レポート

日向坂46・潮紗理菜「常夏の太陽のような舞台を―」 『フラガール』開幕レポート

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2022年5月14日(土)、東京・新国立劇場 中劇場で『フラガール~dance for smile~』が初日を迎えた。

本作の舞台は1965年の福島県いわき市。時代が大きく動いていく中、炭鉱で働く人々が職を失う現実と直面し、町おこしのために常磐ハワイアンセンター(現在のスパリゾートハワイアンズ)建設を計画。ハワイアンセンターで踊るフラガールが誕生するまでの奮闘を描いていく。

本公演は3度目の再演となり、フラガールのリーダーで主役の谷川紀美子役は潮紗理菜(日向坂46)、フラガールたちを導いていく先生・平山まどか役は、初演から引き続き矢島舞美、紀美子の親友・早苗役に太田夢莉、舞台オリジナルキャラクターの和美役に兒玉遥、そして、紀美子の母親・千代を初演から引き続いて有森也実が演じる。

2.5ジゲン!!では、初日に先立ち実施された舞台挨拶とゲネプロを取材。まずは総合演出の河毛俊作、潮紗理菜、矢島舞美、太田夢莉、兒玉遥、有森也実が登壇した舞台挨拶の模様を一問一答で紹介する。

――初日を迎えるにあたり、総合演出の河毛さんからご挨拶をお願いします。

総合演出・河毛俊作:『フラガール-dance for smile-』も3回目となります。いろいろ大変な中、無事に幕を開けられることがうれしいです。大きな時代の流れがあった時の話ですが、今の時代にもリンクしているので、ノスタルジアな物語ではなくリアルな物語として、私たちを取り巻くさまざまな問題、どう立ち向かっていけばいいのか、そんな意味を込めました。

あの時代の紀美子、早苗、まどか、そして時代の中で押しつぶされてしまった炭鉱夫の人たち、それを象徴する紀美子の母・千代などを含めて、役を演じるというよりも役を生きてほしいという想いで今回も作りました。出演者の皆さんは、一生懸命稽古場で汗をかいて、私の言うことをよく聞いてくれて、素晴らしい舞台になっていると思います。よろしくお願いいたします。

――それぞれの役どころと意気込みをお聞かせください。

谷川紀美子役・潮紗理菜(日向坂46):私が演じる紀美子は、すごく芯があって仲間のために強くなれる、そんなかっこいい女性だと感じています。そして私にとって紀美子は憧れの存在なので、舞台で紀美子に少しでも近づけたら…という想いで、心を込めて皆さんに舞台から気持ちをお届けできたらと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

平山まどか役・矢島舞美:私が演じる平山まどかは、かつてSKDのトップダンサーとして東京の大きなステージに立っていました。母親が抱える借金に追われ、借金取りから逃げる生活をしている中で、フラガールたちと出会い、人として成長をしていく役どころです。この役を演じるのは3度目ということで、(過去の公演で)フラガールたちが卒業して新しい子が入ってきてという感じで、毎回新鮮な気持ちで演じています。稽古場で実際に、うしちゃん(潮)がどんどん成長していく姿に心を打たれたりするので、まどかが紀美子に心を打たれていく感じはこういうことなんだろうと思っています。みんなそれぞれすごくかっこいい生き様を演じているので、ぜひ楽しんで観ていただきたいです。

木村早苗役・太田夢莉:私が演じる早苗は、ダンサーになりたいという夢を持って平山まどか先生に出会い、さらに憧れを持つという夢を持った女の子です。家庭に問題があって、そういう葛藤と戦いながら頑張る子です。自分が言った一言によって紀美子をはじめとした、まわりの人たちの人生や心を動かすんだなと、稽古をしていく中で重大さを身に染みて感じています。その重大さをかみしめながら精いっぱい演じたいと思っています。

飯田和美役・兒玉遥:私は舞台版のオリジナルキャラクターの和美を演じます。炭鉱娘の中では、唯一恋愛の要素が備わっている役です。愛の強さをしっかり表現していきたいと思っています。また、炭鉱娘の中では1歳お姉さんという役なので、自立した女性をしっかり演じていきたいです。

谷川千代役・有森也実:紀美子の母・千代を演じます。炭鉱の良い時代を知りながら炭鉱が崩れゆく、そして自分たちはどうやって生きていけばいいのかを肌で感じ模索して、プライドと戦いながら生きている女性です。紀美子という娘を通して、新しい時代というのはどういうことなのか、子離れというのはどういうことなのか、希望的なものを紀美子から教えてもらう大人の代表の役です。ダンスの魅力がこの物語には詰まっていますので、踊る人の素晴らしさを感じていただけたらとうれしいです。

――舞台の見どころはどんなところでしょうか?

潮:舞台オリジナルキャラクターの和美さんがいらっしゃいますし、みんなで汗をかきながらたくさん練習をしてきたフラダンスを観ていただきたいです。そして男性キャストの皆さんの迫力があって、熱く強い存在もこの舞台の素敵なところだと感じています。私はあまり舞台や芝居の経験がなかったのですが、舞台はこんなに素敵で素晴らしいんだというものが『フラガール』にあると感じているので、たくさんの方に届いたらいいなと思います。

矢島:見どころは、なんといっても常磐ハワイアンセンターがオープンしてみんなで踊る最後のフラダンスです。そこに向かってフラガールたちが汗水流していろいろな葛藤と戦いながら頑張っていく物語なので、最後のシーンは毎回グッときてしまいます。観てくださる皆さんもきっと彼女たちから笑顔をもらえると思うので楽しんでほしいです。そして炭鉱で働く男たち、それを支える千代さんのような女性、この時代を生きてきた人たちの絶対に曲げたくない信念と、それを突き動かすような子どもたちの熱い想いがせめぎ合って、どのシーンも心が揺さぶられると思いますので、それぞれの生き様を皆さんに楽しんでほしいと思います。

太田:早苗役のお話を頂いた時に、昨年の映像を拝見して、すごく感動しました。稽古場に入って皆さんのお芝居を間近で観ることができて、自分が出演していないシーンを観客という立場で観ていると、何度観ても感動して涙を流してしまいます。それぐらい皆さんのお芝居が素敵なんです。舞台というのは、今この瞬間を共有しているからこそ感じるものだと思っています。その熱量を皆さんに観ていただきたいです。

兒玉:私は見どころが2つあります。一つは、劇中で恋人の光夫と抱き合うシーンがあるのですが、稽古でうまく決まりませんでした。その時、有森さんがお手本を見せてくださったことで、一発でうまくできました。みんなから拍手が出て、私は「有森也実ハグ」と呼んでいるんですが(笑)、本番でもしっかりできるようにしたいと思っています。ぜひ注目してみてください。(有森に向かって)なんであんなにきれいに決まるんですか? やっぱりたくさんロマンスを経験してるからなのかなと、私は感動しました。ありがとうございました!(一同爆笑)

そしてもう一つは、私の役はたくさん土下座をするシーンがあるんです。とにかく頭を下げていて、人生でこんなに頭を下げてお願いする役はもうないのではないかと思うぐらいなので、私のきれいな土下座に注目してください。よろしくお願いします!

有森:(兒玉のコメントに笑いながら)何を言うか忘れてしまいましたが…(笑)。コロナ禍であったり、ウクライナのことがあったり、世の中でいろいろなことが起きていて、私たちはこれからどうやって生きていけばいいのだろうという想いを抱えていらっしゃる方もいると思います。『フラガール』という作品が、3年前に比べると成熟しているので、今やるべき作品ですし、お客さまとともにある舞台だと感じていますので、よろしくお願いします。

――総合演出の河毛さんに質問です。過去の公演と比較して、演出面で相違点はありますでしょうか?

河毛:やりたいことが変わっているわけではないので特に相違点はないのですが、主役の紀美子役は3回とも演じる人が変わっています。紀美子と早苗を演じる人が変わると、2人のキャラに多少の変化が出てきます。例えば過去の公演では、早苗は妹キャラのようなイメージだったのですが、今回はお姉さんキャラという感じがします。早苗が家庭の事情でフラガールを続けられなくなって、リーダーだった早苗のあとを紀美子が引き継がなければいけないというところがあるのですが、そうした場面がこれまでの紀美子と違うのかもしれません。

そして男性出演者が増えていて、細貝圭くんがまどかを追い詰める借金取りを演じることで、まどか自身のドラマを少し深くしています。まどかという大人の女性が、失ったものを抱えて福島に来たことにより何を再獲得するのか。先ほど矢島さんもおっしゃっていましたけど、SKDのトップダンサーに上り詰めたけれど、母親の借金に悩まされてその地位を捨てざるを得なかった、トップであり続けることができなかった女性が、今度は指導者としてどう生きていくのか。そういった大人のドラマの要素が強くなっているかもしれません。

――最後に潮さんから、お客さまへメッセージをお願いします。

潮:(衣装の)制服を着る時に、前回紀美子を演じていた樋口(日奈)さんと、初演の井上(小百合)さんのお名前があって、今回そこに私の名前が書いてありました。衣装を着るたびに身も心もキュッと引き締まる想いでいます。背筋は伸びますが背伸びはしないで、自分らしく私なりの紀美子を演じられたらと思います。天気予報によると公演中、天候はあまり良くないみたいですが、私たちが常夏の太陽のような明るい光を舞台からお届けできたらいいなと思っています。

そして私が一番感じたことは、劇場に入った時に、本当に客席と近いと思いました! 私は日向坂46で活動していて、ライブ会場からすると想像できないぐらいの近さで、手を伸ばしたら届きそうな距離にお客さまがいらっしゃいます。こういう近い距離で私たちの姿をお届けできるんだということに、緊張とうれしさをいっぱい感じています。舞台は一瞬一瞬違いますし、1日として同じものはないとお稽古の時から感じているので、いろいろなフラガールを舞台からお届けできたらいいなと思います。一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

* * *

ここからはゲネプロの模様をお伝えしよう。

1965年の福島県いわき市。かつては炭鉱の町として賑わっていたが、時代の流れによって衰退。炭鉱で働く人たちのリストラが行われ、町に住む大人たちは将来に不安を抱き、いら立ちを隠せない日々を送っていた。

そんな中、高校生の谷川紀美子(潮紗理菜)と木村早苗(太田夢莉)は、仲良く高校生活を送っていた。町おこしのために建設される常磐ハワイアンセンターで踊るフラガールを募集しているのを見つけた早苗は、炭鉱で働く生活から抜け出したいと紀美子を誘ってダンサーに応募する。

常磐ハワイアンセンターをなんとか成功させたいと奔走する企画部長の吉本(武田義晴)は、ダンスの経験がない子たちの指導者として、東京からSKDのトップダンサーだった平山まどか(矢島舞美)を呼び寄せる。

華やかな舞台で踊っていたまどかが目にしたのは、寂れた田舎町とダンス経験がない素人のフラガール候補生たち。「こんな子たちが舞台に立てるわけがない!プロをなめるな!」と東京へ戻ろうとするが、母親の借金を肩代わりし、借金取りに追われる生活を送っていたまどかは、しぶしぶフラガールたちを指導する先生を引き受ける。

紀美子は、人を見下した態度のまどかに対して最初は反感を覚えるのだが、まどかの踊りを見て瞬時に心を打たれる。そして「先生のように踊れるようになりたい。私たちに踊りを教えてほしい!」と頼み込む。

ここから紀美子たちフラガールとまどかの戦いが始まった…。

「親友の早苗が誘うからやってみようかな」と成りゆきでフラガールの道を歩むことになった紀美子をみずみずしく演じる潮。「泥だらけになって炭鉱で働く毎日から解放されたい」と強い信念を持ってフラガールに応募する早苗を演じる太田。強い絆で結ばれた二人が、フラガールという夢に向かって突き進んでいく姿がすがすがしい。

炭鉱夫だった亡き夫の遺志を継いで、炭鉱の町に生涯を尽くすと決めている紀美子の母・千代(有森也実)や、炭鉱夫として長年働いてきた早苗の父(吉田智則)は、ハワイアンセンターの設立に大反対している。そんな中でも「フラガールになって、プロのダンサーになりたい」と強い気持ちで2人は奮闘する。

過去の公演では、フラガールになろうと早苗が紀美子を誘うところ以外は、常に紀美子がリーダーシップを取っていたような印象があった。しかし、総合演出の河毛が舞台挨拶で言っていたとおり、今回太田が演じる早苗は、しっかりしたお姉さんキャラのように感じる。

その役作りが、のちに家庭の事情でフラガールを続けられなくなった早苗の代わりにさまざまな葛藤を抱えて、リーダーとして成長していく紀美子の姿をより一層際立たせている。

そして平山まどかを演じる矢島は3度目の挑戦となる。かつてはSKDのトップダンサーとして活躍していたが、母親の借金のせいでその地位を捨てざるを得なかったためか、どこか影がある役どころだ。

まどかは、大きな不安と苛立ちを抱えた炭鉱の人たちと似たような環境に身を置いているためか、フラガールたちを指導する過程で、地元の人たちとぶつかり合うことも多い。

過去の公演で矢島は、そうした苛立ちを前面に出し爆発させていたが、今回は爆発させるだけでなく、相手に訴えかけるような演技が印象的だ。借金取りの石田(細貝圭)が、まどかを追い詰めることで、まどかの苦悩が観ている側に伝わり、そうした苦しみや悲しみを抱えながらも、フラガールたちと新たな目標に向けて邁進する大人の女性を、矢島は深みのある演技で見せている。

同じく初演から紀美子の母・千代を演じている有森も安定感のある、場を引き締める演技を披露。娘の紀美子がフラガールになることを反対しながらも、心のどこかで自分も変わらなければならないと感じている女性をしっかり演じている。フラガールを指導するまどかに対して差別的とも思える発言をし、まどかとやり合う場面は、今も昔も変わりないじゃないか…と感じる人も少なくないだろう。

そして舞台オリジナルキャラクター・和美を演じる兒玉は「愛に生きる女性」そのものだった。恋人の光夫(濱田和馬)を守るため、フラガールとなりハワイアンセンターのオープンに協力していく。自身も舞台挨拶で言っているとおり、愛する男性のために謝り倒している役どころは、明るくはつらつとした印象のある兒玉が新境地を見せているといえるだろう。

生活のため、家族のため、自分自身のために…。いろいろな想いを抱えて奮闘していくフラガールたちの姿は、とても熱いものがある。そして一方で、炭鉱夫として家族を支え、町を支えてきた男たちが、時代の波に押しつぶされて苦悩する姿も熱く描いていく。

紀美子の兄・洋二朗(高橋龍輝)が「男は家族を守るものだと教えられた」と言っているように、炭鉱で働く男たちは、言葉は荒いが心に強い信念を持っている。そうした男たちの熱い想いにも注目したい。

『フラガール~dance for smile~』の上演時間は約2時間10分。5月23日(月)まで上演される。

取材・文・撮影 咲田真菜

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公演情報

タイトル

「フラガール-dance for smile-」

公演期間・劇場

2022年5月14日(土)~5月23日(月)
東京・新国立劇場中劇場

出演

潮紗理菜(⽇向坂46)、⽮島舞美、太田夢莉、兒玉遥、大串有希、朝倉ふゆな、竹内詩乃、鈴木くるみ(AKB48)、道枝 咲(AKB48)、岡田帆乃佳(劇団4ドル50セント)、本西彩希帆(劇団4ドル50セント)、立野沙紀(劇団4ドル50セント)、尾崎明日香、Mirii、高橋龍輝、武田義晴、吉田智則、工藤潤矢、山田良明、久保田創、濱田和馬、大石敦士、近藤雄介、久道成光(劇団4ドル50セント)、有森也実

羽原大介、李相日

総合演出

河毛俊作

構成演出

岡村俊一

公式HP

http://www.rup.co.jp/

WRITER