8月5日にミュージカル『王家の紋章』が開幕。前回の上演からは約4年ぶりとなる。脚本・作詞・演出を荻田浩一、作曲・編曲をシルヴェスター・リーヴァイが務め、再び帝国劇場に古代エジプトの風が吹く。
前編では5日初日キャストについて紹介したが、後編となる本記事では6日初演キャストが出演するゲネプロの様子を紹介する。
以下、一部ネタバレ要素を含むため、新鮮な気持ちで楽しみたい方は観劇後に読んでいただきたい。
5日初日キャスト
メンフィス:浦井健治/キャロル:神田沙也加/イズミル:平方元基/アイシス:新妻聖子/ルカ:岡宮来夢/ウナス:前山剛久
6日初日キャスト
メンフィス:海宝直人/キャロル:木下晴香/イズミル:大貫勇輔/アイシス:朝夏まなと/ルカ:前山剛久/ウナス:大隅勇太
さらに進化するミュージカル『王家の紋章』
本公演の名物の一つとなるのが舞台演出、美術、衣装、オーケストラ陣の迫力だ。初演・再演時からさらにパワーアップした舞台空間は圧巻。技術を極めた随一のスタッフたちが、他では決して味わうことのできない至上の世界を築き上げている。
そしてもちろん、本公演から加わった新キャスト陣によって、その進化はさらに加速していく。
キャロル・リードを演じる木下晴香は、まさに期待の新星。16歳の少女の不安や葛藤、お転婆さを等身大のままに観客へと届ける。彼女の浮かべる表情のどれもが「うんうん、そうだよね」と共感したくなるほどリアルなのだ。あどけないかと思いきや、歌唱シーンでは自分の意志をしっかりと持った力強い歌声に驚かされる。
新たなる少年王・メンフィスは海宝直人が快活で気高く演じる。グランドミュージカル界の覇者たるその姿はさすがの一言。“新たなメンフィス”の誕生を心から祝福したい。
キャロルにサソリの毒から助けられたあと、愛を自覚するシーンの楽曲「 Love to give」では、その眼差しの中に慈しみが込められており、約3時間の公演時間の中で、メンフィスの成長までもが描かれている。
そんな2人の仲を引き裂こうとする異母姉・アイシスを演じるのは朝夏まなと。朝夏は思わず目を奪われるような、妖しく艶やかなアイシスを体現していた。その自由自在な歌声で、アイシスの目に見えない心の奥底の感情を訴えかけてくる。
高い身体能力と表現力を持つ大貫勇輔は、隣国の王子・イズミルを演じる。ダンサーとしても活躍する彼は、衣裳の作りを上手く活かし、動き一つ一つに優美さがあった。普段は心の内が読めないイズミルだが、キャロルへ気持ちが伝わらないときに見せる焦燥感や落胆の顔はとても切ない。
メンフィスとイズミルにはそれぞれ、ルカとウナスという配下がいる。彼らのキャラクター性は真逆で、ルカが月ならウナスが太陽と言えるかもしれない。
この配下たちもダブルキャストとなっており、ルカは前編で紹介した岡宮来夢、ウナスは大隅勇太、そして両役を務めるのが前山剛久だ。
大隅勇太が形作るウナスは忠義に厚く、真面目で表情が豊か。村人や他の兵士と関わる際には必ずコミカルなやり取りをしている。ハスキーで強い歌声は普段の動きとギャップがあり、それがさらなる魅力となっていた。
2役という大役を背負った前山は、この対局の配下を見事に演じ分けていた。ウナスの際にはキャロルに寄り添い、しっかりと支える包容力があり、殺陣もさすがの手さばき。対してルカの際には一切の隙がなく、蠱惑(こわく)的で「あ、敵に回したくないな」と感じる怜悧(れいり)さがあった。
また、甘い歌声はもちろんだが、特出すべきは前山の“指先の表現力”だ。布をつまむ仕草や礼を取る姿全てが指先まで徹底的に意識して作り込まれていた。
本記事では新キャストに注目してお伝えしたが、もちろん初演から本公演を支えるキャスト陣の魅力も語り尽くせないほどだ。機会があればまた別の機会に紹介するが、叶うなら一度、劇場でこの感動を生で体感してみていただきたい。
東京にて2021年8月5日(木)~28日(土)、福岡にて9月4日(土)~26日(日)まで上演。
取材・文/ナスエリカ
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