2021年3月6日(土)、東京芸術劇場プレイハウスにてミュージカル『BARNUM』が開幕した。
同作は、19世紀半ばのアメリカで大きな成功を収めた興行師、P.T.バーナムの半生を描いたブロードウェイ・オリジナルミュージカル。ブロードウェイでの上演後、ロンドンでも上演された人気作で、今回が日本初上演となる。
3月7日(日)には公開ゲネプロが行われ、主演の加藤和樹、朝夏まなとらによる華麗できらびやかなショーの世界が公開された。
サーカスを作った男・P.T.バーナムの半生を追う
物語は19世紀の半ば。P.T.バーナム(演:加藤和樹)という興行師の男がいた。彼はジョイ・ヘス(演:中尾ミエ)という一人の高齢女性に目をつけ、「世界最高齢の160歳」として売り出すことで見世物の興行を成功させる。
この成功をきっかけに、バーナムはさまざまなホラと誇大広告で富を得て有名になっていくのだが、妻のチャイリー(演:朝夏まなと)は人々を騙すような仕事はしてほしくないと思っていた。しかしバーナムはニューヨークにある博物館を買い取って経営したりと益々事業をおさめていく。
そんな時バーナムはスウェーデン人のオペラ歌手であるジェニー・リンド(演・フランク莉奈/綿引さやか)と契約をし、チャイリーを置いて彼女とともにツアーへ旅立つ。バーナムとチャイリーの夫婦の絆はどうなるのか…。
美しく華やかなショーで魅せるキャストたち
伝統的なミュージカル劇場の雰囲気にサーカスの光景が重なるゴージャスな作品で、華やかなダンスや歌唱シーンも見どころとなっている。芝居はもちろん、木下サーカス協力、パフォーマーのフィリップ・エマール、マルチパフォーマー・石田純一指導によるジャグリング、映像出演も見ていて楽しい。
さまざまな面でショーとしても堪能できるこの舞台の主演は、デビュー19年目を迎えた加藤和樹。大ボラを吹くバーナムをコミカルで表情豊かに演じているのだが、こんなに顔の綺麗な男にだったら喜んで騙されます、と思わず感じてしまう。
ショーの興行師であるバーナム役を通して、このご時世に舞台で芝居をできる喜びが強く伝わってくる。安定感のある芝居、歌の他、タップダンスなど様々な彼の芸を楽しめるのも本作ならではだ。
彼の妻・チャイリー役には朝夏まなと。2020年10月の「ローマの休日」でも加藤と共演しており、息のぴったり合った演技を見せてくれる。芯が強く美しく、バーナムを陰で支えながらもただ耐えて待っているだけではない。バディのような対等な関係性で、観ていて気持ちがいい。
のびのびと歌う歌声の美しさ、床につくほど長さのあるロングスカートをひるがえし踏むステップの軽やかさなど、さすがの芸達者っぷりを見せてくれる。
ストーリーテラーなど3役を演じるのは矢田悠祐。残念ながら喉の不調で降板になってしまった藤岡正明の代わりとして物語を進行させる役目を担っているのだが、明るくハキハキとよく通る声が、「これからショーが始まりますよ!」という空気に非常にマッチしていた。
フランク莉奈と綿引さやか演じるジェニー・リンドの愛らしさ、ジョイ・ヘスとブルースシンガーを演じる中尾ミエの存在感と茶目っ気など、楽しみどころは盛りだくさん。2.5ジゲン!!読者的には、加藤和樹・矢田悠祐・章平という名前の並びに思わずにっこりしてしまうだろう。いずれも芸達者で、一人ひとりが輝きどころいっぱいの舞台だ。
今だからこそ! 華やかで心躍るショーの世界
サーカスを観に行ったことはあるだろうか。国内で言えば、例えば木下サーカス。天まで届くのではないかと思うほどの吊り幕の下で、人が火を噴き動物が玉に乗る。白塗りのピエロ、耳をつんざくバイク音、クライマックスの空中ブランコ。
大人になって観れば超人的な肉体表現と訓練された動物たちによる曲芸だと感心するのだが、子供時分に観たサーカスはそうではなかった。薄暗いテント、動物と火薬の匂い、ギシギシと鳴る粗末な移動式の椅子にひしめく人たち。
「何やらどうしようもなく恐ろしいけれども、ドキドキして観ずにはいられないもの」。それが毎年正月に観ていたサーカスのイメージだ。
P.T.バーナムが始めたサーカスは、もともとは「見世物」だと言われている。そういうものに彼が話を盛大に盛った誇大広告をつけ、人々の「珍しい、ちょっと恐ろしい…でも見てみたい」という気持ちを煽った。
本作は、そんなサーカスの空気がふんだんに味わえる。セット上部のサーカス小屋を模した三角、ジャグリング…。役者たちの芝居だけではなく、音楽や照明、衣装など全てがあの当時の記憶をよみがえらせてくれるのだ。
バーナムと言えば、2018年に公開された映画「グレイテスト・ショーマン」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。本作は同じ人物を扱っているものの、バーナムと彼を取り巻く大勢との人間関係ではなく、バーナムとチャイリーの夫婦関係に焦点が当てられている。また、生で見せてくれるパフォーマンスも楽しい。
生で舞台を観るのが難しい今だからこそ、思い切り華やかで心躍るショーの世界を描いているこの舞台の空気を、ぜひ劇場で味わってほしい。
キャストコメント
加藤和樹
本日でダブルキャストの2チームが初日を迎えます。今、舞台に立てることが当たり前ではないのだなと感じています。藤岡正明さんが喉の不調で降板になってしまうなど、初日を迎えるまで大変なこともたくさんありましたが、それでもこの作品を上演したい、とキャストとスタッフの皆で力を合わせて一つの思いを持ち、この場に立たせていただけることになりました。明日、明後日がどうなるか分からないこの状況ですが、自分たちがやってきたことを信じて、P.T.バーナムのように人に幸せと喜びを与えられるような作品を千秋楽まで作り続けていきたいと思っております。
朝夏まなと
いよいよ開幕です。サーカスというエンタメを実現させるための、くじけない心、それを支える立場。私にも通じるところもあって、みんなのエネルギーも爆発しています! 劇場でお待ちしています。
矢田悠祐
本作はバーナムの人生のアルバムをパラパラとめくり、その中の写真1枚1枚がショーになっているようなミュージカルだと思います。それぞれの曲に、その時代のバーナムのストーリーが込められていて、なおかつ、ハッピーで明るい曲ばかりですので、是非劇場まで足を運んでいただいて、このハッピーなオーラをどんどん持ち帰って頂ければと思います。劇場でお待ちしております。
フランク莉奈
コロナ禍になってから沢山のものが世界から奪われてしまいました。私自身、気力の全てがなくなった日もありました。ですが生涯をかけて夢を追うバーナムの姿をみていると、どんな時でも希望を捨ててはいけないという勇気をもらえます。皆さまに笑顔になっていただける作品になっているので、是非お届けできたら嬉しいです。一緒に夢の世界に行きましょう!
綿引さやか
早くお客様とこの舞台の幕を開けたくてワクワクしています!心躍るエネルギーに満ち溢れた音楽、パフォーマンス、そして物語。お客様に笑顔になっていただけること間違いなしの作品です。新しい春の訪れとともに、この作品が皆様の心に沢山の幸せをお届けできるよう、私たちも心を込めて舞台に立たせていただきます!
原嘉孝
個人的には、本格的なミュージカルに挑戦するのは初めてです。稽古中から皆さんの熱量に圧倒され、プレッシャーを感じていますが、同時にワクワクを隠しきれません。ずっと夢見てたミュージカルの舞台。自分も作品の一部となって、キャストの皆さんと歌のパワー、エンタメの素晴らしさを客席に届けられるよう頑張ります!
内海啓貴
コロナ禍でこのミュージカル『BARNUM』をお届けできる事が奇跡だと思っています。夢を追うP.T.バーナムの姿に僕自身何度も勇気づけられて救われました。「どのように人を惹きつけて、楽しませるか。」バーナムが作中ずっと思い続けていることを胸に、千秋楽まで問い続けて、観に来てくださるお客様に夢のようなグレイテストショーをお届けしたいです!
中尾ミ工
このコロナ禍を吹き飛ばす元気の出るミュージカルです。若さは素晴らしい! 皆さまも元気を吸い取ってお帰りくださいませ!
(C)ミュージカル「BARNUM」製作委員会/岡 千里
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