大高忍の漫画を原作としたミュージカル「マギ」-迷宮組曲-が2022年6月3日(金)に初日を迎えた。2.5ジゲン!!では初日を前に実施されたゲネプロ公演の様子を、劇中ショットと共にレポートする。
めくるめくアラビアンナイトの世界が、魔法のようにステージ上に姿を表した。映像という名の最新の魔法と、観る者の想像力を掻き立てる余白ある演出、そして感情を刺激する芝居と歌。それらが渾然一体となり、世界のどこかに実際に存在していそうな雄大な「マギ」の世界が構築されていた。
物語はアラジン(演:宮島優心/ORβIT)のモノローグからスタート。アラジンの記憶の奥底に眠るおぼろげなウーゴくん(声の出演:森川智之)との出会いの場面を経て、外の世界へと旅に出るアラジン。そして、旅の中でアリババ・サルージャ(演:猪野広樹)と出会う。「ジンの金属器」を求めるアリババは、アラジンの持つ不思議な力に惹かれて迷宮(ダンジョン)攻略を持ちかける。一方、奴隷の少女・モルジアナ(演:岡田奈々)は悪徳領主ジャミル(演:川久保拓司)に仕えていて――。
第7迷宮「アモン」の攻略を軸に、魔法と友情が織りなす王道冒険ファンタジーが描かれる本作。物語の序盤にまず出会うのが、アラジンとアリババだ。
アラジンを演じる宮島優心の透明な歌声と笑顔は、そのままアラジンの無垢さに。アラジンが言葉にできない感情、言葉としてうまく表現できない葛藤。それらを宮島は想像を掻き立てる豊かな音色で伝えてくれた。舞台初挑戦とは思えない柔軟な芝居で、全身を使ってアラジンを表現。アラジンの持つ純粋さ故の幼さも感じられ、宮島のハマり役と言えるだろう。
▲アラジンを演じるのは舞台初挑戦となる宮島優心(ORβIT)
そこに重なるのは、猪野広樹の芯は熱くも飄々としたアリババの芝居だ。軽やかでありながらも、直面した出来事に対して人一倍心を動かしていく姿を生き生きと熱演。アリババはその在り方で、周りの心を動かしていく人物として原作で描かれている。猪野の演じるアリババも、芝居面での起点となって、彼を中心に演劇らしいリズムが広がっていったのが印象的だ。アリババに関しては、ラストにかけての変化も見どころ。瞳に込められた感情の移ろいはさすがの一言だ。
▲お調子者のようでいて根は真っすぐで優しいアリババ(演:猪野広樹)
2人が友情を育み共に冒険する中で出会うのが、奴隷の少女・モルジアナ。狩猟民族・ファナリスの少女で、人並み外れた戦闘能力の持ち主という役柄を、岡田は力強い歌唱力で見事に表現していた。岡田といえば、今年1月に開催された「第4回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦」での初優勝も記憶に新しい。モルジアナとして歌う彼女は、ときに悲痛に、ときに生命力あふれる歌声で、多くを語らないモルジアナの生き様を見せてくれた。無駄を削ぎ落とした美脚から繰り出されるアクションにも注目してみてほしい。
▲可憐さとたくましさを見事に表現した岡田奈々演じるモルジアナ
3人の掛け合いのシーンはそう多くないが、3人が一緒にいると剛柔のバランスがとれた心地よい空間が広がる。もっとこの3人の冒険を観てみたい。原作を読んでワクワクした気持ちを思い出させてくれること必至だ。
序盤では川久保演じるジャミルのこれぞ悪者という小気味いい芝居や、モルジアナと同じ身の上のゴルタス(演:小野塚渉悟)の生き様、再現度の高さが話題となったブーデル(演:長友光弘/響)のコミック・リリーフ的な活躍が光った。長友はゲネプロ公演でも果敢に笑いを取りに来ていたので、彼と掛け合いの多い猪野のリアクションと共に、今後本番の中でどう進化していくのか楽しみにしたい。
▲左から兼ね役ファティマー(演:手島章斗)、モルジアナ、ジャミル(演:川久保拓司)
後半からはババ様(演:杉本美保)や練白瑛(演:田中志奈)が登場。黄牙一族との関わりの中で、また一つ大きく成長するアラジンに注目を。
▲左から兼ね役で呂斎を演じる小野塚渉悟と練白瑛(演:田中志奈)
さらに物語が進むと、アラジンと因縁深いジュダル(演:手島章斗/SOLIDEMO)や、アリババとなにやら関係のあるカシム(演:廣瀬大介)が登場。アリババたちの物語が明るい冒険譚で終わらないことを予感させるように、その歌声で劇場を不穏な空気に包む。ジュダルやカシムに関しては、作中で多くは語られていない。語られていないからこそ、2人の余韻を感じさせる芝居と歌が、より鮮やかに浮かび上がっていたのが印象的だ。
▲黒いルフをまとうジュダル(演:手島章斗)
今作は壮大な世界観のストーリーを表現するため、兼ね役での登場も多い。「アモン」攻略後、それぞれの道を辿るアラジン、アリババ、モルジアナの3人。3人が行く先で出会う人々の多くは、公式SNSで発表されているように兼ね役となる。当初発表されていた役とは真逆のキャラクターを演じるキャストも多い。その点も舞台ならではの醍醐味の一つとして楽しんでみてほしい。
▲カシム役とドルジ役を兼ね役で担当する廣瀬大介。こちらはドルジ
アラジンを描く上で、大切な友達のウーゴくんは欠かせない。巨大なウーゴくんを登場させるための映像の使い方も、シーンにあわせて様々な工夫が見て取れた。ステージ上では映像と芝居が混ざり合い、劇場では現実と魔法の世界が混ざり合う。今作は2.5次元作品初出演のキャストが多く、観劇が初めてというファンも多いだろう。2次元と3次元の括りを取っ払ったところで表現される“2.5次元作品らしさ”を、この「ミューマギ」で体感できるのではないだろうか。
2.5ジゲン!!では以前、宮島と猪野の対談インタビューを実施した。偶然にもこのインタビューが、2人が本格的に言葉を交わす最初の取材だった。まだベストな距離感を測りかねているような、どこかふわふわとした空気が漂っていた2人だが、ステージ上には芝居のキャッチボールを楽しむ姿があった。アラジンの冒険は壮大で、いくつもの国を股にかけて世界へと広がっていく。本作を共に作り上げた2人の、次なる冒険が再び観られることを期待せずにはいられない。
ミュージカル「マギ」-迷宮組曲-は6月12日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、6月18日(土)・19日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演予定。アフタートークイベントが実施される回もある。現実世界から少し抜け出して、魔法の世界をアラジンと共に旅してみてはどうだろうか。
取材・文・撮影:双海しお
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