『えんとつ町のプペル』THE STAGEの東京公演が、1月30日に天王洲 銀河劇場で幕を開けた。
原作である「えんとつ町のプペル」は、西野亮廣が脚本・監督をつとめ、参加イラストレーター・クリエイターが総勢33名の完全分業制で作り上げたオールカラー絵本作品。
2016年の発刊以来、累計発行部数は42万部を記録している。大人から子どもまで、多くの人に愛されている今作品。タイトルを耳にしたことがある方も多いだろう。
今回、『えんとつ町のプペル』THE STAGEは、原作者である西野自らが脚本を担当した舞台オリジナルストーリーのため、絵本にないオリジナルの展開が随所に散りばめられている。
原作を知らなくても十分に楽しめる舞台となっているが、個人的にはぜひ絵本も読んでいただきたい。さらに楽しさが増すというのは間違いないだろう。
今回主演を務めるのは、7ORDER projectの萩谷慧悟と、須賀健太。絵本では姿のなかったルビッチの父親役にはなだぎ武が起用されており、個性派揃いのキャスト陣に期待が高まる。
早速だが、東京初日会見とゲネプロの様子をお届けする。
笑いあり、賑やかな初日会見の様子
――東京公演初日を迎えての意気込みをお願いします。
萩谷慧悟(プペル役):ゴミ人間という役なんですけど、西野さんとお話しさせていただいたときに、「大変だよ」って言われてどうしようかと毎日考えていました。とても素晴らしい衣裳があがってきて、これをどう扱うのかっていうところをまずいろいろ考えました。生きているゴミ人間が、皆さんの目に映ればいいなと思って頑張っています。
須賀健太(ルビッチ役):本日はお集まりいただきありがとうございます。
神戸でまずやらせていただきましたが、原作が絵本なだけあって、客層がお子さんから男性の方まで幅広くいらっしゃるのがすごく嬉しいです。
それくらいどの層にも響いている作品ということなので、僕たちは嘘をつかずに、一公演ずつ真剣にやらなきゃなと思っております。
今回僕は役柄的に少年なんですけど、僕自身はもう25歳になりまして(ここでなだぎから「おっさんやな」とすかさずツッコミが入る)若々しい心を最後まで忘れずにいきたいと思います。
なだぎ武(ブルーノ役):今回ルビッチのお父さんということで、原作には出てこない役なんですけども、舞台で露になった姿が、私なだぎ武でございます(笑)。
今回西野の絵本が原作ということで、本が出た時はいじってやろうかなと思って当時読みました。
でも迂闊にも泣いてしまいましてね、これはいじることができないなと、そっと本を閉じて「西野ありがとう」といじることもなく終わりました。
それが時を経て、舞台に携わらせていただく機会をいただいて、何かの縁と思い、張り切ってやっております。今回キャスト全員がいろんな役をやり、皆で作り上げているという感じがします。
大変なことも多いですが、その分やっぱり皆で作っているという感じがよりしますので、公演が終わったごとに「無事でいてくれてよかった」「けが人がいなくてよかった」と思っています。
ワンチームでやっていて、これまでの舞台とは違う気持ちがまたありますね。
たくさんの人に見ていただきたい舞台です。よろしくお願いします。
児玉明子(演出家):絵本の世界を舞台に表現するってすごく大変だなと思ったんですけど、舞台ならではのアイディアや映像や役者さんの力を使いながら、えんとつ町のプペルの世界を表現できるように頑張っています。
老若男女の皆さんに楽しんでいただける舞台になっていると思うので、「観劇デビューはプペル」となるくらい皆さんに来ていただきたいです。よろしくお願いします。
――なだぎさんは今回自転車に乗るシーンもあるとのことですが、あて書きの部分はあったんでしょうか?
なだぎ:冒頭で自転車を押して出てくるんですけど……自転車と私ということで、足上げなあかんのちゃうかな!?とちょっとしたプレッシャーを感じていました(笑)。
逆にいらんことしたら怒られそうだったんで、始まってからはプレッシャーなくやっています。
見ているお客さんからしたら「ディランやるんかな?」と驚きもあったみたいですけど、あて書きではないです。千秋楽では足上げたろかなと思ってるんですけど(笑)。(「ダメですよ!」と須賀からツッコミが入る)
――共演する中で、こういう人なんだな、と知ったことはありますか?
荻谷:健太くんはすごく前から拝見していたので、会った時に「健太くんとお芝居しているんだ」と感動しました。
ルビッチとプペルは対話するシーンが多いので、ステージの上で今日はこういう感じ、と感じ取っていました。たまに僕のこともフォローしていただいて……。
なだぎさんとは直接の絡みはないんですけど、顔合わせの時にプペルって最終的にブルーノと繋がりがあるので、どうそこをリンクさせていくのかっていうお話はさせていただきました。なだぎさんの立ち姿とかを見ていました。
なだぎ:口調とか笑い方とかね、寄せてくれるところがあって「この子しっかり人を見て演技しているんだな」と感心しました。俺何もやってへんやんけって!(笑)
須賀:萩ちゃんは、パフォーマンスの面とか引っ張ってくれたなっていう印象があります。
僕は踊りとかできるわけじゃないので、今回予想以上に曲で進めていくシーンがあるんですけど、そういうところを先陣切って進めてくれるところが頼もしいなと思っていました。
――稽古中のエピソードはありますか?
なだぎ:覚えることが本当に多くて…稽古中の半分は物を運ぶ練習だったね。
萩谷:稽古場の壁にセットの図面が貼られていましたもんね。それが嘘みたいな量で、なだぎさん一回放心状態になってましたもんね(笑)
なだぎ:ね! 個々が必死に取り組みすぎて、ご飯に行く余裕もなかったもんね。
須賀:正月休みも返上して頑張りましたもんね!
萩谷:その分、児玉さんを筆頭に皆で作り上げた感はありますね。
児玉:初めて通した時の皆さんの鬼気迫る感じがすごかったです。自然と拍手が起きたほどでした。安心感もありましたね(笑)。
――神戸公演では、本番中のハプニングはありましたか?
須賀:歌詞?
萩谷:歌詞じゃないですか?冒頭の……。
なだぎ:ああー(とぼけた感じで)まあ、間違ってるようで合っているような…。間違ってても堂々と歌えばわからんかなと思って堂々と歌いましたね!(笑)
須賀:同じ単語、2回出ましたよね(笑)あとはありがたいことに小さいお子さんが見に来てくれて、そのリアクションが新鮮でした。怖かったり、暗くなったりすると泣いちゃうし。
ある日の公演で「星はないんだよ!」みたいな台詞があるんですけど、それに対して「ある!」って客席から飛んできました。そういうのが特殊で、いいことだなって思いましたね。
萩谷:新感覚でうれしかったですよね。ほかにないっていう感じで。
――西野さんからは何か声はかけられましたか?
萩谷:すごく喜んでくださったり褒めてくださったりして、ほっとしました。また東京公演も来てくださるとおっしゃってたので、成長したプペルたちを原作者に届けられたらなと思います。
なだぎ:一番わかってる人間が喜んでくれるっていうのがうれしいよね。
――ダメ出しなどはなかったんですか?
須賀:なかったです!すごく褒めていただきました。終演後にご飯に行かせていただいたんですけど、意外と深いところがあるとか、そういう細かいところもたくさん話していただきました。
あと僕、10歳くらいの時にバラエティで共演させていただいたことがあるんです。で、当時大事にしていたカードを渡したら、西野さんがその時かぶっていた帽子をくださったんです。
ルビッチのトレードマークが帽子なんですけど、西野さんも覚えてくださっていて、そういう運命みたいなのも感じましたね。
――楽しみにしている皆さんへ、萩谷さんからメッセージをお願いします。
萩谷:この作品には、「夢」というものがたくさんキーワードで出てきます。夢というのは小さいころから持ち続けて、諦めてしまう方もいると思うんですよ。
僕は、いくつになっても夢を持ち続けるのは悪いことではないと思っていまして、この作品を観てくださった方にとって、夢を追い続ける勇気になったり新しく夢を持つきっかけになったりと、背中を押せるような作品にして、老若男女皆さんに楽しんでいただきたいと思います。
なだぎ:もう全部言うこと言ってくれたわ。言うことあらへんわ。
須賀:言うことあらへんわ、っていうのを言いたかったんですね。
なだぎ:そう(笑)。
随所でツッコミが入り、賑やかな初日会見となった。
原作とオリジナルストーリーが絡み合う、新しい「えんとつ町のプペル」
あらすじ
4000メートルの岸壁に囲まれた町。煙突だらけの町。朝から晩までそこかしこから煙があがり、頭の上はモックモク。長い煙でモックモク。この町に住む人たちは、青い空を知りやしない。輝く星を知りやしない。
そんな『えんとつ町』に住む、お父さんを亡くした少年ルビッチ。彼はハロウィンの夜に“ゴミ人間”のプペルと出逢った。この煙の上には“空”がある。この煙の上には“星”がある。
この町の“秘密”に隠された“ひとつ”の真実。嘘つき呼ばわりされたって、自分の目で見たものが真実。
奇跡の夜、ルビッチとプペルの目に映る―本当の真実―とは?
物語は、ブルーノ(演:なだぎ武)の登場から幕を開ける。誰も信じやしない、煙の上に広がる世界について語るブルーノ。
ブルーノは、舞台で初めてその姿が明らかになっている。まったく違和感はなく、むしろ最初から存在していたかのように自然に世界に溶け込んでいた。
▲自転車を押して登場するブルーノ 荷台には紙芝居
時は過ぎ、町はハロウィンの真っ只中。誰かが落っことしてしまった心臓に、ゴミがくっついてゴミ人間が誕生する。
▲夜の闇の中、ゴミ人間はひとりでこの世に生まれた
まわりに友達もおらず、ひとりぼっちのゴミ人間。友達がおらずひとりぼっちなのは、煙突掃除屋のルビッチも一緒だった。
▲ゴミ収集車に巻き込まれ、地下深くに落っこちていく2人
▲落っこちた先で出会ったスコップ(演:北乃颯希)
ちょっとした冒険を経て、友達になる2人。ルビッチは、ゴミ人間に名前をつける。「ハロウィンの日にあらわれたから、キミの名前はハロウィン・プペルだ!」
ひとりぼっちだった者たちが集まって、2人になる瞬間。見ていて涙腺が熱くなったのは、筆者だけではないだろう。
プペルは仕立て屋の仕事をもらい、2人は平和な日々を過ごす。
初めての友達に、ルビッチは誰にも明かしていなかった、父ブルーノとの思い出を語る。ルビッチが大切にしている父の言葉は、「上を見続けること」。
▲煙突の上に上る2人 実はルビッチ、高いところが大の苦手
煙に覆われたこの町で、「上を見続ける」というのはどれだけ難しいことだろう。しかし、ルビッチは父の言葉を忘れずに生き続けていた。
そのひたむきさは、この物語のテーマでもある「信じること」を観客にやさしく訴えてくれている。
仲良く日々を過ごす二人だったが、町では異端審問所の者たちがプペルのことを調査していた。
▲異端審問所のベラール(演:尾関 陸)
なぜ、この町は黒い煙に覆われているのか? ブルーノは、町の人たちが言うように嘘をついていたのか?
絡み合ったいくつもの謎が少しずつ明かされていき、町に奇跡が起きる。感動の結末は、涙なしには語れない。
なお、今回『えんとつ町のプペル』THE STAGEは、残念ながらDVD化の予定はないとのこと。つまりプペルやルビッチたちが起こす奇跡の物語に立ち会えるのは、劇場だけとなる。前売り券は完売となってしまっているが、一部日程でサイドシートや当日券の販売もあるとのこと。
ぜひ、諦めずに劇場に足を運んでいただきたい。
絵本のページをめくるような、わくわくする演出
今回筆者は、演出をはじめ衣装や振り付け、アンサンブルのメンバーなど、舞台を構成するそのすべてに強く心を惹かれた。
映像をいっぱいに使い、繊細でありながら大迫力の演出は児玉明子によるもの。
振り付けはダンスカンパニー「コンドルズ」を率いる主宰・近藤良平。また、衣裳はコスチューム・アーティストのひびのこづえが担当している。
舞台いっぱいに配置されたセットは、演者たちの手によってくるくるとその姿を変えていく。映像とセットが絡み合い、瞬く間に新しい光景を見せてくれるのだ。
瞬きの合間に代わっていく世界は、絵本のページをめくるような感覚で楽しむことができた。色とりどりの衣装を身にまとったキャストたちが歌って踊る姿は、目がいくつあっても足りない賑やかな演出となっている。
まっすぐな心が教えてくれる、「信じること」の大切さ
正直に告白すると、観劇中、観劇後と、筆者は数回涙を流した。
「えんとつ町のプペル」のテーマは、「夢」や「信じること」といった、いたってシンプルなもの。ただ、現代を生きる私たちにとって、そのシンプルさを貫くのが少し難しい時もあるというのが本音だ。
人は、時には夢を諦めそうになってしまうこともあるだろう。しかしルビッチとプペルは、決して諦めようとはしなかった。
最後まで大切なものを信じて突き進む姿が、町の人の心を奮い立たせ、勇気を与えていた。私も、ルビッチたちに勇気をもらったひとりだ。
プペルたちが頑張っているから、私も頑張ろう。観劇後に、自然とそう思うことができた。こんなにも人の心を揺さぶる作品には、きっとそう出会えない。
友達と一緒に、親子一緒に、大切な誰かと一緒に、ぜひ、美しくてちょっと切ない、だけどとびきり優しいこの世界を覗いて欲しいと思う。
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