舞台「魍魎の匣」が2019年6月21日(金)、東京・天王洲 銀河劇場で開幕した。
「2.5ジゲン!!」では、公演に先駆けて行われた初日会見と公開ゲネプロの様子を、主要キャラクターの見どころとともにお届けする。
もくじ
舞台「魍魎の匣」とは
舞台「魍魎の匣」の原作は、シリーズ累計1,000万部を超える京極夏彦の大人気小説「百鬼夜行シリーズ」の『魍魎の匣』だ。
京極夏彦といえば、ノベルスや文庫本の驚異的な分厚さでも広く知られる作家である。
シリーズの舞台は戦後間もない昭和20年代後半。「憑物落とし」を副業にする古本屋、鬱気味の冴えない小説家、「推理をしない」探偵など癖のある魅力的な登場人物がずらり登場する。
また民俗学や論理学、妖怪など様々な分野の薀蓄がぎっしりと詰め込まれた不思議な世界観で、多くのファンを獲得している。
現在9作品の長編が刊行されている「百鬼夜行シリーズ」だが、その中でも『魍魎の匣』はシリーズ2作目にして最高傑作との呼び声が高く、日本推理作家協会賞を受賞。映画化、コミック化、アニメ化もされている。
京極堂の世界が「ここ」に顕現。公開ゲネプロレポート
まずは公開ゲネプロの様子をご紹介しよう。
(※物語の根幹に関わる重要なネタバレは避けるものの、内容には言及している。
まっさらな状態で舞台を観たいという方は、後半の「初日会見レポート」のみ閲覧するのがおすすめだ。
そして観劇を終えた後、ぜひ改めてゲネプロレポートを楽しんでいただきたい。)
▲左から榎木津礼二郎(演・北園 涼)、関口 巽(演・高橋良輔)、中禅寺秋彦(演・橘 ケンチ)、鳥口守彦(演・高橋健介)
まず観劇前に、筆者はシンプルな疑問を抱いていた。
「文庫版で1,000ページを超えるような物語を、2時間前後の舞台にどうやって収めるのだろう?」と。
しかしこれは、観劇後に「なるほど」という納得感に変わっていた。
軽妙なテンポで進むストーリーと、登場人物たちの強烈な個性を活かした立ち回り。
そして演出や映像が見事に助け合って、原作未読でも理解しやすく、それでいて原作世界の広がりや深みを感じさせる作品になっている。
京極堂ならではの「魍魎」の定義や「通りものに当たる」といった名台詞の数々、そしてオハコの薀蓄もちゃんとある。
原作ファンの方はもちろん、「読んだことがない」という方も、安心して観劇してほしい。
さて、鑑賞を終えてまず感じたのは、胸いっぱいのやるせなさと一片の救いのようなもの、そして「なんだかやたら空腹だ」という異様に現実的な感覚だった。
というのも思考と感情をフル回転させられる本作、終演後に糖分を摂取したくなるのだ。
これから観劇する方は(とくに原作未読の方は)、カバンに何か甘いものを忍ばせていくと良いかもしれない。
舞台は昭和27年8月15日、金曜日。中央線「武蔵小金井」駅で起きた人身事故が発端となる。
事故の犠牲者は14歳の美しい少女・柚木加菜子(演・井上音生)。そして目撃者はただひとり、加菜子の親友・楠本頼子(演・平川結月)だった。
頼子は「黒い服と手袋の男が加菜子を突き落とした」と証言し、殺人未遂事件として捜査が開始される。
電車に轢かれた加菜子は、瀕死の重傷を負いながらも一命をとりとめ、母・柚木陽子(演・紫吹 淳)の希望により、ハコのような建物「美馬坂近代医学研究所」に運び込まれる。
この研究所の所長は外科医として名高い美馬坂幸四郎(演・西岡德馬)。美馬坂は二度に渡る大手術を成功させ、加菜子の命をつなぎとめた。
だがその直後、身体を動かせないはずの加菜子が、関係者の目の前で忽然と姿を消してしまう。
▲左から榎木津、木場修太郎(演・内田朝陽)、中禅寺、関口
しばらくして、街では猟奇的な連続事件が話題になる。
鉄や桐の匣(はこ)に入った人間の手足が、湖や街角で次々と発見されたのだ。
「武蔵野連続バラバラ殺人事件」と名付けられたこの事件。調べるうちに新興宗教「穢封じ御筥様(けがれふうじおんばこさま)」とのつながりが見えてくる。
一見無関係に思える「柚木加菜子誘拐事件」と「連続バラバラ殺人事件」。
だがこの2件が奇妙な符合を見せ始め、やがて事態は急転直下の展開を迎える――。
魍魎とは何なのか?
タイトル「魍魎の匣」の意味するものは?
複雑怪奇な事件がもたらす物語の結末は?
極上のミステリーが導く驚きの答えを、あなたの目で確かめていただきたい。
FILE1:中禅寺秋彦(演・橘ケンチ)
▲舞台版でも舌鋒にぶらぬ主人公、中禅寺秋彦(演・橘ケンチ)
主役の中禅寺秋彦(通称「京極堂」)を演じるのは、EXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチ。
「幽劇」(2017年)、「ドン・ドラキュラ」(2015年)など主演を務めた他作品でも好演を見せている。
中禅寺、いやあえて「京極堂」と呼ぼう。
京極堂という人物は、原作者の京極夏彦をモデルに描かれていることで有名である。ファンからの期待も非常に大きいこの役を、橘は原作への深いリスペクトとフレッシュな感性で見事に演じきっている。
クライマックスの「憑物落とし」のシーンは、もちろん舞台でも最大の見せ場だ。
京極堂の長台詞を中心に構成される丁々発止のやりとりは、重いテーマにもかかわらず不思議な爽快感がある。ぜひ堪能してほしい。
FILE2:木場修太郎(演・内田朝陽)
▲シャイだが情熱溢れる男、木場修太郎(演・内田朝陽)
加菜子誘拐事件を調べる刑事の木場修太郎は、別名「鬼の木場修」と呼ばれる堅物だ。
彼は物語の最初から最後まで情熱と信念を手放すことなく、難解な事態に立ち向かっていく。
観客が人の心の深淵に引き込まれそうな場面では、シャイながらまっすぐな彼の姿が観客を「こちら側」に引き止めてくれる瞬間も多い。
FILE3:関口 巽(演・高橋良輔)
▲人間くさくてどうも憎めない小説家、関口 巽(演・高橋良輔)
気弱で小胆な小説家・関口は、一見すると人畜無害な好人物だ。
強烈な個性を持つ登場人物たちの中で、ありふれた感覚を持っているように見える関口。しかしその精神の不安定さは、ストーリーが進むにつれじわじわと露呈する。
臆病でありながら、いや臆病だからこそ「向こう側」への好奇心を募らせる関口を、つい自身と重ねてしまう観客も多いのではないだろうか。
FILE4:鳥口守彦(演・高橋健介)
▲いるだけで空気が和む貴重な男、鳥口守彦(演・高橋健介)(写真右)
スクープを求めて「武蔵野連続バラバラ殺人事件」を追うカストリ雑誌記者の鳥口は、よくしゃべる快活な若者だ。
ポンポンと飛び出すノリの良い台詞は、重くなりがちな場の空気をパッと明るく照らしてくれる。
彼特有の「うへえ」という口癖は、舞台でも健在だ。
鳥口を演じる高橋健介は、ウルトラヒーロー出身。ミュージカル『刀剣乱舞』の蜂須賀虎徹役など、2.5次元ファンにとってもなじみの俳優だ。
主要キャストの中でも年少の高橋。彼が体当たりで挑む大役に注目したい。
FILE5:榎木津礼二郎(演・北園 涼)
▲故あって「推理しない」探偵、榎木津礼二郎(演・北園 涼)
天衣無縫の私立探偵・榎木津礼二郎を演じるのは、ミュージカル『刀剣乱舞』の小狐丸、MANKAI STAGE『A3!』の高遠 丞などを演じ、注目度急上昇中の俳優・北園 涼だ。
長身と手足の長さを活かしたゆとりのある所作で、「眉目秀麗で生まれは旧華族」という榎木津を、優雅に、また天真爛漫に表現しきっている。
初日会見で意気込みを聞かれ、「舞台上で子どものようにはしゃぎたい」と語った北園。
だが自由奔放なだけではない、特異な人生を歩んできた榎木津ならではの人間性が、彼の仕草や表情からはきちんと伝わってきた。
▲加菜子の母・柚木陽子(演・紫吹 淳)
▲謎多き外科医・美馬坂幸四郎(演・西岡德馬)
他、事件の中心人物となる加菜子の母・柚木陽子役に紫吹 淳、不穏な噂が絶えない外科医・美馬坂幸四郎役に西岡德馬と、豪華なキャストが勢揃いしている。
舞台「魍魎の匣」初日会見レポート
ゲネプロに先駆けて初日会見が行われ、出演者たちが公演に向けての意気込みや稽古場の様子などを語った。
<登壇者>
橘 ケンチ(主演・中禅寺秋彦役)/内田朝陽(木場修太郎役) 高橋良輔(関口 巽役) 北園 涼(榎木津礼二郎役) 高橋健介(鳥口守彦役)/紫吹 淳(柚木陽子役)/西岡德馬(美馬坂幸四郎役)
松崎史也(演出)
▲前列左から松崎、紫吹、橘、西岡、後列左から高橋健介、内田、高橋良輔、北園
Q.自己紹介と意気込みをお願いします。
橘 ケンチ:京極堂こと中禅寺秋彦を演じさせていただきます、橘ケンチと言います。
いよいよ初日を迎えます。これまで1ヶ月間この座組で培ってきた稽古、積み上げてきた皆さんの思いを、今日初めてお客様の元に届けられること、本当に嬉しく思っています。
「魍魎の匣」という作品が舞台という形態になり、どのような匣がひらくのか、それをぜひ楽しんでいただきたいです。
内田朝陽:この作品は残酷な表現やホラーな部分もありますが、とても文学的でもあります。
また橘さんをはじめ役者もキャラクターもみんな色っぽい作品だと思うので、僕も一生懸命頑張ろうと思っております。
怖い作品ですけれども、楽しんでいただけたらと思いますし、観て何かを感じていただけたらいいなと思います。感動していただけるように努めます。
高橋良輔:関口 巽役の高橋良輔です。
台詞として本当に素敵な言葉をたくさんいただいておりますので、ひとつひとつ大切に、皆さんにお届けできればなと思っております。お楽しみに!
北園 涼:榎木津礼二郎役、北園 涼です。
舞台で、演劇として行われる物語ではありますけれども、身近に起こりうる内容でもあると思います。
お客様がこの舞台を観た後に何を持って帰ってくださるのかというのがすごく楽しみです。
榎木津礼二郎として、舞台上で子どものようにはしゃげたらいいなと思っています。
高橋健介:鳥口守彦役の高橋健介です。
個人的に、最近ずっと歌やダンスのある舞台が多かったのですが、今回は言葉のみで戦う作品です。
それがこの作品の魅力のひとつでもあると思うので、約2時間、言葉での楽しさを皆さんに味わっていただけたらなと思います。
紫吹 淳:柚木陽子役の紫吹 淳です。
長いこと舞台をやらせていただいておりますが、今までは愛をテーマにしたものというとハッピーなイメージの作品が多かったように思います。
今回は、愛は愛でもちょっと歪んだ愛といいますか、「こんな愛の表現もあるんだな」という内容で、私自身も新たな扉をひらかせていただきました。
原作ファンの方々が抱く柚木陽子のイメージを壊さないように、私なりの陽子を演じられたらと思っております。
西岡德馬:この「魍魎の匣」という作品は、京極夏彦さんの傑作です。
さっき北園くんが「身近でもあり得るような話だ」と言ったんですが、こんな話があり得たら困るなというか(笑)……そのくらい、なかなか人間の発想ではできない仕組みの物語なんです。
その仕組みはすごく力強い大きなもので、俳優たちはそれに負けないようなエネルギーのある演技をしなきゃいけない。そんな演技を皆さんにお見せできたらなあと思います。
紫吹さんが今おっしゃったことに僕も同感で、これは「ある愛の物語」だと思っております。頑張ります。
Q.(演出家・松崎史也に)本公演の見どころは?
松崎史也:この作品は、俳優・橘ケンチの代表作になると思っています。
また本当に役者たちがみんな素晴らしくて、このメンバーでシリーズを続けたいなと勝手に感じてしまうくらい、充実した稽古でした。
僕はフィクションやエンターテインメントが担う大きな役割のひとつが「現実世界を生きる支えや備えになること」だと思っています。
この作品を観ることで、お客様の中に支えや備えがひとつ加わればよいなと思います。
Q.(橘に)原作者・京極夏彦先生の印象は?
橘:京極夏彦先生には、この舞台を通じて初めてお会いしました。
今年が作家生活25周年ということで、この舞台化を本当に喜んでくださっていて、舞台の顔合わせのときにもわざわざお越しくださったんです。
そのときに先生から、「皆さんの思う『魍魎の匣』をやってください。それが面白ければ僕は何も言うことはないです」と言っていただきました。
その言葉で僕らは「ああ、これだけ先生に託していただいているんだな」と感じ、改めて気合が入りました。
僕はその後、幸運にも京極先生のご自宅に伺う機会がありました。僕も本が好きなもので「日本一の書斎」と名高い京極先生の本棚を拝見させていただいたんですが、本当にものすごい書斎でした。
本棚にみっっっしり詰まっているんです、本が。きれいに全部計算されて。
今まで先生が生きてこられた中で手に入れた本は、全部そこに保存されているとのことでした。
昔お金がないときに売ってしまった本もまた買い直して、自分の人生を彩った財産が全部そこに所蔵されているんです。
そうした京極先生のスタンスが、この「魍魎の匣」の登場人物の中に生きているんだろうなと僕は思いました。
僕が演じる京極堂の立ち居振る舞いや考え方にも生きていますし、他のキャラクターの中にも随所随所に京極先生のエッセンスが、間違いなく息づいているなあというふうに感じました。
先生に満足していただけるような作品を、この座組でお届けしたいと思っております。
Q.(内田、高橋良輔、北園、高橋健介に)超大作の舞台化、プレッシャーはありましたか?
内田:ありますよ、そりゃもちろんありますよ。
一同:笑
内田:今ケンチさんのお話にもありましたが、顔合わせのときに京極先生みずから足を運んでくださって、「プレッシャーを感じずに、自分(京極先生)の知らない、新しい魍魎の匣を見せてほしい」というお言葉をいただいたんですが、ありがたいと同時に尚更プレッシャーになりまして(笑)。
僕にできることは一生懸命やることと、何かが見つかるまで稽古をしてもがくことしかなかったので、頑張んなきゃなってもがきました。
良輔:京極先生に初めてご挨拶するとき、本当に言葉が出ないと言いますか、言葉にならない気持ちになりまして、そのくらいのプレッシャーを感じながら稽古をして、今ここに立たせていただいています。
でもあんまりプレッシャーを感じすぎて舞台上で硬くなってもしょうがないので、楽しんで最後までやっていければなと今は思っております。
北園:最初はもちろん緊張しましたねー。あんなに緊張した顔合わせは初めてで、いまだに鮮明に覚えています。
でもこんなに素敵なキャストの方々と一緒にお仕事ができるというのは本当に嬉しく思いますし、稽古を経て作り上げてきたものもあるので、今は自信を持って舞台に立ちます。
健介:作品はもちろんですが、僕はキャストの皆さんを知ったときにもスタッフさんから「気合を入れないとまずいメンバーが揃いました」と言われまして。
一同:笑
健介:本当にありがたいキャストの皆さんとやらせていただきました。
本番に入ってからもどんどん得るものがあると思うので、自分がまた一回りも二回りも大きくなれたらなと思います。
Q.(西岡、紫吹に)大先輩のお二人から見て、主演・橘ケンチの印象は?
西岡:僕はケンチくんとはテレビで何度か共演していて、初めてじゃないので話しやすいですね。
彼は仕事への取り組み方がすごく真摯でまじめで、今回の座長も全部わかって背負ってやっている。
だから間違いはないと思うし、その姿勢が僕はとても好きです。
紫吹:彼は主役さんなのにとてもフットワークが軽くて、稽古に遅れて入った私にいの一番にご挨拶してくれたり、率先して「(若手キャストで)稽古場のトイレ掃除をしましょう」って提案してくれたりするんです。
私自身も長くこのお仕事をさせていただいて、主役も演じさせていただいていますが、トイレ掃除はしたことないし、他の主役さんがしているのも見たことがないです。
提案したその日には彼が本当にトイレ掃除をしている姿を見かけて、びっくりして。
西岡:それ、僕もびっくりした。
紫吹:こんな人がいるんだ、と思ったんです。しかもトイレ掃除しているさまも、なんかかっこいいんですよね。
一同:笑
西岡:やあ、いいチームだなあと思った。みんなで日替わりで決めてやってるんだよね。
紫吹:それを率先して言ってくださったのがケンチさんで。そんな主役さんは初めてでした。
Q.(橘に)トイレ掃除の意図は?
橘:稽古場のトイレに定期清掃が入らないとのことで、連日使っているうちにどんどん汚れていってしまって。
稽古が残り3週間くらいのときに「トイレ掃除みんなで分担してやりませんか?」って言ったら、みんな率先して「ああ、やりましょうやりましょう」って賛成してくれたんです。
その日から交代でやるようになって、(若手キャストたちのほうを向き)最後までトイレ気持ちよかったよね。
「魍魎の匣」はこういう内容の舞台なので、何かとゲンを担ぎたいですし、水回りをきれいにするとか、そういうことは大切にしたほうがいいかなと思って提案させていただきました。
西岡:俳優というか、人として素晴らしいね。
Q.(橘に)最後に、公演を楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
橘:今回は「魍魎の匣」という、京極夏彦先生の大作を舞台化させていただくことになりました。
キャスト一同、スタッフ一同、本当にありがたく思っています。決してハッピーエンドの物語ではありませんが、皆様の記憶と心の奥底にずしりと刺さるようなインパクトを届けられる作品だと思っております。
キャスト全員一丸となって千秋楽までのぞみますので、舞台「魍魎の匣」をぜひ劇場で体感していただければと思います。よろしくお願いします。
舞台「魍魎の匣」は、2019年6月21日(金)~6月30日(日)東京・天王洲 銀河劇場、2019年7月4日(木)~7月7日(日)神戸・AiiA 2.5 Theater Kobeにて上演。
蒸し暑い季節にピッタリのゾクゾクするような体験を、劇場で味わってみてはいかがだろうか。
広告
広告