舞台「巌窟王 Le théâtre」がついに開幕。2019年12月20日(金)〜12月28日(土)まで、新宿・こくみん共済 coop ホール (全労済ホール)/スペース・ゼロにて上演される。
公演初日に先駆け、熱気あふれる公開ゲネプロと囲み会見が行われた。
原作は2004年に放映され大人気となったアニメ「巌窟王」。フランス古典文学の名作「巌窟王」を原案に、大胆な手法で珠玉のSF作品に仕上げ話題となった。
アニメ放送から15周年を迎え、残酷かつイノセントな復讐のパンク・オペラが再び幕をあける。
※以下のレポート・写真はストーリーのネタバレを含んでいます。今作をまっさらな気持ちで楽しみたい方は、ぜひ観劇後に公演の振り返りとしてご活用ください。
謎が謎を呼ぶ復讐劇|「巌窟王 Le théâtre」ゲネプロレポート
パリの青年貴族アルベール(演・橋本祥平)は、親友のフランツ(演・前嶋曜)とともに訪れた月面都市ルナで盗賊に襲われる。彼を危機から救ってくれたのは、東方宇宙からやってきた謎の紳士モンテ・クリスト伯爵(演・谷口賢志)だった。
ミステリアスだが洗練されたモンテ・クリスト伯爵の言動に、アルベールはすっかり心を奪われる。
▲アルベール(左)は伯爵(右)への信頼を急速に深めていく
一方、社交界でもモンテ・クリスト伯爵の噂は広まっていた。謎多き人物なだけに「本当に爵位があるのかどうか」と訝しむ者もいる。
だがアルベールはそんな噂を意に介さず、仲間たちや両親に伯爵を紹介して回った。
親友のフランツはもちろん、二人の幼馴染かつアルベールの婚約者でもあるユージェニー(演・小泉萌香)。フランツの婚約者ヴァランティーヌ(演・田名部生来)、生真面目な青年軍人マクシミリアン(演・遊馬晃祐)、内務省で働くリュシアン(演・熊谷嶺)など。
▲【左から】フランツ、マクシミリアン、リュシアン、伯爵
そしてアルベールの父フェルナン(演・徳山秀典)と母メルセデス(演・遠山景織子)も、息子から伯爵を紹介された。メルセデスは伯爵にどこか懐かしい、しかしありえない人物の面影を見たが、その感覚を誰にも言えない……。
▲アルベールの父フェルナン将軍。大統領選への出馬を目論む野心家でもある
▲アルベールの母メルセデス(左)は、伯爵に特別な何かを感じる
そんなある日、伯爵が社交界の知人たちを自身の別邸に招いた。アルベール、フランツ、ユージェニーの3人と、その一家。他にも主席判事のヴィルフォール(演・細貝圭)など、社交界の主な顔ぶれが一堂に会する。
伯爵は、皆に一人の美しい青年を紹介した。青年の名はアンドレア(演・小松準弥)。由緒正しき貴族の家柄で、相当な財産を所有しているという。
▲侯爵アンドレア。物腰は優雅だが……?
そんなアンドレアに目をつけたのが、ユージェニーの父ダングラール伯爵(演・村田洋二郎)だ。金に目がくらんだダングラールは、娘ユージェニーとアルベールの婚約を破棄し、資産家であるアンドレアとの婚姻を無理やり結ばせようとする。
▲アンドレア(左)とユージェニー(右)
アルベールとユージェニーは、表向きこそ「親の決めた婚約者」だった。しかし互いに惹かれ合う仲であったことも事実だ。
打ちのめされるアルベールを、フランツは慰める。だがフランツ自身もまた、報われない想いを胸に秘めていた。
複雑に絡み合う少年少女の関係性……そのバランスが、伯爵との出会いを契機にじわじわと崩れていく。
不穏な気配を真っ先に察知したのはフランツだ。彼は親友アルベールを取り巻く陰謀に気づき、やがてある大きな決断をすることとなる。
▲マクシミリアン(左)とフランツ(右)。フランツの下した決断とは……
一方、大人たちの関係にも綻びが見え始めていた。
▲ユージェニーの父・銀行家ダングラール(右端)
▲ヴァランティーヌの父・主席判事ヴィルフォール(左)
▲アルベールの父・将軍フェルナン(右)
経済を支配する銀行頭取ダングラール、司法を担う主席判事ヴィルフォール。そして主人公アルベールの父であり将軍として軍事を取り仕切るフェルナン。この3人は、かつて陰謀の元に一人の男を破滅させ、その秘密を共有していた。
▲谷口演じる伯爵は、重厚な佇まいから漂う怪しさと悲哀が見事だ
物語が進むにつれ、過去の忌まわしい出来事が明らかになる。と同時に、偽りのバランスで保たれていた貴族たちの華やかな生活は、徐々に悲劇への疾走を始める。
嘘と絶望。人間の持つ醜悪な本性。だが今作で描かれるのは、決してそれだけではない。
登場人物がそれぞれに抱えているのは、正しくはないかもしれないが強く確かな愛情だ。心の深いところにある、醜いものと美しいもの。それがどちらも描かれるからこそ、この物語は観る者の心を揺さぶる。
復讐を実行する者も、復讐の対象となる者も、どこかいびつで愛おしく哀しい。観客は思わず自分に問いかけてしまう。「正義とは」「愛とは」「絶望とは」……そして「希望とは」。
精緻な機械の歯車が一つずつ抜け落ちていくように、彼らの秘密が暴かれていく。そして謎が解けるにつれて、物語の輪郭が鮮やかに見えてくる。
モンテ・クリスト伯爵とは何者なのか。彼の目的は何なのか。そして主人公アルベールの道は、一体どこへ向かうのか。
壮大な物語の結末は、ぜひその目で目撃してほしい。
囲み取材・キャストコメント
さてここからは、ゲネプロに先駆けて行われた囲み取材の内容をお届けしよう。
登壇したキャスト陣は終始和気あいあいとした雰囲気でチームワークの良さを見せ、公演に向けての意気込みや稽古場の様子を語った。
◆登壇者
橋本祥平/谷口賢志/前嶋曜(JBアナザーズ)/遠山景織子/徳山秀典
Q.公演への意気込み、見どころをお聞かせください。
橋本祥平(アルベール・ド・モルセール子爵役):「いよいよ来たな」という感じです。稽古初日から約1か月間、本番に向けて全員で挑んできました。あまりにも稽古内容が濃すぎて、体感的には半年ぐらいずっとみんなで一緒に芝居を作っていたような感覚です。
稽古場では全員の脳みそを使って必死に考えて、正直もう途中で脳みそドロドロ(のような気持ち)でしたが、演出の村井雄さん、そして(谷口)賢志さんが芝居面ですごく引っ張ってくれました。みんなが最後の最後まで諦めずに挑戦し続けて、完成した作品です。
小屋入りを迎える前に、原作アニメでアルベールを演じた声優・福山潤さんと対談させて頂きました。福山さんご本人から「キャラクターに声を寄せなくていい。役者たちの再現、芝居の幅が狭まるから」とのありがたいお言葉を頂いて、僕たちも自由にのびのびと稽古に挑み、この作品を作ってきました。
今日から初日があけます。ぜひ体感してください。
谷口賢志(モンテ・クリスト伯爵役):祥平くんは「半年以上やった感じで脳がドロドロになった」と言いましたが、僕は3日ぐらいに感じました。脳みそはそんなに使わなかったかな。
橋本:(笑)
谷口:じつは、僕は十数年前に原作のアニメ「巌窟王」を見ていました。ちょうどその頃、役者としてくすぶっていた時期で、「何か新しいものを手に入れたい、新しいものを見ないといけない」と思ってアニメを見始めたんです。一発目に見たのが、この「巌窟王」でした。
夢と言ったら大げさかもしれませんが、その時に「このモンテ・クリスト伯という役を、いつか絶対に演じてみたい」「そういう巡り合わせがあったら幸せだなぁ」と思って、この十数年生きてきたんです。本当に巡り合うことができました。
僕にとって大きな役を頂いたと思っていますし、全力を注いでみんなと作ってきました。舞台でしかできない「巌窟王」になっていると思います。ぜひ楽しんでほしいです。
前嶋曜(フランツ・デビネー男爵役):……やっと、この日が来ました。この1か月で、やれることはやったはずだと思っています。その思いを皆様に届けるよう、全力で、頑張って、演じます。
遠山景織子(メルセデス・ド・モルセール役):原作アニメを見て、この作品がとても好きになりました。今作は映像も素晴らしいので、ストーリーと一緒にぜひそこも見て頂きたいです。メルセデスを、情熱的に演じたいと思っています。よろしくお願いします。
徳山秀典(フェルナン・ド・モルセール将軍役):フェルナンを演じさせて頂きます、徳山秀典です。舞台はもちろん復讐劇なんですが、ここにいないキャスト・キャラクターそれぞれが深い愛を持っています。それを舞台上でどこまで表現できるのかというのが、僕らの課題です。
一人一人が本当に愛に包まれて生きていく。その中で復讐劇をはじめ、いろんな出来事があって、素晴らしいラストになればいいなと思い、頑張ってきました。ぜひ皆さんに見て頂けると嬉しいです。
Q.(橋本への質問)「稽古が半年くらいに感じた」とのことでしたが、稽古場での共演者の印象は?
橋本:そうですね。先ほど「半年ぐらいに感じた」と言いましたけど、賢志さんが「3日に感じた」って言ったんで、僕も3日に感じました。
一同:(笑)
橋本:(座組の)印象としては、非常にバランスが良いです。賢志さんがお芝居面で引っ張ってくれて、遠山さんが……すーごく天然なお方でして、稽古場のムードを和ませてくれる。
徳山さんも面倒見が良くて、僕たち(後輩組)の芝居をしっかり見てくださる。で、前嶋くんは一番若いけどとにかく一生懸命、作品にひたむきに向き合って、最後まで残って稽古したり……と、いろんな色を持つメンバーが集まった稽古場でした。
稽古場以外でも何回かみんなでご飯に行って、濃い話や面白い話もできましたし、非常にいい座組だと思っています。
Q.(谷口への質問)個性的な衣装やメイクが多い今作。中でもひときわ目を引くモンテ・クリスト伯爵ですが、衣装やメイクで気に入っている部分やこだわりはありますか?
谷口:そうですね、あの、僕がこの衣装やメイクを選んだわけじゃないので、こだわりというのは無いんですが(笑)。
吸血鬼などの異質なものを表現するとき、僕ら役者は、どちらかといえば自身の表現力で勝負したいもの。だけど(今作のように)顔の色や耳の形を変えたり、まずビジュアルとして表現できるっていうのは、2.5次元ならではの楽しみだなと思っていて。そう考えてみると、みんなすごく耽美で美しいですよね。
アニメの「巌窟王」では背景のテクスチャーが衣装と同化したりしなかったり、といった表現が本当に美しくて。その辺りは今回の舞台上でも、映像も駆使して色々と表現しています。
たとえば、マントの裏側に映像が投影されたりとか、そういうアニメにもあった仕掛けが、今回舞台上でもできるんです。そういう意味では、他の作品とは違う面白さがこの衣装にはあって、すごく気に入っています。
Q.最後に、橋本さんから締めのご挨拶をお願いします。
谷口:熱いの頼むわ。
橋本:はい! 2019年ももう終わりに近づいています。ということは、これが僕たちにとって2019年最後の舞台、皆様にとっても最後の観劇にあたる作品になるかもしれません。
2019年最後の舞台にふさわしいものにできるよう、僕たち一同、必死に頑張ります。皆さんもぜひこの世界観にどっぷりはまっていただけたらなと思います。
最後にこの言葉だけ残して帰ります。「待て、しかして希望せよ」!
谷口:(間髪入れず)俺のセリフだよ!
一同:(笑)
橋本:ありがとうございました。
「巌窟王 Le théâtre」は、2019年12月20日(金)〜12月28日(土)まで、新宿・こくみん共済 coop ホール (全労済ホール)/スペース・ゼロにて上演。
15歳の少年アルベールが経験したひと夏の嵐のような記憶を、あなたも体感してみてはいかがだろうか。
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