4月5日(金)東京にて幕が開け、4月21日(日)京都にて千秋楽を迎えた「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」。
先日はゲネプロと囲み取材の速報記事をお届けしたが、今回はより詳細な見どころをお伝えしようと思う。
※前回の記事はこちら
鬼と人の生き様に心震える「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景篇」ゲネプロ&囲み取材レポ
受け継がれるものと新しいものが混ざり合う“志譚”
志譚の名を冠して2作目となる今作。これまでのシリーズのなかで生まれてきたものを大切にしていることを感じさせる演出の数々に加え、風間千景という宿命を背負って生きる男に新たな意志と希望を与える物語に筆者は感じた。
風間千景を演じる主演の中河内雅貴。囲み取材でかつてこの劇場で出演した2.5次元ミュージカルについて触れ、感慨深げな様子を見せていた。そんな彼の演じる風間千景は、静かな炎を胸の内に抱えているようだった。
生まれ落ちたときから背負う宿命。決して楽ではない己の生きるべき道を、彼は理解し受け入れ、“本物の鬼”としての誇りをその歌声に滲ませていた。
鬼は鬼、人は人。彼は毅然とした線引きをしていたように思う。
だからこそ、人であるか、鬼であるか、そしてどう生きていきたいのか……それらを選ぶことができる千鶴や新選組隊士たちに投げかけられる言葉があるのだろう。問いかけるように発せられる台詞は、ぜひ注目してほしいポイントだ。
風間の言葉に込められた感情に想いを馳せることで、このミュージカル『薄桜鬼 志譚』ならではの、中河内雅貴だからこその風間像がみえてくるのではないかと思う。
▲風間の言葉は静かで、そして重い
背負う誠の旗印、新選組の見どころ
風間千景の在り方や考え方を際立たせていたのは、新選組の存在だ。彼らひとりひとりの決断と信念が、この「風間千景 篇」に重みをもたらしていた。
歌唱力・殺陣ともに磨きがかかっていた土方歳三役の和田雅成、儚げな流し目が美しい沖田総司役の山﨑晶吾、一番に千鶴に声をかけにいく人懐っこさ抜群な藤堂平助役の樋口裕太、低音での歌声が格好いい永倉新八役の岸本勇太、身体能力が忍級な山崎 烝役の椎名鯛造、異質な存在感を放つ山南敬助役の輝馬。
そして、「薄ミュ」で近藤 勇を演じ続けている井俣太良率いる続投キャストを、ファンも安心して観られるだろう。
▲3人揃うとその元気のよさと可愛さに頬が緩む
今回新キャストとなった赤澤 燈演じる斎藤 一は喋り方のクセが原作に近く、流れるような殺陣が美しかった。
水石亜飛夢演じる原田左之助は槍裁きが見事で、藤堂や永倉とのトリオ感もバッチリ楽しめた。今回新たに生まれた新選組の様子は、ぜひ映像でも確かめてみてほしい。
▲斎藤の冷静な瞳が印象的
風間千景 篇ということで、新選組はより人間ドラマとしての側面が濃くなっている。激動の時代に生きた者たちが、それぞれどんな信念を抱いていたのか。恋愛が絡まない分、人として、武士としての思いが浮き彫りになっている。
▲山崎が千鶴に語るものは一体
囲み取材で赤澤は新選組のシーンについて「いいとこ取りのダイジェスト」と表現していたが、まさにその言葉通りの内容となっている。それぞれに見せ場がきちんと用意されているので、出演キャストは多いがそれぞれのファンもしっかり楽しめるだろう。
▲誠の旗印を背負い、近藤はなにを決断するのか
同時に、ハンカチなしでは観られないシーンも。信念に突き動かされて下される決断は、必ずしも幸せなものではない。
それが曲げられない思いだと分かっていてもなお、目の前でそう生きることを選択する瞬間は胸に刺さるものがあった。
▲己が選び取った未来へと突き進んでいく
圧倒的な歌唱力とスタイリッシュな殺陣シーン
初めて観る人はすべてが新鮮で楽しめるし、シリーズのファンは「ここ!」というところでピタッと懐かしい楽曲がくるのでかなり滾るだろう。とくにそれぞれの信念を込めて歌う2幕での歌唱シーンはいずれも熱い。
歌唱シーンで心ゆさぶられるのは、主演の中河内雅貴、ヒロイン・雪村千鶴を演じる本西彩希帆をはじめ、全キャストの歌唱力が抜群だからだ。上記に2人に加え、山南敬助役の輝馬の鬼気迫る歌声は圧巻。
天霧九寿役の兼崎健太郎、不知火 匡役の末野卓磨、雪村綱道役の川本裕之も歌唱力は抜群。拳で戦う天霧に男気を感じ、不知火の美しい背中に視線を奪われるだろう。
▲大人の色気漂う3人の立ち姿
殺陣は冒頭から見応えがある。手数が多く迫力があるというのもあるし、なんといっても散り際が美しい。
▲息をつく暇がないほど、殺陣に圧倒される
ステージには長時間、桜が舞い散る。
降り積もった花びらは、戦闘シーンで役者の動きに合わせふわりと舞い上がり、上から降ってくる花びらとあわさって幻想的な瞬間が生まれる。
▲隊士の手からこぼれ落ちる桜
ステージ上のこの光景を目にしてからの帰り道、ふと見上げると目に入る本物の桜が風に舞い散る景色。花びら1枚1枚に、風間千景の、雪村千鶴の、そして新選組隊士たちの思いが重なって、無性に泣きたい気持ちになってしまった。
桜の季節に観られる「薄ミュ」は、それだけで特別なのだと思う。帰り道も最高に余韻を楽しむことができた。
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