人類最強の英傑vs神々のタイマンバトルを描く人気漫画「終末のワルキューレ」(梅村真也原作、フクイタクミ構成、アジチカ作画)の舞台化作品「終末のワルキューレ」~The STAGE of Ragnarok~が11月27日(土)、幕を開ける。
2.5ジゲン!!では初日を前に実施された囲み会見とゲネプロの様子をレポート。劇中写真と共に、本作の魅力や見どころを紹介する。
魂のタイマン勝負を見届ける証人に
魂のぶつかり合いを肌で感じる空間が劇場には広がっていた。可動式劇場ならではの配置によって、ステージは見上げるものでなく、“目撃”するものへ。観客と同じ視点の高さで繰り広げられる人類と神々のタイマン勝負は、まるで我々にこの勝負の証人となることを望んでいるかのように、その火花を見せつけてくるのだ。
物語は半神の戦乙女(ワルキューレ)ブリュンヒルデ(演:飯窪春菜)が、重々しく「人類存亡会議」によって人類滅亡のカウントダウンが始まった事実を告げるところから始まる。ブリュンヒルデは、有無を言わさず人類を滅亡させようとする神々に高らかに異を唱え、超特別条項に基づく神VS人類最終闘争(ラグナロク)の開催を提案。こうして神々対人類による、人類存続を賭けたタイマン勝負の開催が決定する。
▲初の2.5次元作品に挑むブリュンヒルデ役の飯窪春菜
飯窪の演じるブリュンヒルデは、凛とした美しさを持ちながら、勝ち気で曲者な雰囲気をまとっていた。不意に出てくる口の悪さもどこか上品だったのが印象的。本作で彼女のタイマン勝負は登場しないが、作品の軸として決してブレない、その底に眠る強さが垣間見えた。
▲末妹らしい弱さと優しさを持つゲル(演:田上真里奈)
小柄ながらもパワフルな芝居で観客を魅了する田上真里奈は、ブリュンヒルデに付き従う戦乙女の末妹・ゲルを演じる本作でも、その魅力を爆発させている。神々に喧嘩を売るブリュンヒルデの言動に一喜一憂して、姉妹たちの死闘に誰よりも心を動かす。実に人間味あふれる姿は、ある意味どの登場人物よりも観客の感性に近いのかもしれない。彼女が敗者のために流す涙は美しく、その悲痛な叫びに、この勝負が娯楽の戦いではなく大きなものを賭けた戦いであることを思い起こさせてくれた。
本作では第3勝負までが描かれる。神々と偉人との戦いとあって、それに相応しい想像を超えた表現がタイマン毎に用意されていた。タイマンというこれ以上ないほどシンプルな戦いだからこそ、舞台ならではの表現で奥行きと幅広さが加わると、途端に複雑な味わいへと変化するのだろう。劇中は何度もその熱量に感嘆してしまうが、不思議なことに観劇後はシンプルに「面白い」という感情が残った。
彼らが小難しいことは抜きにして身体と魂をぶつけ合ったように、観客も頭と心を空っぽにして表現されたものをただ素直に受け取ればいいのだろう。ステージ上と観客との間で、興奮を直球で投げあえる作品であり、それこそが本作の醍醐味のように感じた。
あらゆる表現を駆使したタイマン勝負の魅力
ここからは本作で描かれる第3回戦までを、それぞれの見どころについて見ていこう。
第1回戦は中華最強の英雄・呂布奉先(演:郷本直也)vs雷の狂戦士・トール(演:山口智也)。登場の瞬間から、トールはその手に持つミョルニルに目を奪われる。原作通り、身の丈ほどもあるこの戦鎚が華麗に宙を舞う姿は圧巻。
▲ミョルニルを自在に操るトール(演:山口智也)
▲存在感でステージ上を支配する呂布奉先(演:郷本直也)
対する呂布奉先もトールに負けず劣らずの強者のオーラを放ち、神を相手に一歩も引かぬ睨み合いを展開する。大地を轟かすかのような両者の歌声は必聴だ。呂布陣営の陳宮を演じるのは大見拓土。彼の懸命な応援にもぜひ注目を。
▲美しいトールは必見だが、背後には陳宮の姿も
▲熱い声援をメインステージ外から飛ばす陳宮(演:大見拓土)
第2回戦は全人類の父・アダム(演:大平峻也)vs全宇宙の父・ゼウス(演:加藤啓)による肉弾戦。ひょうひょうとした加藤の演じるゼウスから、戦闘モードの筋骨隆々のゼウスへ。演者は大日本プロレスの関本大介へと変わる。片手でリンゴを握りつぶすというパフォーマンスも披露してくれた。愛嬌と茶目っ気を感じる関本のゼウスから、最終形態「阿陀磨須」ではオイリュトミスト・ダンサーの鯨井謙太郒が登場。三者三様の身体表現でゼウスの力を示していく。
▲通常モードのゼウス(演:加藤啓)
▲大日本プロレス・関本大介演じるゼウス
▲最終形態のゼウス(演:鯨井謙太郒)
一方の大平は、葉っぱ1枚にメリケンサックという装備でゼウスへ向かっていくのだが、その演技力で戦いの中で動くアダムの感情を豊かに表現していたのが印象的だ。
▲かつてない布面積の衣装となったアダム(演:大平峻也)
▲慈愛に満ちた瞳が印象的
彼の人を愛する心は、どこまでも広く深い。戦いの終盤で彼が零す本心に、思わず涙が溢れることだろう。文字通り身体一つで挑む大平の勇姿を見届けてみてはどうだろうか。ゼウスの執事・ヘルメスを演じる佐藤永典の優美な燕尾服姿も注目だ。
▲底が見えない不気味さを兼ね備えるヘルメス(演:佐藤永典)
▲戦いの行方を見守るオリュンポス12神の第6柱・アレス(演:片山浩憲)
そして第3回戦。史上最強の敗者・佐々木小次郎(演:中河内雅貴)vs大海の暴君・ポセイドン(演:相馬圭祐)での見どころは、やはり殺陣。これまでの経験を感じさせる熟成された殺陣が、本作に重厚感を与えていた。
▲戦いを経て強くなっていく姿を殺陣でも見事に表現した佐々木小次郎役の中河内雅貴
▲傲岸不遜の態度の中で静かに燃える闘志が恐ろしいポセイドン(演:相馬圭祐)
「史上最強の敗者(ルーザー)」である佐々木を語る上で欠かせない宮本武蔵役は田中しげ美が担当。常に鍛錬し進化し続ける佐々木に、ベテランならではの説得力のある芝居でエールを送っていた。
▲包容力ある芝居が目を引く宮本武蔵役の田中しげ美
超人類級の戦いを表現するとあって、細部にまで演出・加古臨王のこだわりが見て取れた。映像演出はもちろんあるものの、バトルシーンにおいてはあくまで役者が主役という作りに。各々の強みを引き出した上に組み立てられた迫力は、ぜひ劇場で味わってみてほしい。想像を超えた観劇体験ができるはずだ。
囲み会見レポート
ゲネプロ前の囲み会見では、ブリュンヒルデ役の飯窪春菜、ゲル役の田上真里奈のほか、今回のタイマン勝負に関わる面々が登場した。
――座長に挑む本作、本番を直前に控えた今の心境をお願いします。
飯窪春菜(ブリュンヒルデ役):緊張しています。初めての2.5次元作品ということもあって全然座長らしいことはできておらず、周りの先輩の皆さんに助けていただいて甘えさせてもらっています。この作品は神と人間の熱いタイマンが観られるところが見どころなので3戦それぞれの戦士が主役だと思っています。私はブリュンヒルデとして戦いを見守りながら、舞台にに華を添えられるように頑張りたいと思います。実は座長としてやりたいことがあってまだできていないんですけど…。稽古場で言い出せなかったのですが、本番前の気合い入れをやりたいと思っているので、このあとぜひ皆さんと一緒にやりたいです!
郷本直也(呂布奉先役):このご時世なのでね、声を出さずにエアーの気合い入れをやりましょう!
飯窪:やった! ぜひお願いします。
――アダムの衣装について話題となりましたが、大平さんは実際にアダムの衣装でステージに立ってみていかがですか。
大平峻也(アダム役):取材陣の皆さん、素敵な服を着ていらっしゃっていいですね。場当たりで実際にこの場に立ってみて、空調が結構涼しいなと思っていまして、囲み取材もすぐ終わらないかなと思っています! というのは冗談で(笑)、この格好で殺陣をしたりお芝居をしたりというのは今後の役者人生でもそうそうないと思っているので、この姿だからこそできるお芝居を、この数日間楽しみたいと思います。
――妻であるイヴも葉っぱですが、この衣装はいかがですか。
新谷姫加(イヴ役):ビジュアル撮影をするまでどんな衣装かわからなくて。アダムを見たときに「えっ」と思ったので、自分には白い布があって安心したのを覚えています。この作品はもともと好きだったので、好きな作品だからこそ素敵な舞台にできるよう頑張りたいと思います。
▲葉っぱ衣装が印象的なアダム(演:大平峻也)とその妻イヴ(演:新谷姫加)
――関本さんはプロレスラーとして役者に挑戦されていますが、関係者の皆さんのリアクションはいかがでしたか。
関本大介(大日本プロレス):「頑張れよ」と言われたんですけど…というのは嘘です。
一同:(笑)。
関本:最近はプロレスラー仲間と会う機会がなく、この劇団の人たちとしか会っていないので。
郷本:劇団!? ああ、「劇団ワルキューレ」ってことですね!
関本:そうです。なので僕は今こっち側の人間として頑張りたいです。
――側近ヘルメス役の佐藤さんからみて関本さんはいかがでしたか。
佐藤永典(ヘルメス役):ゼウスさんが3人いるんですが、いい意味でみんな変なので、それが舞台上で爆発していてすごくかっこいいなって思います。その意味は、舞台を観ていただけたら分かると思います。
――人類代表として郷本さんから一言お願いします。
郷本:私が人類代表の一言ですか!? こういう戦いものって歓声を飛ばしたくなるじゃないですか。座席によっては応援用グッズがあるので、それを利用して僕たちを盛り上げていただけたらいいですね。人類側と神側で別れていますが、どっちでもいいです! 盛り上げていただけたら嬉しいです。頑張れという熱意を送っていただけたら、僕たちはそれを受け取って頑張りますのでよろしくお願いします!
――神代表として山口さんいかがでしょうか。
山口智也(トール役):お客さんが参加することによって、その日によって舞台の色も変わってくるのかなと思うので、それも楽しみながら演じられたらいいなと思います。
――改めて本番に向けてメッセージをお願いします。
飯窪:本作は観に来てくださった皆さん一人一人が試合の観客として参加していただく形になるんですが、お客さんがいて完成するということが体感できる演出になっていると思います。皆さんと盛り上がって舞台を作れたらなと思いますので、熱い神と人間の戦いを見届けて歴史の証人になっていただけたらいいなと思いますので、よろしくお願いいたします。
取材・文・撮影:双海しお
※記事初出時、山口智也さんの表記に誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
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