2020年2月21日(金)開幕の舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇FINAL~POWER OF BIKE~。2度目のインターハイ最終日がついに決着を迎える。
2.5ジゲン!!では、開幕直前の稽古場に取材をおこなった。ハードな現場として知られる『ペダステ』だが、実際の稽古はどのように進むのだろうか?
セットも組み上がりいよいよ熱が入る稽古場の様子を、時系列を追いながらご紹介しよう。
ペダステ「POWER OF BIKE」稽古場レポート
●12:00 稽古場オープン
この日の稽古は13時スタート。俳優たちは、およそ1時間前から徐々に集まり始める(ちなみにスタッフの方々は当然さらに早く現場入りし、しっかりと準備を進めていた)。
キャスト陣の過ごし方はさまざまだ。台本の変更箇所を確認したり、入念にアップをしたり、軽く昼食をとったりと、稽古が始まるまでは各々自由に過ごしている。
12:45〜12:50頃には、ほぼ全てのキャストが稽古場に集合した。今作の出演者は総勢22名、この時刻には稽古場も賑やかになってくる。
●13:00 稽古スタート
この日の稽古は、箱根学園の卒業生・東堂尽八の登場シーンからスタート。
まずは俳優たちが各自のプランで台本1〜2ページ分を演じ、いったん区切る。シーンにもよるが、時間にして約5〜10分ほどの分量だ。
その上で、演出・脚本をつとめる西田シャトナーが「OK、すごくいいね」「ここはもう少しこう変えよう」といった言葉をかけつつ、全体を見据えた演出(動きや流れ)をつけていく。
演出家の意図を役者が理解したら、もう一度同じシーンをやってみる。そこで修正すべき点があれば再度指摘をし、またやってみる。
こうして、演出意図と実際の芝居がぴたっとハマるまで何度でもやり直す。
13時〜20時まで7時間続く稽古は、基本的にこの根気のいる作業の繰り返しだった。
西田は演出をつける際、毎回丹念にその意図を説明していた。「このシーンはこう動いてほしい、なぜならこういう表現をしたいから」と理由を添えてオーダーするので、俳優たちの理解も早い。
たとえば、総北高校が4人で走行するシーン。
このシーンでは手嶋だけが大きく体を揺らして踏み込み、他の3人のフォームとギャップをつけて走ることで「凡人・手嶋」の体力消耗を表現する。
また別のシーンでは、箱根学園のエース・葦木場だけがあえて足を止め「一切漕がない」ことで、観客にシチュエーションを伝える。
こうしたアイデアを出し、実際に体を動かしやってみて、入念にチェックしていくのだ。
体を使うのは役者だけではない。西田も1シーンごとに席を立つと俳優たちの中に飛び込んでいき、全身を使って演出をつける。
『ペダステ』のあの、客席で観劇するだけでもクタクタになってしまうほどの熱量は、この稽古場からすでに蓄積されているのかもしれない。
細かく区切りながらシーンを作り上げていき、10ページ分ほど出来上がった所でいったん通して演じてみる。何箇所か修正を加えつつも大筋がうまくいった所で、10分間の休憩が挟まれた。
▲演出席に置かれたステージ模型。
フォーメーションに迷ったらこれを囲んで相談する
稽古中、または休憩中、俳優たちはさまざまな行動を見せる。
チームを力強く鼓舞する者。茶目っ気のある発言で場を和ませる者。
自主練に没頭してひとりの世界に集中する者。考え込んでしまった別の俳優の相談にのる者。
稽古場全体を見渡して、俳優の立場からカンパニーの芝居をチューンアップする者。
キャスト一人ひとりが能力と個性を発揮して、自然と役割分担をしている。受身の姿勢で待っているだけの人間はひとりとして存在しない。
▲誰かが全力疾走するシーンでは、激しさで稽古場中の床が揺れる
▲群衆(演・キャスト陣)は今回も活躍しそう
こうして1〜1.5時間ごとに10〜15分間の休憩を挟みつつ、昼から始まった稽古は外が真っ暗になるまで続いた。
●18:30 振り付け稽古スタート
この日はたまたま、楽曲の振り付け稽古も取材することができた。
稽古が行われたのは、『Over the sweat and tears』と『ヒメのくるくる片想い』の2曲。まず各自のポジションと並んだときのバランスを確認し、一度踊ってみて、振付師の先生に指導を請う。
どちらの曲も基本的な振り付けはずっと受け継がれているので、進行もスムーズだ。とくに続投メンバーのダンスには余裕も伺える。
少し時間をかけたのは、ポジションを決める作業だった。
とくに『Over the sweat and tears」のラスト、歌い終えてポーズをとる瞬間の位置関係は、ストーリーとも密接に関わってくる。ここではキャスト陣からも積極的にアイデアが出た。
▲真波山岳役の杉山真宏(左端)。
曲中も「坂道との関係性を表現したい」と熱心な提案をしていた
●20:00 稽古終了〜自主練タイム
とっぷりと日が暮れた20:00、1日の稽古が終了。俳優たちもようやくリラックス……するのかと思いきや、多くが残って自主練を開始。
その日生まれた課題に取り組む者もいれば、演技プランを話し合う者もいる。数人で集まり、鏡の前でタイムを測りながらライドの特訓をする俳優たちもいた。
最終的に、全員の自主練が終わったのは21:00を回ってからだった。
「芝居は生き物」という表現を耳にすることがある。筆者はその意味を「本番中も刻一刻と変わっていき、1日たりと同じ姿ではないことの例え」と捉えていた。
それももちろん事実ではあるが、今回『ペダステ』の稽古場を目の当たりにし、「生き物」という言葉に含まれる別の意味にも気がついた。
『ペダステ』の稽古場では、役者やスタッフ一人ひとりが「舞台」という1つの生き物を作り上げる細胞であるかのように見えたのだ。
それぞれに意志と役割を持つ細胞たちが、ときには個人で、ときには2人〜数人の小さなユニットで、より適切な形に自身を変化させながら1つの舞台を作り上げている。
稽古場のあちこちで、ひたむきな意志と意志とが化学反応を起こし合っている。1秒も無駄にすることなく。
「実際にどんなことが行われているのだろう?」と訪ねた『ペダステ』の稽古場は、そんな世界であった。
舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇FINAL~POWER OF BIKE~の東京公演は2020年2月21日(金)~23日(日)天王洲 銀河劇場にて、大阪公演は2020年2月27日(木)~29日(土)大阪メルパルクホールにて上演される。
新インターハイ篇のクライマックスとなる今作。原作ファンも観劇ファンも、ぜひこの熱いステージを体験してほしい。
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