10月28日(金)東京・こくみん共済coopホール/スペース・ゼロにて、舞台『青の炎』が初日を迎える。
今作は、1999年に貴志祐介が発表した『青の炎』の初の舞台化。演出は、俳優のみならず、近年演出・演出補佐などで活躍している加古臨王が手掛ける。
主人公の高校生・櫛森秀一を演じるのは北村諒、秀一の同級生で彼に心を寄せる女子生徒・福原紀子を飯窪春菜、秀一の幼馴染でありながら不登校になってしまった同級生の石岡拓也を田中涼星が演じる。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ち開催された取材会とゲネプロのレポートをお届けする。
取材会レポート
取材会には北村諒、飯窪春菜、田中涼星、松永有紗、田中良子、村田洋二郎、荒木健太朗の全キャスト7人が登壇した。
初日を迎えるにあたり、意気込みを聞かれた北村は「原作を知っている方にも知らない方にも楽しんでいただける作品づくりをしてきたつもりです。小説の空気感を大切に演出の(加古)臨王さんは作ってくださったので、小説ファンの方にも楽しんでもらえる作品になっていると思います。今後の役者人生を変えるような力を持っている作品に挑んでいます。観に来てくださった方のその先の人生の意識が変わるようなメッセージが届けられるパワーがある舞台ですので、ぜひ劇場に足を運んでください」と力強く語った。
続いて飯窪は「原作の貴志祐介先生のファンなので、この作品に出演できることがうれしいです。約20年前に映画化された時は、先輩の松浦亜弥さんが同じ役を演じられました。今同じ役ができることに縁を感じつつも、変にプレッシャーを感じずに私らしい福原紀子を演じたいと思っています。今後の人生でいつ『青の炎』が舞台化、映画化されるか分からないので、自分が参加できる最初で最後のチャンスだと思って大切に演じたいと思います」とコメント。
田中は「キャストは7人なので、スタッフさんを含めてみんなで作っている作品なんだと感じます。観に来てくださる皆さんは、観ている間ずっと思考し続けるのではないかと思っています。この作品の醍醐味、舞台の空間や演出など、色々感じながら楽しんでいただければと思います。最後まで全員で頑張ります!」と答えた。
2.5ジゲンから「ここは頑張った! と思うところを1つ挙げるとしたら?」と質問をすると、北村は「頑張ってせりふを覚えました。想像の500倍ぐらいせりふが多かったので…」とコメント。共演者からは「秀一役はそうだよね」と納得の声が上がる。
北村は続けて「せりふのことはもちろんですが、シンプルに言えば、みんなにいじめられながら(笑)秀一を精一杯生きるということを頑張っています」と答えた。
飯窪は「全部頑張っていますが、今回は出演者が7人だけということもあって、キャスト1人ひとりの団結力が大事な舞台になっています。皆さんとコミュニケーションを取ることを頑張りました」とコメント。
田中は「僕は合計3役演じ、それぞれ秀一にポイントとなる渡しの役割があります。それがきちんとできるように自分なりに考えながら演じました」と笑顔で答えた。
ゲネプロレポート
以下、ストーリー、演出内容に触れるネタバレあり。
青のライトが照らされた舞台は、前面だけでなく両サイドにも観客席があり、出演者は3方向から視線を浴びることになる。バックにはスクリーンが設置され、主人公の櫛森秀一(演:北村諒)の動きに合わせて映像が変わり、彼が語るせりふの中にある単語が映し出される。膨大なせりふ量が、そこに映し出される単語の数を見ることでじわじわと観る側に迫ってくる。
そして北村は最初から最後まで、舞台に出ずっぱり。1度もはけることなく舞台上に存在し、他の出演者たち6人も常に舞台の各所から北村が演じる秀一を眺める構図となる。これはあたかも秀一が行おうとしている完全犯罪を「見逃してなるものか!」と監視しているように見える。
演出の加古は「舞台でしかできない『青の炎』を作りたい」と語っていたが、こうした演出方法は、まさに舞台ならではだと感じた。
秀一は、成績優秀で美術部に所属する高校生。母親と妹と3人で暮らし、家計を支えるべく深夜のコンビニでアルバイトをしている。そんな秀一の家に、母親の元夫・曾根隆司(演:村田洋二郎)が転がり込んで居座ってしまったところから物語は始まる。
酒癖が悪く怠け者、女性関係にだらしがない曾根が疎ましくて仕方がない秀一。弁護士に相談したり、母親の友子(演:田中良子)に何度も追い出すように言ったりするが、上手くいかなかった。曾根が妹の遥香(演:松永有紗)に危害を加えることを恐れた秀一は、曾根を殺害する完全犯罪を企てる…。
秀一を演じる北村は、難しい役どころを体当たりで演じていた。母親や妹に向ける優しい笑顔、秀一に心を寄せる同級生の福原紀子(演:飯窪春菜)に対する男子高校生らしい素っ気ない態度、また曾根に対する憎しみにあふれた表情など、今回の役でさまざまな「顔」を見せてくれる。
取材会で「役に挑んでいる」と語っていたが、膨大なせりふ量とともに、秀一役の難しさは観ている側も容易に理解できる。観客は、常に舞台上に居る秀一が間違った方向に転がり落ちていく様を、固唾を飲んで見守ることになるのだ。
そんな秀一に心を寄せる女子生徒・紀子は、ひとたび舞台上に登場するとパッと明るくなるオーラがあるのだが、そのまぶしさが秀一の陰の部分をより際立たせる。飯窪が演じる紀子は、正義感が強くはつらつとしているが、秀一への一途な想いをなかなか打ち明けられないシャイな一面もある。秀一と話している時のウキウキした紀子を見ていると、高校生の頃に好きな男子と話している時に感じた、なんともいえない高揚感を思い出させてくれた。
そして秀一に大きく絡んでいく3役を演じるのが、田中涼星だ。秀一が相談する弁護士、秀一のクラスメート、そして秀一の完全犯罪を目撃してしまう幼なじみ・石岡拓也を演じる。3役とも全く色の違う役どころとなるが、それぞれメリハリをつけて演じ切っていた。秀一の犯罪を目撃し、それをネタに秀一を脅す拓也を演じる田中のワルぶりはなかなかのものだ。
秀一は拓也を親友だと思っていたが、実は幼い頃から成績優秀な秀一にコンプレックスを抱き、憎しみに似た感情持っていた拓也。そんな高校生ならではの複雑な心の動きを長身の身体を使ってダイナミックに表現していた。脅していた秀一にあっという間に殺されてしまうところが惨めで切ない。
そんな2つの殺人を犯してしまった秀一は、山本(英司)警部補(演:荒木健太朗)にじわじわと追い詰められていく。完全犯罪を企てたと思っていた秀一だが、1つほころびを見せると瞬く間に崩れ落ち、プロの鋭い洞察力をかわすことはできなかったのだ。
秀一は、ほかに取るべき方法はなかったのだろうか。舞台を観ながら思わず考えてしまったことだ。秀一が殺した曾根は、実は末期がんで余命いくばくもなかったことが明らかになった。つまり秀一が手を下さなくても、曾根は近い将来、この世を去っていたのだ。
その事実を曾根は生前、妹の遥香だけに伝えていた。遥香がもっと早くそのことを秀一に伝えていたら…。そして曾根を殺害しなければ、当然拓也を殺すこともなかったわけだ。
山本警部補に出頭することを促され、最後に大切な人へお別れを言わせてほしいと言って向かった先は紀子だった。殺人を犯した秀一に「君は悪くない!」と励ます紀子の姿はとても切ない。そしてそんなふうに励まされる秀一は、もっと切なかったに違いない。
観客はそんな秀一を重苦しい雰囲気の中、最後までじっくりと見届けることになる。秀一に寄り添いながら感じることは、きっとそれぞれ違うことだろう。
舞台『青の炎』は10月28日(金)~11月6日(日)、東京・こくみん共済coopホール/スペース・ゼロにて上演される。
取材・文・撮影:咲田真菜
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