舞台『血界戦線』Blitz Along Alonが10月22日(金)、東京・天王洲 銀河劇場で開幕した。原作は、内藤泰弘の漫画『血界戦線』。2008年に連載が始まり、現在はセカンドシーズンにあたる『血界戦線 Back 2 Back』が連載中だ。
舞台シリーズ3作目となる今作では、ファンの中でも人気の「ラン!ランチ!!ラン!!!」「幻界病棟ライゼズ」「世界と世界のゲーム」などのエピソードがついに描かれる。2.5ジゲン!!では、初日公演に先立ち実施されたゲネプロと取材会の様子をお届けする。
これがライブラの日常、ドタバタの1幕
物語の舞台となるのは、かつてニューヨークだった街、ヘルサレムズ・ロット。異界と人界が交わり、超常現象や超常犯罪が飛び交うことになった街は「地球上でもっとも剣呑な緊張地帯」と呼ばれている。
今作も、生バンドの演奏と共に舞台が始まる。舞台後方で奏でられる生演奏は、舞台『血界戦線』では既におなじみとなっている豪華な演出だ。ドラム(KEN‘ICHI)、ピアノ(丸木美花)、ウッドベース(玉木勝)、サックス(丹澤誠二)、ヴァイオリン(ソンイル)が奏でる重厚な音楽が、霧に包まれた街の空気感を演出する。
1幕の序盤は、主に秘密結社ライブラのドタバタの日常が描かれている。
「ラン!ランチ!!ラン!!!」では、主人公のレオナルド・ウォッチ(演:百瀬朔)がザップ・レンフロ(演:猪野広樹)とツェッド・オブライエン(演:伊藤澄也)を誘ってランチに出かけるが、入る店でことごとく珍事件に巻き込まれてしまう。
一方、クラウス・V・ラインヘルツ(演:岩永洋昭)とスティーブン・A・スターフェイズ(演:久保田秀敏)は、ダニエル・ロウ警部補と密かに会っていた。ダニエル警部補の協力要請に応じることになり、ライブラ総動員のバトルが始まる。序盤からノンストップの熱いバトルに一気に引き込まれるだろう。
これぞライブラという空気感の中、「大脱出カフス」「Cherchez l’idole」のエピソードが続く。
「大脱出カフス」では、ザップとチェイン・皇(演:長尾寧音)の犬猿コンビが敵の策に陥り、手錠で繋がれてしまう。2人の息の合った動きとテンポのいい口喧嘩が面白い。
「Cherchez l’idole」は、K・K(演:安藤彩華)が母親として奮闘する姿が見どころ。普段は頼れる狙撃手K・Kが子どもの誕生日プレゼントのために右往左往する姿は、見ていて思わず笑いを誘われる。
1幕後半では「世界と世界のゲーム」が描かれる。麻薬・エンジェルスケイルの謎を探る秘密結社ライブラ。リーダーのクラウスは情報を手に入れるため、異界側でも有数の顔役のドン・アルルエルに挑むことになる。
血界戦線は、「技名を叫んで殴る」というのがコンセプト。バトルシーンでは映像演出も使った大迫力の技が繰り広げられることが多いのだが、このエピソードでは、クラウスとアルルエルは異界で最も有名なゲーム「プロスフェアー」で勝負することに。プロスフェアーは、現世でいうチェスのような盤上遊戯だ。
大技が繰り出されるわけではない。派手な武器が登場するわけでもない。しかし2人の対局は、今作でも屈指の熱いシーンとなっている。「凶悪なまでの頑固者」とK・Kに言われる程のクラウス。その決して折れない熱い魂を見届けてほしい。
熱いバトルが続く2幕
1幕の勢いをそのままに、2幕は史上最悪の締め出され事件、「ゲット・ザ・ロックアウト!!」から始まる。
何者かの手によって、事務所から締め出されてしまったライブラのメンバーたち。このエピソードでも、メンバー総動員のバトルを楽しむことができる。また、舞台『血界戦線』は熱いバトルだけではなく、間に差し込まれる笑いも魅力だ。限界を迎えたスティーブンが見せる春風のような笑顔、少々力技で解決しようとするクラウスの姿も筆者の推しポイントである。
2幕後半では、「幻界病棟ライゼズ」がついに舞台化。クラウスとスティーブンが因縁の戦いに挑むエピソードを楽しみにしていたファンも多いのではないだろうか。
大怪我をして生死をさまようザップと付き添いのレオナルドが飛び込んだのは、霧の中から突然現れた巨大な病院。その病院は、かつてニューヨークが“大崩落”に見舞われた時にクラウスとスティーブンが訪れた場所だった。
3年の時を経て、ザメドル(演:小野健斗)とザメドルの犬(演:郷本直也)と再び相見えたクラウスとスティーブン。今まで以上にバトルシーンが多く、見応えがあるアクションに仕上がっていた。
戦闘だけでなく、ルシアナ・エステヴェス(演:田上真里奈)を交えた過去の回想シーンにも注目だ。強大な敵を前に何もできなかったというクラウスとスティーブンの苦い経験は、見ていて息が詰まりそうになる。しかし、その敗北を乗り越えたからこそ今の彼らがいるのだろうと強く感じることのできるエピソードだった。
そして物語は終盤へ。病院に集まったライブラメンバーたちの賑やかな姿は、この非日常こそが彼らにとっての当たり前なのだと教えてくれているようだ。これから先も続く、予測不能で慌ただしい日々――ライブラの活躍を、ぜひその目で見届けてほしい。
舞台を彩るキャストの盤石さ
今まで以上にさまざまなエピソードが詰め込まれ、バトルシーンも進化した今作。それでも作品が散らかった印象にならずにしっくりと受け止めることができるのは、西田大輔の脚本・演出に加え、キャスト陣の盤石さもあるだろう。
まずはライブラのリーダーであるクラウス。ブレングリード流血闘術の使い手で、数々の血界の眷族を密封してきた実力者だが、彼の強さの理由は単純な力だけではない。観客を圧倒するほどの鋼の精神力、優しさと強さ、加えて気高さを兼ね備えたクラウスは、岩永が演じてくれるからこその説得力に満ちている。
そんなクラウスにとっての右腕的存在であるのが、副官のスティーブンだ。今作でもスタイルの良さが活きた足技は健在。戦闘でも事務方でも頼りになる伊達男だが、お茶目な一面も魅力的である。表情の作り方も上手い久保田の芝居は、どんなシーンでもスティーブンの魅力を最大限に引き出していた。
ライブラのムードメーカー的存在のザップは、今作でも猪野が熱演。度し難いクズと呼ばれるザップだが、騒がしさと愛嬌が絶妙な塩梅でどうにも憎めない。戦闘シーンの格好良さとコミカルなシーンのギャップに骨抜きにされてしまうファンも多いだろう。
ザップの兄弟弟子のツェッドは、前作に引き続き誠実さが光る。原作を忠実に再現した姿がゆえに表情はなかなか読みにくいはずだが、それでも笑顔や焦りが伝わってきて、伊藤の繊細な役作りが窺えた。
K・Kとチェイン、女性陣の活躍も見逃せない。K・Kは戦闘シーンでの活躍に加え、冒険キッドブリームンの音楽に合わせて踊るキュートな一面も。抜群のスタイルでかわいらしく踊る安藤の姿が見られるのは舞台『血界戦線』の特権だ。
チェインは前作よりも更にザップに対するキレ味が増している。美女の口から飛び出す辛辣な言葉の数々が思わず癖になりそうである。戦闘シーンでの活躍は、長尾のスタイルの良さが際立っていた。
今作で初登場となったルシアナは、田上が熱演。小柄な体からは想像できない信念の強さに、思わず胸が締め付けられるような感覚を覚える。ルシアナは、マグラ・ド・グラナから与えられた力により人並み外れた医者としての知識と技術、そして分裂能力を持っている。分裂した際の姿や性格の演じ分けが非常に巧みで、後半の出演にもかかわらず存在感を示した。
敵キャラクターは、ザメドル、ザメドルの犬が初登場。小野の美しさが、ザメドルの異様で不気味な雰囲気を際立たせていた。ザメドルの犬は郷本のビジュアルが発表された当初も話題となったが、実際に舞台に立つ姿は原作とはまた違った迫力がある。舞台でしか見ることのできないザメドルの犬に注目だ。
そして今作も、主役・百瀬がレオナルドを演じきった。レオナルドは神々の義眼を持ってはいるが、ライブラ構成員の中では唯一の凡人である。戦闘能力が飛躍的に向上するわけではないし、今作も他のメンバーに振り回されていることが多い。しかしレオナルドを見ているとどこか安心した気持ちになるのは、百瀬が座組のリーダーとして成長している証拠だろう。百瀬が中心にいてくれるからこそ、個性豊かな構成員たちが不思議とまとまっているように見えるのかもしれない。
また、メインキャストだけではなくアンサンブルにも注目。スモークや音響、照明が特殊な世界観を盛り上げるのに加え、舞台『血界戦線』はアンサンブルも舞台装置の一つだと言えるだろう。
例えば「ラン!ランチ!!ラン!!!」では食神、「世界と世界のゲーム」ではプロスフェアーの駒を表現しており、舞台に臨場感を持たせる役を担っている。ステージを駆け巡るキャラクターたちと融合し、ヘルサレムズ・ロッドの世界を見事に演出していた。
公演時間は休憩を含んだ約2時間45分。たくさんのエピソードが詰まっているが、原作通りの疾走感であっという間に時間が過ぎてしまうだろう。公演は10月31日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、11月4日(木)~7日(木)に大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで行われる。
異界と人界が混ざり合ったパレードを、ぜひその目で見届けよう。
取材会の様子
――今回の公演の見どころを教えてください。
百瀬:これまでの生バンドだったり、お話をうまく表現しているところは受け継ぎつつも、ステージ上は今までで一番目まぐるしく動いています。アンサンブルの皆さんの活躍もすごいんですよ。それもあって、今回はもしかしたら一番派手になっているかもしれないので、そこを見ていただければと思います。
岩永:今回はプロスフェアー編もすることになり、最初は「駒はどういう風に表現するんだろう」と思っていたのですが、それもアンサンブルチームの皆さんが頑張ってくれました。駒の一つ一つになったり、すごい表現方法です。映像と音楽、照明も駆使して皆で力を合わせて作っているので、そこが見どころの一つだと思っています。
猪野:舞台って総合芸術ですけど、今回はより濃い演出になっています。みんなで一つの大きな世界観を作りあげる、よりチームワークが大切な作品になったと思っています。圧倒されると思いますので、楽しみにしていただければ!
久保田:1作目では僕が演じるスティーブンがはしゃぎすぎていたシーンがありました。今回は僕の相方的な存在のK・Kが実にはしゃぎすぎています(笑)。そこにぜひ注目してみてください。
――新キャストとして加わった田上さん、小野さん、郷本さん。カンパニーに加わって感じた作品の魅力は何ですか。
田上:前作、前々作も映像で拝見させていただきました。さっき猪野くんも言っていた通りに総合芸術として、本当にバンドメンバーも含め、キャストもスタッフさんも全員で力を合わせないと出来上がらない画を目指して、一つ一つ作っているんだなと感じました。そこに全く手を抜いていないところが魅力だと思います。稽古場でも至る所で打ち合わせが行われていて、いいチームワークのカンパニーなんだなと思いました。
小野:生バンドによる演出はとても迫力があって、鳥肌が立つような感覚で魅力的だなと思いました。あと、イブラメンバーの日常がとてもよく描かれていて、ほっこりしたり、やわらかい気持ちになったり、愛おしくなったりするところが素敵だなと思っています。
郷本:作品の内容としては、少し難しい部分もあります。ただそういった部分も含めて、感じるままに素直に演じてまいりました。この前、自分が出ていないシーンの通し稽古を見ていたら、めちゃくちゃに面白くて! みんなの勢いに圧倒されて、あっという間に時間が経っていました。これがひとつのエンターテインメントの形なんだなっていうのを実感して、その中の一部として加わることができて幸せだなと思っています。
郷本:こんなご時世という言葉は言い飽きたし、聞き飽きたとも思いますが、見ていると元気になると思います。観劇をして元気をもらって、幸せに帰っていただけたらと思います。以上です、ワン!
小野:新キャラクターとして、いいスパイスになっていると思います。楽しみにしていてください、やっちゃうぞ!
田上:直也さんも「元気が出る」と仰っていましたが、「ちょっと今日眠いな」という方も、「仕事がきついから行けるか分かんない」という方でも、ふらっと来れば絶対に目が覚めると思います。 そういった魅力がこの作品にはあると思いますし、配信もありますので、多くの方に見ていただけたら嬉しく思います。出番は後半になりますが、皆さんの体力がなくなってきたな、という頃に出てきて、新しいエネルギーを与えられるように頑張りたいと思います。皆さんぜひ見に来てください!
――ファンの皆さんへ、メッセージをお願いします。
久保田:物語は複雑で理解が追いつかない部分もあるかもしれません。ですが僕らスタッフ・キャスト一同が真剣に作り上げた世界を、純粋に目でも楽しんでもらいたいですし、その熱量も楽しんでいただけたらと思います。
猪野:3作目です。重なるごとに難しくなる演出方法にみんなで食らいつきながらやっています。その分進化しているので、目で楽しんでもらって、元気になって帰っていただければと思います。よろしくお願いします。
岩永:劇場まで足を運んでくださる皆様、配信で観てくださる皆様。楽しみにしてくださっている皆さんのためにも、最後まで全力で、推して参る!
百瀬:3作目ですけど、僕的に1回目の公演はとにかく必死でした。この作品を作り上げるということに必死で、2回目は本当にコロナの真っただ中で、公演できたこと自体が奇跡だったんじゃないかと思っています。今回は今までを超えたいと思っていますし、今回のメンバーなら、絶対に超えられると思っています。この作品は、僕というか、レオ目線の舞台だと思います。ライブラに振り回されたり、他のキャラクターが出てきて戦ったり、という展開ですが、皆さんには僕と一緒に振り回されたり、一喜一憂してもらって楽しんでもらえたらと思っております。それでは…本番も、推して参る!
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会見中には「技名を叫んで殴る」というコンセプトにちなんで、「意気込みを必殺技っぽくお願いします!」というリクエストも。全員に向けられたリクエストだったが、周囲の後押しにより百瀬が一人で意気込みを披露することになった。
戸惑いながらも、「一生懸命頑張ります!」と力強く宣言する百瀬。しかし若干すべった空気を感じたのか、「これは皆が悪い」と百瀬は苦笑いだったが、他のメンバーは「これが『血界戦線』」と笑っていた。公演を重ねてきたキャスト陣の仲の良さが垣間見える、賑やかな会見となった。
取材・文・撮影:水川ひかる
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