インタビュー

客席がドッと沸く、あの瞬間を作るために。刀ステ、ブタキンのハプニング裏話 音響・ヨシモトシンヤ【後編】

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素晴らしい舞台を作り上げているのは俳優だけではない。演出や衣装、カメラマンなど多くの制作者が関わっている。「2.5ジゲン!!」では、普段は見られない舞台裏の仕事にスポットをあてていく。

今回のテーマは「音響」。舞台『刀剣乱舞』、舞台「KING OF PRISM」、ミュージカル『薄桜鬼』など数々の名作で音響を手がけるヨシモトシンヤ氏は、舞台作品に欠かせない「音」を扱うプロフェッショナルだ。

インタビュー前編では、音響スタッフのさまざまな役割、具体的に現場でどのようなことが行われているのか、音の迫力や繊細さを表現するためにヨシモト氏がこだわっていることなどを伺った。

インタビュー後編となる今回は、音響の仕事ならではの癖や習慣、苦労と喜び、上演中に起きたハプニングの裏側などについてお届けする。

【前編はこちら】
刀ステ、松ステ…観客を物語に引き込む「音」の秘密 音響・ヨシモトシンヤ【前編】

ペットボトルを叩いて銃声を作る!SE(効果音)の妙技

――Twitterでは「#効果音を作る」というハッシュタグで、SE(効果音)を作り込んでいく過程を公開されていましたね。こんなふうに、ご自身で一からSEを作ることも多いのでしょうか?


▲ペットボトルの音から「乾いた銃声」を作り上げる過程(ヨシモト氏のTwitterより)

結構あります。足音や扉が開く音など現実にある音は、いろいろと録音してみてちょうどいいニュアンスの音を見つけることも多いです。鳴らしたい音を探して、あちこち扉を開けてみたりします。

――「ペットボトルの音から銃声を作る」というアイデアは凄いですね。普段から色々な音にアンテナを張っているのでしょうか?

そうですね。何をしていても周囲で鳴った音が気になる、という癖はあります。

ペットボトルから銃声というアイデアに関しては、偶然見つけたものです。会話しながらペットボトルをパンパン叩いていて「あれ、なんかこの音良くない?」とハッとして。

じゃあ試しにということで録音してみて、ピッチを下げて深い音にして、音同士を重ねて……という具合で銃声に仕上げました。

――周囲のあらゆる音が気になる。音響の仕事ならではの癖、習慣と言えそうですね。

道を歩いていて「ガシャン」という音が聞こえたら「今のは何の音だろう?」と想像してしまいます。

劇場でスタッフが機材を落としたときには「今の何落とした? 録音したいからもう1回お願い!」なんて言うこともありますね。

雷が鳴り出したら「よし!」って機材を持って外に出て、録音を始めたりとか(笑)。実際には雑音が入ってしまって使えないことも多いんですが、とりあえず録っておきたい!と思うんです。

――かなり「音」に貪欲な生活ですね。

「今の音は何かな」「加工してアレに使えるかな」というのを常に考えてしまうところがありますね。

先日、『映画刀剣乱舞』の効果音を担当した奈津子さんとお話する機会があったんですが、映画の場合は出来上がった映像に後から効果音を加えることが多いそうです。

それを知って以来、映画を見ていても「今の音はどうやって作ったのかな」というのが気になってしまいます。

あとは他の音響さんが担当している舞台を観に行ったとき、「この効果音はあの音源だな」と分かってしまうのも、音響あるあるかもしれません。

――短い効果音だけでも聞き分けてしまうという。

音響同士、お互いに分かりますね。

SEって、アメリカの映画会社など色々なところから「効果音全集」という形で音源が市販されていて、それを加工して使う場合も多いんです。

だから「この音、俺もこの前同じやつ使ったな」とか。逆に僕が担当している舞台を観に来た後輩に「シンヤさん、あの音源使ってたでしょ」って指摘されて、「バレた?」なんて会話をすることもあります。

▲最近購入したというYAMAHA CL-5というデジタル卓。
再生オペレーター(たたき)やサンプラー、マルチチャンネルのワイヤレスマイクなどを取りまとめるマスターとして使用する

タイミングをぴたりと合わせてくる「勘のいい俳優」たち

――音響の仕事のフェチズムというか、「気持ちいい」と感じる瞬間はありますか?

芝居の尺(しゃく)に、音楽の長さがピッタリはまったときです。これができると本当に気持ちいい。

たとえば1幕ラスト。登場人物が重要なセリフを言った瞬間、オケ(音楽)がバーンと盛り上がってゆっくり幕が下りてくる。幕が下りきったのと同時に、ちょうどピッタリのタイミングで音楽が終わる……とか。

1幕ラストに限らず、お芝居の「このシーンから次の転換まで」という尺に合わせて、ぴたりと音楽がはまると気持ちいいんです。その「音合わせ」には結構こだわっているかもしれない。

――確かにシーンの起伏に合わせて音楽がピッタリはまると、観客としても気持ちいいですね。

ミュージカルなら、歌があって、セリフ部分があって、また歌になって……というふうに時間が決まっていますよね。

歌と歌との間でぴたっとセリフがはまって、ちょうどいいタイミングで歌が始まったら最高に気持ちいいじゃないですか。あの気持ちいい感覚を、可能な限り実現したいんです。

もともと、僕はあんまりフェードアウトするのが好きじゃないんです。まだ音楽があるのに自分でフェーダーを下げてそれを無くすという作業が、個人的にあまり好きじゃない。この感覚は人によって違うと思うんですけども。

だから余計に、尺にピッタリ合うよう工夫したくなるのかもしれないですね。

――具体的には、芝居と音をどのように合わせていくのですか?

まず稽古の段階で、何回もタイムを計ります。台本で5分間のシーンでも日によって少しずつ違って、4分50秒かかったり5分5秒かかったりするので。

役者さんもプロなので大きくズレることはまず無いんですが、そうやって実際にかかる時間の平均値をとります。

それをもとに音楽を編集して、稽古場で芝居と合わせてみます。僕のやりたいことを察して、役者さんがタイミングを合わせてくれるケースも多いです。

「今のギターのフレーズでこのセリフを言うと、タイミングがちょうどいい」とか、「今回はちょっと遅れぎみだから、次のセリフを巻かなきゃいけない」というふうに、鋭く感じて合わせてくれる役者さんもいます。

ヒデ(佐々木喜英)や輝馬は僕と付き合いが長いので、すごく綺麗に合わせてくれます。2人とはミュージカル「黒執事」から始まって、ミュージカル『薄桜鬼』、超歌劇『幕末Rock』……と、約2年間で8作品くらい一緒だったんですよ。

だから「このタイミングでこういうふうに音楽と合わせたいんだな」っていうのを僕が言う前に分かってくれる。本当にありがたいですね。

他には、まさなり(和田雅成)やマッキー(荒牧慶彦)もタイミングを計って合わせるのがうまいです。

彼ら勘のいい役者というのは、音楽に合わせることももちろんですが、稽古でも本番でも「自分がどう見えているか」「どうやったら芝居が一番美しく映えるか」ということも凄くよく考えているなと、見ていて思います。

▲ミュージカル『憂国のモリアーティ』上演時。ピアノにマイクを仕込んでいる

音響はミスやハプニングが一番目立つ。だからこそ…

――2.5次元舞台において、音響が果たす最も大事な役割は何だと思いますか?

あくまでも「作品を作る1セクション」として機能することです。音響だけが目立ってしまうことなく、音楽がどれだけ作品に融合できるかというのが重要だと思います。

「作曲家さんが作ってくれた曲がすごくかっこいい、みんなに聞いてほしい」と思っても、そこで音量を上げてセリフが聞こえにくくなったり違和感が生まれたりしたら意味がない。

舞台は全セクションで協力して作り上げるもの。お芝居全体を通して伝えることを意識するのが、当たり前だけどやっぱり一番大事です。

――ある意味、観客が音を意識しないことが大切、という面もあると。

そうですね。音響って、じつは一番ミスが目立つセクションでもあるんですよ。刀が「ザシュッ」と何かを斬るシーンでSE(効果音)が「カキン」と鳴ってしまったら、すごく目立つじゃないですか。

そういう意味では、とくに大変なのは10人〜20人の出演者のマイク音量やオン・オフを調整するマイクオペレーターかもしれません。

マイクのオン・オフは、タイミングが少しズレただけでも目立ちます。袖から喋りながら出てくるシーンでマイクのフェーダーを上げるのが遅れたら、セリフの頭が切れてしまう。逆に早すぎると、今度は舞台袖の余計な音を拾ってしまいます。

――物凄く神経を使う作業ですね。

マイク以外でも音響ハプニングは色々起こり得ますし、実際に僕も経験しています。

舞台「KING OF PRISM」を梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演したとき、梅田地域全体が瞬間停電になったことがありました。

停電は本当に一瞬だったので、照明などはパッとすぐ復旧したんですが、音響の卓(コンソール)とネットワークを繋ぐ機械は再起動に時間がかかってしまったんです。

ちょうど高田馬場ジョージ(演・古谷大和)のフリーシーンの最中だったので、彼がアドリブでかなり長い時間を繋いでくれて、本当に助けられました。大和にはもう、めちゃめちゃ感謝しています。

――ハプニングが目立つというのは、想像以上に大変そうですね。

ハプニングからのリカバリーには、音響の経験値が一番出るかもしれません。

「殺陣のSEを間違えてしまった」というミス、「ワイヤレスマイクが汗で故障してしまった」といったハプニングが起きたとき、次の行動でどれだけ取り返せるかは、やはり経験が活きてきます。

▲TDCホールでの卓周り

――非常に基本的な質問で恐縮なのですが、マイクのオン・オフは今も手動で制御しているのでしょうか?

基本的には手動です。卓に出演者の名前が1人ずつ書いてあって、20人出演するのであれば20人分のマイクを手動で上げ下げする形ですね。

ただ最近はデジタル卓で、オン・オフの順番だけあらかじめプログラミングしておくことも多いです。

たとえば「Aさんが歌って、次にBさんが歌って、最後にCさんが歌う」という場合には、歌う人の順番をあらかじめプログラムしておく。

あとはタイミングを計ってカウントごとに同じスイッチを押すだけで、最初はAさんのマイクがオンに、次はAさんがオフになってBさんがオンに……というふうにデジタル制御することができます。

――デジタル制御、凄いですね!

殺陣のSEにも、こうしたプログラミングを取り入れるケースがあります。

たとえば、1つめの鍵盤に「ヒュン」という刀の振り音を入れて、2つめに「ザシュッ」という斬り音、3つめに「カキン」という弾く音、4つめに「ドン」という殴る音……というふうに、音を割り当てておくんです。

――電子ピアノ、電子キーボードのようなイメージですね。

まさにそれです。あとは役者の動きに合わせて、ヒュン、カキン、ヒュン、ヒュン、ズシャッ、というふうにそれぞれの鍵盤をタイミングよく叩いていきます。

ただこのやり方だと、両手を使わなくてはいけない。右手でSEを出しながら左手で音楽のボリュームを調整する、というやり方に対応できないんです。

だから先程のマイクの場合と同じように、「あらかじめ決めた音が順番に鳴る」スイッチを作ることもあります。

殺陣というのは危険がないように動きの順番が決まっているので、それに合わせて音を並べておくんです。

「ヒュン、カキン、ヒュン、ヒュン、ズシャッ」という順番で鳴るスイッチをプログラミングしておく。あとはタイミングを合わせてスイッチを押せば、予定どおりの音が出ます。

――そんな画期的な方法もあるのですね。

ただね、これはメリットもデメリットもあるんです。あらかじめ音の順番をプログラミングしておけば、ミスは避けられるんですが、突然のトラブルには対応できなくなってしまうんですよ。

たとえば役者が武器を落としてしまった、武器が折れてしまった、もしくは武器を持って出るのを忘れてしまった……というハプニングに対応できないんですね。そういう場合はやはり、フリーで叩ける鍵盤の方が臨機応変に合わせられます。

実際に、以前舞台「刀剣乱舞」の公演中に小夜左文字(演・納谷健)の刀が客席に落ちてしまったことがありました。そのときはフリー鍵盤を使っていたので、殺陣のシーンで予定していた「ズシャッ」という斬り音ではなくて、「ドン」「ドドン」と殴る音で対応できました。

同じく舞台「刀剣乱舞」で、宗三左文字(演・佐々木喜英)の刀が折れてしまったときもありました。真剣必殺の最後に「ザザザッ」という斬り音で終わらせるはずが、途中で折れてしまったために出来なくなってしまった。

結局、ヒデはアドリブで蹴り技に変えたんですが、僕ら音響もハラハラしながら「ヒデ、どうする? 何する?……蹴るんかーい!」という感じで(笑)、一瞬の判断で蹴り音にSEを合わせました。

こういったリカバリー、フォローというのは、プログラミングで固めてしまうと出来ません。プログラミングの難しい部分でもありますね。

▲ミュージカル『刀剣乱舞』 加州清光 単騎出陣2018 上演時の卓周り

20年以上を経て思う、この仕事の苦労と喜びは?

――音響のプロとして、一番苦労するのはどんな部分ですか?

幸いなことに、「僕はとてもいい職業に就かせてもらっているなぁ」という思いが強く、苦労というほど苦しいことはあまりないんです。

しいて言えば、音の作り込みにこだわりたい、でも全部やるには時間が足りない、という点でしょうか。

最後に「ここはもっとこうしたかった、ああしたかった」というモヤモヤを抱えたまま本番を迎えたくないので、納得できるまで作り込みたいと常に思っています。

だからこそ、その思いに駆られて睡眠時間を削ってしまい、少し前に大きな病気を経験しました。なので今は、バランスをとらなくてはいけないなと感じています。

あとは人材不足の面でも、苦労というか課題を感じています。

2.5次元業界がぐんぐん伸びている今、舞台作品の数も増えています。それに対して、スタッフの数ってそんなに増えていないんです。

このままでは2年後3年後、舞台音響の業界がきちんと回らなくなってしまう可能性が高い。なので、人材育成に力をかけなくてはいけないなと感じています。

――では、一方で一番喜びを感じる瞬間はどんなときですか?

やっぱり、客席の反応が伝わってきたときですね。僕ら音響スタッフは客席側にいることが多いので、ある意味役者よりも先にお客様の反応を感じることができるんです。

皆さんが座席を立って会場を出ていくときに、僕らの横を通り過ぎながら「すごく良かった」「面白かった」なんて話しているのを聞くと、もう本当に「よっしゃ!」という気持ちになります。

――終演後や、1幕が終わって休憩に入った瞬間ですね。

そうです、そうです。稽古を見ている段階でも、「1幕がこの終わり方をしたら、休憩に入った瞬間にお客さんがドッと沸くだろうな」と感じることもあります。そんなときはすごくワクワクしますよ。

大千秋楽の公演の後に、新作公演の予告が発表されるときなんかも、そうですね。

最後に幕が降りたあと、ドドンと太鼓が鳴ったりして、音楽がカットアウトされて、お客さんが「何? 何?」ってざわめいて……次のタイトルが出た瞬間、ウワーッとどよめく。あの声を聞くと本当に幸せな気持ちになります。

自分がその場にいられないときは、制作会社の方に頼んでその様子を録画してもらったこともあるくらいです。

――観客が喜びを表現することで、スタッフさんのモチベーションを上げられる可能性もある、と。

本当にそうですよ!

もちろん「音楽が良かった、迫力あった」と言っていただけるのも嬉しいです。でももっと単純に、舞台そのものに対して「面白かった」という反応をいただける瞬間が嬉しくて。もう最高です。

あとは、先ほどお話した「音と芝居の尺がピッタリはまった瞬間」も嬉しいですし、殺陣のSEを一切間違わずに叩けたときも気持ちいいかな。

――殺陣シーンでのSEは、リズムゲームに似た喜びがありそうですね。

ああ、それはすごく近いと思います。ミス無く叩き終わった瞬間は「フルコンボだドン!」という気持ちになりますよ(笑)。

▲波形編集ソフトでの音楽、SEの編集画面

「舞台裏も素敵な人ばかり」2.5次元ファンに贈るメッセージ

――長時間に渡り丁寧にお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。最後に、2.5次元を愛する観劇ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

今、2.5次元作品が物凄い勢いで盛り上がっていることを、とても嬉しく思います。

僕は小劇場出身なのですが、2.5次元をきっかけに小劇場とかグランドミュージカルとか、さまざまな分野のお芝居に興味を持ってくださる方が増えていること、すごく良いなあと感じています。

舞台の裏側にも、役者さんと同じくらい魅力的な人たちがたくさんいます。クオリティの高い作品を作る小道具さん、素晴らしいデザイン画を描くデザイナーさん。挙げればキリがありません。

仕事内容だけでなく、人間的にも魅力的な方々が多い業界です。音響はもちろん、そうした裏方の世界に興味を持ってくださる方が増えたら、とても嬉しいです。

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WRITER

豊島 オリカ
 
							豊島 オリカ
						

観劇好きのフリーライター。2.5次元が大好きです。頂いた日々の活力、勇気、心を揺らす奇跡のような感覚に、どうにか恩返しできないものかと願いながら執筆しています。カーテンコールで拍手することと、鼻ぺちゃな犬も大好きです。

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