ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.4 -犯人は二人-の公演レポートが到着した。
ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.4 -犯人は二人-が、新歌舞伎座での大阪公演を終え、天王洲 銀河劇場にて東京公演をスタートさせた。本記事では、「ロンドンの騎士」「四つの署名」「犯人は二人」の3つのエピソードで綴られる(つづられる)“モリミュ” 第4弾公演レポートをお届けする。
『憂国のモリアーティ』は、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」を原案に、構成を竹内良輔、漫画を三好輝が手掛け、ホームズ最大の宿敵であるモリアーティ教授視点で再構築された漫画。2016年8月から現在まで「ジャンプ SQ.」(集英社)にて連載中だ。
ミュージカル、ストレートプレイ、アニメ、それぞれに大きな盛り上がりをみせ、ミュージカルは2019年にスタート。ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木勝吾とシャーロック・ホームズ役の平野良がW主演を務め、2.5次元作品の中でも群を抜いて重厚な音楽と、そこに豊かな表現力を乗せる実力派俳優たちの活躍が注目され、ミュージカルフェスティバルなどにも呼ばれる作品へと成長を遂げた。
ウィリアム役の鈴木を支えるモリアーティ陣営には、兄アルバート役の久保田秀敏、弟ルイス役の山本一慶、狙撃の名手セバスチャン・モラン役の井澤勇貴。そして、諜報力に長ける情報屋フレッド・ポーロック役には新キャストとして長江崚行が加わった。
名探偵ホームズ役の平野の傍らには元軍医の相棒ジョン・H・ワトソン役に鎌苅健太、シャーロックたちが住むベーカー街221Bの大家ミス・ハドソン役に七木奏音。ホームズを頼りにするロンドン警視庁の警部ジョージ・レストレード役の髙木俊。
そして、「ロンドンの騎士」の重要人物、平等な社会実現のために活動する庶民院の若手議員アダム・ホワイトリー役に川原一馬、「四つの署名」に登場するジョンの婚約者メアリー・モースタン役に山内優花。そして、前作「Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-」より登場したメディア王チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン役の藤田玲が、全編にわたり暗躍する。
上流階級の人間たちに支配され、差別が蔓延している19世紀末の「大英帝国」を変え、理想の国を作ろうと“犯罪卿”として暗躍するモリアーティと、真実を追い求める“名探偵”ホームズ、そして、彼らを毒牙にかけ弄ぼう(もてあそぼう)とする“脅迫王”ミルヴァートン。演じる鈴木・平野・藤田の中心に、オープニングから響かせる重厚なハーモニー。
モリミュと言えば、ヴァイオリンとピアノの生演奏で奏でる絶妙な音楽だ。今回は、オルガンも織り交ぜて、役者が歌う心情により緊密に寄り添っている。
音楽もまた、1人の役者である。演劇において音楽は非常に重要な構成要素の1つだが、特にホームズのソロパートでは、ヴァイオリン奏者である林周雅がピチカートを鳴らしながらホームズ役の平野と背中合わせとなり、くるくると周りながら思考する場面があった。林自身も、自らを「裏シャーロック」と呼んでいるが、まさに“音楽もまた、1人の役者である”ことを視覚化し、表現として組み込むおもしろい演出となっていた。
そして、今回のエピソードは「市民」にフォーカスが当たっている。場面によってくるくると姿を変えながら、物語を構築していくアンサンブルの存在が光る。川原演じるホワイトリー、山内演じるメアリーも、真に迫る演技で物語の中心を担い、エピソードの意味を強める。
一方で、ミルヴァートン役を演じる藤田は出力最大。立ちはだかる「悪」が「悪」であればあるほど、物語の背景に横たわる問題が浮き彫りになる。Op.3での登場時からすでに大きな存在感を示していたが、本作ではさらに純粋さを増して舞台上に君臨していた。また、アンサンブルの吉高志音がミルヴァートンの側近(原作でのラスキン)を演じているが、2人の立ち振る舞いが「純粋悪」のいやらしさをより印象的なものにしていた。
犯罪卿と名探偵と脅迫王。三つ巴のクライマックスに向かいながら、本作では随所にウィリアムの苦悩が垣間見える。すべてを背負う覚悟をした男が抱える、罪悪感と優しさ。「英雄か悪党か、義賊か犯罪者か、『犯罪卿』とは何者か?」鈴木が“犯罪卿”として歌う張りのある硬質な歌声、ウィリアムとして心情を語るまろやかで情感溢れる歌声に、その答えのすべてが込められている。
そして、そんなウィリアムを“犯罪卿”として追いながら、「友」として手を伸ばすシャーロック。平野の練り上げた歌声が、時に弾み、時に伸びやかに、“真実”に迫っていく。鎌苅が演じる親友ジョンの「結婚」を目の当たりにし、男の友情を自覚したシャーロックが、すべての謎を解き明かし、ウィリアムの心を捉えることを願ってやまない。
長編作品を舞台化する際は、どうしてもすべてのエピソードを盛り込むことは難しいが、本作では原作の中の大切な要素を3つのエピソードに集約して描いている。原作のほんの1コマが演出として活かされていたり、登場人物の不在をカバーしていたりと、原作を読み込んだ上での「構成力」が冴え渡っている。とある名作戯曲の有名な台詞が歌詞に、演出に取り入れられているのを聞いた時は、ハッとさせられた。脚本・演出の西森英行の、物語への多角的な解釈が作品をより深めている。
もちろん、演劇は劇場で生で体感することが1番だ。その上で、多層に折り重なった物語だからこそ、映像を何度も見返すことでしか解きほぐせないものもある。モリミュは、そんな仕掛けに満ちた多重奏になっている。
(C)竹内良輔・三好 輝/集英社 (C)ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト
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