冨樫義博による漫画を原作とした『HUNTER×HUNTER』THE STAGEが5月12日(金)に初日を迎えた。1998年の連載開始以来、根強い人気を誇る冨樫義博作品は、令和の時代にどんな形で舞台として表現されるのか。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施されたゲネプロ及び囲み会見の様子を劇中写真とともにレポート。ストーリーに関するネタバレは含まないが、作品をまっさらな気持ちで楽しみたいという人は、ぜひ観劇後に読んでもらえたらと思う。
漫画のページをはやる気持ちでめくるときに似た、高揚感の止まらない約3時間の冒険がステージの上に待ち受けていた。
くじら島を思わせるのどかな客席BGMから一転、物語の始まりとともにそこには荒れ狂う海が広がった。ハンター試験受験者たちを乗せた船の上で、主人公のゴン(演:大友至恩)、クラピカ(演:小越勇輝)、レオリオ(演:近藤頌利)が出会うところから物語は幕を開ける。嵐に襲われる船は、この先に待ち受ける波乱に満ちたハンター試験を予感させ、そこでのゴンの振る舞いは、どんなピンチも大真面目に純粋に、そして大胆に脱して見せるゴンという主人公のあり方を観客に提示する。
3人が一次試験会場に到着する頃には、まるでゴンとともに旅をしているようなワクワク感が観客の胸を占めていることだろう。
そのワクワク感をいっそう高めてくれるのが、ひたすら試験官について走るという一次試験「無限マラソン」だ。シンプルな試験内容ながら、音との融合、身体パフォーマンス、ステージ上のあちこちで描かれる受験者同士のやり取りという舞台ならではの表現が存分に詰め込まれ、「ひたすら走る」だけなのに観劇後にふと思い返しておもしろかったなと思えるシーンに仕上がっていた。そこで実際にスケボーに乗って登場するのがキルアだ。
こうして偶然出会ったルーキー4人組は、次々と気まぐれで困難な試験を受けていくことになる。怪しく不気味な存在感を放ちゴンたちを舐めるように見つめるヒソカ(演:丘山晴己)の目的や、受験者に潜むもう1つの怪しい影の正体とは…。
父と同じ景色を目指して一歩を踏み出したゴンの冒険がこの作品から動き始める。
▲兼ね役での登場にも注目のゾルディック家の面々
少年漫画らしい泥臭くも爽やかな冒険ストーリーに加え、バトルも歌も遊び心もある。とくに目を引いたのが、キャラクターを通して感じる原作への愛だ。囲み会見で「アンサンブルをアンサンブルと呼んでいいかわからない」「全員が役付き」という話もあったのだが、キャスト一覧には登場していないキャラクターたちが多数登場する。原作を知っていると思わずニヤニヤしてしまうこと請け合いだ。
兼ね役で複数の役を演じているキャストも多く、とくにゾルディック家の面々は兼ね役での登場が多い。兼ね役を見つけるのも1つの楽しみなので、ここでは誰がどのキャラを演じているかは明言しないが、初見の際は見逃さないようにぜひステージ上を隅々まで見渡してみてほしい。
たとえセリフが少なくとも、衣装や小道具の細部までこだわりを持って作られ、役者によって命を吹き込まれたキャラクターたちの存在そのものが、作品への没入感を何段階も上げてくれる。原作ファンなら、どのシーンにどのキャラが登場するか、そのチョイスも含めて楽しめることだろう。
主人公としてほとんどのシーンに登場しているのは大友至恩演じるゴンだ。
大友は今年の8月で16歳を迎える。演出の山崎彬は、オーディションで彼の目に惹かれたと会見で話していたが、まさに純粋無垢な目の光が印象的な芝居を見せてくれた。ゴンの紙一重で危うさになりかねない真っ直ぐさが見事に表現され、この作品で成長していきたいという大友自身の思いに、島を飛び出したゴンの姿が重なる。
▲芯の強さと真っ直ぐさが目を引く大友演じるゴン
ゴンと“友達”となるキルアを演じる阿久津仁愛とのバランス感も絶妙。若いながらも数多くのステージを踏んできたベテラン感漂う阿久津の雰囲気が、大友のゴンと並んだ時に、それぞれの持つゴンらしさ、キルアらしさを引き出していた。
▲出自ゆえの鋭さと子どもらしさとのアンバランス感が魅力の阿久津演じるキルア
そんな2人を見守る立場に回ることが多い、お兄さん組のクラピカ役の小越勇輝とレオリオ役の近藤頌利は実は同い年。小越が理知的なクラピカを美しく演じ、近藤が義理人情に厚いレオリオを熱く好演。とあるきっかけで我を忘れて戦うクラピカや、ふとした瞬間に大人の色気を見せるレオリオも見逃せない。
▲ある想いを胸に試験を受けるクラピカ(演:小越勇輝)
▲決めるときはバシッと決めるレオリオ(演:近藤頌利)
謎の奇術師・ヒソカを演じるのは丘山晴己。ビジュアル解禁時からあまりの完成度の高さに大きな話題を集めた丘山のヒソカは、動くとビジュアル以上にヒソカ感が増すのが魅力だ。原作でもいまだ謎多き人物として描かれているヒソカの底の見えなさは、そのまま聡明ながらも掴みどころのない丘山自身に通じ、これ以上ないほどのハマり役と言えるだろう。
自分の“好物”を見つけた瞬間、目の色が変わる恐ろしさはぜひ劇場で味わってみてほしい。
▲ヒソカ色にステージ上を染める丘山の存在感は必見
掴みどころのない気味悪さでは上田堪大演じるイルミも印象的。生身の身体で演じているにも関わらず、生気の失われた瞳に感情の抜け落ちた声といった、無機質な質感を見事に表現。上田をはじめ、ゼノ役の椎名鯛造らは序盤から兼ね役で登場するので、芝居の振り幅をぜひ楽しんでみてほしい。
▲異様な気味悪さ漂う上田演じるイルミ
主人公・ゴンがハンターになってから、この『HUNTER×HUNTER』という物語は大きく動き出す。本作ではゴンとヒソカのハンター試験での因縁をはじめ、クラピカと幻影旅団、レオリオの夢、キルアとゾルディック家の関係など、それぞれが抱えるものの一端が示された。
それらがこの先どうなっていくのか、さらなるゴンの成長とともに見守りたい。そう思わずにはいられない前向きなパワーに溢れる作品で、憂鬱な5月を吹き飛ばしてみてはどうだろうか。舞台『HUNTER×HUNTER』THE STAGEは5月28日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて上演される。
会見レポート
ゲネプロ前に、ゴン役の大友至恩、キルア役の阿久津仁愛、クラピカ役の小越勇輝、レオリオ役の近藤頌利、イルミ役の上田堪大、ヒソカ役の丘山晴己、そして脚本・演出の山崎彬が登壇する囲み会見が実施された。
会見は山崎進行のもと、稽古場エピソードで大盛りあがりに。舞台経験の少ない大友に、山崎は「普段からゴンでいよう」とアドバイスし、周りのキャストもそれを支える形で盛り上げ、稽古場のよい雰囲気ができあがっていったそう。
どんどんアドバイスを吸収する大友を、丘山は「スポンジのようにすべてを吸収できる素晴らしいりんごちゃんなんです」とヒソカらしく表現。レオリオとしてゴンを見守ることが多い近藤は「週刊少年ジャンプの友情・努力・勝利を体現している存在」だと評し、一緒にいることが多いキルア役の阿久津は素直な芝居にキルアとして「うわーっ」と刺激を受けたことを語った。小越は動きの多い大友を気遣って声をかけると「何がですか?」とケロッとした返事が返ってくることを挙げ、そのあっけらかんとした部分にゴンらしさを感じたという。
「多分、キャストで1番僕がメイク部屋にいるんじゃないですかね」と笑顔を見せるイルミ役の上田は、「役によって異なる目線でゴンたちを見れるので、(イルミ含めて3役演じるので)3回分得している気分です」と本編では見られない笑顔を見せた。
最後に、各キャストの初日に向けての意気込みコメントを紹介する。
大友至恩(ゴン役):4月から稽古が始まって怪我なく初日を迎えられたこと、とても嬉しく思います。安全に千秋楽まで迎えられるように、楽しく、皆さんにお届けできたらなと思いますのでよろしくお願いします。
阿久津仁愛(キルア役):本当に素敵な作品に携われること、とても光栄です。『HUNTER×HUNTER』の世界だなと、観るだけで感動できるような、お客さんを圧倒できるような舞台を届けられるよう頑張りたいと思います。初日を迎え、お客さんとどんな化学反応が生まれるのかを楽しみにしています。
小越勇輝(クラピカ役):いよいよ初日の日がやってきたとドキドキしております。ここまでみんなで舞台を作ってきて、ここからはお客さんとともに作品がより素敵なものとして完成していくと思いますので、最後まで全員で走って素敵な冒険をできたらなと思います。
近藤頌利(レオリオ役):初日の幕が開くことが当たり前ではない世の中でしたが、無事こうやって初日を迎えられて嬉しく思います。今日この日から、演劇界がまた盛り上がっていくんだなとなんとなく実感しています。『HUNTER×HUNTER』THE STAGE、楽しみにしていてください!
上田堪大(イルミ役):こうやって囲み会見ができるのもいつぶりだろうというくらい久々で、作品自体は新しいものになりますが、この作品とともに新たなリスタートが切れたような気持ちです。キャスト・スタッフ一丸で作り上げたこの作品で、皆さんとともに冒険していきたいと思います。
丘山晴己(ヒソカ役):りんごちゃんたち、元気にしてた? 素晴らしいキャストと、山崎さんの素晴らしいディレクション、そしてスタッフさんに支えられて、毎日ワクワクドキドキとこの作品に挑んできまして、もう“勝ち”だなと思いました。千秋楽までどれだけ僕たちが進化して輝けるか、この作品を皆さんに広げることができるのか、すごく楽しみにしています。ワクワク♡
山崎彬:僕自身学生の頃から、1話の連載から読んでいた作品で、今日こうして初日を迎えられて嬉しく思います。読んでいるときに感じていたワクワクした気持ちや、ゴンと一緒に冒険に出る感覚を、客席でも味わってもらえればと思って一生懸命作ってまいりました。千秋楽までよろしくお願いいたします。
取材・文・撮影:双海しお
(C)P98-23・『HUNTER×HUNTER』THE STAGE製作委員会
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