9月30日(金)、東京・天王洲 銀河劇場で『ダイヤのA』The MUSICALが開幕した。同作は、寺嶋裕二『ダイヤのA』(講談社「週刊少年マガジンKC」刊)のミュージカル化作品。2020年6月に上演が予定されていたが新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて公演は中止に。2年の時を経て、このたびついに上演へ。
自らの暴投によるサヨナラ負けで中学野球を終わらせてしまった投手・沢村栄純(演・糸川耀士郎)は、西東京の名門・青道高校にスカウトされ進学。先輩や仲間たちとともに甲子園出場と全国制覇を目指す。果たして沢村は、青道高校で「エース」となり、全国制覇の夢をかなえられるのか…。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ちおこなわれたゲネプロの様子を、多くの写真とともにレポートする。
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原作『ダイヤのA』の魅力は何といっても、普通の高校球児たちが夢に向かってひたすら鎬(しのぎ)を削り合うリアルな姿だろう。朝練、放課後練、夜の自主練。ただひたすら毎日走り、バットを振り、ノックを受ける。実に泥臭く、地味な努力を積み重ねる。
本作もまた、大がかりな映像効果やセットチェンジはなく、ストーリーを丁寧に追い、役者それぞれが演じる人物の背景をきちんと感じさせてくれることによって、『ダイヤのA』の作品としての魅力が伝わってくる。
登場人物同士のふとした会話の中にも、原作ファンであれば思わずにやりとしてしまうものがうまく挟まれている。また、アニメの要素を取り入れた部分もあり、原作・アニメ両方への高いリスペクトを感じた。
テンポよくストーリーが進みながらも、名シーンはこぼすことなくきちんと拾い上げている。積み上げてきた3年生たちの絆、過去を感じさせるクリス(演・百成瑛)と財前(演・高田舟)の関係性…。欲を言えば、財前率いる黒土館高校との試合も含めてもっと試合のシーンが観たくなってしまうが、舞台が続いていけばこの先は死闘の連続だ。心して待ちたい。
沢村栄純を演じる糸川耀士郎。丸く大きなつり目、大きな口。表情豊かで常に全力な沢村を全身で演じている。本編の2時間と少しの間だけでも、天才捕手・御幸一也(演・小波津亜廉)や師匠・クリス、ライバル・降谷 暁(演・樫澤優太)らとの出会いによって大きな成長と変化を見せてくれた。今後もぜひとも、力強く成長していくさまを追って行きたい。
赤城中学の仲間や、同学年の小湊春市(演・阿部大地)、降谷らと一緒にいるときはのびのびと、先輩たちに囲まれているときは後輩としての顔になり、そして寮で同室の2人(倉持洋一/演・北澤優駿、増子 透/演・皇希)といる時は末っ子らしさを感じる。監督(片岡鉄心/演・横山真史)に対しての強気とビビリっぷりの差にもぜひ注目してほしい。
沢村のチームメイトでありライバルの降谷 暁を演じるのは樫澤優太。クールなように見えて、ふわふわとした中にも寂しさと“何が何でもここで野球をしたい、エースになる”という強い意志を持つ降谷を好演。特に、中盤での御幸との歌は胸に迫るものがある。
人を食ったようなひょうひょうとした性格。しかし野球に対する思いは非常に強く、勝利のためにはとことん貪欲な御幸を演じるのは小波津亜廉。まず顔面の良さでねじ伏せてきた後は、くるくる変わる表情や天才捕手らしいクレバーなリード、ふと見せる激情などで観客の心を掴む。序盤のソロの歌詞に、御幸のキャッチャーとしての思いが詰め込まれているので、聞き逃すことなく耳を傾けてほしい。
沢村がこれまでより1段高いステージを目指すきっかけを作り、導く存在となったクリスを演じるのは百成瑛。クリス自身も沢村によって救われ、ストーリーが進むにつれて強い絆で結ばれていくさまは観ていて胸が熱くなるだろう。淡々とした中にも愁い(うれい)を帯びた表情、丹波(演・武藤賢人)といる時の穏やかな空気など、注目ポイントが盛りだくさんだ。
また、主将・結城哲也(演・田鶴翔吾)、副主将・伊佐敷 純(演・末野卓磨)、エース・丹波ら“結城世代”3年生、兄弟である小湊亮介(演・廣野凌大)、小湊春市(演・阿部大地)、にもしっかりと見せ場が用意されている。高島 礼(演・岩井七世)、片岡監督、東(演・吉田英成)も、原作からそのまま出てきたようなビジュアルで舞台に立つ姿には息をのむだろう。
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悔しい公演中止から2年。カンパニーは、歌も芝居もブラッシュアップしてこの公演に臨んだという。おりしも原作では大きな節目を迎え、青道がまた新たな一歩を踏み出したばかり。このタイミングで本作が初日を迎えたのには、偶然というひとことでは片づけられないものを感じる。
上演時間前から、場内は野球スタンドの雰囲気でいっぱいだ。ぜひ、少し早めに到着して気分を高め、観戦に臨んでほしい。
キャストコメント
・開幕直前の今の心境は?
沢村栄純(さわむら・えいじゅん)役:糸川耀士郎
2年前に中止が決まった舞台がもう1度始動できるのは、たくさんの方々の尽力があったからだと思います。当時は野球の大会なども中止になりました。今、自分がこうして舞台に立てていることは当たり前ではないなと思いますし、こうやって集まって、部活を思い出すような熱い稽古ができたと思うので、はやくお客さまの前でお見せしたいなという気持ちです。
降谷 暁(ふるや・さとる)役:樫澤優太
2年前に中止になった時には本当にショックでした。ただ、この2年間という時間を経て、各々が成長してこの場所に帰ってこられたと思います。初日を迎えるにあたって、全ての方に感謝をしていますし、大千秋楽まで全力で届けていきたいなと思っています。
御幸一也(みゆき・かずや)役:小波津亜廉
(糸川・樫澤の)2人からもありましたが、本当にこの難しい状況の中で初日を迎えられることがとてもうれしく思いますし、改めてたくさんの方のご尽力があってこの場所に立てているんだなということを実感しています。そして、たくさんの方に『ダイヤのA』の素晴らしさ、野球の楽しさ、エンタメの良さを感じていただければなと思います。全力でがんばりますので、応援のほどどうぞよろしくお願いします。
小湊春市(こみなと・はるいち)役:阿部大地
2年とちょっと越しの初日です。この期間は、高校生が部活で野球をしている期間と同じくらいだと思うんです。野球をがんばっている高校生たちにも負けないように、気合いで全公演がんばっていきたいと思います。よろしくお願いします。
・見どころや好きなシーン、楽曲は?
小湊亮介(こみなと・りょうすけ)役:廣野凌大
見どころは全部です! しいていうなら僕が演じる亮介と、弟の春市とのシーンがあるので、そちらを見ていただけたらとは思うんですが、見どころとしては全部です!
滝川・クリス・優(たきがわ・くりす・ゆう)役:百成瑛
沢村が誰に出会って、何によって真のエースになっていくのかが、『ダイヤのA』The MUSICALの軸になっていくと思いますので、その成長が見どころかなと思います。好きな曲は降谷と御幸の曲です。
結城哲也(ゆうき・てつや)役:田鶴翔吾
野球といえば円陣が欠かせないと思いますが、今回はそれが楽曲になっています。
本当は客席から「王者青道」と叫んでほしいのですができないので、劇場に来てくださった方はぜひとも心のなかで、配信をご覧の方はおうちで叫んでいただければと思います。
片岡鉄心(かたおか・てっしん)役:横山真史
見てほしいポイントは俺です! …冗談です。(笑)高校生を演じているキャストたちが流す汗は噓をつかないし、美しいものだなと思います。それだけでも感動しますし、もちろんここにいるメンバーだけじゃなくて、アンサンブル含め全員でダンス・歌の一つつひとつを素敵に繊細に描いていますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。
・2年の間を経て、できるようになったことは?
沢村栄純 役:糸川耀士郎
僕は確実にフォームがきれいになっています。野球経験がない中で、左投げのキャラクターというのが1番不安だったんですが、2年前から知り合いの役者さんにもフォームを教えてもらったり、稽古場でも横さん(横山さん)中心に色々と教えてもらったりしたので、絶対にその点は磨けていると思います。
・お客さまへのメッセージ
沢村栄純 役:糸川耀士郎
通し稽古を積み重ねて公演に臨みますが、何度やっても胸が熱くなりますし、2回、3回とみていただいても新鮮な発見がきっとあると思います。僕たちも今しかない熱量を全力で届けていきますので、みんなの勇姿をぜひ劇場でご覧いただければと思います。劇場で待ってます!
取材・文・撮影:広瀬有希
(C)寺嶋裕二・講談社/「ダイヤのA」The MUSICAL 製作委員会
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