古場に毎日足を運ぶとなると稽古時期がかぶってはいけない。そうなると、ひとつの作品を終わらせてからまた次の作品、となります。結果、年に4〜5本ということになってしまう。

しかしこれが僕のこだわりである以上、仕方ないのでしょうね。

それから何と言っても、新型コロナウイルス感染症による影響です。

――大きな影響がありますよね。トライフルエンターテインメントの舞台でもいくつか中止の発表がされて、とても残念です。

本当に残念です。舞台『デュラララ!!』はとても大きな規模の舞台になる予定でしたし、舞台『ギヴン』は、迫力のある生演奏で劇場をライブ会場にしたかったです。

でも、安全面などいろいろな問題を考えると今は中止にせざるをえないと判断しました。新型コロナウイルス感染症の恐怖はなかなかぬぐえないし、「どのくらいなら大丈夫なのか」の数値や指標も確実なものではありません。

しかし、中止になった舞台も劇場のキャンセル費や制作済みの美術や衣裳の制作費、役者さんのギャランティなども必要になります。舞台の中止イコール収入がない中で、です。

――再開時期、規模、上演形態なども手探りの状態。先が見えない苦しい状態ですね。

もし公演をおこなうにしても、客席を何%埋めるのか。そして、いつ、どのタイミングで客席の埋まり具合を上げていくのか。半分の客席では、普通に上演すれば正直赤字にしかなりません。会社の代表としてもプロデューサーとしても、常に考えて悩んでいます。

2つの大きな舞台が中止になってしまい、今後、会社として生きのびるためにどうしていくべきか……。すごく悩みましたが、クラウドファンディングも実施させていただくことになりました。

――最後に、これからのことをお聞きします。トライフルエンターテインメントでは、原作付きの他にもオリジナル舞台もずっと上演されていますね。今後もオリジナルは続けられる予定ですか?

オリジナルの舞台はやはり、ゼロから作っていく楽しみがあります。原作付きの作品の舞台化も、好きなものを形にするという意味ではとても楽しいですがオリジナルの舞台も変わらず作り続けていきたいです。

悪者のいない世界観でハッピーエンド、そして楽しいコメディー。時間はできれば1時間半から1時間40分。これがトライフルのオリジナル舞台の基本です。お客様に気持ちよく笑っていただける舞台を目指しています。

――1時間半くらいにしたいというのは?

私の理想なのですが、もし友達と舞台を観に来ていたとしたら、終わってからお茶して帰ってほしいんです。感想を話し合って、思い出を共有する。それも含めて舞台の楽しみなのではないかと思っています。

例えば平日の夜公演が19時に始まって20時半に終われば、「お茶して帰ろうか」という時間が少しありますよね。これが21時半や22時になってしまうと、帰りにどこかに寄っていこうかというには少し厳しい。

それから、これも個人の好みの部分ですがラストを観客の解釈に委ねる形ではなくきっちりと答えを渡したい。あれってどういう意味だったのかな? といろいろ解釈を考察したり妄想を膨らませたりするのも楽しいですが、それとは別に「答え」は出す。

にこにこ笑ってハッピーな気持ちで劇場を後にしてもらえるものを作りたいです。

――オリジナルの作品の方向性は「楽しくハッピー」。では、トライフルエンターテインメントという会社の方向性としてはいかがでしょうか?

「トライフルの舞台だから」と足を運んでもらえるような舞台を作っていきたいです。トライフルで良かった、と思っていただけるように。

観る舞台を役者・演出・脚本などで選ぶだけでなく、「制作会社で選ぶ」も選択肢になったらいいなと思っています。2.5次元舞台・ミュージカルやオリジナルを問わず。

劇場でお客様が喜んでいる顔を見ること。それがやっぱり生きがいでご褒美です。それがなかったらこんなに頑張れないです(笑)。

今はとにかく大変な時期ですけれど、早く劇場に帰りたいですね。

* * *

社名の語源となっている「トライフル」は、スポンジケーキにフルーツやクリームなどを自由に重ねてできたスイーツだ。厳密なレシピや決まりごとはなく、自由な発想で楽しく作ることができる。

辻プロデューサーは、従来のルールや常識にとらわれることなく「これをやったら楽しいだろう」「こうしてみたい」と感じたことを実行している。それによって、まさに“トライフル”な舞台が作られているのだろう。

トライフルエンターテインメント支援プロジェクト
【クラウドファンディングページ】
https://camp-fire.jp/projects/276685/preview?token=muqzzi2y

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WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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