Allen suwaru プロデュース公演「いい人間の教科書。」が2月8日(水)に東京・すみだパークシアター倉で開幕し、竹中凌平、足立英昭、佐藤弘樹、森田晋平、栗田学武からのコメントとゲネプロレポートが到着した。
⼈間誰しもが抱える潜在的な罪が暴かれる舞台
『いい人間の教科書。』(以下、イイショ)は面識のない5人の男たちが密室空間に拘束され、“いい人間”を1人だけ決めて脱出するというシンプルな構成の舞台だ。ただし脱出できるのはいい人間1人だけで、残った人々の生死はどうなるのかはわからない。このとてつもなく理不尽な状況下で、男たちは自分がどれだけいい人間か、他人が普段どれだけ罪深い行動をとっているかを話し合っていく。生死がかかっているために、男たちの精神状態はどんどん悪いほうへ傾き、途中から罵倒し合うほどにヒートアップ。しかしこの混沌とした会話のやり取りこそがイイショの見どころでもある。自分でも気づいていなかった潜在的な罪が他人によって暴かれ、心の中の立ち入ってほしくなかった部分に土足で踏み込まれる場面を目の当たりにした観客たちは、彼らに感情移入をせざるを得ないからだ。きっとこれまでの自分の人生と照らし合わせてしまい、目の前の男たちにどんどんのめり込んでしまうことだろう。
また本作の登場人物は出演俳優と同名で、俳優自身が『どこかのタイミングで違う人生を選択した自分』と仮定して演じている。並行世界的なこの設定には共通点もあるがまったく予想できなかった相違点もある。“if”の人格を垣間⾒えるというのはファンにとって新鮮なことではないだろうか。
しかし、イイショには洗礼ともいえる演出がある。それは『密室空間』という設定ゆえに舞台上から移動できないということ。つまり舞台袖に移ることはおろか水さえも⼝にできないのだ。約2時間、生死をかけた討論を繰り広げるのだから役者たちの体力の消耗はとてつもない。少し皮肉かもしれないがこの消耗した様子が緊迫感をさらに煽り、物語に奥行きが加わるのだ。
人はみな大なり小なり罪を抱えて生きている。そのことに気がつけば日常の中に存在する些細な希望を見つけることができるかもしれない。演者ももちろんだが、見る側もたくさんのエネルギーを消耗する本作『いい⼈間の教科書。』は2月13日(月)まで公演。ぜひ俳優が全力で演じる『2時間だけの人生』を⽬に焼き付けてほしい。
「ここまで⾃分と向き合った作品ははじめて」
――ゲネプロを終えた率直な感想をお聞かせください。
栗田学武(以下、栗田):ようやく劇場で最初から最後まで通しで演じることができました。四方を囲む舞台(セット)なのでお客さまが入られたときにどんなふうに見えるのだろうと感じつつ、僕たちは“この場に閉じ込められている状態”なので見られていることを意識しないように頑張らないとな、と。あと数時間後には幕が開けるので今は純粋にとても楽しみです。
足立英昭(以下、足立):ゲネプロを終えてようやく1つの形が見えたのではないかと思います。エチュードだからこその強みやおもしろさがあるんだなと実感できました。栗⽥さんもおっしゃったようにお客さまが会場にいることで空気感が変わってくると思うので、それを楽しむことができればいいなと思います。
竹中凌平(以下、竹中):しんどいです。
⼀同 :(笑)
竹中:2時間ずっと舞台に出っぱなしで、ダンスもあって、しかも四方から見られて、言い方がよくないかもしれませんが、抜きどころがないんです。
栗田:正直やなぁ。
竹中:(笑)。終始集中しなければいけない作品なのですが、清々しい達成感もあります。このあとしっかりと休憩をとって夜の本番に備えたいと思います。
佐藤弘樹(以下、佐藤):今、竹中くんが⾔ったとおり2時間出ずっぱりなので、途中でトイレに⾏きたくなったらどうしよう…と思うんですよ(笑)。別のことに意識が囚われた瞬間に集中力が切れてしまって、違う形になってしまう可能性がある作品で。しかし自分の身体やお客さまの存在を感じつつ、余裕を維持することがエチュード劇に必要なことだと思うので、その意識を持って本番に臨みたいと思います。
森田晋平(以下、森田):本当に大変な作品で。1度も袖にはけることがないので、舞台上で何かトラブルが起きたときには全員で協力して乗り越えるしかないんです。
栗田:まさに今日のゲネプロで(セットの)箱の蓋が開かないというトラブルがあったよね。心の中で「開かん~!」ってなった瞬間にみんなが助けてくれたのでほっとしました。
森田:本当に本番中に何が起きるかわかりませんよね(笑)。あと、照明や音楽といった、素敵な演出をゲネプロで体感できて、僕自身とても感動しました。この感動をお客さまにも味わっていただけたらうれしいです。
――足立さん、佐藤さん、森田さんに質問です。イイショやアレン座での稽古の印象はいかがでしょうか。
足立:稽古のとき、演出の茉美さん(鈴木茉美)に「泳がされたな~!」と(笑)。もう必死に泳いで、半分溺れていました。エチュード劇って台本がなくて、いろいろと模索しながら作っていくんです。茉美さんは僕たちの嘘のない感情や言葉を拾っていって、考えてくださって、たくさん提案をしてくださるのですが、僕は「どれが正解なんだ?」と悩みながら作っていきました。でもそれがめちゃくちゃ楽しくって!
森田:稽古に入る前はこの作品についてそこまで詳しくわかっていなかったんです。いざ稽古がはじまったら「こんなにも自分の人生を深掘りして考えていかなければならないのか!」と衝撃で。ここまで自分に向き合った作品ははじめてです。
佐藤:僕も「これほどまでの作品は今後もなかなかないだろう」と思っていて。ジェットコースターのように、怒ったり悲しんだり、スッキリしたり…いろいろな感情が詰まった2時間になっています。
――栗田さんと竹中さんは昨年の年末に、イイショをもとに企画した戯曲『点滅』に出演されたばかりですね。
竹中:『点滅』はイイショの原点でありシチュエーションも似ていたりしますが、やってみると全然違うんですよね。『点滅』はセリフがすべて決まっていますし。
栗田:根幹となるところは『点滅』と同じですが、比べようのない完全別作品ですね。アレン座でイイショをやるのは4度目なのですが、今回は物語の結末に特徴があるんです。過去作をご存じの方には斬新な終わり方だと思っていただけるのではないでしょうか。
竹中:そういえばうちの劇団員の磯野大に「イイショはしんどいぞ」って言われていて。
栗田:(笑)。オープニングの曲が流れると(緊張で)舞台袖で“えずく”っていうのがイイショあるあるやねん。
⼀同:(笑)
――今、みなさんが考える『いい人間』とは?
⼀同:(即答)わからないです。
栗田:(笑)。稽古中にそういった話はたくさんするのですが、結局終着点は⾒えないままで…。
竹中:稽古場で、なんか…遺伝子の話とかしませんでしたっけ?
佐藤:いい人間と感じる要素が遺伝的に受け継がれていって…そもそも生き残るための要素がいい人間なのではないのか…とかね。
足立:自分ではなくて誰かにとっていい人間っていうのが、『いい人間』なのかも知れないですね。
竹中:また稽古のときにやったディベートみたいになっちゃってるよ!(笑)
栗田:みんなで助け合わないといけない作品だから稽古のときに共演者のいいところがどんどん見つかるんですけど、それとは別で役としては相手の嫌なところをたくさん見つけていかなくちゃいけないから⾟いよなぁ(笑)。そのせいかわからないけど、稽古が終わるとみんななんか優しくなるよね。
⼀同:(笑)
――改めて本作を観劇される皆さんにメッセージをお願いします。
足立:5人という少人数で出ずっぱりの本作。30歳前後の大人たちが本性むき出しで生(せい)や信念にしがみついて、自分の哲学をぶつけ合うっていうのは、普段絶対に味わえないことだと思います。人間の汚い部分やダサい部分をエンターテインメントとして見ていただければ嬉しいです。僕たちも全力で届けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
佐藤:本作のテーマに「約8000000000通りある人生の、ほんの数通りの彼らの人生」というのがあるのですが、その(人生の)可能性の1つを皆さまにお見せできるのではないかなと思います。今回、舞台上で演じているのは、稽古場でいろいろな可能性を試したうちの1つなんです。それをお客さまにも感じ取っていただけたらうれしいです。そして皆さまの中にも「こうなるかもしれない、ああなるかもしれない」といった可能性の種がどんどん生まれるといいなと思います。ぜひお楽しみに。
森田:ご来場いただく皆さまは5通りの人生を目撃することになると思うんですけれど、もしかしたらこの中の誰かしらの人生とリンクするかもしれません。お客さまに自分の人生を振り返って「あのときはこうだったな、これからはこうしていこうかな」と少しでも考えてもらう瞬間が生まれるとうれしいです。たとえば「自分ならどんな罪状なのか?」だとか。ダンスと映像と照明と音楽も本当に素晴らしいのでぜひそちらも楽しんでください。
竹中:この5人が舞台上でぶつかり合って、そこから生まれるエネルギーを感じていただける舞台になっていると思います。観劇後に何かを得ていただけたらうれしいです。どうぞよろしくお願いいたします。
栗田:本作イイショは4作目となりました。この5人で開幕できることに本当に感謝しております。そして演出・構成の鈴木茉美とともに稽古から本番まで真摯に戦ってきました。この作品を支えてくださる方がたくさんいらっしゃって、その方々も本気でこの作品に取り組んでくださっています。この初日を迎えられることがとても喜ばしいですし、この日のためにみんなで頑張ってきましたので、ぜひこの作品を目撃するような気持ちで見にきていただけるとうれしいです。そして今回、18歳の方には無料で⾒ていただくことができますので、『いい人間の教科書。』という名の通り、本作が反面教師となるような⽣き⽅を⾒つけていただけると嬉しいです。千穐楽まで頑張りますので、何卒よろしくお願いいたします。
撮影:木村健太郎(Allen)/取材・文:ナスエリカ
(C)「2023 Allen.All Right Reserved.」
広告
広告