2020年1月31日(金)、品川プリンスホテル ステラボールにて、リアルファイティング「はじめの一歩」The Glorious Stage!! のゴングが鳴った。原作は、2019年に連載30周年を迎えた大人気ボクシング漫画だ。11月には漫画の生原画展も開催されるなど(2020年2月22日~4月12日まで宮城県石巻でも開催)、大いに盛り上がりを見せている。
2020年1月現在、126巻が刊行されている超長編。いったいどこまでがどうやって舞台化されているのだろう? と登場キャラクターを確認しながらソワソワしているファンも多いことだろう。
観劇を楽しみにしているファンのためにも、序盤以外はストーリーを追わず、「見どころ」をメインにゲネプロの様子をお届けする。
個性の強いキャラクターたちが「リアル」に拳を交える。原作連載30周年にふさわしい舞台が幕を開ける!
内気な高校生・幕之内一歩(演・後藤恭路)は、釣り船屋を営む母と2人暮らしだ。一歩がいじめられていたところを助けてくれたのは、鷹村 守(演・滝川広大)。彼は鴨川ボクシングジムに所属するプロボクサーだった。
一歩は鷹村に憧れ「強くなりたい」と願うようになる。プロボクサーを目指す厳しさを鷹村に教えられ、入門したジムでは鴨川会長(演・高木 渉)に厳しくも的確な指導を受ける。
家業の釣り船仕事の手伝いによって鍛えられた身体など、元々の身体能力の高さと、どこまでも素直で真っ直ぐな性格を持つ一歩は、目を見張る速度で実力をつけていくのであった。
原作どおりにまずはスタート。ここから話は勢いづいて進んでいく。
「この役者たちでなければならなかった」と心から思わせてくるキャストたちと、見どころを紹介
まず、一歩役の後藤恭路。彼は紛れもなく幕之内一歩だ。彼以外のキャストであったなら、この舞台は成り立たなかっただろう。
もともと格闘技のシュートボクシングをやっていることもあり、体つきや動きがいいのはもちろん、何より存在が「幕之内一歩」感を出しているのだ。
ゲネプロ前におこなわれた囲み会見では、質問に恥ずかしそうにこたえる後藤に、周りのキャストたちから「本当に一歩だな!」と声がかかり笑いを誘った。
演技面では、舞台序盤でのまだぎこちなく慣れないパンチやディフェンスから、経験を積むにしたがってどんどん上達していっているのが分かる。
見ていて、急激に成長して男の顔になっていく息子を見守る親の気持ちになるだろう。
一歩の憧れである「俺様」、鷹村 守。圧倒的な強さとアニキ感だ。鷹村は、一歩の属するフェザー級よりもだいぶ重い階級のミドル級の選手。演じる滝川の体格の良さも重なり、舞台の中で大きな存在感がある。
ビジュアルやフライヤーを見て「すごく鷹村だ!」と瞬時に思った人も多いことだろう。しかし、動いて喋って動いているところをぜひ見てほしい。絶対的な自信と、ボクシングに対する誠実さを持っている。
ジムの仲間であると同時に、一歩や宮田一郎(演・滝澤 諒)ら後輩を先輩として厳しくもあたたかく見守っている。舞台に現れた瞬間に、鷹村が大好きになり、一歩のように彼に憧れてしまうだろう。
憧れの存在、目標、頼れる兄貴。同時に、緊迫感のあるストーリーの中で、鷹村をはじめとした鴨川ジムの面々は笑いをもたらせてくれる。
先輩であり仲間でもある、鴨川ジムの木村達也(演・高橋奎仁)と青木 勝(演・塩田康平)。ギャグパート箇所を賑やかに楽しく、少年漫画らしく回してくれるのと同時に、ボクサーとして生きる厳しさを教えてくれる。
青木の「ラーメン」など、ちょっとしたセリフに原作ファンはニヤリとしたり、舞台に描かれていなくてもさまざまなシーンが頭に浮かんだりすることだろう。
この2人にも、しっかりとメインになる格好良いシーンがあるので、ファンは楽しみにしていてほしい。どんな舞台でも、その役として内面も外見もきっちりと仕上げ、期待以上のものを見せてくれる塩田はさすがのひとことだ。開幕前から不安を一切持たずに安心できる。
ここからは、ライバルたちとその試合の見どころを紹介しよう。
名試合・名場面・名セリフの数々。「はじめの一歩」の世界に欠かせない、対戦相手たち!
作内屈指のイケメン・速水龍一(演・橋本真一)。女性ファンを惹きつける自己プロデュース力、ビッグマウス。良い顔と華麗なプレイスタイルに注目が集まりがちだが、彼の存在によってボクシング界が盛り上がっていたのは間違いない。
試合の他でも登場するシーンでは「あっ、そこも再現するの」と小ネタに思わず笑ってしまうだろう。
スクールメイツを思わせるミニスカートにピンクのトレーナー、ポンポンで応援する取り巻きの速水ギャルズ(大事なことなので繰り返すが、ギャルズ)たちの可愛さにもぜひ注目してほしい。
宮田一郎と間柴 了(演・岡本悠紀)。一歩の生涯のライバルとなる宮田は、鷹村とは別の意味での、一歩がボクシングをする上での支えとなる。彼にプロとしてのリングの上で勝ちたい、拳を交えたいという思いが一歩を大きく成長させ、ボクサーとしての道を歩ませ続けたことに間違いは無いだろう。
宮田もまた、一歩との勝負にこだわりずっと自分を高めようとしている。常に自分に厳しくトレーニングを積んでいるその姿は、痛々しさも感じるほどだ。
妹思いの間柴は、妹と生活のために何が何でも勝つという気迫が凄まじい。対宮田戦ではダーティな試合運びで勝利をおさめるなど、「悪役」のように思われがちだが、ボクシングに対する気持ちは本物だ。
リングを下りれば「心配が行き過ぎがちな良きお兄ちゃん」。一歩と久美の恋路を邪魔するなど、まったく違う顔を見せてくれる。
スピード・スター、冴木卓麻(演・山口大地)。リズム感のあるステップとスピードで一歩を翻弄する。フットワークの動きの良さとボクサーとしての筋肉のつき方は、本物の選手ではないだろうかと思ってしまうほどだ。
ゲネプロ前におこなわれた会見に登壇したキャストたちは、山口を「筋肉について一番詳しい」「どのタイミングで何を食べたらいいのか、どんなトレーニングをしたらいいのか教えてくれる」と評し、「違うことをしたら怒られる」と明かしていた。
このストイックさが、舞台のキャストたちの身体づくりに一役買っていたことに間違いないだろう。
千堂武士(演・松田 凌)。「浪速のロッキー」「浪速の虎」の異名を持つ千堂は、まさに漢。荒々しく攻撃的な試合運びで一歩と戦う。鷹村との出会いシーンではファンとしての少年らしさを、試合では「負けず嫌い」だけでは片づけられない、勝利への貪欲さを表現している。
千堂の漢らしさ、格好良さについては言うまでもない。とにかく熱い。男が惚れる男だ。似て非なるプレイスタルで、一歩と互いを高め合っている。
演じる松田 稜は身長169センチで千堂と1センチ違い。他のキャラクターも原作に近い背格好のキャストが多い。試合を見ていて、実際にもこのような体格差なのだろうとリアルに感じられた。
チャンピオン・伊達栄二(演・松本寛也)。経験豊富なベテランボクサーでありながら、常に努力を怠らない。舞台では、悲しく辛い過去が短い言葉で語られる。ハートブレイク・ショットの表現方法にぜひ注目してほしい。
伊達の魅力は、ベテランの余裕を見せていたかと思えば、試合では一転し、闘争心むき出しのファイトスタイルで一歩を叩きのめしにかかったところにあるだろう。「チャンピオン」の椅子の重責が、その拳に宿っている。
演じる松本寛也もまた、今回の舞台のボクサー役キャストとしては最年長の33歳。舞台・映像での経験も豊富で、役柄と重なる部分が多い。鋭い目つき、重厚な演技、そして泥臭いまでの熱さを見せてくれる。
ヴォルグ・ザンギエフ(演・才川コージ)。心優しいヴォルグは、リングの上ではまさに野生の狼になる。プレイスタイルは獰猛。ヴォルグ戦は、涙なしには見られない。ヴォルグの深い思いと、強くなりたいと願う一歩の思いがぶつかり合う。
境遇の似ている一歩とヴォルグの間に生まれる友情に、試合を見ていて胸が締め付けられる。
パルクールなどで鍛えた才川コージの筋肉は実に美しい。横腹に大きな影をつくる腹斜筋と、厚く割れた腹直筋は、完全にアスリートのものだ。血管の浮き出た腕から繰り出されるパンチは凄まじく強いのだろうなと、見た目で思わせてくれるものがある。
原作を愛するチームによって作られた少年漫画の王道舞台。場内をさらに盛り上げる音楽、効果。凝縮された演出に拍手!
ときどき、効果音ではないであろう、パンチがあたる音が聞こえてくる。
パンチを繰り出す瞬間の「シュ、シュ」という息は、後楽園ホールなどでボクシングを観ている時に聞こえるものと同じだ。ここが品川で、これが舞台だということを忘れてしまう。
オープニングをはじめとしたあらゆるシーンでの音楽は、選手が名前を呼ばれリングインする時の音楽を連想させる。これから試合が始まるぞ! という気分を盛り上げてくれるこの音楽は和田俊輔によるものだ。
ライトも、選手を追い、全体を照らし、試合中の緊迫感をうまく盛り上げてくれる。特殊効果的なプロジェクションマッピングは、必要以上に多く使われない。そのため、身体ひとつで見せてくれているのだと感じられる。泥臭くアナログだ。「はじめの一歩」の世界観を表すのにふさわしい。
作・演出の喜安浩平をはじめ、原作を知り、原作を愛するチームによって作られた作品だ。長い原作を舞台化するためには大変な苦労があっただろう。
この舞台は、強くなっていく一歩をとおして、ボクシングの魅力だけではなく、男のロマンを教えてくれる。
原作ファンはこの舞台を観終った時にまた原作を読み返し、原作を知らずに舞台を観たファンは、この熱い世界をもっと深く知るために原作コミックスへ手を伸ばすことだろう。
できることなら、舞台上の役者たちと一緒に「まっくのうち! まっくのうち!」と声援を送りながら観てみたい。
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