漫画化、実写映画化と展開されている和風シンデレラストーリー「わたしの幸せな結婚」がついに舞台化。軍人・久堂清霞にスポットを当てたオリジナルストーリーが展開されるとあって、舞台ファンはもちろん原作ファンからも注目を集めている作品だ。
2.5ジゲン!!ではゲネプロの様子をお届け。
ストーリーに関する大きなネタバレはないが、舞台オリジナルキャラはその人柄などを簡単に紹介していく。事前情報ゼロで観劇したい場合は、ぜひ観劇後に読んでもらいたい。
▲とある人物に対して剣を構える久堂清霞(演:泰江和明)
物語は、久堂清霞(演:泰江和明)率いる特殊小隊に明原壮平(演:木村聖哉)が配属されるところから動き始める。特殊小隊は、異能を持つ者、またはその素質を見出された者だけが所属できる部隊。
しかし明原はこの配属に納得がいかないようで、多忙な隊長の久堂に代わって部下たちをまとめる五道佳斗(演:森田桐矢)に食ってかかる。
個性的な隊員たちがそろい、騒がしくも平和な時間が流れるなか、久堂のもとには封印が解かれた墓・オクツキの異形を始末する任務が舞い込む。婚約者・斎森美世を得たことで任務にもいっそう意気込む久堂に、先読みの異能「天啓」を持つ堯人(演:中山咲月)は、不吉な未来を伝える。
さらに久堂の前には美世との関係を匂わせる鶴木新(演:菊池修司)という男も現れ…。
特殊小隊とオクツキの霊との戦いをメインに据えながらも、その根底には愛が流れていた。婚約者、家族、仲間。大切な人たちを守りたいという思いが作品の真ん中にあるからこそ、舞台オリジナルストーリーであっても「わたしの幸せな結婚」らしさがふわりと香ってくるような仕上がりになっていた。
戦いのために振られる刀や異能の1つひとつに優しさや人間味を感じとれるのも、本作の見どころだろう。戦闘シーンでいえば、異能にも注目を。舞台オリジナルキャラクターを含め、異能の応酬を肌で感じられるのは舞台ならではの醍醐味だ。
▲対峙する特殊小隊(手前)と御霊月魄の3人(奥)
ここからは各キャラクターの見どころを紹介していく。まずは泰江和明演じる主人公の久堂清霞。
泰江のとびきりチャーミングな笑顔を封じての久堂は凛とした気高さを感じさせ、軍人として声を荒げる姿に劇場の空気が震えた。劇中では美世を思い、とびきり愛おしそうな笑顔を浮かべる場面も。普段の厳しい久堂の表情とのギャップは必見だ。
▲久堂が愛おしそうな表情を浮かべる理由はもちろん…
その部下で原作キャラクターでもある森田演じる五道は、ひょうひょうとしていて気のいいお兄ちゃんのようであると同時に底の見えなさが印象的。一見すると軽いキャラだが、物腰の端々から品の良さがうかがえるのは森田の役作りの賜物だろう。
松平士道(演:井澤巧麻)は部下たちのまとめ役で熱血タイプ。少年漫画の主人公のような爽やかさで場を明るくする。嶺勘太(演:久保侑大)と村雨義也(演:紘太朗)は2人で1人前な関係。なんだかんだ言いながらもお互いを思う気持ちが微笑ましい2人だ。
新人として入ってくる木村演じる明原は、特殊小隊に化学反応をもたらす存在。子役時代から映像を中心に活動してきた18歳の彼の、大人に踏み出そうとする空気感が“明原”という役にリアルな質感を与えていたように思う。
明原とは対照的に辻凌志朗(辻は正しくは一点しんにょう)演じる最上勇は貫禄溢れる人物。五道と同期であるという設定がうまく効いていて、小隊内の人間関係をよりいっそうおもしろくしていた。
▲左から松平(演:井澤巧麻)・嶺(演:久保侑大)・村雨(演:紘太朗)・五道(演:森田桐矢)・最上(演:辻凌志朗)・明原(演:木村聖哉)
久堂の上司で帝国陸軍参謀本部の少将・大海渡征を演じるのは佐々木崇。一本線の通った美しい立ち姿が貫禄ある大海渡にハマっていた。
大海渡にちょっかいをかけられて、無下にも出来ず困った顔をしている久堂の表情もお見逃しなく。
佐藤永典演じる辰石家当主の辰石一志は別格の色気を放ち、彼が歩くたびにシャンシャンと鈴の音色が聞こえてきそうなほど。ひょうひょうとしているものの決めるところは決める…表情の切り替えのさじ加減はさすがといったところだ。
▲明原と五道のやりとりを見つめる辰石一志(演:佐藤永典)
彼と同じかそれ以上の曲者である鶴木新を演じるのは菊池修司。柔和に見えて、眼鏡の奥の瞳は笑っていない表情が、鶴木の持つ得体の知れなさを底上げしていた。
▲菊池演じる鶴木新。眼鏡をくいっと上げる瞬間もお見逃しなく
現帝の息子である堯人は、中山咲月の柔らかでいて芯のある佇まいに見事にマッチ。目の前にいるのにどこか別次元にいるような、神聖な雰囲気を放つことができるのは唯一無二の存在感を持つ中山の強みだろう。
▲次期帝と目される堯人(演:中山咲月)
今作で特殊小隊の前に立ちはだかるのは御霊月魄(みたまげっぱく)部隊だ。そのリーダー格の孤月を演じるのは岡本悠紀。死んでなお晴らせぬ恨みを歌い上げるシーンは圧巻だ。
彼の仲間として氷輪役を松原凛、玉兎役を佐藤祐吾が好演。高い身体能力を生かしたアクロバティックな殺陣は、彼らが発する拭いきれない憎悪とともに作品のスパイスとなっていた。
彼らのことはネタバレになってしまうため多くは語れないが、愛する者を守るための戦いが御霊月魄にとってどんな意味を持つのか。それを考えながら2度、3度と物語を味わってみるのもいいのかもしれない。
▲左から孤月(演:岡本悠紀)・氷輪(演:松原凛)・玉兎(演:佐藤祐吾)
特殊小隊にスポットを当ててはいるが、愛とは切っても切り離せないのがこの「わたしの幸せな結婚」という物語なのだろう。美世への思いを胸に、1人の軍人として生き抜く久堂清霞の姿は、観劇した人の胸に小さな幸せを運んできてくれるはずだ。
舞台「わたしの幸せな結婚」-帝都陸軍オクツキ奇譚-は8月20日(日)まで、東京・シアター1010にて上演される。
取材・文・撮影:双海しお
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