東映ムビ×ステ、舞台『死神遣いの事件帖 -幽明奇譚-』が6月9日(木)に初日を迎えた。舞台としては2作目、主人公の久坂幻士郎が舞台に登場するのは本作が初となる。さらにステージから映画へと物語が繋がっていくのも、シリーズ初の試みだ。初物尽くしの本作で、果たしてどんな事件が描かれたのか。
2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施されたゲネプロの様子をレポート。記事後半では囲み会見の様子もお届けする。
パッとド派手で雅(みやび)、時折笑いと涙を誘う“これぞエンタメ”が詰まった物語に、喜怒哀楽が揺さぶられる約2時間となった。
シリーズの起点となった映画1作目で、自らの命を全て使い切ったかに見えた久坂幻士郎(演:鈴木拡樹)。彼が目覚めたところから物語は始まる。死んだはずの彼はなぜか舟に揺られ、不思議な声と死んだ父との記憶を思い出す。
なぜか完全に死んでいなかった幻士郎は、新たに出会った死神・亞門(演:小林亮太)や霊媒師・恐山寂蓮(演:凰稀かなめ)らとともに、市村芝居一座で起きた事件の謎を追うことに。その中で父であり高名な死神遣い・久坂衒太夫(演:神尾佑)との過去も明らかになっていき――。
▲幽霊としてこの世に戻ってきた久坂幻士郎(演:鈴木拡樹)
またもや事件に首を突っ込むことになった幻士郎だが、今回、彼は幽霊の身体になっている。その中でどう事件を解決へと導くのか。事件そのものの謎解きと、幽霊故のままならなさが絡み合い、過去の「しにつか」作品とはまた一味違ったワクワクを味わえる作品に仕上がっていた。
映画から追っているファンは、まず幻士郎が目の前で躍動する姿に感動するだろう。目の前でくるくるの表情が切り替わっていく鈴木の、瞬間ごとに移ろっていく感情と表情の振れ幅に、ただただ呑み込まれていくような感覚を覚えた。3枚目でいつも軽いノリの幻士郎は、決める時は決める男だ。飄々(ひょうひょう)と振る舞いながらも、事件が核心へ近づくに伴い鋭くなっていく眼光に、幻士郎という男が持つ未知数な魅力を味わうことができるだろう。
鈴木といえば殺陣、と言っても過言ではない。本作も存分に殺陣を味わえる内容になっているのだが、幻士郎は殺陣の達人というわけではない。その中で必死に刀を振るう姿は、華麗な刀さばきとはまた違った美しさや熱さを感じられるはずだ。
▲コミカルな芝居が多い中、思わず所作の美しさに目を奪われる納刀シーン
本作が初登場となる死神・亞門を演じたのは、少年漫画の主人公キャラも演じれば、主人公のライバル役も演じる小林亮太だ。亞門を一言で表現するなら“小型犬のように人懐っこい大型犬”だろうか。ふわふわの尻尾の幻覚が見えてきそうな勢いで幻士郎に懐く姿はなんとも微笑ましい。幻士郎との息の合った掛け合いや、身体能力の高さを活かした伸びやかなアクションにも注目を。
▲新鮮な亞門(演:小林亮太)と幻士郎のタッグ
囲み会見で何度も登場した「個性豊か」という言葉を体現しているのが、今作の事件の舞台となる市村一座の面々だろう。彼らがどう個性的なのか、ここではネタバレとなるので多くは語らないが、ぜひ彼らの濃さは劇場にて体感してみてほしい。
▲市村百翁(演:清水宏)を中心とした歌舞伎一座の面々
人柄や相関図がよく分からないまま楽しむというのも、原作のないオリジナル作品の醍醐味だ。幻士郎や亞門と一緒に謎を解く気持ちで、この人は本当はどんな人物で、何を思っているのか、想像しながら観劇するのも良いだろう。
▲カリスマ性あふれる市村左十朗(演:廣瀬智紀)
▲序盤からマシンガントークを繰り広げる升屋庄吉郎(演:安西慎太郎)
▲思わず全身ショットを載せたくなる市村松之助(演:稲垣成弥)
▲ピュアさが光る市村亀吉(演:飯山裕太)
▲可憐な市村鶴丸(演:北村健人)
人情味あふれる登場人物たちが繰り広げる物語は、良質なエンタメであると同時にどこか身近だ。死神や幽霊といった非現実的な存在も含め、全員が愛すべき人間臭さを持っているからだろう。
本作では幻士郎と父・久坂衒太夫の親子の関係性や、一つの家族として芝居に取り組む市村一座といった、「家族」という軸が組み込まれている。それぞれが親や子に向き合う姿を目の当たりにして、自分の大切にすべき居場所について思いを馳せずにはいられなかった。観劇からの帰り道、じわりと温かさが心に広がっていくような、痛快でいて優しい作品と言えるだろう。
鈴木拡樹「今日からが勝負」 囲み会見レポート
ゲネプロ前には、主演の久坂幻士郎役・鈴木拡樹をはじめ、亞門役の小林亮太、久坂衒太夫役の神尾佑、恐山寂蓮役の凰稀かなめと脚本・演出を担当した毛利亘宏が囲み会見に出席した。
――意気込みを聞かせてください。
鈴木拡樹:本作はムビ×ステの第2段、ムビ×ステの中では初めて続編を描いた作品です。本作の後、映画も控えています。本作を観ていただいて、そして次の映画も楽しんでもらいたい。今日からが勝負だと思っています。
小林亮太:すごく朝から緊張していて、裏で先輩方に笑わせてもらいました(笑)。無事に初日を迎えられて嬉しいですし、シリーズの中で新たに登場する死神として皆さんに受け入れてもらえるように楽しい亞門を演じていきたいと思います。
神尾佑:拡樹くん演じる幻士郎の父親は、名前だけはずっと前から出ていましたが、本作で満を持しての登場となります。初共演となる若い方々が多くてワクワクしております。
凰稀かなめ:長い期間稽古をしてきて、こうして無事に初日を迎えられて幸せだなと思います。本シリーズ初登場の役なので、皆さんに楽しんでいただけるよう頑張ってまいります。
毛利亘宏:「しにつか」の舞台としては2作目ではありますが、初めて拡樹演じる幻士郎に会うことができました。稽古も毎日楽しくて、キャストも素晴らしくて、自信をもってお送りできる作品ができたと思います。ぜひ楽しんでもらいたいです。
――本作の見どころを教えてください。
鈴木:傾(かぶ)くというのがテーマになっています。生き様を見せるような傾くシーンが随所でみられるので、それぞれのキャラクターを愛してもらえるんじゃないかと思っています。
小林:個性豊かなキャストが多いので、稽古時からたくさん笑っていました。演出家の方から初めて「“天丼”しようか」と言われました。舞台の現場で初めてこんなオーダーをもらいまして(笑)。そんなコミカルなところも楽しんでもらえたらと思います。
神尾:父と子の深い愛情というテーマも描いています。言葉をあまり交わさず、刀で語っています。そこをぜひ注目をしてもらいたいですね
凰稀:皆さんの立ち回りがすごくかっこいいんですよ。なんといっても鈴木拡樹さんの立ち回りが天下一品だと思いますので、かなりの見どころだと思います。
鈴木:かなめさんもかっこいいですよね。
凰稀:私も戦わせてもらいますので、そこも含めてアクションをお楽しみに。
毛利:本作は4作目へとつながる作品です。こんなに連続性のある作品はなかなかないと思うので、「しにつか」ワールドを楽しんでいただけたらなと。3作目にしてかなり立体的な世界観ができたと思いますので、そのあたりも楽しんでいただけたらと思います。
――稽古を経てどんな作品になりましたか。
毛利:よせばいいのに、1作目で主人公をあの世にいかせてしまい…。死んでもいないし、あの世にも行っていない状態だと聞いていて、そこから現世に戻してくれという発注をいただきました(笑)。なんとかオーダーには応えられたかなと。映画が素晴らしい出来栄えになっていたので、そこへ繋がっていくという意味でもすごく楽しみです。
鈴木:死んだと思ったキャラを復活させるのって難しいですよね。
毛利:難しいですよ!
鈴木:そこをしっかり汲んでもらったおかげで、こうして復活することができて、次回作にも出ることができました。脚本を読んだ時点で、毛利さんの作品らしいあったかさを感じました。そこにキャストの個性がぶつかりあうことで、生まれてくるものもあって。その連続で作ってきた作品なので、少年社中と同じような魂の入った作品に仕上がっているんじゃないかと思います。
――最後にメッセージをお願いいたします。
鈴木:怪我にも体調にも気をつけて我々一同、頑張っていきたいと思います。千穐楽まで、そして映画に繋がるようにしっかりと務めて参りますので、応援よろしくお願いいたします。
* * *
舞台『死神遣いの事件帖 -幽明奇譚-』は6月19日(日)までヒューリックホール東京、6月23日(木)~7月6日(日)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演される。回によっては本作キャストや映画キャストによるアフタートークイベントの実施も予定されている。2022年冬公開予定の映画「死神遣いの事件帖 -月花奇譚-」を楽しむためにも、まずは本作で生身の幻士郎に会ってみてはどうだろうか。
取材・文・撮影:双海しお
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