2020年2月14日(金)、ダブルヘッダー特別公演として初演舞台『おおきく振りかぶって』の再演と、翌15日(土)より新作舞台『おおきく振りかぶって 秋の大会編』が開幕する。脚本・演出は演劇集団キャラメルボックス代表の成井豊。
「気持ちを大事に」という彼の演出は、繊細な少年心理を丁寧に描いている原作にベストマッチ。1作目からファンの間で大きな話題になっている。
2.5ジゲン!! は新作の稽古場にお邪魔し、成井豊氏にインタビューをおこなった。今作のみどころから、あらためて感じる「おお振り」の良さ、舞台化するにあたっての苦労などを語った、貴重な話の数々をお届けする。
2組のバッテリーの関係性を中心に描く「秋の大会編」。キーパーソンの秋丸に注目を
――今回の3作目、「秋の大会編」が決まった時のお気持ちを教えてください。
「来たか!」という感じでした。まだまだ原作は続いていますし、自分としても3作目をやりたかったので、嬉しかったです。
特に、榛名の物語が途中になってしまっていたので、それの決着もつけたかったですしね。「これは、舞台は3本必要だな」と思っていました。
――内容についてですが、原作で描かれている秋の大会のあたりは2校のバッテリーの関係性がじっくりと描かれているように感じます。
まさにそうです。今作では、三橋と阿部の西浦高校バッテリー、榛名と秋丸の武蔵野第一高校バッテリー、この2組を中心に描いていきます。今回は特に、秋丸がキーパーソンになってきます。
能力が優れたものがそばにいると、悔しさで対抗心を持つ場合と、あきらめてしまう場合があります。秋丸は、あきらめてしまう選択をしていましたよね。それが、少しずつ火がついて立ち上がってくる。
三橋もそう。阿部に肯定されて、前向きに進んでいく。この点が似ています。
ネガティブでマイナス思考の三橋が、阿部に認められて少しずつ強くなっていく。ここがもう、たまらなく好きです。
――強者が近くにいる苦悩。花井くんと田島くんにも通じますね。
花井のドラマというものは1本目からずっと描いてきました。花井は、自分と重なる部分があるんです。
劇団の代表を34年やってきて、リーダーシップを取らなければいけないのに、自分よりも能力が優れた人間がすぐそばにいる。ここが自分と重なります。
若い頃から、三谷幸喜さんと親しかったり、大学の先輩が鈴木聡さんだったりと、常に自分の周りには自分より優れた人間がいたので、花井の気持ちがすごくわかります。
――さまざまな2人の関係性とともに、キャラクターが立ちあがって強くなっていくところが本作の見どころですね。
「エンタメは快調なテンポのものこそ面白い」1本目をより面白くするためにしたスピードアップ
――長い原作を舞台化するには、大変なご苦労があると思います。舞台化するにあたって、エピソードやシーン、キャラクターの選択は、どのようにされているのでしょうか?
まず「名場面と名セリフは全部残す」というのが最優先です。僕が思った名場面と名セリフではありますが、「これだ!」と思ったものは必ず残すようにしています。
それから「原作を絶対に変えない」。省略を大胆にしようとすると、ストーリーに影響が出てくる可能性が出てきます。でも、原作は絶対に変えない。この2つが二大方針です。
エピソードを選ぶにあたっては、人数の問題も関係してきます。今回の舞台でいえば役者は22人出演します。ほかの2.5次元分類の舞台では、もっと多くの人物を出しているものもあるかと思うのですが、僕にとって22人はとても多いんです。
キャラメルボックスでやるときと違うことをせずに、同じ考えで舞台を作っているので、舞台に出ている人物を記号的に扱わずにきちんと描くとなると、これ以上の人数は出せません。
上演時間をもっと長くすれば出せるかもしれませんが、「2時間」と決めているので(笑)。
――理由のあるこだわりによる選択なのですね。脚本執筆、そして演出で、ご苦労されたエピソードはありますか?
脚本を書くのは、実はそんなに苦労はしていないんです。
原作のままという方針でやっていると、するのは「編集作業」ということになります。だから、時間はそんなにかからないし、苦労も少ないです。
……大変なのは、演出なんですよ。
――ぜひ詳しく教えてください。
初めてである1本目は本当に大変でした。漫画を立体の舞台にするのですから、まず、マウンドやホームベースがどこなのか? プランを持っていって実際にやってもらっても、何かうまくいかない。
最初の2週間は形にならず、実験に次ぐ実験でした。若い人たちと話し合っていろいろと試行錯誤して、何とかルールができたという感じでしたね。
でも、大変だったけれども、辛かった・苦しかったというのは全くなかったです。その大変さこそが、芝居作りの醍醐味ですから。苦労した分、充足感や達成感があります。みんなで作り上げた1本目、本当に楽しかったです。
――その1本目の初演を再演されるにあたり、以前と変わったことはありますか?
全体のテンポがすごく良くなったと思います。1本目と2本目の映像を見返してみたところ「遅い」と感じたので、今回の稽古の初日に「最低10分早くしてほしい」と言ったんですね。
それで、一昨日通してみたら本当に10分早くなったんですよ。時計で計りながらやったわけではないのに、驚きでした。
――スピードアップした理由は何でしょう?
前は、ドラマのシーンで、ゆっくりじっくりやりすぎていたんです。幕が開いてお客様を前にしたら、やっぱりじっくり演じたくなるんですよね。稽古の段階で2時間10分だったのが、どんどんのびていってしまって。
エンタメというものは、快調なテンポのものこそが面白いと思っています。アートなものは別ですが、エンタメは快調なテンポで進むべきだと。
でも今回はトントンと進んでいるので、エンタメとしてすごく面白くなっています。ぎゅっと詰まっていますよ。
舞台は感情を伝えるもの。熱すぎるほどの熱量と感情を伝える、胸を打つドラマの数々
――この舞台での演出のこだわりについて、お聞きしてもよろしいでしょうか。
「気持ちを大事にすること」。これはキャラメルボックスと同じです。それから、「ちゃんと会話をすること」。向き合ってきちんと会話をさせる。
試合をしているときはどうしても会話ではなく、観客席の方を向いてセリフを言うことになりますが、日常のシーンや練習のシーンでは、ちゃんと会話をさせよう、と。
――気持ちを伝えるためのこだわりですね。成井さんが舞台で、最も描きたい、伝えたいと思われているものは何でしょう?
感情です。演劇や演技というものは、お客様に感情を伝えるものだと思っているんです。
この「おおきく振りかぶって」で言えば、15、16歳くらいの男の子たちのヒリついた感情ですね。彼らはまだ、一人前の男としての自信は持てていない。けれども、未来は無限に広がっています。
そういう男の子たちが、集団でスポーツをする。そうするとやっぱり、ぶつかり合いがあって、さまざまな切ない感情が生まれます。そういったヒリヒリした感情を描いて、伝えたいと思っています。
――男の子たちのヒリヒリとした感情、気持ち。それから本作では熱がとても伝わってきます。
熱量はとても高いです。初演と新作の通し稽古を初めてやったとき、加熱しすぎだと感じて「暴走し過ぎだ」と伝えたんです。でも、次に通してみたらまたすごくてね(笑)。
ああ、これがいいんだ、と思いました。この熱、これが面白いんだ、と。だからみんなに謝って「この熱がすごくいい」と伝えました。
――新作もとても熱そうですね。この舞台の、最大の見どころは何でしょう?
やはり、熱量。熱さですね。
「おおきく振りかぶって」は、天才たちが集まって野球をしているわけではない。天才は田島だけです。
その、埼玉の普通の高校生たちが、無我夢中で頑張る姿。舞台上で転げまわって打ち合って投げ合う、その熱さが最大の見どころです。
初演は再演にあたり、時間が短くテンポが良くなったことで、その熱がより高まっています。
初演では三橋が立ちあがり、新作では秋丸が立ちあがる。一度傷ついたりあきらめたりした人間が立ちあがり、強くなっていく。まさにそれが「おおきく振りかぶって」なんだと思います。
――三橋くんの「大きく振りかぶる」ですね。
そう、新作の途中で三橋が「振りかぶって投げる」と宣言して、次の試合では振りかぶって投げるんです。あの、ノーワインドアップしかしてこなかった三橋がね。ここまできたか、とジーンとしてしまいます。
1本目は大会の初戦での公式戦初勝利。新作は、試合はもちろん、花井、榛名……これまで積み上げてきた個々のドラマが本当に胸を打ちます。
それぞれの成長のドラマを、ぜひ楽しみにしていてください。
撮影:K.Hikaru
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