劇団ナイスコンプレックスによるフリーカル『YAhHoo!!!!』2021のプレビュー公演と初日挨拶が6月3日(木)、東京・シアターサンモールで行われ、主演の柏木佑介らキャスト陣と主宰・作・演出・出演のキムラ真がコメントを寄せた。
本作の舞台は、東日本大震災による原発被害に見舞われた福島・浪江町。犬の妖怪・ヤンスケとヤンスケの飼い主である浜花優治を中心としたストーリーで、2018年の初演以来、「浪江でお祭りをしよう」を最大目標として作品を育てながら上演を重ね、2020年の中止を乗り越えて今回が3度目の上演。東京と福島・いわき市で公演が行われる。
2020年の公演中止を越えて
今回の『YAhHoo!!!!』は2021年バージョンだ。2011年にあった東日本大震災と原発事故から10年。瓦礫の下敷きとなり死亡後に妖怪となった犬のヤンスケ(演:柏木佑介)は、今日も「ヤッホー!」と遠くに向かって呼びかける。生前の記憶が断片的にしかない彼の頭の中にあるのは、飼い主・優司(演:浅倉一男)の顔と「ヤッホー!」という声。
一方の優司は、首輪をつけたままペットを故郷の家に置いてきてしまったこと、婚約者の木蔦(演:富田麻帆)との結婚を彼女の両親に反対されていることで、負い目を感じながら仙台で暮らしていた。優司は木蔦と先輩の草太(演:早乙女じょうじ)とともに、浪江を目指す。
妖怪となり、人の目にはその姿が見えなくなってしまったヤンスケ。戻らない主人を思うヤンスケの思いと声は、優司に届くのだろうか。
ヤンスケを演じる柏木佑介。純粋でまっすぐ素直。主人の帰りをひたすらに待ち続ける姿に、かわいさの中に人を信じる強さを感じる。ヤンスケと優司とは対比する存在である、猿のアオイ(演:三上俊)と元ペットショップの主人・井原足吉(演:松本寛也)。この2組の互いの関係性にも注目しながら観てほしい。見えないけれどもあるもの、見えているのに気付けないものについて気付かされる。
柏木は会見で「僕らのこの物語は、“知っていただく”というのがテーマになっています」と本作のテーマを述べ、「全員がすごく信頼関係ができているので、あえて固めないで本番を迎えております。なので、その場で生まれたものを大切にしてお客さまに届けることを意識しています。どの公演を見ても違って楽しいので、そういうところを見ていただけたら」と自信を持って見どころを語った。
優司役の朝倉は「コロナという期間の中で劇場に立てる幸せを感じております。今回(の公演)はネット配信もさせていただきます。僕自身、ネット配信は初めてです。全世界のいろいろな方に、この作品の“愛”を伝えられれば」と初めての配信を楽しみにしている様子。
また「2年前の『YAhHoo!!!!』から参加させていただいたのですが、さらなるヤンスケとの愛の深さと感じながら演じていますし、木蔦役の麻帆ちゃんとの理想の夫婦感のようなものを伝えて行かれたら」と毅然とした表情でコメント。柏木から「真面目やん!」と突っ込みを入れられていた。
木蔦役の富田麻帆は「続投しているメンバーもいますが、新しいメンバーも迎えての新しい『YAhHoo!!!!』を皆さまにお届けできるのが嬉しいです。今回は、お祭りのシーンは写真を撮ってOKということになっています。今だからこそできる『YAhHoo!!!!』は今回ならではの楽しみがあると思います。こういう楽しみ方があるんだ、とプラスにとらえてもらえたら」と楽しみ方を紹介。
福島出身である草太役の早乙女は挨拶で「小野賢章です」と言い放ち、場内を爆笑に巻き込みつつも「2年経って感じ方が変わったなと思いました。僕たちは福島県出身の人間として、この作品に携わることで、伝えたいこと、伝えられること、一つ一つに責任を持って、誠心誠意伝えていきたいと思います。そして、“いつか”ではなく早く浪江町で公演ができるようになってくれたらいいなと思っています」と言葉に力を込める。
ブルースター役(Aチーム)の安孫子宏輔は「僕は福島市出身でして、高校を卒業した時に向こうで東日本大震災を経験しました。作中にも出てくるのですが、上京後に出身地を胸を張って言えないなど悲しいこともいっぱいありました。震災を描いた作品には、悲しいものや事実を伝えるという意味で大切なものもたくさんありますが、この作品は“福島ってこんなに楽しいんだよ”ということを作品全体で叫んでいます。福島県民としてこんなに嬉しい作品はないなと思っています」と、作品と出身地への熱い思いを明かす。
ブルースター役(Bチーム)の渡部大稀は「僕自身、福島県出身なんですけれど、あの震災を経験したからこそ心にくるシーンやセリフがたくさんあり、稽古中は食い入るようにそのシーンを見ておりました。このご時世だからこそ、より届けられるものがあると思います。皆さんと一緒にこのお祭りを盛り上げていけたらなと思っています」と意気込み、歌とダンスの魅力にも触れた。
キムラは「浪江町は親父が僕を連れて行ってくれた所です。10年前に震災があって、そこにどうしたら人が戻ってくるだろう? というところから始まりました。震災というと悲しかったりしんどかったりすることがたくさんあるんですが、僕は『~のせいで』じゃなくて『~のおかげで』と考えるようになりました。震災のおかげで人の温かさや助け合いや故郷に気付くことができました。」と振り返る。
続けて、「今で言えばコロナのせいでじゃなくて、コロナのおかげで気付いたとか、観劇後に少しでも笑顔になっていただけたら」と、現状に置き換えてファンへ呼びかけた。
最後にキムラは、「今、エンタメというジャンルの人、全員が同じ気持ちで公演をお客さまに届けていると思うんです。演劇は悪くない。劇場は危なくない。エンタメは必要だ。このフリーカル『YAhHoo!!!!』、子どもたちからじいちゃん、ばあちゃんまで楽しめる、歌って笑って踊って泣いての心が揺さぶられる感情というジャンルはうちが担います。そのくらいの思いで、エンタメ全体でこの状況を笑顔で突破できたらいいなとやっていきたいと思っています」と思いの丈を伝えた。
これまでの公演ではクライマックスの祭りのシーンで観客も舞台に上がるなど、観客を巻き込み会場全体が祭りとなっていたが、距離を保たねばならない今では同様の演出ができない。
代わりに今作では富田が触れたように、祭りのシーンのみスマホでの撮影が許可されており、画像をSNSに投稿できる。「こんな楽しいことがあるんだよ」とSNSを通じてたくさんの人に知らせる行動で祭りに参加してもらおうという劇団側の心意気を感じさせる。
主演の柏木が語っているように“知ってもらう“がテーマとなっている本作。キムラは「どんどん拡散してください」と終幕後も笑顔を見せながら観客に呼びかけていた。
観劇にあたっては、時間に余裕を持って会場に行くことをおすすめする。幕が上がる前の前説を主宰であるキムラが行うのだが、それがおよそ7分(プレビュー公演では9分ほどであった)。諸注意も含めて本公演への思いを語るこの前説は、ハンカチやタオルを握りしめながら、必ず聞いてほしい。前説とお手洗いのことを考えると、劇場へは遅くとも20分前到着が妥当だろうか。
配信あり、撮影やSNS投稿が可となっている今回のフリーカル『YAhHoo!!!!』2021。今後も毎年、その年に合った要素を入れながらバージョンアップ、ブラッシュアップを続けながら公演が行われていくのだろうと強く感じた。
文:広瀬有希/写真:ケイヒカル
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