2020年10月24日に「THE INSTANT」の配信が始まった。本作は、脚本・演出を磯貝龍乎が手掛ける生配信芝居。芝居+漫才+即興の二人芝居という新感覚のエンターテインメントだ。
初回である10月24日(土)13:00の回に出演したのは、和田琢磨と葉山昴。プライベートでも仲の良いふたりらしく、どこまで脚本なのか、どこから即興なのか分からなくなるほどに息の合った芝居を見せていた。
トラブルだらけの芸人が“苦労性”の男を巻き込む
物語は、とあるバーの狭いカウンターから始まる。オールディーズな雰囲気の雑多なカウンター内で、とんでもなくハンサムだが、どこかダメな空気を漂わせる男(和田琢磨)が、売り物の酒に手を付けて一杯やっている。
そこに現れたのは、少々ガラは悪いが過去に苦労を重ねていそうな、この店の店長(葉山昴)。「売り物の酒を飲むな」「そもそも酒が冷えていない」などクドクドと説教を重ねる。
しかし、言っていることは至極まっとう、かつ現実的。芸人を目指しているものの売れる努力をせずに夢物語ばかりを語るその男に「現実を見ろ」と、怒りと呆れ混じりに語る。
しかしただ説教をしているだけではない。その言葉と態度には、何やら店長自身にも、夢を諦めてしまったのではないだろうかと思わせるフシがある。
やがてそこに、店のオーナー(ゲスト・寺山武志)が登場。オーナーが持ってきたのは、年に一度の漫才コンテストのチラシだった。男はそこに出場し、優勝して人生一発逆転を狙おうと奮闘し始める。
以上が物語の導入部分だ。ここから、スター芸人を目指す男と苦労人店長、さらにキャラクターの濃すぎるオーナーが絡み、コンテストに向けて話が進んでいく。
即興、即席…笑いの裏にみなぎる緊張感
「THE INSTANT」のタイトルどおり、「即興」と「即席」が表でも裏でもテーマになっているように感じた。
筋書きができている芝居部分と即興芝居部分の差が分からないのは、2人の芝居のナチュラルさ故だろう。
思わず出てしまった言葉にお互い噴き出しそうになったり、目を見開いて助けを求めあったりもする。突然投げ込まれた爆弾のようなオーナーの言動にかき回されて、ふたりが思わず笑ってしまう場面もあり、生の面白さを体感できる。
和田琢磨演じるスター芸人を夢見る男は、人生が常に「即席」だ。何かトラブルに見舞われても、いい顔での強気のゴリ押しと泣き落とし、頼み込みで何とかなるだろう、とゆるく生きている。冒頭から店の酒に手を付けて店長が来てもおかまいなしの態度から見てわかる通り、お気楽な性格だ。
後に大きなトラブルに出くわすのだが、それでもやはり完全には落ち込まずに「即席」で何とかしようとする。ある意味、精神的にもタフな人物なのだろう。
葉山昴演じる店長は逆に、さまざまな挫折を経て現在の位置に落ち着いているが故に、そんなゆるゆると生きている男に対して、歯がゆさとイラつきと、少しの憧れを持っているようにも感じる。
キツい言葉を浴びせかけるが嫌な人物に感じないのは、葉山自身の性格の良さがにじみ出ているからだろう。
この真逆な2人がほぼ1時間近く、怒涛のごとくしゃべくり合う。ああ言えばこう言う、言った言わない、揚げ足取り、重箱の隅、屁理屈、理不尽、だだこね、論破、何でもありだ。
これがほぼ脚本なのであれば相当なセリフ量であるし、即興箇所が多いのであれば、当意即妙、ふたりの呼吸が少しでも合わなければ成り立たない。軽快なやりとりに画面のこちらでげらげらと笑いながらも同時に、すさまじい緊張感も感じる。
公演終了後のアフタートークでは、稽古以外でも和田が葉山に「稽古しよう」と声を掛け、ふたりでセリフ合わせをしたり、緊張のあまりに出だしで手が震えていたなどのエピソードが語られた。
生の醍醐味を十分に味わえる即興芝居
脚本・演出は、近年制作面でも手腕を発揮している磯貝龍乎。現役でプレイヤーとして舞台に立ちながら、オリジナルや原作付き舞台の制作も手掛けている。華やかにショーアップされた派手な舞台、シーン切り替えが多く映像に特化した舞台など、さまざまな演出の力を見せてくれている。
主題歌は、彼と、今回別日に出演の反橋宗一郎が属する音楽ユニット「メンズヘラクレス」が担当。軽快でお洒落、かつ柔軟。和田・葉山ペアだけではなくどの組み合わせのコンビにもマッチする。
公演は11月1日(日)まで。各公演とも「どうなるのだろう?」と思わせてくれるペアばかりだ。各公演とも、終演後24時間のアーカイブがついているので、見逃さないようにしたい。
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