シリーズ4作目となる舞台「文豪とアルケミスト 捻クレ者ノ独唱(アリア)」が2月3日(木)に開幕した。
名だたる文豪たちが転生し、文学作品を侵蝕者たちから守るために立ち上がる文豪転生シミュレーション「文豪とアルケミスト」を原作とした作品で、今作では、シリーズ初登場となる尾崎一門を中心に、侵蝕者との新たな戦いが描かれていく。
2.5ジゲン!!ではゲネプロの様子を劇中写真とともにレポートする。
慕う師の作品にうごめく侵蝕者の影
物語は本作の主人公・徳田秋声(演:赤澤遼太郎)が侵蝕者と戦うシーンから動き出す。徳田は顔を苦悩に歪めながら、意味深な言葉を吐き出し、侵蝕者に弓を射る。面倒ごとに巻き込まれがちだと自らを認識する徳田は、果たして転生したこの世界でどんな“面倒ごと”に巻き込まれたのだろうか。
そうしてここから、冒頭のシーンへとつながる物語の最初の1ページがめくられる。アルケミストの声に導かれ文学書を守るという使命を帯びて、徳田秋声はこの世界に転生する。そして泉鏡花(演:山﨑晶吾)、尾崎紅葉(演:玉城裕規)も目を覚まし、かつての尾崎一門が数奇な再会を果たす。
3人が再会を喜ぶのも束の間、彼らの周りには文豪の転生者たちが続々と現れ、太宰治(演:平野良)や佐藤春夫(演:小南光司)らが、彼らにこの世界について教えていく。
その矢先、侵蝕者の気配とともに尾崎が倒れる。彼の「金色夜叉」が侵蝕されたのだ。彼の弟子である徳田と泉は、師の未完の名作を守るため「金色夜叉」へと潜書する。侵蝕者との戦いの中、誰よりも洞察力と観察力に優れた徳田秋声は、ほかの誰もが気づかなかった“あるもの”に気づいてしまい――。
尾崎の文学書が侵蝕者に狙われた理由、そしてこの場で尾崎一門が再会した理由は何か。
侵蝕者との豪快なバトルとともに、得体の知れない黒幕がうごめく気味の悪さ、そして、その裏で進行していく繊細な物語に心が激しく揺さぶられる物語に仕上がっていた。文劇シリーズらしい、どこか爽やかな“読後感”は健在。初登場の文豪たちに胸躍りつつも、お馴染みの顔ぶれに実家のような安心感を抱き、気づけばあっという間に2時間が経っているだろう。
“独唱(アリア)”がつなぐ未来への布石
尾崎一門の師弟の絆、徳田と泉の同門同士の良きライバルとしての絆を軸に、この顔ぶれならではの所縁がスパイスとなっていたのが印象的だ。
尾崎と佐藤は師としての背中を見せなければならないという、上に立つ者の悩みを打ち明け合う。芥川賞選定組の佐藤と川端康成(演:正木郁)、そこに厄介な絡み方をしていく太宰。時折、記者魂を覗かせ新顔たちに好奇心を寄せる国木田独歩(演:斉藤秀翼)や、尾崎を慕う泉を、その弟子として慕う里見弴(演:澤邉寧央)。
文学界という世界で交わりすれ違ってきた者たちのifの世界を覗けるのは、この文劇シリーズの醍醐味だ。侵蝕にまつわるエピソードが重いだけに、生前のエピソードを織り交ぜて作られていくコミカルな日常シーンはその軽快さが際立つ。文劇ならではの掛け合いを楽しんでみてほしい。
中でも主人公とあって、徳田は人と人とのつながりの起点となっていく。彼が受け取った想いを咀嚼し、己の血肉として力に変えていく姿は観る者の心を揺さぶるだろう。しなやかさを感じさせながらも、スッと真っ直ぐな芯が通った徳田を赤澤が好演。物事のありのままを見つめる徳田らしさを、無垢さをまとった透明感ある芝居で魅せてくれた。
クライマックスとなるシーンでは、ポロポロと頬を伝うその涙にもらい泣きしてしまうかもしれないので、ハンカチを手に握っての観劇をおすすめしたい。
▲本作で初登場となる徳田秋声(演:赤澤遼太郎)の新衣装にも注目だ
安定感のある実力派・玉城を筆頭に、尾崎一門の3人は安定感が際立っていた。安定した土台の上に紡がれていく繊細な感情の起伏が見事で、絆という目に見えないもので結ばれた彼らの強さと脆さの両面を見せてくれた。
尾崎への愛が全身から溢れ出ている愛らしい泉や、意外と感情豊かで目が離せなくなる徳田、そして広い海のような愛情深さと茶目っ気を持つ尾崎は必見だ。
▲尾崎一門の一人・泉鏡花(演:山﨑晶吾)
▲甘味に目がない尾崎紅葉(演:玉城裕規)
赤澤が先輩として慕う平野が演じる太宰と、徳田とのシーンも見どころだろう。周りに理解されにくいという共通点を持つ2人は、どんな言葉を交わすのか。お互いがお互いの言葉に感化されていく姿はそれ自体が心温まるシーンであるが、2人のファンにとってはより感慨深さを感じられるだろう。
久々に文劇に戻ってきた佐藤は、数年分の小南の進化を感じさせた。頼もしい背中はそのままに、加えていい塩梅の大人の余裕を感じさせた。2作目以来の登場となる斉藤演じる国木田とともに、観ていて安心できるお兄さんオーラを生み出していたのが印象的だ。
▲1作目ぶりの登場となった佐藤春夫(演:小南光司)
▲2作目ぶりの登場となる国木田独歩(演:斉藤秀翼)
口数は少ないながらも独特な雰囲気を持つ川端は、正木が繊細な表情で魅せた。同じく初登場となる里見は、初演ではアンサンブルとして出演していた澤邊が演じている。持ち前の運動神経を生かした舞うような殺陣と人懐っこい笑顔で、ムードメーカー的存在として活躍した。
▲太宰とのやりとりも見どころの正木演じる川端康成
▲天真爛漫な笑顔が魅力の里見弴(演:澤邉寧央)
そして文劇の顔とも言えるのが、平野演じる太宰だ。今回は因縁の川端との転生とあって前半はややご機嫌斜めに。これまでとはまた違った太宰の茶目っ気を楽しめる作品となっていた。本作初登場の新衣装にご機嫌な様子も必見だ。
▲今作もテンションが乱高下する太宰治(演:平野良)を堪能できる
謎に包まれた侵蝕者のヴェールがほんの少しだけ綻ぶ本作は、文劇シリーズのこれからへの新たな布石になるのではないだろうか。ここまで綴られてきた過去3作品の“文字”と、ここから綴られる新たな“文字”。それらが繋がり、文豪たちが作品を守りきった先に、どんな結末が待っているのか。開いた本を見立てたセットの上で繰り広げられた物語が、次の1ページへと繋がっていくことを期待しながら、まずは、この舞台「文豪とアルケミスト 捻クレ者ノ独唱(アリア)」の世界に潜ってみてはどうだろうか。
取材・文・撮影:双海しお
徳田秋声役・赤澤遼太郎 コメント
コロナ禍においてまだまだ予断を許さない状況の中、スタッフさんの様々なケアやサポートのおかげでこうして今日を迎えることができました。お芝居としても主演である自分が一番徳田秋声になれていなくて、たくさん心配をさせてしまったように思います。でも今は自信を持っています。カンパニーが一丸となって迎えることができた初日。日々の稽古で積み重ねた一場一場全てが見どころです! ご来場いただけるお客さま、そして配信で見ていただけるお客さま皆さまの前でお芝居をできる喜びを噛み締めて千秋楽まで走り抜けたいと思います!
太宰治役・平野良コメント
シーズン2とも言える今作、今までの世界観に新たな風を吹かせるキャスト陣に注目です。稽古はあっという間で、今回もキャストスタッフみんなでああでもない、こうでもないって試行錯誤で臨みました。新章なのでどう受け止めてもらえるか不安がないと言ったら嘘になりますが、みんなで作り上げた絆なのでぶつかるのみです。太宰が軸じゃない立場でどう立ち回るのか、バトンを上手く引き継げるのか 是非注目していただけたらと思います。そして遼太郎演じる秋声の軌跡を刮目せよ!!
尾崎紅葉役・玉城裕規コメント
稽古を終えた時は不思議と本番のイメージが湧かなかったのですが、小屋入りして一気にきました。積み重ねて来たモノを大事に、今作でより歩みを進められるようにしたいです。また、個人的に初めての武器なので、自身の武器をどう活かすかと、師匠で在ることという部分にこだわりました。太宰のシーンも全て見どころだと思います!(笑) 僕は今回からの参戦になるのですが、その瞬間とその時を自身の尾崎紅葉として大切に在りたいと思います。皆さまの日々の活力になるよう光を目指し挑みます。引き続き応援していただけたら幸いです。
泉鏡花役・山﨑晶吾
ご来場ありがとうございます。2022年が始まり、年明け1つ目の作品でいいスタートになったなと思っています。キャスト、スタッフ一丸となって限られた時間の中で何度も話し合い訂正し、新しい舞台「文豪とアルケミスト」を丁寧に作り上げてきました。沢山のこだわりが詰まった作品になってます。この作品を通じて信じることのすごさを感じました。今の時代だと情報が多くすごく難しいことになってると思います。この作品を見てくださった方々に何かしらの感情を持って帰ってもらえる様に精一杯役と作品に向き合います。最後まで応援よろしくお願いします。
佐藤春夫役・小南光司
佐藤春夫をやらせていただきます、小南光司です。約3年ぶりに文劇に参加できるということでとても楽しみにしていました。稽古を終えて、本番が始まるわけですが毎日新しい発見をしたり、新鮮な気持ちで全公演楽しみます! 大変な時期ではあるけれど、わざわざ足を運んで、時間を作って観に来てくださった方々に、「観劇して良かった」と心から思って貰えるように最後まで精一杯生きたいと思います。
国木田独歩役・斉藤秀翼
無事に開幕を迎えられることを心から嬉しく思います。稽古では誰がどの段階でどう思って居るのか等、細かい部分まで絞り出して整理し、キャストや演出の吉谷さんと ディスカッションをしながら作りました。前回出演時に比べ、台詞、殺陣共にボリュームが増していて、 解説、推理をしながらも物語の中でどう立ち回って何を大切にしているのか、見てもらえたらと思います。また、この作品と共に時間を過ごすことを選んでいただき本当にありがとうございます。文劇を通じて、お客さまと共に素敵な時間を過ごせたらと思います。
川端康成役・正木郁
いよいよ2月3日から初日を迎えます。新年1発目ということで、僕自身すごく楽しみにしておりました。そしてそれ以上に、沢山の方がこの作品を心待ちにしてくださっているのだと感じ、嬉しい気持ちでいっぱいです。稽古中も様々な事が起き、ギリギリまで調整をしておりますが、素敵な世界観をお届けできるかと思います。個人的には、口数の少ない川端康成の存在感と、殺陣などを楽しんでいただけたらなと思っております。皆さまのご来場、ご観劇心よりお待ちしております。
里見弴役・澤邊寧央
久し振りの文アルの世界、また新たな気持ちで初日に挑めればと思います。個人的に、最後主題歌が流れてる中で色々な想いを持った文豪、侵蝕者の皆さんが戦うシーンが見どころの一つだと思うので注目して見ていただければと思います。稽古中は、沢山の方にアドバイスをいただきながら里見弴という役柄を創りあげることができました。皆さまに素敵な世界をお届けできればと思います。
(C)2016 EXNOA LLC/舞台「文豪とアルケミスト」製作委員会
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