レポート

陳内将「カンパニーみんなが魂を削ってきた」 無頼派を中心に描かれる、文劇6【ゲネプロレポート】

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舞台「文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲(ソナタ)」が、2月17日(金)に東京・品川プリンスホテル ステラボールにて開幕した。

本作は、“文劇シリーズ”6作目。初演以来の登場となる織田作之助を中心とした「無頼派」にスポットが当てられる。

2.5ジゲン!!では、初日に先立ちおこなわれたゲネプロの様子を劇中写真とともにレポート。ネタバレにならない程度に「知っておいた方がより楽しめる」観劇前の予備知識にも触れるが、準備をせずにまっさらの初見で感情をかき乱されたいファンは、観劇後にレポートを読むことをおすすめする。

文学作品を守るために、再びこの世に転生した文豪たち。物語は、『蟹工船』の侵蝕から大きく動き出す。侵蝕された本を浄化させるには、本の中へ潜書しなければならない。

しかし、織田作之助(演・陳内将)は、戸惑いを抱えて潜書できずにいた。織田作と坂口安吾(演・小坂涼太郎)を図書館に残し、同じ無頼派である檀一雄(演・赤澤燈)は、中野重治(演・MAHIRO)、徳永直(演・反橋宗一郎)、草野心平(演・佐野真白)とともに『蟹工船』へ潜書する。

浄化が成功し、図書館へと戻った文豪たち。戦いの傷を癒す日々の中で、織田作は檀から、この場に不在の太宰治と過ごした日々のエピソードを聞かされる。しかし、そもそも織田作は檀と初対面。敬愛する太宰のエピソードとはいえ、檀の口から語られるのは自分の知らない太宰のことばかり。“無頼派”としてくくられてはいるものの、生前の太宰には2度しか出会えていない織田作は、檀に劣等感を覚えてしまう。

そこに突如、北原白秋(演・佐藤永典)が現れる。北原は「かつてここではない別の図書館で、太宰とともに文学を守り戦っていた」と文豪たちへ語った。太宰の行方が分かった矢先、突然安吾の身に異変が起きる。そして、安吾の著作である『不良少年とキリスト』から鈍い光が漏れ出して…。

今作では、不在の太宰をそのまま「いないもの」として物語を構成するのではなく、不在だからこその描き方がなされている。太宰が、織田作をはじめとした無頼派の文豪たちに与えた影響、そして、不在だからこそ感じる存在感の大きさ。それらが、転生して存在している文豪たちの言葉を通して伝わってくる。太宰を探し求める織田作の姿は、敬愛する芥川を追い求める太宰のようでもある。

また、太宰が無頼派の中心人物であるのと同じように、冒頭で侵蝕される『蟹工船』の作者・小林多喜二もプロレタリア文学の代表者と言われる存在。双方、中心人物を欠いた状態で話が進んでいく。

ふんわりとした穏やかな空気を持つ織田作だからこそ、内に秘める悲しさ、悔しさ、空虚感がちらりと垣間見える瞬間、思いが胸に刺さる。織田作の太宰への思い、織田作と安吾の友情、織田作と檀の微妙な距離感など、無頼派の心理面だけでも見どころは盛りだくさんだ。

中でも、檀に劣等感を持ち、自信を失った織田作がどのように自らを取り戻していくのかに注目してほしい。

北原の「かつてここではない別の図書館で、太宰とともに文学を守り戦っていた」の言葉に、ピンとくる過去作履修済みのファンは多いだろう。恐らくは予想通りなので、本作を観劇する前にぜひ過去のあの作品を映像で観た上で観劇に臨んでほしい。情緒がどこかに行くこと間違いなしだ。

もちろん今作から入っても大丈夫だが、シリーズとして続いている作品だからこそ、“過去”に何があったのか知れば、より文劇の世界観に没入できる。

また、安吾と言えば「安吾鍋」。今作ではそれに加えて「心平粥」が登場する。これは檀が草野と料理仲間であったことに由来するが、作中では心和む貴重なパートとして取り入れられている。

演出面では「これが観たかった!」の、布に次ぐ布だ。数十人にも見えるスーパーアンサンブルたちが、巨大なものから手旗サイズまで、さまざまな大きさの布を駆使し、紐を使い、紙吹雪を散らせる。潜書の冊数も多いので、侵蝕者たちと文豪の殺陣シーンの多さも大きな見どころ。

今作は特に、扱われている書物の内容が、ストーリーと登場人物たちの行動にそのまま影響を与えていると感じる。『蟹工船』を読んでおけば、潜書したときのプロレタリア文学の面々の表情にぐっとくるであろうし、『不良少年とキリスト』で書かれている内容を頭に入れておけば、この作品が侵蝕された重さとその後の影響が胸に刺さる。

観劇後は、作中でタイトルが出てきた書物を手に取ってみるのもいいだろう。そしてそれらの本を読んでからあらためて観劇すれば、さらなる大きな感情を得られるに違いない。

通常、ソナタは4楽章で構成される。織田作之助、坂口安吾、檀一雄。3人だけではソナタは完成しない。この、未完成かついびつな形で演奏されるソナタがどんな音色を奏でるのか。

上演時間は、ぎゅっと詰まった2時間ほど。ぜひ劇場で、文豪たちの思いの詰まった物語を、ページをめくるように読み進めてほしい。

開幕コメント

織田作之助:陳内将

皆さまこんにちは。織田作之助役を演じます陳内将です! 私自身は第一弾ぶりの出演で、あの頃と変わったものや変わらないものをしみじみと噛み締めながら、ここまでの稽古を重ねて参りました。その中でも、特に今回吉谷さんがこだわられた部分は『生感』なのかな、と思います。用意された台詞ではなく、その場での人と人の会話を当たり前に交わす。音合わせや、色んなきっかけ台詞はもちろん吉谷さん演出ですので多様に用いられていますが、その中でも、ここぞ! というシーンでは、何も気にせずに目の前の相手と生の会話をする。そのメリハリに、温度差に、なかなか精神も擦り減ります。笑 カンパニーみんなが、魂を削ってきた分、お客さまには存分に堪能していただきたい! そして、こんな情勢下ですし、気分の上がらない時もあるはずです。でもね、堕ちていいんだな。って今作を観て思ってもらえたら嬉しいです。だってワシら無頼派は堕落してなんぼやろっ!


檀一雄:赤澤燈

檀一雄役の赤澤燈です。文劇6いよいよ開幕。稽古が始まった頃はまだ気づいていなかった自分の役回りのハードさ。稽古が進んでいき、この「戯作者ノ奏鳴曲(ソナタ)」という作品に深く深く潜書するにつれ、覚悟が決まりここまで来ました。稽古場では演出吉谷さんという名の侵蝕者をぶっ倒してきたので(冗談です)、ここからの公演期間は作品を観劇してくださる皆さんと一緒に作品を守っていけたらと思います。筆を太刀に持ち替え戦い抜きます。


坂口安吾:小坂涼太郎

坂口安吾を演じさせていただきます、小坂涼太郎です。みんなで作り上げたこの作品を、皆さまにお届けるのが楽しみで仕方がありません。熱く、そして楽しい物語になっていますので、楽しみにしていてください!! こうしてゲネプロまで来られたこと、嬉しく思います。無事千秋楽まで駆け抜けられることを願って、最後の最後まで楽しんで演じます! 応援のほど、よろしくお願いします!


北原白秋:佐藤永典

北原白秋役の佐藤永典です。舞台「文豪とアルケミスト」という作品に再び戻ってこられたこと、そして稽古を経てここまで全員無事に辿り着けたことをとても嬉しく思います! この作品の持つ熱さ、力強さ、美しさ、儚さ、醜さすべてを舞台上で皆さんに届けられたらなと。今回のチームでだからこそ魅せられる文劇6の世界を皆さんぜひ劇場で、そして配信でも楽しんでいただきたいです。


中野重治:MAHIRO

皆さま改めまして、中野重治役を担当させていただきますMAHIROと申します。まず初めにこの素敵なステージに立てることがとても嬉しく思います。初めての舞台でこんな素敵な方々と一緒にできる事がとても光栄です! 今回の舞台で私の事を知る方もたくさんいらっしゃると思いますが精一杯頑張りますのでどうぞよろしくお願い致します! 今回のキャストさんやスタッフさんはもちろん、これまでこのシリーズに携わっている方々に誠意を持ってこの役を演じさせていただきます。


徳永直:反橋宗一郎

同じプロレタリアの中野重治演じるMAHIROの舞台初出演となる文劇6。役者人生最高の初日を迎えられるように、こんなに毎日稽古後に残って稽古をするのは初めてかもしれないと思うほど、僕の伝えられることを伝え、それと同時に自分も確認するという時間を積み重ねました。今回出演できるプロレタリア文学代表2名として、その想いを、歴史を、しっかりと舞台に刻みたいと思います。


草野心平:佐野真白

草野心平役の佐野真白です。文劇の世界、初めての参加で不安もありましたが、演出の吉谷さん、座長の陳内さんをはじめ、これまで文劇を支えてくださった先輩方に学び支えられ、皆さまに僕たちの物語をお届けする日を迎えることができました。文学を通し言葉の持つ力を信じ、皆さま1人ひとりの背中を押すような、そんな言葉を僕も紡いでいきたいと思います。心平さん、ぎゃわずとともに。参ります!


取材・文・撮影:広瀬有希

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公演情報

タイトル

舞台「文豪とアルケミスト 戯作者ノ奏鳴曲(ソナタ)」

公演期間・劇場

2023年2月17日(金)~2月26日(日)
東京・品川プリンスホテル ステラボール

2023年3月3日(金)~3月5日(日)
大阪・森ノ宮ピロティホール

原作

「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)

監修

DMM GAMES

世界監修

イシイジロウ

脚本

なるせゆうせい(オフィスインベーダー)

演出

吉谷晃太朗

音楽

坂本英城(ノイジークローク)

出演

織田作之助:陳内将
檀一雄:赤澤燈
坂口安吾:小坂涼太郎
北原白秋:佐藤永典
中野重治:MAHIRO(BUGVEL)
徳永直:反橋宗一郎
草野心平:佐野真白

主催

舞台「文豪とアルケミスト」6製作委員会

公式HP

http://bunal-butai.com/

公式Twitter

@bunal_butai

(C)2016 EXNOA LLC / 舞台「文豪とアルケミスト」6 製作委員会

WRITER

広瀬有希
							広瀬有希
						

金融・印刷業界を経てフリーライターへ。エンタメメディアにて現場取材・執筆の他、日本語・日本文化教育ソフト監修、ゲームシナリオ、ノベライズなどで活動中。感動が伝わる文章を目指して精進の日々を送っています。

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