「月刊プリンセス」(秋田書店)にて1976年から現在まで連載が続き、累計発行部数4000万部を誇る少女漫画の金字塔『王家の紋章』。
2016年8月に初のミュージカル化で大きな反響を呼び、半年後、異例のスピードで再演が決定。いずれも過去に大成功を収めてきたミュージカル『王家の紋章』が、再々演として8月5日に開幕した。
前編では8月5日初日キャストを、後編で8月6日初日キャストが出演するゲネプロの様子を紹介する。
以下、一部ネタバレ要素を含むため、新鮮な気持ちで楽しみたい方は観劇後に読んでいただきたい。
5日初日キャスト
メンフィス:浦井健治/キャロル:神田沙也加/イズミル:平方元基/アイシス:新妻聖子/ルカ:岡宮来夢/ウナス:前山剛久
6日初日キャスト
メンフィス:海宝直人/キャロル:木下晴香/イズミル:大貫勇輔/アイシス:朝夏まなと/ルカ:前山剛久/ウナス:大隅勇太
約4年の時を経て、ロマンス大作が再び開幕
脚本・作詞・演出を荻田浩一、作曲・編曲をシルヴェスター・リーヴァイが務める本作。劇場に一歩踏み込むと、そこに広がった古代エジプトの人々の息遣いを、目で、耳で、心で感じ取ることができる。
16歳のアメリカ人キャロル・リードは、大好きな考古学を学ぶため、とあるピラミッドの発掘に参加していた。
そこは古代エジプトの少年王・メンフィスが眠る墓だった。墓を暴いたことで彼の異母姉・アイシスの怒りを買ったキャロルは、3000年前の古代エジプトへとタイムスリップしてしまう。
この物語のヒロイン、キャロルを演じるのは、本公演から初参加となる神田沙也加だ。まるで原作のページから飛び出してきたかのように、表情・声音・立ち振る舞い、どこを切り取ってもキャロルそのもの。時に激しく、時に透き通るような歌声を自在に操る神田は、キャロルの天真爛漫な性格と、憧れずにはいられない芯の強さを見事に形作っていた。
初演時からメンフィスを演じる浦井健治はさすがの風格。若き王としてエジプトの民を背負う覚悟と、生まれ持っての威厳が溢れていた。初演・再演を観劇した経験がある方は、冒頭で浦井が登場した瞬間に「ああ、またエジプトに帰って来ることができた」と感じられるはずだ。
孤独な若き王が、物珍しさからキャロルを自分の元に置くことで、彼の心情に様々な変化が生まれていく。
それを快く思わないのが、姉である女王・アイシス。幼い頃からメンフィスを支え、いつの日か彼と結ばれるためだけに生きてきた。そんな愛憎の淵で苦しむ彼女を演じるのは、新妻聖子。
初演・再演でキャロルを演じ、本公演ではアイシスへと華麗な変身を遂げる。原作の大ファン(王族)である新妻。メンフィスとの間に生まれる美しくも無情な2人だけの雰囲気は、新にしか作り出せないと言えるだろう。彼女が歌う「Unrequited Love」からは、見ているこちらまで心が苦しくなってくる。
女王という立場から成熟しているように感じるアイシスだが、実はまだ10代。若さ故の危うさが彼女の人間味を引き立たせる。
泥水を真水に変え、メンフィスをサソリの毒から救ったりと、考古学の知識と現代の知恵を持つキャロルは、次第に古代エジプト人たちから“ナイルの娘”“黄金の姫”と呼ばれ、崇められるようになる。
その噂を従者から聞き、キャロルへと近づこうとするヒッタイトの王子・イズミル。
メンフィスとは対局の魅力を持つイズミルを演じる平方元基は、本公演が3度目の挑戦となる。鋭利な美貌と余裕のある様から「一筋縄ではいかない」人間像を作り上げ、だからこそ、このガードの堅い彼がキャロルを愛おしいと思うようになるまでのプロセスが非常にドラマチックだった。その想いをのせた楽曲では、場の空気全てを自分のものにしてしまう声の強さと目力の鋭さに胸を撃ち抜かれてしまう。
また、本公演ではイズミルとメンフィスの戦闘シーンも見どころの一つ。
イズミルは袖で美しいドレープを描きながら、まるで舞っているかのように相手の剣筋を見極め、一方メンフィスはマントを翻し、真っ直ぐな太刀筋で迎え撃つのだ。この息を呑むような緊張感がたまらない。
イズミルの従者であるルカもまた神出鬼没でミステリアス。岡宮来夢は弾けるような歌唱力でその存在感をしっかりと我々に印象付けた。自身のしなやかさはそのままに、色気をはらむその表情は、これまで見たことがなかった新しい岡宮を呼び起こしたようだ。
本公演は、東京にて2021年8月5日(木)~28日(土)、福岡にて9月4日(土)~26日(日)まで上演。
国を越え、時を越え、運命の出会いを果たした人々の、力強さをぜひとも劇場で体感してみてほしい。
後編では海宝直人、木下晴香、大貫勇輔、朝夏まなと、前山剛久、大隅勇太が出演するゲネプロの様子をお届けする。なお、5日出演のウナス/前山剛久については後編に記載。
取材・文/ナスエリカ
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