劇団『ドラマティカ』ACT2/Phantom and Invisible Resonanceが6月24日(金)、東京・品川プリンスホテル ステラボールで開幕した。
劇団『ドラマティカ』とは、『あんさんぶるスターズ!!』に登場するキャラクター・日々樹 渉が主催する演劇サークル。『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ/THE STAGE』シリーズとは異なり、原作ストーリーにはないオリジナルストーリーを描く、もうひとつの『あんスタ!!』舞台化プロジェクトだ。
ACT2となる今作も、『あんスタ!!』のアイドルたちが俳優として舞台に立つ様子がACT1同様「全編劇中劇」の形で描かれる。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施されたゲネプロを取材。その模様を舞台写真とともにお伝えする。
以下、今作のストーリー、演出内容に触れるネタバレあり。
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冒険活劇『西遊記』モチーフのACT1から一転、ACT2ではスイングの効いたジャズをバックに艶めいた大人の世界観が展開される。
今作では、物語の随所に「アンコンシャス・バイアス」という言葉が登場する。アンコンシャス・バイアスとは「無意識の思い込みや偏見」を意味する言葉だが、この概念は今作を理解する上で不可欠なキーワードになりそうだ。
あらすじを読んでこの作品を単純明快な「裏社会の捕物帖(とりものちょう)」と思い込んでしまうと、本質を理解するのが困難になるかもしれない。そして困難になると分かっていても、観劇中はドラマティックな捕物劇に、ついのめり込んでしまう。
「Phantom and Invisible Resonance」という物語はこちらの思い込みや偏見を何度も逆転させ、幕が下りた後にまで観客自身の頭の中で二転三転していく。そんな拡張性を持つ物語だ。
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今作の主な登場人物は、朝比奈ルシカ/鳴上 嵐(演・北村 諒)、雫 斗真/月永レオ(演・橋本祥平)、京極哲太/日々樹 渉(演・安井一真)、ギィ・フェルディナント/乱 凪砂(演・松田 岳)、和蒜 デニス 健治/斎宮 宗(演・山崎大輝)、笠舞 歩/氷鷹北斗(演・山本一慶)の6人。
舞台はバー「ta-ta」から始まる。正体不明の情報屋ギィ・フェルディナントがマスターを務めるこの店は、秘密を抱えた常連客が夜な夜な訪れる裏社会の情報のるつぼと化している。
最初に「ta-ta」を訪れたのは、謎のテロリスト『ファントム』を追う朝比奈ルシカ。ルシカはかつて『ファントム』に両親と妹の命を奪われ、復讐を心に誓っている。
ルシカとギィが軽口を交わしているところへ、常連客のひとりである刑事・京極哲太がやってくる。京極は以前から、天涯孤独のルシカに潜入捜査や諜報活動といった任務を極秘で依頼しているが、今夜の相談は格別危険な案件だった。
京極いわく、ルシカの仇敵『ファントム』に繋がる人物を警察がついに突き止めた。その名は、和蒜 デニス 健治。和蒜はマフィアの中でも「裏社会のカリスマ」と呼ばれる人物であり、2年前に『ファントム』が起こした爆破テロ(ルシカの家族を奪った事件)に和蒜が関わっていた可能性が高いという。
そこで当局は、和蒜と接触したことのある人間として死刑囚の雫 斗真と取引。危険
なミッションを条件に、結果次第では秘密裏の釈放を約束した。
ミッション遂行のため相棒として引き合わされた斗真とルシカだが、初対面から2人は激しく反発しあう。斗真はルシカからの握手を拒絶し、不遜(ふそん)な態度で挑発。非協力的な斗真の態度にルシカも怒りをにじませる。
しかし『ファントム』も和蒜も、普段は全く尻尾を掴ませない難敵だ。そしてルシカが『ファントム』への復讐心を抱えているように、斗真もとある経緯から和蒜を憎み、復讐の機会を狙っていた。
両者の利害は一致する。自身の目的を果たすため、しぶしぶながらも「互いを利用し合う」というかりそめの協力関係を結んだルシカと斗真は、京極とその部下・笠舞 歩のサポートを受けながらミッションに向けて動き出す。
だが、和蒜確保を目指す4人が店を去ったその後、閉店後の「ta-ta」をひっそりと訪れる客が…。それは、他ならぬ和蒜その人であった。
情報屋でもある「ta-ta」のマスター・ギィは、和蒜にも情報を渡していたのである。
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劇中、観客は物語に対するアンコンシャス・バイアスを幾度も反転させられ、やがて「Phantom and Invisible Resonance」に隠された意味を知ることになる。さらに幕が下りた後も、視点を変えて物語をなぞると無数の側面が見えてくる。
パズルのピースのように散りばめられた謎と伏線を全て拾い上げるには、一度の観劇では物足りないかもしれない。
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本作の見どころは、やはり「全編劇中劇」というスタイルだ。ACT1同様、今作も「役を演じるアイドルたち(キャラクター)」を俳優陣(キャスト)が演じる、という多重構造になっている。
通常の演劇作品であれば「役と俳優」の二者が向き合うところだが、ここでは「役とキャラクターと俳優」の三者が向き合う。カーテンコールまでアイドル(キャラクター)たちの名前は一切出てこないにも関わらず、彼らは常に「役者」としてステージ上に存在する。
W主演の一翼を担う朝比奈ルシカは、『あんスタ!!』の鳴上 嵐とは口調も性格も一人称も全く異なる。それでもルシカの中には確かに「嵐」がいる。ルシカの表情や声のトーン、立ち居振る舞い、激しくもエレガントなアクションから指先の動きに至るまでのあらゆる仕草。その端々に、嵐の人生観がにじみ出ているのだ。
舞台に立っているのは「北村 諒の演じるルシカ」ではなく、「鳴上 嵐の演じるルシカ」そのもの。ルシカ/嵐を演じる北村が「役/キャラクター」という2つのレイヤーを丁寧に構築し、板の上にふたり分の人生を浮かび上がらせる。
これこそが、ACT1から受け継がれる劇団『ドラマティカ』シリーズの醍醐味だ。北村だけでなくキャスト全員がこの多重構造をしっかりと展開させ、劇中の役を通してそれぞれのキャラクターらしさを見事に表現している。
俳優たちは、いわば『ES』所属のアイドルとそれぞれ二人三脚しながら劇中の役を練り上げ、観客の前で披露する。「原作のキャラクターを大切に」…2.5次元作品では常に重要視されるこの言葉をやや特殊な形で、しかししみじみと実感できる作品だ。
また今作にはアクションシーンがふんだんに盛り込まれている。戦い方や武器にも工夫がこらされており、各キャラクターらしさや絶妙なサプライズを味わえるのでぜひ余さずチェックしてほしい。
W主演のもうひとり・雫 斗真が愛用するのは、小型の折りたたみ式ナイフ。接近戦を前提とするこの武器は、好戦的で向こう見ずな斗真の性格にぴったりだ。
斗真を演じる月永レオは、「表現すること」に対して型破りなひたむきさを持つ人物。普段は作曲に傾けられるレオの情熱だが、それが俳優・橋本祥平の力と融合することで生まれたアクションは、火花が散るような斗真の生き様を描き出している。
橋本の持つダイナミックでありながら緻密な表現力は、芝居はもちろんアクションにもいきいきと表れていた。どんな動作にも対応できる抜群の身体能力が、その表現力をさらに後押ししている。
今作では6人の登場人物全員が、キャラクターの個性をめいっぱい取り入れたアクションを披露してくれる。「脇役がひとりもいない」と感じるほどそれぞれに見せ場が用意されているので、どの人物のファンもぜひ期待してほしい。
他にも、ジャズを基調とし、ときにクラシックも取り入れた大胆な楽曲、ふんだんに盛り込まれた歌唱パート、ゴージャスな舞台装置やカクテルなど小道具の使い方、映像を駆使した楽しい演出の数々にも要注目だ。
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■朝比奈ルシカ/鳴上 嵐 役:北村 諒 挨拶
朝比奈ルシカを演じる鳴上 嵐、を演じました、北村 諒です。本日はご来場誠にありがとうございます。ゲネプロが無事終わり、ついに初日を迎えます。ACT1から出演しているみんなと、ACT2から参加した僕ら新キャストとで力を合わせ、新しい『ドラマティカ』の可能性、世界が広がっていくような作品を届けられるように頑張ってまいります。どうぞ千穐楽までお力添えのほどよろしくお願いいたします。
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劇団『ドラマティカ』ACT2/Phantom and Invisible Resonanceの公演は、6月24日(金)~7月3日(日)に東京・品川プリンスホテル ステラボール、7月8日(金)~7月10日(日)に大阪・東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール、7月14日(木)~7月24日(日)に京都・京都劇場で行われる。
取材・文:豊島オリカ
(C)ENSEMBLE SQUARE/劇団『ドラマティカ』製作委員会
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