シリーズ3作目にして完結編となる舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~が5月8日(日)に初日を迎えた。漫画「抱かれたい男1位に脅されています。」から生まれた同舞台シリーズは、原作のエッセンスを残しながらも独自の軌跡を歩みついに完結編へ―。
2.5ジゲン!!では初日に先立ち実施されたゲネプロ公演と囲み会見の様子をレポート。再び幕を開けた、思わず息を呑む艶やかな舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~の見どころをお届けする。
完結編となる本作、ついに西條高人の隣に東谷准太が並んだ。原作、漫画「抱かれたい男1位に脅されています。」(通称「だかいち」)ファンにとっては、あの2人が並んでいる姿を舞台上で観られる本作は、まさに起きたまま見る夢のような唯一無二の時間となることは間違いないだろう。
舞台「紅葉鬼」シリーズはその原点を「だかいち」に置きながらも、舞台シリーズとしてはほぼオリジナルのストーリーを展開してきたのが特徴だ。原作でおなじみのキャラクターが舞台の中で生きている高揚感と、役者である彼らが見せる本職の顔を舞台という形で浴びることができる緊張感。そのどちらも味わえる稀有な作品といえるだろう。
本シリーズは人でありながら鬼の頭目として育てられた経若(演:陳内将)を軸に、怨念で歪に結ばれた人と鬼との衝突を初演から描いてきた。種族や血の繋がりといった自らの手でどうすることもできない運命と、心と心で結ぶことができる縁。その2つの繋がりが、運命を受け入れ自らの生きる道を決めた経若、抗えぬ怨念に心を燃やす酒呑童子(演:加藤将)の交わりの中で対比的に描かれていたのが印象的だった。
前作の茨木童子との戦いで深手を負った経若は、自分を父と慕う身寄りのない子鬼・いぶき(演:磯田虎太郎・前田武蔵のダブルキャスト※ゲネプロ公演では磯田が出演)に看病されながら穏やかな日々を過ごす。都の現状がわからないまま山奥でひっそりと暮らすいぶきと経若。一方で人に恨みを持つ鬼を率いる酒呑童子、そして経若の身を案じる帝(演:小野健斗)や繁貞(演:菊池修司)も、それぞれの思いを胸に動き始めて…。
▲いぶき(演:磯田虎太郎)と経若(演:陳内将)
人の持つ繋がりには温かいものも冷たいものもあるだろう。作中に登場する繋がりも、心温まるものばかりではない。その繋がりがあることで傷つく様も、ありありと描き出す。痛みを真正面から描くことで、その先にある救いを掬(すく)い取れるような優しい作品に仕上がっていたのではないかと思う。
ストーリーはオリジナルだが、不思議なことに随所に「だかいち」を感じられるのが本作の大きな魅力だ。それはひとえに原作者・桜日梯子の生み出したキャラクターや衣装への敬意から生まれるのだろう。特に原作キャラクターである西條高人(演:陳内将)、東谷准太(演:加藤将)、綾木千広(演:菊池修司)の3人が並ぶシーンは、まるで漫画のカラー絵を高解像度で眺めているような、得も言われぬ高ぶりを感じた。
3人はそれぞれ舞台「紅葉鬼」という作品の経若、酒呑童子、繁貞として立っている。それでいてその内側に、原作キャラクターの息吹を感じさせてくれた。原作漫画と舞台「紅葉鬼」の絶妙な塩梅でのリンクが、より一層、西條高人や東谷准太に現実性を持たせ、作品のエンタメ性を一段階上へと押し上げているのだろう。
本作、やはり注目は満を持しての登場となった東谷准太/酒呑童子を演じる加藤将だ。2.5ジゲン!!で稽古期間中に実施した対談インタビューでも、陳内からそのままで准太っぽいと評されていた加藤。彼のトレードマークである平和の象徴のような朗らかな笑顔は、カーテンコールのほんの一瞬以外封印され、豪胆な酒呑童子を鬼気迫る芝居で演じきっていた。酒呑童子として経若に食らいつく様子に、原作の2人の関係を重ねてグッとくるファンが続々と生まれることだろう。根っからの陽である人物が演じる悪役の不気味な恐ろしさが、加藤が演じることで何割増しにもなっていたのが印象的だ。
▲東谷准太/酒呑童子(演:加藤将)
そして初演から主演を務める西條高人/経若を演じる陳内将。流し目一つで空気を動かす彼の存在感と色気が、シリーズを支えてきたといっても過言ではないだろう。過去2作と大きく違うのは、その隣に東谷准太がいることだ。パートナーを得たことで、西條高人が演じる経若の放つ熱量がさらに上がったように感じる。初演から観客を惹きつけてきた華やかで繊細な芝居が、集大成となる今作でどんな実を結んだのか、ぜひ劇場や配信で確かめてみてほしい。
綾木千広/繁貞演じる菊池修司は1作目以来の出演となった。ゲネプロ公演前の囲み会見では「成長」という言葉があったが、その言葉通り、この約3年間の経験を感じさせる芝居を見せてくれた。特に繁貞は兄や実の父親、育ての父親と、血のしがらみを多く抱えている人物だ。そんな彼の言葉や選択は、親子愛を掘り下げる本作において大きな意味を持っていたように思う。本作が初登場となった補佐役の鷲王(演:田鶴翔吾)や、育ての父・維茂(演:今井靖彦)との関係にも注目だ。
▲綾木千広/繁貞(演:菊池修司)
▲大物を振り回す殺陣にも注目の鷲王(演:田鶴翔吾)
因縁あるイクシマ(演:小波津亜廉)と保名(演:富田翔)の陰陽師対決や、登場するだけで荘厳な雰囲気を生み出す高貴な帝(演:小野健斗)、いぶきと共に2大癒やし枠を担う可愛らしい行成(演:相澤莉多)もお見逃しなく。
▲謎の多いイクシマ(演:小波津亜廉)
▲帝(演:小野健斗)
また、インタビューで陳内が見どころに挙げていた“復活システム”により、今作は星熊として登場する髙木俊の役どころも、シリーズファンは楽しめることだろう。
切るべき復讐の連鎖と、切れぬ親子の縁の中、経若と酒呑童子は人と鬼の世界にどんな結末をもたらすのか。シリーズ完結編となる舞台「紅葉鬼」~酒吞奇譚~は5月8日(日)~5月15日(日)までシアター1010にて上演される。
囲み会見レポート、「過去2作の想いを背負って」
ゲネプロ公演前に実施された囲み会見には、陳内将、加藤将、菊池修司、そして初演から演出を担当してきた町田慎吾が登壇した。
――意気込みを聞かせてください。
陳内将(西條高人/経若役):2019年の夏からはじまり2021年冬、そして2022年春とやってきました。「紅葉鬼」という作品なんですが、秋には上演されていないんです。春・夏・冬は紅葉は見られないんですが、舞台上で紅葉が見られるので、そういう意味ではオールシーズンやれたと思っていて、逆に粋だと感じています。初演でダブル主演としてやった修司がまた今作で帰ってきてくれて、座長としても(役柄の)兄としても嬉しいし、3作目でゆかりのある東谷准太役として加藤将が入ってきてくれたのも頼もしいし。まっちー(町田慎吾)さんの演出もパワーアップしていて、みんなでエンターテインメントを作ってこれたこと、それを皆さまに届けられることが幸せです。
加藤将(東谷准太/酒吞童子役):座長の陳内将さんの言葉が全てなんですが、僕は3作目からの登場で陳内さんと一緒に真ん中に立たせていただきます。出来上がったカンパニーに入っていくプレッシャーはあったんですが、皆さんに引っ張ってもらってここまで来られたと思います。オリジナル作品の難しさはあるんですが、その中でみんなで作ってきたものがこの舞台「紅葉鬼」なので、自分たちのやってきたことに誇りを持ってこれが「紅葉鬼」だと、皆さんに胸を張って届けたいと思います。
菊池修司(綾木千広/繁貞役):約3年ぶりにビジュアルも一新して。当時はこんなにシリーズになるとは思っていなかったので、応援の声があったからこそだと改めてありがたさを感じています。個人的には、稽古中から3年前の思い出がいろいろと蘇ってきて、時を経たことでの成長を感じながらこの作品に挑まさせていただいたので、集大成をお届けできたらと思います。
町田慎吾:2019年の作品が僕の初演出作品でした。そこから3作品並走させていただいて幸せに思っています。オリジナル作品としてみんなと話し合いながら作ってきて、大変な分楽しさもあって。今回も楽しんでいただけるように心を込めて作らせてもらいました。
――3作目に至るまでの思いを教えてください。
陳内:1作目で死んだ人が2作目で別人として出て、2作目で死んだ人が今回出るという復活システムが「紅葉鬼」では1人1回使えますので(笑)。そういう意味では夢のある設定だと思います。というのは冗談ですが、個人的には母とか綱とか亡くなった人の言葉とか思いを受けとってここまできたので、1作目2作目の登場人物の思いも背負って完結に向かっていけたらと思います。
――演出や衣装での見どころやこだわりを教えてください。
町田:桜日梯子先生の美しい世界観を第一に大切にしたいなと思っていて。前作から生演奏を入れていただいて、今回が一番エンタメ性が強いと思います。芝居はそのままに、音楽とエンタメ性とで皆さんがよりきれいに見えるように演出しました。
菊池:驚きの嵐ですよね。
陳内:出演者だけど本当にすごいなって自分たちも思っているので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
――シリアスな作品ですが、稽古場の雰囲気はいかがでしたか。
菊池:稽古場もけっこう「生と死」でしたね。
陳内:そうだね~。オンとオフもはっきりしたしね。
菊池:ピリッとした雰囲気もありつつ、休憩中は子役の2人の存在に和ませてもらってっていう感じで。
陳内:僕が(加藤)将に対して「やるよ」ってピリッとした空気になったときに、彼の天然要素にすごく助けられて。突拍子もないことを言ったりやったりしてくれたので、おかげで空気が和んでいい雰囲気になっていたと思います。
加藤:僕は(陳内)将くんがバランサーだと思っていたんですが、実は僕がバランサーやったんですね!
陳内:おお~言うね。そこまでは言ってないけど(笑)。
加藤:あ、調子に乗っちゃいました。
一同:(笑)。
町田:(菊池)修ちゃんも天然だよね。
菊池:そうなんですよ。だから初演のときはちゃんじんさん(陳内将)にかわいがってもらったのに、今作は将くんばっかり構うから、ちょっと嫉妬でしたね。
陳内:(笑)。
町田:陳内くんは初演の頃に比べて、笑顔が多くなったなって。座長としてメリハリがあってすごく助けられました。
――最後にメッセージをお願いします。
陳内:1作目から完結までやれるというのはお客さまの支えがあってこそなので、お客さまにはもちろん満足してほしいんですが、でもまだ観たいとも思ってほしいです。今作で完結はしますが、また番外編を観たいと思ってもらいたいという思いもあって、そう思ってしまうほど僕はこの作品に生命を注いで魂を削ってきたので、お客様には存分に楽しんでいただけたら僕は幸せです。
加藤:これまで匂わせてきた酒呑童子がついに登場するので、しっかり演じて「これが酒呑童子」だというのを見せたいと思います。酒呑童子が抱えているものって僕自身、共感できる部分も多くて、みなさんも共感できる部分もあると思います。そういう人がこの作品を観たら、救いを感じると思うんです。僕も将くんが言った通り、魂を削って、これでお亡くなりになるんじゃないかと思うほどのパフォーマンスをして、目に物見せたいと思います!
陳内:最高だな(笑)。
菊池:このあとやりにくいな…(笑)。1作目から携わっている身としては、楽しみにしてくれている方に、この完結編を楽しんでいただけるよう、精一杯取り組みたいと思います。1作目、2作目からのたくさんの思いがぎゅっと詰まっている作品になっていると思いますので、楽しみな気持ちだけを持って劇場に来ていただければと思います。
町田:脚本の葛木英さんが初演から今作まで愛を持って書いてくださって、本当に素敵な完結編になっていると思います。役者も素晴らしく演じてくれているので、劇場に足を運ぶのが難しいご時世ではありますが、必ず心に響く作品を届けられると確信していますので、一人でも多くの方に観てもらえたらと思っています。
取材・文・撮影:双海しお
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