松崎祐介(ふぉ~ゆ~)の主演舞台「流星セブン~暁の操り人~」が、大阪公演の中止を乗り越え、5月27日(木)に東京公演初日を迎える。“空想時代活劇”と銘打たれた本作には、予想を軽々と超える多様なエンタメが詰め込まれていた。
本記事では初日に先立ち行われたゲネプロの様子をお届けする。ストーリーに関わるネタバレは含まないが、登場人物の簡単な役どころは紹介している。役名以外はまだ知りたくないという人は、観劇後に読んでもらえたらと思う。
観たことがない新たな時代劇
物語の舞台は町人文化賑わう江戸の町。町人の間では、様々なトラブルを解決してくれる本屋があるとささやかれていた。その店を営む蔦屋重三郎(演:松崎祐介)のもとに舞い込む、ある依頼を軸にストーリーが進んでいく。
その依頼は巷で大人気の歌舞伎役者・大谷鬼次(演:寺西拓人)によって、重三郎率いる“操り人”たちの元に持ち込まれる。しかも依頼内容は、自分を殺してほしいというもの。
ここまでは事前に公開されていたあらすじの内容だ。これだけを読むと、闇に紛れて悪を成敗する血なまぐさい展開を予想するかもしれない。
しかし、本作は“空想時代活劇”なのだ。この言葉の意味するところを、観客は序盤からひしひしと感じることになるだろう。
もちろん重三郎とその仲間たちは依頼をこなしていくのだが、その方法が実にエンタメ的なのだ。それぞれが得意分野を活かし、不殺を信条に依頼を遂行する。
「そんな方法もありなの?」と思うシーンも登場するが、なんせこの世界は“空想”たっぷりな世界。言ってしまえば何でもありなのだ。
だからこそ、観客はこれまでに観たことのない時代劇に浸り、不思議なトリップ気分を味わえる。歴史の教科書で知る江戸とはちょっと違う空間を、難しいことは考えずに肌で感じてみてほしい。
特筆すべきは“操り人”たちの笑顔だろう。どんな依頼が舞い込んでも、彼らは笑って過ごす日々をとても大切にしていたのが印象的だ。
それぞれが抱える過去は決して明るいものではない。それでもこの仲間と一緒なら笑顔でいられる、重三郎の笑顔と共に自分たちも笑っていられる。そんな操り人たちの間でしっかりと結ばれた絆の“糸”は、観客の心にも明るい光を灯してくれることだろう。
全キャストソロショット&見どころレポ
ここからは、登場人物たちの簡単な役どころの説明とそれぞれの見どころを紹介する。
主演・松崎祐介が演じるのは、本屋を営む蔦屋重三郎。彼の朗らかさが、本作が伝えるメッセージの支柱になっていると言えるだろう。見どころは何と言っても、講談師のような語り口とセリフ量。語り部である彼の言葉に導かれ、観客は“空想時代活劇”の世界へと迷い込む。終盤にはダイナミックなアクションシーンがたっぷり用意されているのでお楽しみに。
▲蔦屋重三郎役の松崎祐介
寺西拓人演じる歌舞伎役者・大谷鬼次は妖艶だ。町の老若男女を虜にするスターの肩書に恥じぬ艷やかな存在感を発揮していた。注目は歌舞伎役者としてステージに立っているシーン。彼の持つダンススキルを存分に堪能できるだろう。
▲長い髪とダンスが映えるひらみのある衣装に注目したい、大谷鬼次役の寺西拓人
多くの2.5次元舞台作品で活躍する唐犬権兵衛役の橋本全一、喜多川歌麿役の大海将一郎は操り人の仲間という役どころ。権兵衛は腕っぷしの強い硬派な青年、歌麿は妖艶な容姿とは裏腹にお調子者な一面のある絵師だ。
▲橋本全一演じる唐犬権兵衛は随一の武闘派
▲大海将一郎演じる喜多川歌麿は萌えに敏感な絵師
刀以外で戦う者が多い中、武闘派の権兵衛がみせる殺陣は見応えがある。そしてあの衣装である。橋本の肉体美も併せて楽しんでもらいたい。
一方で歌麿は絵師らしく手には筆を持っている。絵師ならではの戦い方に注目だ。歌麿はノリのいい性格を活かして、コミカルなシーンで活躍していたのが印象的。平賀源内役のなだぎ武とのボケ合戦が、本番の中でどう進化していくのか楽しみだ。
仲間からは「おやじ」と呼ばれている平賀源内。ひょうひょうとしたとぼけた役どころは、なだぎ武の得意とするところだろう。特にコミカルなシーンの多い前半では、彼の存在がとても大きい。創意工夫を凝らしているであろうアドリブに期待したい。
▲笑いのシーンの柱となっている平賀源内役・なだぎ武
最後の操り人のメンバーが壱城あずさ演じる浅見凛。みんなの姉御的存在で、頼れる女性だ。元宝塚歌劇団の男役だった彼女の経歴を活かした“とある演出”もお楽しみに。歌あり・ダンスあり・殺陣ありと見どころの多い役となっている。
▲妖艶な美女・浅見凛役の壱城あずさ
山城長明(演:株元英彰)、平手造酒(演:吉田メタル)、大岡忠相(演:石坂勇)は、操り人とは違う立場に身を置く人々。操り人とは奇縁があり、物語が進む中で因縁が絡まり合っていくことになる。
▲山城長明役の株元英彰
▲平手造酒役の吉田メタル
▲大岡忠相役の石坂勇
彼らの骨太な演技が、終盤にかけてのシリアス展開に説得力と重みを持たせていたように思う。彼らは果たして操り人にとって敵なのか味方なのか。そんなところに注目しながら観るのも面白いだろう。
圧倒的エンタメからのメッセージ
“斬新×エキセントリック×エンタメ”な舞台「流星セブン~暁の操り人~」。作中では芝居が重要なキーワードとなっている。
舞台を観ながら、「なぜ今、あなたは芝居を観ているのか?」とその意味を問われているような気がした。
芝居をはじめとしたエンタメが後回しにされがちなこのご時世。それでも舞台を観るという選択をした先で、この作品はたくさんの笑いと元気を届けてくれる。
「人生楽しんだもん勝ち」とよく言うが、芝居も楽しんだもん勝ちなのだろう。そんなエンタメの根っこの部分を思い出させてくれる、新しいけれどなんだか懐かしい匂いのする作品に仕上がっていた。
ジャンルとしてはダークヒーローものの時代劇だが、作品自体はダークどころか煌々(こうこう)と輝くお日様のような温かさに満ちている。この作品がこの時代に生まれた意味を、ぜひ劇場で噛み締めてほしい。
文・撮影:双海しお
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