インタビュー

未経験から舞台業界へ…異色の経歴の訳とは?トライフル・辻圭介プロデューサーに聞く【前編】

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舞台作品には、制作会社のカラーが強く出ることがある。

そのひとつが、『炎の蜃気楼昭和編』『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』『やがて君になる』などの個性的な作品で、熱狂的なファンを生みだしてきたトライフルエンターテインメントだ。

「2.5ジゲン!!」では、同社代表でプロデューサーの辻 圭介氏にリモートインタビューを実施。作品選びのこだわりから、役者や現場との付き合い方、そして新型コロナウィルスの感染拡大により受けている影響と問題点。さまざまなことが語られたインタビューの様子を、前後編にわたってお届けする。

※前編:プロデューサーとしてのこだわり、ルーツについて
※後編:過去作品、公演の思い出と、これからのトライフルについて

映像から舞台の世界へ。きっかけは「シルク・ドゥ・ソレイユ」

――まず、辻さんがプロデューサーのお仕事を選ばれた経緯からうかがいます。舞台の制作に関わるきっかけは何だったのでしょうか。

実はもともとは、CMの制作やCGでゲームのオープニングムービーを作る映像業界の仕事をしていました。でも「この仕事は自分に向いているのかな」とずっと思っていて……。

そんな時、たまたま会社で「シルク・ドゥ・ソレイユ」のチケットをもらったんです。興味があったわけではないけれど「せっかくだし、行ってみようかな」と。

そうしたら、ものすごく感動してしまって!

――生で見たエンタメの最高峰に、大きな衝撃を受けられたんですね。

目の前で生身の人間が披露するパフォーマンスの素晴らしさ。ライブの迫力とクオリティーに度肝を抜かれました。

終わってふとチケットを見たらチケット代は1万円を超えている。そのときはまだ若く、娯楽に1万円を出すという感覚がなかったので驚きました。そして同時に「1万円出せばこんなにすごいものが観られるんだ」と知りました。

それからというもの、休みになるとミュージカルを観に行ったり、劇場のチラシで知った別の舞台に行ったりと徐々に舞台やライブエンタメに触れるようになりました。

その頃からさらに、自分がやっている映像の仕事に対して「このまま続けていいのかな」と思っていた気持ちが大きくなったんです。

例えばCMの仕事は、自分が作ったものがテレビで流れてもそれを見た人の反応を目にすることはほとんどない。「誰のために作っているのだろう」と、やりがいとはまた別に寂しさを感じました。

劇場では観客がいて、目の前で起こったことに笑う、泣く、拍手する。ダイレクトな反応がうらやましく思いました。こんなふうに自分が作ったものに対して反応してもらえたら嬉しいだろうなぁ、と。

そういうこともあり舞台の仕事をやりたくなってしまって。いろいろ考えて「舞台制作の会社に転職しよう」と決めました。

幸い、当時の上司や仲間たちも「やりたいことが見つかったなら」と気持ちよく送り出してくれました。

――映像の世界から舞台の世界へ。はじめてのことにいろいろと驚かれたのではないですか?

舞台制作会社の面接でも「どうして?」ととても驚かれました(笑)。舞台に関わる方は学生時代から演劇に携わっていることが多いので、映像の世界から転職する人は珍しかったみたいで。

入社してからは本当に驚きの連続でした。予算や役者さんたちとの付き合い方から、何から何まで今までと違う世界で。

そこでゼロから勉強し、3年ほどした後に退職して、当時仲良くさせてもらっていた方々と小さな舞台を作り始めて今に至ります。

▲舞台『炎の蜃気楼昭和編』シリーズより
(C)桑原水菜/集英社

――舞台制作のお仕事の中にもさまざまな分野がありますが、なぜはじめから「プロデューサー」だったのでしょうか?

一番大きかったのは、映像の仕事をしていたときの師匠の影響です。熱くて、クオリティーに対するこだわりが強い。全てのセクションに口と指示を出すし、ダメ出しもどんどんする。もう現場のみんな、泣くし、徹夜だし、という感じなのですが……仕上がったものは間違いなくいい。作り上げた作品の質で勝負をしている方でした。

一緒に仕事をするのは確かに大変だったのですが、やっぱりすごいものができあがるんですよね。こういう人になりたい、プロデューサーってかっこいいなと師匠のおかげで思えました。

自分が好きだと思ったものをゼロから企画して形にしていく。それが形作られていくところを全て見ていたい。だから僕も、稽古場に毎日足を運ぶようにしています。

毎日稽古場に行くからこそ分かること。プロデューサーとしての哲学

――稽古場にも毎日行かれるんですね。プロデューサーさんのお仕事は、デスクワークや渉外のイメージがありました。

そういう意味では、僕は少し特殊なプロデューサーなのかもしれません。どの舞台でも毎日稽古場に行きますからね。

舞台ができあがっていく過程を見ていたい気持ちがあるのと同時に、僕が稽古場に行くことでたくさんのメリットがあります。

裏方的なことでいえば、例えば衣装がもう一着ほしいと現場のスタッフが思ったとする。その場に僕がいれば、確認のタイムロスなしに即OKかNGかの答えが出せます。

また、舞台全体の方向性が少しずつズレてきているなと感じたら、すぐに軌道修正ができます。だいぶ進んでから「違うな」と全てをひっくり返してやり直すよりも、わずかでも何か感じたらその場その場で直していくほうが現場のためにもいいですよね。

――毎日稽古場に行くことで、すぐに微調整ができたり、現場の皆さんと意思疎通がしやすくなったりするのですね。

現場の空気を感じるのはとても大切です。例えば役者が心から納得していないな、とか毎日稽古場に行っていると空気で感じることがあります。そういうときは役者の方から「ご飯に行きましょう」と声を掛けてきたりするので、一緒にご飯を食べに行って話を聞きます。不満や悩みは、小さいうちから火を消していくんです。

現場の人間同士で言いたいことがあっても、僕を介して伝えれば角が立たなくなることもあります。現場の火消しと潤滑油。そういうプロデューサーでありたいと思っています。

――「偉い人」というより、辻さんが真ん中にいるイメージですね。

「偉い人」いじりはされますね(笑)。でもそういう意識はないです。いわゆる「上」の人ではなく、「一緒に作る仲間」として意見を言いやすい関係性でいたいです。稽古場に行くだけではなく、みんなとフットサルやボードゲームをすることもありますよ。

例えば舞台『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』だと、キャストたちと一緒にパルクールの練習にも参加しました。そして一緒に筋肉痛に苦しみながら、距離を縮めていきました。

あまり親しくない人にダメ出しをされるより、近い距離の人からの言葉の方が響くのではないかなとも考えています。

僕は彼らに対して仕事を発注する立場ではあるけれど、「仕事を受けてもらっている」という意識でいます。この役をやってほしいとオファーしても、受けてもらえなければ舞台は作れません。「出してやっている」みたいな考え方になったら“終わり”だと思っています。

一方、他の多くのプロデューサーさんのように、現場に行くだけでなくもっと多くの人に会って「繋ぐ」仕事もしなければいけないんだろうなと悩むこともあります。

でも、これが自分なりのプロデューサー業でのこだわりであり、現場でやってきた中で作り上げてきたものです。正しいかどうかは分かりませんが、このスタイルを続けていきたいと思っています。

▲舞台『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』より
(c)2015 FiFS / (c)KADOKAWA CORPORATION 2015

サプライズを届ける。観客も舞台に参加できる楽しさを提供

――次に、作品選びのこだわりや、上演する舞台への思いについて伺います。オリジナルも原作付きの舞台も両方されていますが、作品選びの決め手は何ですか?

まず、自分が「好きだ、楽しい」と思うもの。これは絶対です。「これを舞台で観てみたい!」と自分が心から思えるのかどうか。

例えば『炎の蜃気楼昭和編』はお声掛けいただいてから原作を読んだのですが、書き込みも丁寧でストーリーも素晴らしく、これを舞台でやりたいと心から思いました。『プリンス・オブ・ストライド』は、目の前で人がこんなふうに全力で走ったり跳んだりしたらどんなに楽しいだろうと、ワクワクしました。

原作付きの舞台であれば、「舞台だからできる表現」を活かし「舞台で観る意味のあるもの」にしたいです。劇場全体を巻き込んで、自分がその舞台と一体になっているような体験をしてもらえたらと思っています。通路も全部使って、劇場全てが舞台というライブエンタメでないと感じられないものを届けたい。

お客様はただ座って観ているだけではない。お客様を空気にしない。『プリステ』であれば、ストライドを観に来ている観客という役割を与えてお客様も舞台の一部になっていただく。

舞台から何かを受け取るだけではなく「参加していく楽しさ」を感じてもらいたい。それはきっと深く思い出として残ると思うんです。

――体験する舞台。確かに『はたらく細胞』では、劇場が体内で、観客は細胞という設定でしたね。大玉転がしをしたりと楽しい舞台でした。

『はたらく細胞』は、そのコンセプトにぴったりの舞台でした。「客席は体内・お客様はみんな細胞の仲間」というコンセプトでキャストがお客様に盛大に絡んでいったり、通路をたくさん使って芝居をしたりと「巻き込んでいく」を強く意識して作りました。

お客様も赤い服を着ていれば赤血球、白い服を着ていれば白血球、とか。皆さんにムンプスウイルスのお面を配って劇中で使ってもらったりもしました。

体験とそれからもうひとつ。大事にしているのは「サプライズ」です。

笑うとか泣くとか。そういう感情は、全て想像していなかったものを見た時・感じた時に生まれる感情なのだと思っています。想像を超えた何かを届けたいし、驚かせたいですね。

前編では、辻さんの経歴や作品への向き合い方などを伺った。後編では、具体的な過去の作品でのエピソードを振り返りながら、トライフルエンターテインメントの舞台づくりについて聞いていく。

▼後編はこちら
自由な発想、飽くなき挑戦…2.5次元もオリジナル舞台も手がけるトライフル・辻圭介の覚悟【後編】

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WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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