レポート

信頼が紡ぎ出す、決意と葛藤のコントラスト 『モリミュ』Op.3ゲネプロレポート

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シリーズ3作目にあたるミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-が8月5日に初日を迎えた。“犯罪卿”としてロンドンの腐敗した社会を闇から壊していこうと動き始めたウィリアム・ジェームズ・モリアーティと、彼が探偵役として目をつけたシャーロック・ホームズ。両陣営の手に汗握る駆け引きをピアノとヴァイオリンの生演奏と共に表現する本作の見どころをお届けする。

ウィリアムとシャーロック、決意と葛藤のコントラスト

シリーズ第3弾で描かれるのは「ホワイトチャペルの亡霊」。貧しい市民が身を寄せて暮らす地域・ホワイトチャペルに起きたジャック・ザ・リッパーによる切り裂き事件は、あっという間にロンドン中に駆け巡り市民を恐怖へと陥れていた。クライムコンサルタントであるウィリアムの元には、護身術の師であるジャック・レンフィールド(演:石坂勇)から依頼が入り、一連の殺人事件の真犯人を暴くために“犯罪卿”陣営が動き始める。

時を同じくして、シャーロック・ホームズ(演:平野良)の元にはスコットランドヤードのレストレード警部(演:髙木俊)が訪れていた。彼の依頼内容はもちろんジャック・ザ・リッパーの一件。これ以上弱き者が被害者になることを防ぐべくシャーロックも動き始めるが、彼の中では“犯罪卿”が何かしらのアクションを起こすだろうという確信めいた予感があって……。

国の中心には市民があるべきだと主張するかのように、本作も市民たちの悲痛な嘆きの歌で幕を開ける。彼らが歌に乗せて訴えかける窮状は、そのまま“犯罪卿”が壊したいものである。改めて“犯罪卿”の目指す世界の一端を垣間見た後、上品な風格をまとって闇から現れるウィリアムの姿には一種の神々しさを感じるだろう。

決して曲がらぬ意志を宿したウィリアムの瞳と歌声、そして彼と同じ方向を見つめながら声を重ねていく兄・アルバート(演:久保田秀敏)と弟・ルイス(演:山本一慶)。その姿が彼らの生きてきた道、そして過去2作の中で描き出された絆と重なり、モリアーティ兄弟の決して壊れることのない愛を感じさせてくれた。

本作では“犯罪卿”の最終目標である「モリアーティ・プラン」が、ついにそのラストに向かって動き始める契機が描かれる。ウィリアムの思い描く結末についても言及され、これまで悪を悪で裁いてきた彼の胸の内がより鮮明になったのが印象的だ。繰り返し言葉として紡がれる中で、彼の決意の重さと固さがうかがい知れた。

ウィリアムが1本の決意の杭を胸に打ち込んでいるのに対し、心揺れ動く様が描かれていたのがシャーロックだ。自分の信念を貫き通すべきか、美しい未来を築くために“犯罪卿”を見逃すべきか。より“平野節”がパワーアップしたシャーロックは、本作では答えの出ない問いに渋い表情を浮かべる時間が長くなっていた。

決意を事実と為すべく動き始めたウィリアムと、“犯罪卿”の意図に気づき足を止めるシャーロック。2人の関係は単純な光と影という二項対立ではない。決して相容れない信念を抱きながらも、どこか運命共同体的な部分もあり、その根底にはお互いへの絶対的な信頼が横たわっている。2人のデュエット曲は、そんな2人の奇妙でねじれた絆を感じさせる演出が光った。

詳細はネタバレとなるので避けるが、原作ファンの中でも人気の高いあのシーンもラストにしっかり登場したのでお楽しみに。

新キャラも多数登場、各キャラ見どころレポート

ここからは本作初登場となったキャラクターを中心に見どころを紹介していこう。

まずはウィリアム陣営。前作はアイリーン・アドラーとして登場していた大湖せしるは、本作からジェームズ・ボンドに。目を引く美少年という設定そのままに、中性的でお茶目なボンドに仕上がっていた。また石坂勇演じるジャックが新たに陣営に加わる。モリアーティ兄弟やモラン(演:井澤勇貴)の師匠という役どころで、陣営に新たな風を吹き入れていた。本作は全員が集まって作戦会議をするというシーンが多く、これまで以上にファミリー感を感じてニコニコしてしまうファンも多いだろう。基本は無口だが、さらっと毒を吐くフレッド(演:赤澤遼太郎)もお見逃しなく。

絆という点ではモリアーティ兄弟の一層色濃くなった関係性にも注目だ。先日実施した3人へのインタビューでも見どころとして挙げてくれていた、ウィリアムとルイスの共闘や、アルバートが弟たちへの想いを吐露するシーンは、想像よりも見応えあるボリュームたっぷりのシーンとなっていた。ルイスは「兄さん」と口にする数は減っていたが、共闘シーンからは兄と共に戦える誇りを感じられ、一方でアルバートはこれまでうちに秘めていたやるせない想いを吐き出すことで弟たちへの愛を顕にした。三者三様の愛の表現を楽しんでもらいたい。

ホームズ陣営も3作目ならではの一体感を見せてくれた。本作の良心であるジョン・H・ワトソン(演:鎌苅健太)。鎌苅の温もり感じる芝居が作品に人情というスパイスを加えていた。特にレストレード警部と一緒になるシーンでは、鎌苅と髙木の持ち前のテンポの良いコミカルさがいい塩梅のエッセンスに。うまく隙間を見つけて笑いを放り込んでくるので、どんなシーンも油断せずに構えておくのがおすすめだ。

スコットランドヤードはレストレードと同期のザック・パターソン(演:輝馬)と主任警部のアータートン(演:奈良坂潤紀)が新キャストとして登場。圧倒的歌唱力を誇る2人が加わったことで、カンパニーのハーモニーはより一層分厚くなった。聴き応えのあるソロ曲にも注目を。

そして今作から、ついにチャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン(演:藤田玲)が登場する。これまでウィリアムとシャーロックが中心となってロンドンに波紋を広げていたが、そこに新たにメディア王たるミルヴァートンが加わり、石を投げ込んでいく。

彼の底知れぬ気味悪さを藤田が好演。すでに強烈な存在感を放つウィリアムとシャーロックに並び立つに足る個性を初登場にして発揮していたのはさすがの一言だ。照明の演出もミルヴァートンの不気味さを観客に印象づけるものになっており、裏から手駒を使って事態を傍観する彼のスタイルを見事に表現していたので、ぜひ彼の登場シーンでは注目してみてほしい。

役者は揃った! 加速する『モリミュ』ワールド

「いよいよ動き出した」観劇後そんな高揚感が湧き上がってきた。モリアーティ・プランの最終的なゴールが提示され、シャーロックは自分の進むべき道に悩みながらも一つの答えを見つける。そして2人に不穏な眼差しを向けるミルヴァートンも現れ、ロンドンについに役者が揃った。

『モリミュ』ならではの音楽をメインに据えた表現は、登場人物たちの心情を観客の心に音として流し込んでくれる。言葉では語られない想いや、あえて口にしない本心が滲み出る歌声に、観客の想像力はこれでもかと刺激されるだろう。

生演奏と上質な歌唱が生み出す『モリミュ』のロンドンには、深い霧と闇が充満し、同時にそれを取り払おうとする光が射している。果たして最後に待つのは闇か光か。最後まで彼らの生き様を見届けようという決意を新たに強く抱かせてくれるミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-を、ぜひ劇場や配信で堪能してほしい。

(C)竹内良輔・三好 輝/集英社 (C)ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト

取材・文:双海しお

配信情報
動画配信サービスDMM.comでライブ配信。見逃した人も後日視聴できるディレイ配信に加え、アーカイブ配信も実施される。詳細は特設ページ公式サイトに掲載。

■配信特設ページ
https://www.dmm.com/digital/stage/-/theater/=/name=moriarty_op3/

■配信概要
東京公演:8月7日(土)13:00(全景映像配信)
東京公演:8月7日(土)18:00(スイッチング配信)
大阪公演:8月22日(日)12:00(全景映像配信)
大阪公演:8月22日(日)17:00(大千秋楽 スイッチング配信)

※その他、過去2作品のアーカイブ配信も実施中

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公演情報

タイトル

ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-

配信情報

DMM.com 特設ページ ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-

原作

『憂国のモリアーティ』(集英社「ジャンプSQ.」連載)
構成:竹内良輔、漫画:三好輝

脚本・演出

西森英行

音楽

ただすけ

公演日程・会場

2021年8月5日(木)〜15日(日)
東京・品川プリンスホテル ステラボール

2021年8月19日(木)〜22日(日)
大阪・サンケイホールブリーゼ

キャスト

ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ:鈴木勝吾
シャーロック・ホームズ:平野良

アルバート・ジェームズ・モリアーティ:久保田秀敏
ルイス・ジェームズ・モリアーティ:山本一慶
セバスチャン・モラン:井澤勇貴
フレッド・ポーロック:赤澤遼太郎

ジョン・H・ワトソン:鎌苅健太

ジェームズ・ボンド:大湖せしる
ジャック・レンフィールド:石坂勇

ジョージ・レストレード:髙木俊
ザック・パターソン:輝馬
アータートン:奈良坂潤紀

チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン:藤田玲

アンサンブル:荒川湧太、荒木浩介、伊地華鈴、大澤信児、木村優希、熊田愛里、白崎誠也、田上颯志、永咲友梨、蓮井佑麻、福冨玄刀、若林佑太

Piano:広田圭美
Violin:林周雅

ほか

公式サイト

https://www.marv.jp/special/moriarty/

公式Twitter

@mu_moriarty

公式Instagram

@mu_moriarty

(C)竹内良輔・三好 輝/集英社 (C)ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト

WRITER

双海 しお
 
							双海 しお
						

アイスと舞台とアニメが好きなライター。2.5次元はいいぞ!ミュージカルはいいぞ!舞台はいいぞ!若手俳優はいいぞ!を届けていきたいと思っています。役者や作品が表現した世界を、文字で伝えていきたいと試行錯誤の日々。

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