シリーズ4作目となる舞台「信長の野望・大志-零- 桶狭間前夜 ~兄弟相克編~」が2019年11月14日(木)初日を迎えた。シリーズ初となる過去を描く本作。しかも兄弟対決。果たしてどんな新たな“歴史”が描かれたのか。
これまで3作、織田信長(演:鶏冠井孝介)の“織田信長としての目覚め”とともにシリーズを追ってきた筆者が、ゲネプロで上演された<SIDE織田信長>の様子をレポートする。
後半には囲み会見のコメントも掲載しているので、あわせて楽しんでほしい。
※前作のレポートはこちら
舞台「信長の野望」第3弾が開幕 鶏冠井孝介「本能寺の変に恥じぬよう素晴らしい作品になっている」
積み重ねた3作があったからこそ、そう思わせてくれる渾身の4作目
戦国乱世、それは多くの名だたる武将たちが野望に燃え、夢に散っていった時代でもある。
過去3作で、桶狭間の戦いから本能寺の変まで、織田信長の生き様を中心に激動の時代が描かれてきた。3作はいずれも、いままさに目の前でその時代が動いていく様を追っていたが、本作は一味違う。
前作の千秋楽公演で明かされた、本来の歴史ではとうに死んだはずの織田信行(演:沖野晃司)の生存。そこから繋がる“これから”のストーリーと、信行が生き残るに至った“これまで”のストーリーが、緻密に絡み合いながら描かれていった。
本能寺の変以降を現在と表記するが、その現在と過去を行き来しながらも、ストーリーの軸はぶれない。ダイナミックな場面転換による魅せ方がうまい作・演出の久保田唱氏の手腕は今作も健在だ。
これまでと違った時間軸を切り取った作品なので、もちろん今作だけでも十分楽しめる。だが、過去3作を知っているとグッとくる演出も散りばめられていたので、舞台「信長の野望」シリーズのファンは楽しみにしていてほしい。
初見では少しわかりにくい、現代の記憶を持って戦国武将として生きる者たち、という設定。このあたりも、今回は脱・茶室を余儀なくされた今井宗久(演:彦摩呂)に代わって、歴史の語り部を務める今川義元/足利義昭役の(演:加藤凛太郎)と本願寺顕如(演:吉田宗洋)らが説明をしてくれる。今回はじめて観るというファンも安心して楽しんでほしい。
この2人のまさに芸達者とでもいうべき演技は、重苦しい兄弟の命を賭けたエピソードのなかで、ちょっとした笑いと癒やしをもたらしてくれるだろう。
戦いの世で、命散らす武将たち
▲2人の兄の間で無邪気に微笑むお市にも涙を誘われる
ただの歴史ものの舞台であれば、「この役なら、史実的にはこの戦いで命を落とす」というのが事前にわかっている。しかし、舞台「信長の野望」の世界は“本来の歴史”とは違った歴史を歩んだ世界だ。だから、思いがけないところで思いがけない人物が討ち取られ、逆に生き延びる命もある。
今作、推しが出演しているというファンは、くれぐれも油断せずに劇場に向かってほしい。いつどこで、推しが演じる武将が裏切り裏切られ、命を落とすか分からない。しかも久保田氏の演出は、散りゆく命に重みを与える。死に際に、その人物の半生を思い描かせるのだ。
そんなもの、推しが刃に倒れた日には、泣かないわけにはいかないだろう。ハンカチ・ティッシュは多めに(とにかく多めに)。しっかりと膝上に用意してから観劇に挑んでほしい。
また今回は織田家内での兄弟での争いが描かれる。それゆえ、これまで味方であったものが敵にまわって裏切られる……という展開もある。
果たして誰が味方で、誰が敵か。誰が現代の記憶を持った者なのか。
信長が織田信長として戦国の世にやってきた永禄3年よりも以前に、記憶を持ったまま戦国武将になった者たちの策略によって、信長たちの運命は大きく動き出す。最終章へと動き出す彼らの激動の半生を、怒涛の殺陣とともに味わってみてほしい。
また今作もシリーズおなじみのダブルSIDEストーリーである。彼らの歴史の目撃者になるのであれば、必ず両SIDE観よう。
両SIDE観たうえで、さらにもう1回ずつ観ると、まったく違った深さでストーリーを楽しめるので、複数回の観劇を強くおすすめしたい。
人気かつ実力派俳優がずらり! ソロショット紹介
大所帯での立ち回りはこのシリーズの見どころのひとつでもある。ここからは、各陣営でその人生を生きる武将たちを何人かピックアップして写真とともに紹介していこう。
ストーリーに関わる場面写真はないので、ネタバレが心配なファンも安心して楽しんで欲しい。
まずは兄弟相克信長派の面々から。
▲池田恒興役の馬場良馬。信長の幼い頃からの親友である。細い腕から繰り出される力強い二刀流が格好いい。
▲シリーズ1作目で大活躍した森可成の若かりし頃を演じるのは杉江優篤。守るための強さを知っている人物。
▲佐々孫助役の瑛(あきら)。不敵な笑みを浮かべるシーンが印象的だ。
▲河尻秀隆役の三原大樹。史実では信行の死に大きく関わる重要人物。
▲前田利家役の白柏寿大と、信行派についた柴田勝家役のシリーズ皆勤鵜飼主水。なぜ2人は一緒にいるのか……
そして、次は信行派。今回ゲネプロがSIDE織田信長だったため、信行派の思惑や活躍はぜひSIDE織田信行で楽しんでほしい。
▲滝川一益役の小南光司。物静かだか、秘めたなにかを感じさせる役どころだ。
▲シリーズではおなじみのキャストである黒貴が演じるのは林兄弟の片割れ林通具。大胆不敵な性格で信長にも食って掛かる。
続いて、その他勢力を紹介していこう。
▲信行となにやら話し込んでいるのは南翔太演じる松永久秀。彼の目的とは……?
▲歴史に疎い人でも知っているであろう真田幸村を演じたのは青木空夢。真田もまたある謎を抱えている。
▲過去2作、続けてあまりにも悲しい別れを経験してきた徳川家康の数年前・松平元康を演じる竹石悟朗。時間軸が変わった際の感情の切り替えに目が奪われる。
最後に本能寺の変以降の現在を生きるこの2人。
▲前田慶次郎役の友常勇気。高身長の彼が振り回す刀身の長い太刀の迫力は満点だ。
▲軍神上杉謙信役は根本正勝。殺陣だけでなく髪のなびかせ方まで美しく、思わず目を奪われる。
ここでは全員紹介しきれなかったが、魅力的なキャストの一部を紹介してきた。
本作は、キャストは多いが全員の背負うものや信念が、ストーリーを通じてきちんと伝わってくる内容となっている。注目する武将によって、同じストーリーもまた違った視点から楽しめるだろう。
ステージの隅から隅まで、余すところなく注目して楽しんでもらいたい。
囲み会見コメント
最後にゲネプロ前におこなわれた囲み会見の様子をお届けしよう。人懐っこい鶏冠井の笑顔とキャストの笑い声があふれるアットホームな会見となった。
ーー舞台への意気込みをお願いします。
鶏冠井孝介(織田信長役):みんなで一緒にできるのがとにかく楽しくて。素敵な仲間とこの舞台をやれることが嬉しいです。
沖野晃司(織田信行役):この作品初参加ということで、稽古に入ってからみなさんの温かさとか熱を感じて、これは一生懸命最高の作品をつくらきゃとここまでやってまいりました。
見どころは我々は兄弟同士の話ということで、また今までやってきた作品の流れよりも前に戻る作品ということで、このシリーズの大元となる話になるんじゃないかと思っていますので楽しみに待っていてください。
田中れいな(お市役):4作目になるんですけど、信長のお兄ちゃんしかいなかったのが、信行のお兄ちゃんが出てきたことで、市の新しい表情をお見せ出来るんじゃないかと。
また時間が前に戻るということで幼少期時代がたくさん描かれていて、私もここまで幼いお芝居をしたのは初めてなんじゃないかっていうくらいきゃぴきゃぴしたお芝居をしていますので、そこも観て欲しいです。
それから、今回も新曲があるんですが、それもすごくいい曲なので注目してほしいなって思います。
彦摩呂(今井宗久役):いつも堺の商人なので茶室にいるんですね。そこで大名たちと話をしたり武器を売ったりしてるんですが。
今回は茶室から飛び出しまして、宗久が命を狙われます。宗久が走る、という見どころがございます。走る分量としてはごくごくわずかでありますが、走ります(笑)。
さらに、信長の側室・吉乃役の秋本帆華(TEAM SHACHI)は「正室と側室の女の戦い」に、信行の正室である弥役の咲良菜緒(TEAM SHACHI)は「信行が勝てるようにサポート」、信長の正室・帰蝶役の大黒柚姫(TEAM SHACHI)は「帰蝶の気持ちの変化」を見どころとして挙げていた。謎の女・霞役の坂本遥奈(TEAM SHACHI)は、「4人で一緒の舞台に初めて出られるということで嬉しいです」と、TEAM SHACHIそろっての舞台出演へ、喜びの表情を見せていた。
ーー4作目となった本作の見どころは?
鶏冠井:前作「本能寺の変」では明智光秀が信長を生きながらえさせるシーンで終わって、その後にこの信行が登場しました。なぜ死んだはずの信行が生きているのか。そのあたりが今回描かれます。
そして、この2人(信長と信行)がめちゃくちゃ仲が悪いんです。
沖野:そのあたりは史実通りというか。
このときは信長なにしてたの、とか、信行はなにしてたの、とか。両SIDE観ていただいて、「あ、なるほどね」って俺が台本読んでて思いました(笑)。だから僕生きてたのか〜って。
彦摩呂:まあ迷惑な兄弟喧嘩ですわ。周りを巻き込む巻き込む、大騒動だもんね。
沖野:史実とは違うように進んでいくのが、この作品の魅力じゃないですか。だから私、考えました。「私この人に戦争起こさなかったら、っていう未来」考えました。そうしたらめちゃくちゃ強いんじゃない? って(笑)。
鶏冠井:本来だったら稲生の戦いという兄弟の争いで信長が勝って、その後にお兄ちゃんに信行は殺されちゃうんです。その歴史を変えるための戦いが今回の「兄弟相克編」でございます。
ーーシリーズ初参加となる沖野さん、参加されてみていかがでしたか?
沖野:1作目から本番観させていただいて、まさか自分がそこに立つとは思ってなかったので。久保田唱は同じ団体の人間なんですけど、こんな大きいところでやれて素晴らしいな〜って思ってたら突然「出る?」って(笑)。
加わってみたら素敵な座組だし、何作も重ねるにはいい座組じゃないとできないと思いますし、そこに自分が飛び込んだら一生懸命やるしかないし。
特に織田信長という絶対的な存在をたたせながら、この作品に自分が力を与えられたらいいなと思って参加しました。
ーー劇中の歌唱シーンについて
田中:今作もいいシーンで歌いながらお市が出てくるんですけど。前回も無声芝居のところで私が歌ったんですけど、今回もいいところで……
鶏冠井:いいシーンっていうか、僕が思ってるのは、過去3作観てきてだいたい人が死ぬか切られるところで歌ってる(笑)。
田中:たしかにそうです(笑)。今回もさみしい切ないような曲で。音楽って人の気持ちをいちばん動かせるんじゃないかなって私は思ってるので、私の歌でさらに「はぁ……」ってなってもらえたらなって思います。
また田中は先日30歳の誕生日を迎えたが、ちょうど1年前の29歳の誕生日は舞台「信長の野望」2作目の本番期間中であった。当時もキャストによるサプライズの様子を撮った動画をSNSで公開していたが、今年は稽古中にキャスト陣に祝ってもらったエピソードを明かしてくれた。
ーー今作のカンパニーはいかがですか?
鶏冠井:1作目から周りに支えられてやってこれたんですけど。毎回すばらしい人達ばかりが集まる。プロデューサーさんも各キャストも。人柄も素敵で毎回最高だな!って思うんですけど、今回また前回を超える最高になりました
田中:それはかいちゃん(鶏冠井)のおかげで、座長がこういう感じだから、みんなも支えたいっていうか。本当にみんなに愛されている兄上だな、と思いながらお市としてくっついています。
ーー最後のファンへのメッセージをお願いします。
鶏冠井:約1ヶ月間稽古に励みました。誰にみせても恥ずかしくない楽しい舞台になっています。ぜひ楽しみにしていてください!
▲おそろいのポーズをして「シンメだ」と笑い合う姿に2人の仲の良さがうかがえた
舞台「信長の野望・大志-零- 桶狭間前夜 ~兄弟相克編~」は11月20日までかめありリリオホール、11月23日に名古屋特殊陶業市民会館 ビレッジホールにて上演。前代未聞の戦国絵巻をその目でたしかめてみてほしい。
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