役者たちの肉体表現で魅せる、舞台「灼熱カバディ」開幕！　伝播する舞台上の"熱"

舞台「灼熱カバディ」が2月18日、東京・シアター1010で開幕した。本作は、カバディに打ち込む男子高校生たちの姿を描いた武蔵野創による「灼熱カバディ」の舞台化作品だ。

2.5ジゲン!!では、初日に先駆け行われた公開ゲネプロの様子を、カバディのルールも簡単に紹介しながらレポート。原作未読の人にもこの熱い舞台と競技を知ってもらえるきっかけになってもらえれば幸いだ。

高校一年生の宵越竜哉（演：田淵累生）は、中学生時代は“不倒”と呼ばれ雑誌に載るほどの活躍を見せたサッカーのエリート選手。しかし人間関係の軋轢などからサッカーを離れ、緩く薄い関係が保てる動画配信サイトで、生放送の主“ナイトエンド”として活動していた。

来る日も来る日も寮の自室を訪れるサッカー部の勧誘にうんざりしていた宵越だったが、ある日、一人の一年生が部屋を訪ねてきたところから物語が動き出す。元気のいいスキンヘッドで小柄なその一年生は畦道相馬（演：大原海輝）。カバディ部だと言う。

「見学だけでも」としがみつく畦道のタックルの強さに驚き、「生配信のネタにはなるだろう」と宵越はカバディ部が活動している体育館へ向かった。

そこで宵越が見て体験したのは、イメージにあったネタ的なスポーツとは違うカバディの熱さだった。副部長の井浦慶（演：岩崎悠雅）の「配信番組のファンを増やしてあげよう」という甘言に釣られ脅され入部を決めた宵越だったが、カバディの面白さにどんどん惹かれていくことになる。

カバディはインドの国技だ。原作である漫画「灼熱カバディ」がマンガワンで大人気となりアニメ化もされた影響で日本でも少しずつ実態が知られてきているとは言え、いまだに「カバディカバディって言いながら何かやっているスポーツ」とネタ扱いされているのは否めない。しかし、そう思っている人にこそ本作に触れてほしい。

「どういうスポーツ？」と思っている人には、ハードな鬼ごっことレスリングを足してドッジボールのルールを加えたものと言えばイメージが浮かぶだろうか。

陣地に入る、相手に触れる、捕まらないうちに自分の陣地に逃げる。単純なようでいて駆け引きや反射神経と同時に肉体的な強さも必要であり、しかし体格が良ければ最強というわけでもない奥の深い競技だ。その起源は狩猟と言われており、道具（得点ボードは除く）は使わずに己の肉体のみで相手と戦い、その激しさはほぼ格闘技だとも言える。

競技のシンプルさを表現するように、本作の舞台セットもシンプルだ。舞台上にカバディの競技マット、奥に足首と手首を模した前衛的とも思える巨大なオブジェ、交差されたチェーンに吊るされた、ポイントを保持している状態を指す「STRUGGLE（ストラグル）」の文字。大きなセットチェンジはせずに、舞台の上がそのまま寮の一部屋や体育館などさまざまな場所に変わる。

その舞台の真ん中に立つのは、本作で舞台初主演の田淵累生（宵越竜哉役）。“ナイトエンド”と称して配信に熱中するなど少々残念な面もあるが、周りと歯車がかみ合わずスポーツを嫌いだと思い込もうとしていた苦悩、カバディの面白さに目覚めていく姿、そして周りのあらゆることを吸収しながら急速に成長していく様子は、2019年から舞台での活動を始めて活躍めざましい田淵にぴったりだ。特に奏和高校との試合の終盤で魅せる表情と熱意はすさまじい。

宵越をカバディ部に誘い、“不倒”を初めてマットに投げ飛ばした畦道相馬を演じるのは、大原海輝。はつらつとして人懐こい裏表のなさそうな人好きのする笑顔に、照明効果だけではなく舞台がぱっと明るくなる。

「灼熱カバディ」は、苦悩しながら成長していく元エリートの宵越が主人公であるが、一方、そのエリートに最初に辛酸を舐めさせた畦道の成長ストーリーでもあると筆者は感じている。互いに実力を認め合い、高め合うライバルの存在は、スポーツ漫画にとって欠かせない。舞台においても、宵越と畦道の歯車がピタッと合うシーンや試合後のシーンに胸が熱くなるファンは多いはずだ。

部長・王城正人役の高崎翔太。オーバーワークで入院していたが退院。中学時代に全国中学カバディ選抜一軍チームに所属しており、宵越いわく「全日本」の世界組。すぐにふらふらと倒れ込む病弱さを見せるがカバディの実力は随一。高崎は、穏やかな物腰の通常時からスイッチが入った時の表情や雰囲気の切り替えが特にうまい。

岩崎悠雅が演じる井浦は、腹黒キャラであると同時に強大な実力者が近くにいる苦悩やコンプレックスが伝わってくる。試合の前に眼鏡を外す瞬間はオペラグラスで見逃さないようにしたい。

水澄京平（演：樫尾篤紀）と伊達真司（演：小早川俊輔）の先輩コンビ。今作では、なぜ2人がカバディを始めたのかと、この2人がチェーンを繋ぐことになった経緯は描かれていないが、先輩として宵越の前に立ちふさがる大きな壁であり良き先輩でもある。

伴伸賢（演：岸本卓也）と関隆太（演：宮下雄也）、人見祐希（演：宮崎湧）の3人は、原作よりも早めに登場する。試合の解説者でもあり、熱くなり過ぎる部分に笑いを差し込んでストーリーに緩急をつけたりする役目を担っている。特に首落としの関はギターで大活躍する場所があるので、腹筋を大いに準備して観てもらいたい。

奏和高校の面々は、登場するだけで舞台に重みが加わるように感じるキャストばかりだ。実力者の六弦歩を演じる川隅美慎は体格も佇まいもずっしりとした重さで強烈な印象を残す。神永圭佑が演じる高谷煉（煉は正しくは「火」に「東」）は、脅威の能力を持った厄介なエースとして存在する。

今回はこの2人が奏和高校のメインとして舞台で活躍するが、富本惣昭（木崎新太郎役）、持田悠生（栄倉祐役）、平野泰新（室屋大助役）もそれぞれ身体能力の高さと存在感を見せてくれる。

このキャストたちが舞台で生き生きと動き回るのだが、まず本作を実際に観劇して筆者は、観劇した人の多くは「2.5次元舞台」に対する考えを覆されるのでは、と感じた。漫画やアニメを忠実に再現、キャラクターたちが存在しているかのよう。それは確かであり変わりないのだが、本作はプロジェクションマッピングや派手な映像効果、大掛かりなセットチェンジなどは一切無い。自らの肉体だけで相手と競うカバディの競技そのままに、役者たちの肉体表現ひとつで最初から最後まで演じ切っている。

「カバディ」というキャント（発声）とともに戦いの場に足を踏み入れ、敵に触れるために近づいていく。触れなければ点数にはならず、しかし触れれば捕らえられる危険性もある。触れる、かわす、逃げる。レイダー（攻撃手）は、時に7人もの相手に立ち向かっていかなければならない。アンティ（守備者）は、味方とともにレイダーを迎え撃つこともあればたった1人で勝負を受けないといけないこともある。

カバディのプレイとしての動きは、原作に描かれているストーリー上必要なものはアクションとしてパルクールの動きを生かしてきちんと付けられているが、素の動きとして役者たちが自由に、そして本気でカバディをプレイしていると感じる時もある。それが舞台上にリアルを生み、原作付きの舞台でありながら、筋書きのない本気の勝負だと感じさせてくれるのだ。

狩猟が原点だというカバディをモチーフにした舞台だからこそ見られる、役者たちの本気の本能。1つのプレイが終わると汗がしたたり落ちる。筋書きのある部分も無い部分も、力を振り絞った本気だからこそ観ていてつい前のめりになりそうになってしまう。呼吸をするのも忘れてプレイに見入り、これは舞台だった、と我に返る。この感覚は、本作の脚本監修と演出を務めている西田シャトナーの舞台「弱虫ペダル」と同じだと感じた。

人間が己の身一つで、限界ギリギリの表現を全力で行う。観た人はその必死さに心を動かされる。綺麗ごとや表面上のテクニックではない。人を感動させるのは結局のところ、人の熱意と真剣さなのではないだろうか。