Allen suwaruプロデュース公演、舞台『いい人間の教科書。』が東京・新宿FACE で12月22日（水）に開幕した。本作は密室に閉じ込められた5人が「いい人間1人だけ解放される」という指示のもと、自身の罪や過去と向き合い、「いい人間とは何か？」を議論する全編エチュードの会話劇だ。
2.5ジゲン!!では、ゲネプロの様子と、その直後にキャストの財木琢磨、富本惣昭、磯野大、宮城紘大、大平峻也へインタビューを行った。
一つの事件から5人が繋がっていく
四方を観客席が囲む舞台は椅子だけが並び、それ以外は何もなく、とても無機質だ。
そこに突然集められた4人はなぜここに自分たちがいるのか検討もつかない。スマホもパソコンも、外部との連絡手段がなにもないことに焦り、お互いに疑心暗鬼に陥っていると突如、「只今をもってあなた方を拘束します」という文字が4つのスクリーンに表示される。
ここから脱出できるのは「いい人間1人」だけ。
しかし彼らはそれぞれ過去に犯した “罪状”を抱えているため、一見して“いい”人間とは言い難かった。自分こそがこの4人の中で一番いい人間であることを証明するため、根拠を並べるものの価値観が食い違い、その焦りから、ついにはお互いのアラを探し、ただただ傷つけ合うようになってしまう。いいところを探すどころか全く対局の「こいつはこんなにも悪いやつだ」という理由ばかりが話題に上がっていく。
そこにもう1人の人物が登場し、パニックは最高潮に。ついに5人が揃ったことで全員の共通点が明らかになり、これまで食い違っていたものや彼らの罪状の背景が、綺麗に点と線で結ばれた。すべての材料と、触れてほしくない自分の過去をさらけ出したところで、改めて一人一人の人間性と向き合い、「本当のいい人間」を決めるために再度対話を始める。
俳優たちの新たな表現の引き出し
ゲネプロでは「日常生活でも見かけそう」なリアルな人物をキャストたちが描きつつ、「非日常的な空間に放り込まれたら人はこうなるのか」と、まるで人体実験を見ているかのようなドキドキとハラハラ感があった。
脚本・演出の鈴木茉美は「キャストには稽古へ入る前に長めの自己紹介をしてもらって、そこから彼ららしいと感じるものと、あえて違った方向へ伸ばして行こうと感じるものを整理して、稽古中にキャラクターを固めています」と語っている。
登場人物の設定のみ、キャストから受け取ったインスピレーションをもとに鈴木が用意するがストーリーの大筋やゴール、そのために必要な伏線などは全てキャスト5人と一緒に稽古を通して作り上げている。キャストたちはその大筋に沿いながら公演ごとに場の緊張感や雰囲気で出方を変えるため、毎回違った生感が上乗せされるはずだ。
宮城は「稽古2週間目から大きく流れが変わりましたね。それまではおのおの役のバックボーンが定まってなくて、僕たちと茉美さんとでずっと話し合いながら作りました。毎日稽古場で色々と試行錯誤して」と回顧。
磯野は「そのバックボーンが決まって、みんなが『この人にこんな背景があるんだったら、こういうふうになるだろうな』っていうのが徐々に加わった感じかな？」と続け、宮城も「そうだね。惣昭のさ、自分の過去に触れられたあとの、あのリアクションめちゃめちゃいいよね。でもあれって稽古の中盤まではたどり着いてなかったもんね」とうなずいた。
俳優の新たな表現の引き出しをどんどん開けているため、本作を見た人は彼らのアクトに驚くに違いない。
磯野は「きっと5人にはそれぞれ、俳優としてのイメージがあると思うんですけど、この舞台ではそれとは異なるキャラクターをゼロから作ってお客さまにお見せするんですよね。それがエチュードの醍醐味でもあるんですけども。それを見た方が『え、もしかして本当にこんな嫌な人なの？』って錯覚させることができたら役者としては嬉しいです」と話す。
大平は稽古に途中から合流したそうで、「みんなが2週間くらい稽古したあたりで僕は初稽古だったんです（笑）。初めはみんなの動きを見て、『あ、こんな感じに進んでいくんだ！』ってびっくりしました。エチュード劇なので、一度始まったら稽古が全然終わらないんです」
「ぶっ続けで3時間とかやり込むんです。いつまでたっても終わらなくて。『僕たちは今日帰ることができるのかな？』って思いながら必死にやっていました。現場では茉美さんが本当に一人一人に向き合ってくださっていたから少しずつ形になっていったのかなぁと思います」と告白。
そんな大平は、劇中で怒りをあらわにするシーンも。「キレるということ自体は他の舞台でもあったんですが、爆発の大きさが違ったんですよね。ほとんどの舞台では用意されたセリフがあるので、ある程度は方向性みたいなのもあるんです。でも、この舞台ではその日によって怒る材料やタイミングが違うので毎日新しい感覚で挑んでいます」とエチュードならではのアプローチを明かした。
財木、富本、磯野、宮城、大平による化学反応はまだまだ止まりそうにない。新鮮さがある一方、5人が馴染んできた感覚もあるという財木だが「信頼はしています。でも逆にそれがあるっていうのもまた難しい問題で。“いい人間”っていうテーマも難しいですよね。人ぞれぞれの価値観も考え方もあるからこそ。なんとも言えない」とし、「僕は、自分が思ういい人間が“いい”人間って思うし」と続ける。
大平も「今日のゲネプロで、大くんの『お前がやられたらどう思う？』っていう言葉がすごく心に響いたんですよね。やっぱり人が傷つくことはやっちゃいけないんだなっていうのが今回とても勉強になりました。人（相手の）の気持ちになる」。
最後に5人それぞれが意気込みを語った。
財木「僕自身、お客さまに囲まれた状態で始まる舞台って初めてなんです。だからこそすごく新感覚な舞台だなって思っていて。エチュードということもそうだし。きっといい緊張感がお客さまが入ったことで増すと思うんです。そして皆さんにも僕たちのこの緊張感を共有してもらって、ゾクゾクっとする瞬間やワクワクする瞬間を楽しみにしていただけたら嬉しいです。今年最後の舞台なので頑張ります」
宮城「さっきゲネプロを終えて、今、全く頭が回りません。お腹も空いて喉も乾いて、眠くなってきていて（笑）。正直今まで経験してきた舞台の中で一番キツいんじゃないかって思っています。体力的にも精神面的にも。今日、袖から舞台上へ向かう時の感覚がこれまでに体験したことのないものだったんです。過去に出演した作品とは全く異質で『ああ、ここの空間に入ったらもう出ることはできないんだな』っていう不思議な感覚になって『この作品は本当にすごいな』って改めて感じていました。すごく周りに助けてもらっているからこそ、自分ができることは精一杯やりたいなって思うし、力になりたいと思います。今年最後の舞台になるのでぜひ見に来ていいただきたいです。よろしくお願いいたします」
大平「ゲネプロで舞台へ立った時に、『本当に僕たちがゴールまで導き出していかないと出ることができないんだな。でないと何時間でもここにいなきゃいけないんだな』と感じました。役としても個人としても、チームワークをもってゴールまでたどり着けたこのゲネプロが一つの自信になりました。明日からの本番は見に来ていただいた方に、僕たち一人一人の“人間”という教科書と、舞台を通して“いい人間とは”ということを一緒に考え出していただきたいなぁと思います。そしてきっと観劇後には人にちょっと優しくなることができると思うので『いい人間の教科書。』から“いい世界”を届けていきたいです。よろしくお願いいたします」
富本「全編エチュードとはいえ流れがあるんですけれども、今日のゲネプロは稽古でやったこととはまた違う流れが生まれました。エチュードだからこその感情のやり取りがあって、一公演一公演同じ舞台はないんだろうなと思います。同時に人が発する言葉の大切さも強く感じました。これは見に来ていただく皆さんにも色々な受け止め方をしていただけると思います。75億人のうちのこの5人が舞台上で生きて、考えて、発言しているところから『いい人間ってなんだろうな』と考えるきっかけを作っていただけたら嬉しいです。ぜひ見に来てください！ よろしくお願いいたします。」
磯野「この5人で、舞台上で表現をしているのですが、ここへたどり着くまでにたくさんの方のお力をお借りして、こうして舞台をさせていただいております。さらに、そこにお客さまにお越しいただいて僕たちは演技をすることができるんですよね。この最高で、そしてストイックな4人と僕で板の上で表現させていただくので、ぜひ『人間』を見に来ていただければと思います。素敵な音響さん、照明さん、映像さん、鈴木茉美さん、そして本作に関わっていただいたすべての方々、総結集をしてお届けしますので、どうぞお楽しみください。よろしくお願いいたします」
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舞台『いい人間の教科書。』最新作は東京・新宿FACEで公演中。ほぼ2時間、ノンストップで命をかけた必死のやり取りが繰り広げられ、途中一切水分補給もできない過酷な環境も重なり、目に見えて憔悴していく5人。その姿に、見ている側も同じようにエネルギーをどんどん消費されていく作品ではあるが、きっと生きるうえでの「何か」を得られるはずだ。
なお、開幕前に財木琢磨、磯野大、大平峻也の鼎談取材を実施しているので、あわせて読んでほしい。
撮影・取材・文：ナスエリカ
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