レポート

突如として閉じ込められた4人の人間の会話劇から想起させる鈴木茉美の現在地 『点滅』ゲネプロレポート

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12月7日(水)東京・サンモールスタジオにて、劇団アレン座 第九回本公演『点滅』が開幕した。

竹中凌平が2022年4月に加入し、來河侑希が主宰する劇団アレン座。今回の公演は初の劇団員4人のみでの公演で、演出・脚本はアレン座の座付作家である鈴木茉美が手掛け、栗田学武、磯野大、竹中凌平、來河侑希が出演。なおかつ都内3カ所の劇場で上演するというの初の試みともなっている。

2.5ジゲン!!では、初日に先立って開催されたゲネプロと、ゲネプロ後のショートインタビューをお届けする。

※以下、ストーリーや演出内容に触れるネタバレあり。

1年が終わろうとしている年の瀬に、突然1つの空間に閉じ込められた男性4人。4人はなぜ閉じ込められてしまったのか、理由が分かっていない。

ただ「いい人間を1人選ぶ」というミッションを与えられ、何をどうすればいいのか分からず、ディスカッションをしながらあらゆることにチャレンジするが、事態は何も変わらない。

そもそも4人は、閉じ込められた空間から外に出たいと強くは思っていない。そこが、脚本の鈴木茉美の独特のセンスであり、生きることに執着のない4人を物語の中心に置いている。そこから見えてくるものは鈴木茉美の見つめる、現代の人々であり、世界である。

要約すると生きていくことは大変なことが多い。そうであれば、生活するのに不自由のないこの空間に留まり、このまま4人で住んでいけばいいのではないか…と。そんなことを感じている4人の男たちの物語だ。しかし閉じ込められる前は、それぞれの人生があり、家族があった。知らず知らずのうちに4人は自分の人生を振り返ることになる…。

出演者4人は、最初から最後まで、それぞれ独自のキャラクターを確立してぶれることなく演じていた。

竹中が演じる川上は“今どきの若者”の典型で、少々生意気で憎たらしい。「人をイライラさせる」雰囲気を醸し出しているところが上手い。そして、それに乗せられるようにイライラするのは磯野が演じる広田だ。「俺って〇〇じゃないですかーって、何で今どきの若いヤツって、まわりの人間が自分のことを理解しているかのように言うんでしょうね!!」と叫ぶ広田に、大きくうなずく大人は多いだろう。

そんな広田を「大人なんだから」となだめる栗田が演じる一ノ瀬。まわりをまとめる明るさをよく出しており、普段は無口なのだが、ここぞというときに、映画を例えに哲学を語る來河が演じる藤野は、独特の雰囲気を醸し出している。

「どこかの空間に閉じ込められる」というのは、現実ではあまりありえないできごとだと思うが、4人が会話をしている内容を聞いていると、観ている側に「どこかで似たようなことを感じたことがあるな…」と思わせるところがある。鈴木が書く脚本は、普段言語化することはないが、現実味のある本心が見え隠れしているからだ。

「もしかして、外で第三次世界大戦が起きているんじゃないか?」と言ってみたり、「実は俺たち4人がおかしいのかな? 心が病んでいるのかな? それって1番怖いよね」と言ってみたり…。1つひとつのセンテンスから、意外な方向に広がっていく4人の会話が実に面白い。

物語では、4人が置かれている現実だけでなく、それぞれの過去のできごとがフラッシュバックする。つまり栗田、磯野、竹中、來河の4人は、複数の役を演じるところも見どころの1つであり、舞台に緊張感を持たせている要因ではないだろうか。

最終的に、4人は「いい人間」を見つけ出すことができたのか? 何か答えを出すことができたのか? 含蓄のある結末をしっかりと見届けてほしい。

***

ゲネプロ終了後、出演者の4人にお話を伺うことができた。

――ゲネプロを終え、今のお気持ちをお聞かせください。

栗田学武:ようやく幕が開くんやなという実感がすごいあります。この企画をやることになってから時間が結構経っていますし、劇団員4人で年末にロングランの公演をやるということも含めて、初めてづくしの公演です。特に劇団員4人と脚本・演出の(鈴木)茉美さん含めて5人だけで作品を作るのは初めてです。思い返してみると、企画が始まってからすごく長い時間が経ちましたが、実際はあっという間にこの場に立ったというような気がしています。

ゲネプロをやって、感じたことがいろいろありました。劇中の言葉や稽古では感じられなかったものがたくさんあって、それはお客さんが入るということを意識したからなのか、客観的に自分のことや作品自体を見ることができたからなのか、分からないのですが…。

僕の感覚なんですけど、この作品は今の劇団を表してるような部分も少しあったりして、みんなの言葉が僕の中ですごく救いになりました。こういう気持ちになれたのは、実はゲネプロだったんです。多分本番を重ねるごとに、感じるものは毎度毎度新しくあるのかもしれないなってすごく思っています。ようやく舞台に立てたという実感と、何か新しく自分の中で変化していくという喜びを感じたゲネプロでした。

磯野大:僕は逆にまだ実感がわいていないというか、お客さまをお迎えしたときにどうなるのかなと思っています。やることは変わらないんですけど、お客さまの熱量によっても、空気は変わるでしょうし…。ただ舞台上にはこの4人しかいないので、4人を信頼して本番を迎えるしかないんだなっていうところは、今ゲネプロをやっていて思いました。

観ていただいてわかると思うんですけど、セットチェンジや役のチェンジがとにかくすごいんです。1人でも欠けたり、崩れちゃったりすると、ダダダ…っとなってしまうので、そこの緊張感は常に持っています。ロングランなので気を抜かずに最後まで走り抜けていけたらと思います。

竹中凌平:やっとスタートするなという気持ちです。年末までの長丁場、しっかりいいものを届けたいと思います。お客さまに作品の意図がしっかりと届けられるように、地に足をつけて4人でお芝居をしたいと思っています。

また、昨日劇場入りして舞台セットを見て、言葉にならないぐらい素敵なものができ上がっていたので、飲み込まれないように、しっかりと芝居をしたいと思います。

來河侑希:今回の作品は、劇団アレン座のメンバーだけで稽古をやってきました。制作も外部の人はいませんし、カメラマンもデザイナーもすべて劇団内の人です。技術スタッフの皆さんは外部の方ですが、演出家も座付きの作家ということで、稽古場から自分たちがやりたいと思っている作品をやらせていただいています。とにかく芝居のことだけを考える1カ月と1週間を過ごしてきました。そして今日、朝から準備してゲネプロをやらせていただいて感じたんですけど、純粋なものが舞台上の空気として流れるということを実感しました。

皆がまっすぐ、ただ芝居だけに向き合う、何も気を遣わなくていいという感覚はやっぱりいいなと思いましたし、こういうものを劇団としてずっと作り続けていきたいなと、今日ゲネプロをやってラストシーンぐらいで感じました。こういう作り方が増えていくと、もしかしたら少しずつ演劇でいい空気が流れていくのかなと個人的に感じたゲネプロでした。

――いよいよ初日の幕が上がります。公演にかける意気込みをお願い致します。

栗田:出演するのは劇団員の4人だけではあるんですけど、その裏にもちろん(演出・脚本の)鈴木や制作さんがいたり、そして技術スタッフの皆さんがいたりします。

すごくありがたいことに劇団員以外の方もこの作品に前のめりに取り組んでくださっているんです。どんどん皆さんのアイディアが積み重なって、この『点滅』がようやく初日を迎えることができます。まわりのスタッフの皆さんの気持ちを乗せて、僕たちは演じさせていただきたいと思っております。力を皆さんにお渡しできたら嬉しいなと思っておりますので、劇場でお待ちしております。

磯野:簡単な言葉になってしまうんですが、みんなここまで本当に命を懸けてやってきたと思いますので、ぜひ観てほしい。本当に観てほしい。長丁場になりますが、お客さまが観てくださらないと、僕たちはずっと板の上で、ただやり続けるだけになってしまうので、本当に観てほしい!! もうこれだけです。

竹中:僕自身、2022年最後の舞台になるので、観てくれるお客さまの中にもきっとそういう人がいると思います。この作品を観て「やっぱり演劇っていいな」とか「2022年はいい1年だったな」と思ってもらえるように頑張りたいと思いますし、また新しい1年に向けて頑張ろうと思ってもらえるような作品になっているので、気軽にたくさん観に来てください。

來河:ロングラン公演で僕たちがやりたいことは、舞台『点滅』がどれだけの人に伝染していって最終的に満席になるかどうかということです。僕らの今の状況ですと、いきなり全部満席というのはなかなか難しいと思います。でもロングランをやるということで、口コミが広がっていって、お客さまがお客さまを呼ぶ現象が起こったらいいなと思っています。

まだまだ文化、舞台の灯は消えていないぞということを、僕たちが証明できるような結果にできればとてもいいと思います。長丁場ですが最後まで怪我なく乗り切りたいと思っております、よろしくお願いいたします。

***

舞台『点滅』は、12月11日(日)まで東京・サンモールスタジオにて、20日(火)~24日(土)に東京・アトリエファンファーレ高円寺、27日(火)~31日(土)に東京・小劇場楽園で上演する。

取材・文・撮影:咲田真菜

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公演情報

タイトル

劇団アレン座 第九回本公演「点滅」

公演期間・劇場

2022年12月7日(水)~12月11日(日)
東京・サンモールスタジオ

2022年12月20日(火)~12月24日(土)
東京・アトリエファンファーレ高円寺

2022年12月27日(火)~12月31日(土)
東京・小劇場楽園

出演

栗田学武
磯野大
竹中凌平
來河侑希

公式HP

http://allen-co.com/allen-tenmetsu/

公式Twitter

@Allen_suwaru

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