舞台版『誰ガ為のアルケミスト』-Last Blue 漆黒から、君ニ- が2月20日に新宿FACEにて開幕した。本作は、全世界で1000万ダウンロードを突破した人気タクティスRPG『誰ガ為のアルケミスト』の舞台化作品。
2019年6月に初演『聖石の追憶』、9月に再演『聖石の追憶~闇ヲ見つめる者~』、2020年3月には『~聖ガ剣、十ノ戒~』、2020年10月に『宛名ノナイ光』が上演された“タガステ”だが、第5弾である本作で最終章となる。
2.5ジゲン!!では、初日に先駆け行われたAルート「聖石の追憶ルート/聖教騎士団ルート」のゲネプロの様子をレポート。終わりの無いゲームの世界から生まれた物語は、どのようにピリオドを打つのだろうか。
前作『宛名ノナイ光』は、第一弾から続いていたクダンシュタイン(演:橘龍丸)を中心とした話からいったん離れ、第11代ロードマスターとなったカノン(演:花影香音)がザイン(演:中村誠治郎)の過去を知るストーリーが展開された。今作はストーリーが元に戻り、クダンシュタインが裏切り者の汚名を背負い失踪した『~聖ガ剣、十ノ戒~』の続きから始まる。
Aルートはその名の通り聖教騎士団の心情と信条に沿ったストーリーがカノンとクダンシュタインを中心として進むが、同時にソル(演:太田将熙)の生き様を含めヴェーダ十戒衆の持つバックボーンも描かれる。
光の届かぬ漆黒のロストブルーで生まれ、闇に生きるしかなかった彼らの叫びを聞けば、彼らを単純に“悪”だとは呼べないと感じるだろう。そもそも「正義と悪」は誰がどのように決めているのだろうか。世間的には勝者が正義と言われることが多いが、一概にそうとは限らない。
今作では聖教騎士団が正義とされているが、オライオン(演:代役・磯貝龍乎)にはオライオンの覇道と正義があり、十戒衆にもそれぞれの信念がある。クダンシュタイン役の橘は「彼らからしてみれば聖教騎士団は綺麗事を言っている存在なのかもしれない」、と2019年の初演前に行ったインタビューで語っていた。
しかしその綺麗ごとのために己の全てをかけられるのがカノンであり、聖教騎士団の面々だ。その笑顔は眩しく、やはり“聖石”はカノンの成長ストーリーであると感じる。
カノンが圧倒的な光であれば、すべての闇を一手に引き受けようとするのがクダンシュタインだ。自分だけが闇に落ちれば、悪に染まればそれでいい。絶対的な悪として存在しよう、としていたクダンシュタインが終盤でようやく口にするセリフには強く胸を打たれる。橘ならではのセリフ回しのうまさは、囁き声であっても際立っており耳心地がいい。
また今作でも女性キャストが皆、強くて美しい。タガステの特徴である、長く激しいアクションでもふらついたり観ていて不安になる箇所も無く、ヤウラス(演:富田麻帆)は華麗に双剣をふるい、カグラ(演:上西恵)は気高く炎を掲げ、セーダ(演:花奈澪)は効率的に矢の雨を降らせる。
モンゼイン(演:君沢ユウキ)の明るさと頼もしさ、バシーニ(演:松村優)の無邪気さと底知れぬ力、ひょうひょうとしたオーティマ(演:遊馬晃祐)の醸し出す空気。存在してくれるだけで安心感のあるザインがふるう剣のすさまじさは言うまでもない。聖教騎士団と十戒衆がひとつの舞台に一堂に会し、戦いを始めようとするシーンは壮観だ。
もちろん十戒衆も、芝居はもちろんアクションの能力にも長けているキャストばかりだ。冒頭から最後まで、どのシーンも見ごたえしかない。ワギナオ(演:渡辺和貴)とカノン、オライオンとバシーニの関係性も描写してくれるので、ファンは見逃さないようにしてほしい。
磯貝龍乎の演出は、所々に過去の出来事やサイドストーリーを挟みながら話に厚みをどんどん加えていく手法が特徴。本作だけでも「こんなことがあったのか」と感じながら展開を楽しめるが、初演から全て追っているファンにとっては瞬時に過去作を思い出せる仕掛けがあちこちに散りばめられている。続編を重ねて大きなストーリーが作られているタガステの、ラストを締めくくるにふさわしい作品だ。過去作のタイトルや印象的なセリフなどを、時間の許す限り復習して観劇してほしい。
毎回お楽しみのザインの小部屋は、今回はピンポンは特に無く突然始まる。舞台上の空気が緩んだな、と感じたらスタートだ。ザイン様と聖教騎士団の面々との絡みを今回も楽しみにしてもらいたい。ゲネプロではザイン様とモンゼイン団長との、乗り物酔いをしそうな熱いバトルが繰り広げられた。
2019年6月、初演『聖石の追憶』の制作発表会見にてプロデューサーの今泉潤は「物語には終わりがあるから思い出に残る」と語った。ソーシャルゲームは、サービスが終了にならない限りは終わりが無く、次々とストーリーが展開されるケースが多い。その中においてタガタメは、聖石などの人気エピソードもあることで、ソーシャルゲームでありながらエンディングも楽しめるゲームだと感じる。
公演は2月27日まで。回替わりで聖教騎士団ルートの「聖石の追憶ルート」と、十戒衆の「アルゾシュプラーハルート」が上演される。また、ニコニコ生放送のライブで2月23日(水)に各ルートの配信も行われる。(12時からの回は十戒衆ルート、17時からの回は聖教騎士団ルート)
ゲネプロはAルートの公開だったが、Bルートで十戒衆側からのストーリーも観てこそ全貌が分かり、さらに理解に深みを増すことに間違いはないだろう。
第3弾では本作と同じ新宿FACEで、観客を入れずに急きょ全公演配信がさまざまなカメラアングルで行われた。第4弾は配信を前提として舞台が作られ、VRを導入するなど“推しの定点カメラ”が実装された。配信映像にもこだわりの実績がある本作。劇場に来られない環境のファンはぜひ両方のルートで楽しんでほしい。
舞台は終わるがゲームは続く。タガタメのストーリーは終わらない。ひょっとしたら、別の“タガステ”にまたいつか出会えるのではないか、ついそう期待してやまない。
取材・文:広瀬有希
(C)舞台版『誰ガ為のアルケミスト』製作委員会
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