7月30日（土）、畠中恵「しゃばけ」シリーズ Presents シャイニングモンスター 2nd STEP～てんげんつう～ が、東京・浅草花劇場で開幕した。同作は、2021年3月に公演がおこなわれたシャイニングモンスター ～ばくのふだ（Shining編／Shadow編）～に続く第2弾。今作は「しゃばけ」シリーズより「てんげんつう」を原作にしたストーリーが繰り広げられる。
2.5ジゲン!!では、初日にさきがけ行われた公開ゲネプロと囲み会見を取材。長崎屋の若だんな・一太郎と彼を囲む妖（あやかし）たちが描くハートフルな舞台と、和気あいあいとした会見の様子をレポートする。
以下、ストーリー、演出内容に触れるネタバレあり。
今日も相変わらず病弱な長崎屋の若だんな・一太郎（演・前川優希）。店番をしたいと申し出ても、仁吉（演・井澤勇貴）と佐助（演・小沼将太）に心配され、離れでおとなしくしているようにと止められてしまう。古くからいる屏風のぞき（演・瀬戸祐介）、猫又（演・柳沢卓）、そして時々アマビエ（演・真城めぐみ）とともに、わいわいと賑やかに、そして穏やかに日々を過ごしていた。
そんなある日、一太郎のもとに1通の手紙が届く。そこには「昼過ぎから雨になるから、店先の商品をしまっておくように」と書かれていた。するとじきに手紙に書いてあるように雨が降りだした。この不思議な手紙を送ってきたのは誰なのか。
そんな矢先、長崎屋に1人の男がやってきた。彼はてんげんつう（天眼通／千里眼）を持つ男（演・加藤将）であり、手紙の主だという。男は、一太郎に頼みがあると言い出す。男の頼みとはいったい何なのか。そして、一太郎らは彼の頼みと望みをかなえられるのだろうか。
2作目となった“シャイモン”。第1弾と同じく、歌ありダンスあり、ファンキーでパワフルなのにほろり人情でハートフル…と盛りだくさんだ。しかし観ていてうるささや忙しなさは感じない。しっとりと見せるところは見せる、盛り上がるところは盛り上がる、とメリハリがきいており、どの場面でも役者たちが実に生き生きと楽しそうに芝居をしているからだろう。
時事情勢ネタあり、劇場地元・浅草ネタあり、CATSあり金八ありと今回も笑いどころが数多い。大いに笑って手拍子をして心ゆくまで楽しめるとともに、てんげんつうの男や一太郎の持つ悩みに涙し、最後には心が温かくなる作品だ。登場人物も絞られているからこそ、1人1人の背景が見えてくる。特に今回は、一太郎と屏風のぞき、そして仁吉の心情に注目して観てほしい。
上演時間はぎゅっと詰まった100分の予定だが、役者たちのノリによっては今回も少々延びるかもしれない。なお、情報収集の手振りダンスは今回もあるので、DVDを持っているファンは予習をしていくことをおすすめする。もちろん初めてでも大丈夫だ。
また、浅草花劇場は非常に舞台と観客席の距離が近い。3、4列目でも大きめの劇場の最前列くらいの近さだ。この距離で芝居をするとなると、観客席の反応がよりダイレクトに伝わるだろうと筆者は感じた。昨年、演出の錦織一清にインタビューをした折「大事にしているのは劇場でのお客さんとの呼吸」と錦織は語っていた。
ここで大きく感情が伝わる、息をのむ、笑いが起きる…そういったものを近くで感じれば感じるほどに、舞台は毎日、生きたものとして違うものを見せてくれる。本作は特にその意味でも、毎日の上演がより楽しみになる作品になるに違いない。ぜひ、何回でも観てそのたびに違うものを受け取ってほしい。
ゲネプロ最後には、座長の前川から「本当にあっという間の稽古でした。とても素敵な作品になっていると、自信を持って言えます。客席からたくさんの反応をいただけて、こうして幸せの環（わ）はつながっているんだなと感じました。とても役者冥利に尽きます」と挨拶があった。
あたたかさと優しさに包まれたこの世界に触れれば、劇場を出てから見る浅草の風景が少し違ったものに見えるかもしれない。公演は8月4日（木）まで、東京・浅草花劇場にて。なお、平日限定で公演後にアフタートークイベントもおこなわれる。
囲み会見コメント
ゲネプロ前には囲み会見が行われ、前川優希、井澤勇貴、小沼将太、瀬戸祐介、真城めぐみ、柳沢卓、加藤将、演出の錦織一清が出席。一言ずつ意気込みコメントを寄せた。
錦織一清（演出）：去年に引き続き、2度目のシャイモンをやらせていただくことになりました。息子くらいの年の差がある若い役者さんたちとやっていると、夏の甲子園のように青春できる気分を味わわせていただいています。日本橋（にほんばし）が舞台であるこの作品を浅草で上演できるというのは、とても情緒感が合っていると感じます。ご家族そろってご覧になっても安全な芝居です（笑）。夏休みを利用して、お子さまと一緒に観て童心にかえっていただくのもいいかなと。花やしきの中でやるのにぴったりな舞台です。楽しんでいただきたいと思います。
柳沢卓（猫又役）：稽古から本当に楽しく、ここまでやらせていただきました。最後まで精いっぱい自分自身も楽しみつつ、来てくださるお客さまにも楽しんでいただけるようにやっていきたいと思います。
加藤将（てんげんつうの男役）：僕は今回、天眼通（てんげんつう／千里眼）を持つ男をやらせていただきます。千里眼があったらすごくいいなと思っているのですが、逆に彼（てんげんつうの男）も悩んでいるように、人の心が読めてしまうという悩みも出てきてしまうと思います。でも、「あなたは千里眼が欲しいですか」と聞かれたら、人の心がダイレクトに分かるので僕は欲しいと答えてしまいます。…あなたはどちらがいいですか？ ということが聞きたかったのがひとつ。（「今の前置き何!?」と前川からツッコミが入る）
いつも僕は、初日に気合いを入れるために赤いパンツを穿くんです。でも今日は黒いパンツなんです。それはなぜかと言うと、実は僕は明日、人生初めての“1日3公演”にチャレンジするからなんです。なので、僕は明日赤いパンツを穿きます。
井澤勇貴（仁吉役）：僕も明日赤いパンツを穿いてきます（前川から「意気込みとか！」とツッコミが入る）。連日、作品が中止になったなどの仲間たちの声をSNSで見て、“舞台に立つ者”として志を同じくしているので他人事とは思えず心を痛めております。僕たちが今日ここまで来れたのは、疲弊しきった世界の中で奇跡だと思います。第1弾を経ての第2弾、今回新しいキャストも加えて前回とは違った「しゃばけ」に…いや、前回と同じ感じです（笑）。でも、スパイスが加わりますので多少なりとも違う所が出て来ます。たくさんの仲間の思いを背負う、と言うとおこがましいのですが、一緒に戦う気持ちを忘れずに最後まで頑張りたいと思います。
小沼将太（佐助役）：この作品は、若だんなと、てんげんつうの男の葛藤が強く描かれているので人間味がとても面白いです。また、錦織さんによってコメディ要素が混じったことで、笑って泣ける作品になっています。なので、ぜひ皆さんいい感じに書いて…（「途中までは良かったよ、あとちょっと！」と前川からツッコミが入る）。笑いの絶えない稽古場から、こうして今本番を迎えます。最後まで誰1人欠けることなく精いっぱい千秋楽まで頑張っていきます。
瀬戸祐介（屏風のぞき役）：僕は今回から参加したのですが、いい意味でのこんな空気感の稽古を積んできました。先ほど錦織さんがおっしゃったように、浅草という地でお江戸の日常風景のひとコマを生き生きと生きることができたらいいなと思っています。浅草観光のついででもいいですし、しゃばけ帰りに浅草を楽しまれるのもいいかなと。僕も、真っ赤なパンツではないですが真っ赤な衣装で勝負したいと思っているので、ぜひ多くの皆さんに来てほしいです。
真城めぐみ（アマビエ役）：前作に引き続き、まさかお声がかかるとは思っておらずとても嬉しかったです。今はこのような状況ですので、まずは初日の今日この衣装を着て舞台に立つということを目標に1カ月過ごしてきました。電車の中では息は吸わずに吐いたままで（前川から「それは妖怪ですよ！」とツッコミが入る）。珍しくナーバスになったりもしましたが、今日はとても嬉しい日です。よろしくお願いいたします。
前川優希（一太郎役）：前作から、とても温かいものに触れる瞬間を多く感じていました。人の優しさや、人が心から笑っている笑顔などが僕らに力を与えてくれていました。こんな時だからこそ僕らが表現することで、観に来てくださったお客さま、触れて下さった全ての方に温かい気持ちを受け取っていただけるのではないかと。それがこの作品の強みであり、僕らの目指しているところです。1公演でも多く、皆さまにお届けできたらと思っております。
取材・文・撮影：広瀬有希
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