Nitro+CHiRALのボーイズラブ18禁アドベンチャーゲーム「sweet pool」の初舞台化作品、本能バースト演劇「sweet pool」が3月12日(土)に開幕。独特な世界観と切ないストーリーで人気を博したBLゲームは、果たしてどんな形で表現されたのか。
2.5ジゲン!!では初日に先立ち実施されたゲネプロの様子をレポート。3つの回替わりストーリーのうち、「通常公演」の見どころを紹介する。
日常から滲み出し広がる違和感
変哲もない、ただ人と関わるのが得意でない1人の学生の日常が、観客を「sweet pool」の世界へと誘う水音とともに静かに始まる。
久々に登校する崎山蓉司(演:櫻井圭登)と、彼の復帰を満面の笑みで歓迎する友人の三田睦(演:杉江大志)。2人の他愛無い会話は、どこにでもいる学生のそれで、束の間の平穏な時間が流れる。
席替えで蓉司の前の席になったのは、物静かでミステリアスな城沼哲雄(演:砂川脩弥)だった。蓉司は以前からなぜか自分を見つめてくる哲雄のことが苦手で、できれば関わりたくないと思っていた人物だ。寡黙な哲雄は席が近いからといって、特別話しかけてくることもない。だが、彼の指先がほんの微かに触れたうなじに、蓉司は強烈な違和感を抱く。
この頃から蓉司の身体には不可解な現象が起きるようになっていた。ときに痛みを伴うそれは、本当にただの幻覚なのか。混乱の最中にいる蓉司に、さらには学園の有名人でどこかネジの外れた翁長善弥(演:宇野結也)も近づくようになり――。
蓉司の身体がジワジワと変化に蝕まれていくように、客席もまた静かにじっとりとした緊張感に染まっていった。演出は静けさが際立ち、だからこそ本作の特徴である血生臭さが生々しい質感を持って迫ってくる。
抗えない本能、その痛みと快感の狭間で自分の変化を受容する強さが、主人公の蓉司を通して描かれていった。“愛”と一文字で呼んで済ませてしまうには重すぎる、本能と想いの行き着く先はぜひ劇場で見届けてみてほしい。
ゲネプロでは回替わりの3つのストーリーのうち「通常公演」が上演された。哲雄に導かれた蓉司は、果たしてどんな結末を迎えるのか。原作で描かれた4つのエンドのうちどのストーリーがどう描かれるのかをお楽しみに。
“水”にちなんだ大胆な入浴シーンや、原作でも欠かせない身体を重ねるシーンの演出も見どころ。登場人物たちの本能と観客の本能が共鳴して生まれる、濃厚な演劇空間を味わえるだろう。
本能×役者 化学反応による生々しさ
原作で描かれる登場人物たちの感情の機微を、役者の身体表現を駆使して表現していたのが印象的だ。シンプルな中に心揺さぶる要素を入れ込む、演出家・中屋敷法仁の巧さとこだわりが随所に感じられた。
儚さと孤独を抱える蓉司と、櫻井圭登の持つ透明感が見事にマッチ。普通の学生が送る青春より一回りも二回りも過酷な運命に翻弄される蓉司は、次第に顔つきが大人っぽくなっていく。そこには、ピュアなだけでなく大人の魅力も持つ櫻井だからこそ出せる色気が存分に出ていた。
哲雄を演じた砂川脩弥は、人を惹きつける瞳が印象的な役者だ。真っ直ぐに蓉司を見つめるその視線には嘘がなく、蓉司が「全てを見透かされているような気持ちになる」と形容する言葉に説得力を与えていた。口数は決して多くないが、少ないセリフの中で哲雄の感情の移ろいを繊細に表現。「通常公演」では、抗えぬ本能から芽生えていく哲雄の愛を感じ取ることができるだろう。
蓉司の友人・三田睦を演じたのは、櫻井と共演経験も多い杉江大志。前半は自然体な芝居で魅せ、後半からはただの友人とはまた違う別の顔を覗かせる睦を好演。圧倒的な陽をまとった芝居から、目の奥が笑っていない正気を失った芝居まで…ファンにとってはどちらの芝居も楽しめる贅沢な時間となるのではないだろうか。「エクストラ ver.睦」では原作のあのストーリーを熱演する杉江の姿を楽しめることだろう。
宇野結也は学園で腫れ物として扱われているトリッキーな人物・翁長善弥を好演。支離滅裂な言動を繰り返す気味悪さの合間に、内に抱える闇や孤独をちらりと覗かせた。「エクストラ ver.善弥」ではどんな芝居を見せてくれるのか期待が膨らむ。
他にも、教師の上屋武彦(演:村田充)をはじめ、蓉司の姉・芹沢枝里香(演:永田紗茅)、姫谷浩平(演:福地教光)、翁長邦仁(演:若杉宏二)らが骨太な芝居で作品に重みを与えていた。
本能と肉体は切っても切り離せない。だからこそ、本能を描き出す「sweet pool」の世界観は演劇と相性がいいのだろう。役者によってキャラクターが肉付けされたことで、原作ファンも本作を通じてさらに作品への解像度が上がるのではないだろうか。愛のさらに深いところにある“生と性”の渇望の海に身を浸して、文字通り彼らの想いを肌で感じてみてほしい。
カーテンコール撮影会などお楽しみ企画も多数用意されている本能バースト演劇「sweet pool」は、2022年3月12日(土)~21日(月・祝)まで東京・天王洲 銀河劇場にて上演される。
(C)本能バースト演劇「sweet pool」製作委員会
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